2021/05/12 のログ
■影時 > 「真面目にやるなら、もう少々荒行になンだが、……まずはあれだな。
儘ならないという処の疑似体験から、掴みに行く方がいいだろう。
呼吸が掴めれば、途端に苦しくなくなる。まだまだ若ぇうちだとピンと来ないだろうが、無駄がなくなるのさ」
呼吸から生じる力の流れ、氣の流れの習得、体得から派生し、地力を引き出す。磨き上げる。
己が弟子に出来て、弟子の近親者に出来ないということはあるまい。少なくとも、その入り口には立っている筈だ。
長く吸う方が楽になるならそれがいい。まるで鞴の如く早く早く吐き出すのが無理が無いなら、それがきっと正しい。
理想は寝ても覚めてもその息遣いを保ち続けることだが、
生まれた時より金にも息にも困ったことが無いなら、疑似でも窮地という体験から始めた方がいい。
おっとそうだった。思い出したように己ももう一組のマスクをつける。覆面の上からつけるのだ。
世界を啜るように深く深く吸い上げ、長く吐き出す。吸い、吐く。
同じつくりで布巻の覆面という更に布地越しながら、息遣いに遅滞も乱れも何もない。
ヒカリゴケが生えているのか。薄明かりが灯ったような坑道を進みつつ、周囲を警戒する。
採掘用の魔導機械でも運び込んでいたのか。長物を振り回すには意外と天井は高い中で――。
「……お、さっそくお出ましか」
不意に見えてくるものがある。忍びとして気配を消すこともなく居れば、気配に聡い魔物は気づくだろう。
脂ぎった肌色の豚頭の人型のモノ、俗にオークと呼ばれる類だ。それが見える限りで二体。
それらを前にしつつ、柿渋色の羽織を纏う影は軽やかに踏み込み、斧や棍棒を振り上げる二体の間をすり抜ける。
その刹那、左手を振れば、するすると出るものがある。先端に分銅が付いた細い鎖だ。その鎖分銅は斧を持つ手に絡まり、動きを止める。
棍棒を持ったもう一体については、息を乱した風に見える少女に性欲でも覚えたのか。下卑た目を隠すことなく、迫りくる。
■シロナ > 先生の言葉に、マジでか。と言葉を失うシロナ。
十分荒行な気がするが真面目だともう少々追加されるらしい、というか、もう少々の、レベルが違う気がする。
10センチと100センチほどに違う気がする。しかし、其れを突っ込むことができない。
未だ、呼吸の流れを上手くとらえられてなくて、もがもがもが、もがもがもが、としている真っ最中。
ようやく、すこしずつ、酸素を吸う事が出来るようになってきたのだ。
氣の使い方というか、気の方は使える、氣の方までの熟練が出来ていないだけだ。
彼の弟子の幼女と比べれば、総量と出力はシロナで、制御と操作は、ラファルという状態だ。
技の一号力の2号と云うような関係性。
幼女程に操作は出来なくても、才能自体は、有る。
吸って、吸って、吐いて、吐いて、ひっひっふー。色々な呼吸方法を試していく。
上を向いての呼吸はやりやすそうだが、直ぐにやめる、だって、戦闘中上向いたままではいられないし。
「もが!?」
そして、先生の行動に目を丸くする。
最初からマスクをしているのに、その上からさらに同じマスク、そして、平然としているのだ。
見せつけてくれると思うのと同時に、手本じゃね?とそそそ、と近寄る。
耳を彼に寄せて呼吸の音から吸い方は着方を聞き取ろうと、答えが其処に有るのだから!!!
だが、残念ながら世界は甘くない。
オークさんが現れた。
二体、現れた。
戦闘開始、という事であり、普段ならワクワクしているが今はそんな余裕はないし。
しかし、先生は一体しか受け持ってくれない。
つまり、この状態で倒せ、というのだろう。
呼吸も満足にできない状態での戦闘。
先ずは、呼吸を整えないと――――と、ハルバートを構え、深紅の瞳はオークをにらむ。
八つ当たりしてやる、とか微妙に余裕のある思考。
■影時 > 少なくとも、氣を使うやり方のとば口に立っている、片鱗を見せているからこその荒行だ。
もし、此れが一から教授してほしいということになるのであれば、素質の有無の見極めの段階から丁寧に遣る。
雇い主は戦いの才能は、どう見ても微塵もないが、生来の力を引き出すという意味であれば、練氣の技は有用だろう。
弟子への教授とその結果から、思う。
魔法と同じで才能がないものは会得も難しいが、身体操法の域を超えて派生できる才の片鱗が、今回の同行者にないと云えるか。
何を以て究極、極めたとする定義はない。
熟練が足りず粗削りのままとなれば、無理なく、ムラなく使えるようにすることが肝要だ。
「聞くだけじゃァ、答えにはならンぞ? 個人差があるみたいでな。
例えば、流れるように息をするのが正しければ、激しい息遣いがしっくり来る奴も居る。
んで……、理想はどんなことであろうとも、拍子を保ち続けることだが、な!」
冒険者として、盾役の流儀、テクニックとして回避盾という言い回しがある。
多くの敵の注意を引き付けつつ、幻術や身のこなしで致死の一撃を回避し続け、仲間の攻撃を容易たらしめるやり方だ。
今の段階で敢えてそれをせず、一体だけ受け持たなかったのは、そうしなければ訓練にもならないということだ。
斧を持つ手に絡ませた細鎖は、右手を羽織の左袖に差し込んで引き出すと、手鎌の付け根に繋がっている。
鎖鎌という種類の武器である。折り畳み式の刃を右手の振りで展開し、地面を蹴る。
ぴん、と張った鎖が不意に接近で緩み、蹈鞴を踏むオークの肩上まで体重を感じさせない身のこなしで跳び上がり、首筋に鎌の刃を叩き込む。
脂肪を含んだ皮膚を重要な血管ごと、ぐい、と引き裂き、緩んだ鎖を引き戻しつつ、向こうを見る。
『!!!』
残るオークの一体は、相方の死にざまを解しない。先ずはこの雌の頭を叩き、昏倒させて組み伏せようと迫る。
下卑た吐息は繁殖欲をありありと含んで、荒い。「無駄」がある。余分な力を含んでいる。
対して、教師の呼吸は乱れも力みもなく、静謐だ。では、少女にかちりと嵌る息は、何だろうか。
■シロナ > 詰まるところ、先生の呼吸方法を参考にしても、意味がない、という事なのだろう。
個人差、個体差、という物は、必ずあるもので、自分とラファルでは、竜という分類は同じでも種族が違う。
そんなことに通じる形で、違う物なのだ。
呼吸法などに関しては、叔母は―――ラファルは、最上の才能を持つ。理由は風の竜、空気に流れに精通しているから。
それは、呼吸も、風の流れと置き換えればわかりやすくもなろう。
しかし、自分は違う。そのような竜ではない、其処から、が始まりなのかもしれない。
どのような呼吸法でも、自分に合う呼吸法を探り、見つけて、そして、続けろ、という。
それは、時間をかけて自分を見つめなおせと言うべきものなのかもしれない。
一歳の幼女に強要する案件ではないと思うんだ、絶対。
精神年齢的には、14・5位だが、肉体的にはまだ生まれた手と同然なのだ。文句言いたい、言えない。
其れよりも、目の前にいるのは、オークさん。
視てわかるくらいに、みすぼらしい、下着がもっこり立ち上がってる、励む気満々でしかない。
一匹を早々に斃した先生は、それくらいやれと言わんばかりに、見ている。
聞こえる呼吸。
音さえないような、静かな清流。その反対に、はーはーと、荒く繰り返される呼吸。
人の呼吸、オークの呼吸。
アタシは―――。ドラゴンだ。
それなら、アタシのするべき呼吸は。
息をする。静かに、長く、ゆっくりと貯め込むように、吸いこんでいく。徐々に、徐々に、大きく肺腑に溜まる呼吸。
そして、一度、止める。相手を見据える。
竜と言えば、吐息《breath》。
ラファル叔母のような暴風でも、竜胆叔母のような、ビームでもない。
妹のプレシアとおなじ、竜としての、ブレス。
溜める。
オークの棍棒が、遅く感じられる、実際に、遅いのだ。
元々、身体能力は、アタシの方が上なのだ、そして、氣。
吐息をイメージする。吸ったもの溜めて吐き出すイメージ。
それと同時に、ドラゴンボディを、起動。
普段は竜の気を身に纏い、幻想竜鱗として、防御に使うが、今回はブレスだ。
ただ、口がふさがれているし、両手と背中に展開する。
背中は、竜の翼が、氣で練り上げた竜の翼が展開し、広げられる。
両手には、残りの竜燐として使う氣が塊の玉として作り上げられる。
「もがっがー!」
相変わらず、口はふさがれているが。
氣を、塊として、攻撃の意志として、球として作り上げたそれを目の前のオークにぶちかます。
じゅ、という音がして、消し飛ぶ。
氣の流れをつかみ、効率的になったから、『氣』分良くぶちかませた、そう思う。
そして、爆発してるのに、洞窟の壁などに、一歳の揺らぎが無いのは、それに対する攻撃意志が無いからだろう。
■影時 > 今出てきたオークたちは、いわば門番、斥候だ。
この坑道に潜むモノ達で統率がどれだけとれているかは定かではないが、然程時間をかけてはいられない。
魔物の掃討のあと、最悪、この坑道は爆薬などで潰して埋めても良い、という許可を得ている。
心得違いの迂闊な犠牲者を増やすべきではない点に加え、魔物の巣を増やすべきではないという判断だろう。
判断も含め、駆け出しの駆け出しには手が余る場所だ。
そうとなれば、余裕をもって判断と対処ができる己が一合を合わせる時間すら惜しむ。
取り出す襤褸布で地に濡れた鎖鎌の刃を拭い、羽織の袖口に納めながら見守るのは、敢えて一体逃したオークへの対処である。
(――……間に合わんなら、まだ直ぐに手ぇ出せる範囲だが。……ン?)
言葉には出さず、脳裏でそう思う中――見る。大気を取りこみ、力を溜める気配の動き。氣を配する挙動。
それを己は五体に巡らせ、時に或いは放って五行を通じて自然現象を御する術と為す。
腰に佩いた太刀が微かに奮えるのは、竜の気の励起故。だが、溜め込んで繰り出すものとは――。
「ッ、は。は、はは。そうか、そう来たかァ! あーしろどーしろとは敢えて言わなかったが、そういうのもアリだな!」
竜氣塊とでもいうべきなのだろうか。
この国、この領域の竜が象徴する吐息の如く放ったものは、まともに喰らうオークを灰燼を通り越し、消滅させる。
その有様に目を瞬かせ、肩を大きく揺らしながららマスク越しに笑って見せる。
巡らす気を膂力や身のこなしに反映する身体操法として繰らぬなら、此れもまた一つのやり方には違いあるまい。
■シロナ > 恐らく、本来の使い方ではないのかもしれない。
自分の持っている気の技と言えば―――全身に気で作り上げた幻想竜鱗を身に纏う方法。ドラゴンインストールだ。
その方法ではないやり方をしたのは、オークさんにイラついたから。
血が薄まれど、幻想種として、最強の種としてのドラゴンを犯そうというオークに本能的に怒りを覚えたからだろう。
「ふーっ……ふーっ……!!」
怒りに近い物を吐き出す様に大きく呼吸を繰り返し、そして、ん?と首を傾ぐ。
呼吸が楽になって居る事に気が付く、自分に在っているという呼吸の仕方にたどり着いたのだろうか。
あー、と疑問と、確認と、納得をしている間、にぎにぎしてみたり、呼吸を吸う吐くして居たり。
確認が取れて、視線を向けたら、先生は大爆笑中。
「色々酷っ……!訴えて勝つレベルだからねっ!」
ぷんすか、という擬音が聞こえてくるぐらいに、地団太ふんで見せる。
それから、もう一度呼吸を繰り返し、意識を自分の体に。
得意技である幻想の竜燐を発現させる。
氣で作られたそれは、竜燐と同じ防御力がありながら竜燐ではない、純粋な氣の塊だ。
洗練されたそれは、少女が竜騎士のようにも見得るように纏われる。
動きが滑らかに、力強よくなり、軽く体を動かして。
「――どーよ!」
どやぁ、と自慢げに笑うのだった。
氣を使う効率が上がったのと、新たに技術一つ覚えた。
■影時 > 「訴えられても、なァ?
仕事で遣ってる以上、俺の雇い主にも話を挙げないとイケなくなっちまうわな、……っ、ク、クク。ああ、笑った笑った」
ハルバードは重すぎる武器ではない筈だが、見た目からして柄も含めて総鉄製だろう。
一般人基準で考えると、過重過ぎる得物を振り回すとなれば、肉体能力を底上げする使い方は無用だろう。
忍術として体得し、時に編み出したものに加え、武術としての意味合いと今しがた見た技とは噛み合わない。
普段遣いというよりは、大技の類ではないだろうか。
そんな感慨を抱きつつも、最適な呼吸を見つけたらしい姿が地団駄を踏みつつ放つ声に大笑いしてみせよう。
忍ぶ必要がない、忍ばない体であれば、声を隠すこともない。
どやっ、といった風情で竜鱗らしいビジョンを発現させてみせる様に音無く拍手をしてみせて。
「おお、すげぇすげぇ。――じゃ、次だ。
さっきの氣塊じゃなくて、その鱗っぽいヤツ。それを張りっぱなしのうえで行ってみようか。
俺が言うのもナンだが、一人で潜る奴は腕が立つか馬鹿のどちらかでしか無ェ。
鎧で身を固めた奴を先頭に、道を切り開く……ってのが、この辺りの常道だ。
守りを具現し続けられるなら、善し。途切れがあるなら、その出し入れの早さと持久力を磨かなきゃあならん」
次の課題を笑って示そうか。新技と能力を操る、御する効率が上がったなら、持久力を測る必要がある。
盾役、あるいは攻撃役の才を測る目的もある。
左腰の太刀の柄に左手を載せつつ、周囲の罠の有無に注意を測りながら、先陣を切る。
敵が出たら、一歩下がって注意を少女の方に向かせるつもりで。
■シロナ > 「雇い主、というとお母んか!畜生卑怯だぁ……っ」
ハルバートをぶんぶか振って地団太パゥワーアップ。要らん所で、要らんパワーを使う系の脳筋。
母親の片割れのリスは、商人をしているだけあって訴えても勝ち目は見えない、無理。それが判るから、ぐぬぬぬ、というしかないのだった。
ハルバートに関しては、実際の話、元から竜の膂力で振り回すことを考えての武器でもあるので、強化しなくても使える。
強化をすると、其れこそ、木の棒のように振りまわせるというだけの、そんな違いでしかなかったりする。
先程の竜氣塊(仮称)に関しては、大技で間違いはないだろう。
少なくとも、少女が持つ数少ない魔法攻撃手段だ、必殺技、と言い換えても良い気がする、姉に今度見せて自慢しようとか考えてたりもしている。
次、を言う彼に、目を瞬いて。
「んー。幻想竜鱗に関しては……前からも使えてたんだけど、今回の之で、負担がかなり減ったんだよね。
体感で5倍ぐらいはなったかな?今までのよりも強化された、この状態で。
時間で言うなら丸々1日くらいは、持つけど、十分?
出し入れか……切れた後の回復はどーだろ。」
張りっぱなしで力尽きた、という事自体が稀な気がする。
そもそも、冒険とかに出てないので、其処まで長く張り続けるという事が無かった。
元々、幻想竜燐は、鱗を持たない自分が身を護る為に作ったので其れなりに熟練していた、だからこそ入り口に立っていた。
具現し続ける位は大丈夫だが、切れた後は試したことないなぁ、と。
取り合えず、それでも次を行くので、それを追いかけるように。
忍びのような隠密は持たないが、そもそも鎧を着ていないので、普通の戦士に比べれば、何倍も静かに走る。
速度も、十分に追いかけて、追いつける程度には早かったとは言って、彼が控えているからではあろうが。
■影時 > 「いくらなんでも、俺の独断で遣るワケにもいくまい。
……そうでもなきゃ、竜人でも歯応えがありそうな場所を選びはしねぇぞ。ン?」
ははは、と。筋を通せるルート、経路としての依頼を受けてる以上、特段困るところはない。
事前報告の面においても、行き先と詳細は既に話を通したうえで出立している。
行きは冒険者らしく乗合馬車と徒歩でも、いざとなればドラゴン急便の使いを手配してピックアップさせる手だってある。
総じて、己が御膳立てに回ることでその能力をフル活用させることを何よりも目的としたカリキュラム予定だ。
「なるほどなるほど。道理で軽装なワケだ。
だが、張りっぱなしもそうだが、耐久力もそろそろ問うことになるかもしれねぇな。……ほら、お出ましだぞ?」
弟子の軽装は性格的なものが多いが、この少女もそうだろうか。どうだろうか。
能力的に底なしというのは、素質面ではかなり恵まれている印象が強い。
そうとなれば、キャパシティを測る場面が次には望ましい。瘴気が満ちる坑道を進んで行けば、やがて広い空間が出る。
地上からのルート、並びに地下に掘り進むための中継点なのだろう。
ポニーのような小型の馬に引かせるため荷車が放棄されていれば、酒樽だったものが破壊されて無造作にそこかしこに転がっている。
直ぐに目につく限りで、三叉路状に坑道が分岐する中、そのどれもから足音を気配が殺到してくる。
出てくるのは、これまた鼻息荒い豚頭のオークたちだが、妙なものを従えている。
神官然とした装身具の個体が、直立歩行するウツボカズラのような食人植物を使い魔よろしく従え、さらに先ほどの個体より大型のオークが大斧を構え、突進してくるのだ。
探索のために先導していた忍びは、其れを見て、「さぁ、頑張れ」と少女に前を譲るように後ろに引く。
二体のオークが振りかざす斧は、事前にエンチャントしたのか、それとも魔法の品なのか。魔力の光を帯びる。
膂力と武器の性能、それらの複合は並の護りごと哀れな獲物を料理せんと、唸りを挙げる。
■シロナ > 「むぅぅ………っ。」
彼の言葉は、実際に理に適っているし筋もも通しているゆえに、これは少女の我儘としか言えない物だ。
相談を持ち掛けた叔母も、母親も、行先とカリキュラムなどを確認したうえでのGoサインが出ているので、つまりは言うだけ無駄。
畜生、と地団太をもう一度符寧ろ、唯々、お子様の癇癪でしかなくなっているものである。
「えーと……、え?
¨……倒して、良いんだよ、ね?」
耐久力、という言葉、もしかして、倒してはいけない系なのだろうか。
お出ましというなら倒せばいいだろう、先制攻撃を掛けて、吹き飛ばしてしまえば早い、攻撃は最大の防御。
しかし、だ。
先生は耐久力云々を言うので、倒すのが目的ではないのだろうか、と。
後ろにいるウツボカズラ的な何かは、うじゅるうじゅると触手をうねらせている。
オークたちは、低級ではあるが、魔法の武器を装備している、彼らの持ち方を見るに、多分、倒れた冒険者の物だろう。
慣れていない様子が判るし、馴染んでいないのも判る。
ただ、低級だ老が魔法の武器は魔法の武器で、普通の武器と比べれば、はるかに強固だ。
技術が同じだと仮定すれば最高級の武器でも、魔法が掛かってなければ、最低品質の魔法の武器に打ち負けるものだ。
「しっかたないなぁ……っ
ドラゴン・ブレス!」
慣れたからか、マスクをしたままで瘴気の吐息を己の武器に吐き掛ける。
瘴気がまとわりつく武器は、其のまま暗黒の属性の魔法武器となる、少女の特技のうち一つ、ドラゴンブレス。
これは、吐息に見えるが祝福であり、エンチャント。本人は本気で、吐息の方のブレスと勘違いしていたりする。
武器は濃厚な魔力の武器となり、オークたちの斧に対して再度構える。
先ずは、地面に石突を突き立て、斜めにして、片方のオークの武器を滑らせるように受け止める。
もう一体は、そのぶよんとした腹を蹴り飛ばし、吹き飛ばす。ニ対一に乗るつもりはなく、あくまで、一対一を狙うのだ。
■影時 > 「そうでなきゃァ、こんな物騒な遠足もあるまいよ」
目的と行先、そして属する冒険者ギルドで集めた情報から察する脅威度の予測。
それ等を勘案して、駆け出しのカの字も怪しい竜人へのカリキュラムとして適当であると判断した。
最低限気づかせない、体得、ないし示唆させるべき呼吸法への気づきは得た。
その次で測るべきは、どれだけ戦えるかどうか――並びに能力への慢心の有無の確認だ。
「無論よ。出会ったものは全て、斃しちまって構わンぞ。
負担は減ったとは言うが、守り以上の打撃力と相対する経験というのは足りないだろう?
それと、力の配分にも意識を配っとくのが良いな。――そら、来るぞ?」
そんなことはない。示唆した耐久力とは、彼女自身の体力、能力のキャパシティだ。
出会ったものは神ですら殺すのがこの探索行である。
繁殖用に攫われた冒険者も居るかもしれないが、防毒装備もなしにこの瘴気の只中で長く耐えられる保証は非常に薄い。
腰から外した鞘込めの太刀を杖の如く突きつつ、窮地以外は手を出さぬつもりで見守ろう。
周囲に立ち込める瘴気よりなお濃い属性の気配がハルバードに宿る。
そのさまにも臆することなく、オークたちが斧を構えて突進する。
鑑定する機会があるなら、それらは高額でも、店に並ぶレベルの等級だ。魔法の武器として見れば、低ランクには違いない。
が、魔法の武器の長所として、概して見た目以上の強度を供えていることが多い。それは詰まり、瘴気の加護が乗ったハルバードと数合は打ち合える希望があるということ。
「豚頭の神官か呪い師が居るとなれば、多少は頭を使うぞ」
振り下ろされる一体の斧を受け止め、接近する豚頭の腹を蹴飛ばす。吹き飛ぶオークの陰から、呪い師のオークが使い魔に命じる。
魔性を帯びた植物が、瘴気の風を抜けて数条の触手を伸ばしてくるのだ。
少女の足や得物に絡みつき、動きを阻害させ、魔法の斧を振るうオークが態勢を立て直し、Xの字状に攻撃を叩きつけようとする。
■シロナ > 「判って手の確信犯とかー皆グルだとかー!」
酷いも、良い所なんですけどー!
そんな風に言いながらも、意識は目の前のオークたちから離さない、流石に、人外の膂力などがあったとして。
彼らも人外で、そして多数。正直言って、何考えてるのなんて言いたくなる。
そうでなくても、今はマスクで呼吸の仕方を意識しないといけないし、出来ることをしなければなるまい。
「倒して、良いんだね!大丈夫なんだね!
マゾいプレイとか、嫌いなんだからー!」
攻撃が、完全に封じられた、という訳ではなさそうだ。良かった。殴っていい模様。
それならば、色々とやりようはある、攻撃していいなら攻撃すればいいだけの話で。
完全に見守りモードの先生からは意識を外す。意識してたら気を取られてしまうし、そもそも1対4になるのだ。
先程は二体が攻撃して奥の二体が動く気配はなかった。
今はそうでは無く、触手と豚頭の神官も動く模様。
「――――あ!」
しゅるり、と腕と足に撒きつく触手がある。
それは、完全に拘束するには弱いのだけども、しかし、動きを阻害するには十分だ。
動きを止めた所に攻撃するハイオーク。
蹴り飛ばしたそれも戻って来ての十字の攻撃、死んだら肢体を犯す気なのだろう、彼らはそういう種族だ。
振りかぶられた斧が胸に向かい、振り下ろされる。
ぎちぃ、という音がする。うっすら輝く幻想の竜燐は、輝きを持って受け止める。
腐ってもドラゴンだ、その闘気は弱い魔法の武器を容易く通すことも無い、一撃位ならば、問題なく受け止める。
それに、もう一つ、種としかけがある。
目の前に立っていたハイオークは動きを止めた。
そして、何を思ったか次には、シロナの腕や、足の拘束を切り飛ばす。
「まずは、呪術師を殺れ!」
ハイオークに命令をする。
ハイオークはそれに従う、目の前に来たという事は、シロナの眼を見たのだ、魅了の魔眼を持つ、悪魔の瞳。
武器の魔法を解除しても良かったが、それは、後でも良いだろう、と。
拘束を解かれた少女が最初にしたのは、ハイオークへの命令。
同時に、腰のホルダーから手投げ斧を手にし、己を、呪術師へと投げる。
勢いよく回転し、飛んでいく、当たろうが、当たるまいがどちらでもいい、集中させなければ良いのだ。
集中しなければ魔法は使えず、使えなければ。ハイオークへと掛けられた魅了を解くことは出来ない。
その間に、自分の部下によって、彼は、死ぬのだろう。
使い魔は、主が死ねば、消えるか暴走するから、何方にしろ、対処しやすくなると踏んだ。
■影時 > 「ははは、ほら、集中しろ集中。
この豚頭どもは少なくとも、駆け出しには荷が重すぎる類だぞ?」
瘴気が立ち込めた領域は、少なくとも汚染された環境に強い魔物には堪える類の筈だ。
にも関わらず、同属含めて汚染された動植物を喰らい、食し、環境に適応したモノは単なるオークではない。
高位のオーク、ハイオークなどとでも識者は称するのだろうか。
倒して、全く、問題は、ない。――寧ろ全滅させなければならない。
故に己への受け答えは程々に、集中せよ。そう言外に述べつつ注意深く観察をする。
幻想竜鱗は想像以上に硬いらしい。その有様を注意深く見る。
意識が向く方向であれば、恐らくきっとより強い。如何にハイオークでも不意打ちや貫通性が高い手管をせねば、通らないか。
そのうえで……。
「……、ははぁ。そういう類か。手持ちを十全に使う姿勢は善し。
段取りとしちゃぁ、先に使い魔を殺る方がもう少し良かったか?」
下僕とした食人植物の蔦が斬り飛ばされる。誰が遣ったか? 彼女ではない。オークの仕業だ。
赤い目を見てしまったモノが、言語とも呻きともつかぬ叫びと共にそれを成し、さらに呪い師へと襲い掛かってゆく。
使い魔の制御に専念していたオークは、飛び来るトマホークと魅了されたオークへの対処に惑い、血祭りにあげられてゆく。
制御から解き放たれた植物が、狂乱したように蔦や消化液を吐き散らす中、この位は良いだろうと己が踏み込む。
振り回される蔦を掻い潜り、抜き打ちの一閃。蔦と茎を切り飛ばし、倒れる姿に巻き込まれないように直ぐに離れる。
■シロナ > 「あくまー、まぞくー、ひとでなしー!」
駆け出しには荷が重すぎるってなんてひどい、そもそも、駆け出しどころか、冒険者登録さえしてないのに。
確かに、純血ドラゴンなら、屹度歯牙にもかけぬレベルなのだろうけれど、自分は人竜、しかも、クゥオーターだ。
視ての通り、母たちよりも、竜に慣れない半端ものなのである、人間により近くなっている存在に、そんなのをぶつけるんじゃないよーと、言いたい。
ただ、監修者が監修者だけに、屹度すべてわかっててやってる。洞窟の奥の闇に、にやにや笑いの母と叔母が見える。
幻想竜鱗、それは、シロナの氣で作り上げた竜としての現身。竜に変化できないから作り上げた鎧の様な物。
生体の鱗と違い、砕けても気力が続く限り即座に戻るし、意識を集中させれば、其処の硬度を変えることが出来る。
生の竜燐よりも強固にできるだろう、鎧だ。
逆に、これが消える時は、意識も失い、命の危険もあるだろう。過信しすぎてはいけない物でもある。
全部の技術を使うのは、駆け出し以前だから、全てが格上、油断なぞしてはいられないから。
暴走した使い魔なんて、制御されてなければ、ただの障害物と同じだろう、暴れるだけの存在に恐怖は感じない。
だから遺したのだけども、先生が一刀の元切り捨てた。
見事な切り口、倒れていくのに巻き込まれない速さ、人間でなんであんなに速度出るのかと、感心してしまう。
「あ。と。ありがとね。」
砕けた言い方はハイオーク共に。
にっこり笑って、ハルバートを一閃、此方は、純粋な膂力と速度と遠心力。
魅了されて防御の無いハイオークの首をいっぺんに刈り取って、止めとばかりに頭を蹴り砕く。
「よいしょ、と。」
そんな風に言いながら、ハイオークの使っていた、魔法の武器を取り上げて。
自分が投げたトマホークを回収する。
ふー。と大きく息を吐き出すと、息が対流する。
あ、そっか、と呼吸を再度整える。まだまだ、完ぺきではない模様。
■影時 > 「こうでもなきゃァ、本当に駆け出しの駆け出しに向いた仕事をさせても、歯応えが無ぇみてぇなオチになっちまうだろ?」
駆け出しの駆け出しというのは、戦う以前のひよっこに供する類のものだ。
口が悪い者はお使いクエスト等と言ったりするが、世を渡るためのイロハを学び、次に繋ぐためには疎かにできないものだ。
物語を紐解けば、丁々発止に魔物と戦って勝利し、大団円という流れが多い。
彼女の場合、下手に能力と心得がある点で、難易度等の選定が難しい。
足手まといという言葉を使うつもりはないけれども、不測の事態を想定するだけ想定して、統御できるギリギリがこの坑道の魔物のレベルだった。
これ以上は恐らく、フォローしながら戦うというのは、出し惜しみしている幾つかを解禁しなければ難しい。
向けられる言葉にひょいと肩を竦め、マスクの下で悪びれぬ表情をしてみせよう。
「……息を乱すな、とは流石に言わンが、呼吸を整えるならば今位が丁度良いだろうよ」
残っていたオークは、纏めて首を刈って踏み砕けば、一先ずの安全は確保できる。
出来れば水でも飲みたい処だが、ここは瘴気地帯である。開けば汚染されかねない水袋の封はまだ解きたくない。
お疲れさん、と息を整える姿を労いつつ、進行方向の奥に揺蕩う闇を見遣る。
咆哮とも呻きともつかぬ音がするのは――まだまだ獲物が、斃すべきものがあるという証左か。
■シロナ > 「………う。」
確かに、何時も戦士ギルドで、専業戦士をいじって遊んでいた。
そして、母親である冒険者ゼナに、暇なとき限定ではあるが、訓練は受けている朝練とかそんな感じで。
故に、ひよっこではあるが、彼の言う通りに、下手な部分で心得は発生してる、戦闘だけに関して。
で、竜種ゆえの能力がそれを後押ししているので、こうなってしまっているのだろう、最初から訓練などをしていればまた別だっただろうが……それは、結局イフの話。
だからこそ、善く知る母親と、叔母と、先生が全員で相談し、くみ上げたのがこのカリキュラム。
目的は何処にあるかと言えば―――たぶん脅威を知る事と、己の氣の訓練だろうか……?
「因みに、ゴールは、どのへん……?」
聞こえてくる声に嫌な予感しかしない、そして、魅了したオークを殺したのは、あくまで魅了だから。
支配ではないので、好きでも命に危険があれば逃げてしまう、姉ならそうはならないだろうが、その辺は一段劣る。
もしかしなくても、全部なのかなぁと。
それなら、先程の魔力を纏ったハイオークの斧は使えるだろう。
替えの武器と言うのは、予備という物は安心感にもつながる。
呼吸を整え、幻想ではない、己の翼を広げ、両手の爪もしっかりと伸ばす。
格闘も武器、なのだから。
準備を終えて、もう一度、先生を見やる。
■影時 > 「それと、あれだ。もし、冒険者で生きるなら独りよりも何人かで組む方が最善よ。
この俺が言うのもなんだが、その歳、時分なら気心知れた友達位こさえてつるんでもイイだろうさ」
その場その場その即席のパーティーでも、全く問題はない。
友達で小さな群れをつくるのも、問題ないだろう。雇い主もきっとニッコリすること請け合いだ。
低難易度、低脅威度の魔物退治をらくらくこなして、なおも余りある能力というのは、勘違いの源になりかねない。
程良くストッパーをかける誰か、というのも、この年頃となれば、きっと重要に違いない。
「前情報で云うなら、半分くらいか。
落石、落盤で潰れているところの確認してから大掃除と行きたい処だが……っ、は、おいおい。こりゃぁよく肥えたモンだなぁ」
希少な鉱石を探し、坑道はかなり入り組んだ配分となっている。
立坑よりも斜坑が多めとなれば、縄を張って垂直方向の移動をするという機会は少ないだろうが、今近づいてきた足音の対処の後か。
使いに遣ったオークたちが戻ってこないことを受けて、奥に控えていた「頭」が出てきたらしい。
ヒカリゴケが放つ淡い光に照らしだされ、出てくる姿は――オークの類で見ても、一際でっぷり超えた貫禄あるもの。
堂々たる腹回りの腰を、獣皮の腰巻で覆い、裸足でのし、のしとやってくる姿を一目し、脳裏で過る句がある。
――斧使いでもなく、格闘遣いか。
奇怪な植物の摂取と同属食いで膨れ、たっぷりとした脂肪を蓄積した血肉はもはやその質量、強度を以て一塊の武器と云える。
徒手格闘で同属同士の争いに勝利し、君臨するハイオーク・レスラーチャンピオンといったところか。
獲物を見つければ、腰を屈め、両手を構える姿は堂に入ったものだが、その双眸は既に澱み、狂気の色に満ちている。
食事を運んでこない手下に業を煮やした、という具合だろう。
此れは流石に少女には荷が重いかもしれない。
腰に鞘を戻し、鯉口を切りながら――忍びもまた構える。
■シロナ > 「んー……友達、ね……。
其れだったら、プリシアと同じ所、行こうかなぁ。」
妹はコクマー・ラジエル学院に今、通っている。学びたい、という事だった。
母は、商人の娘としてそんな暇はなかった、叔母は人竜であることを母が気にしていて、苛められるのではないか、という事で通って居なかった。
だからこそ、先生に家庭教師を頼んだと思う。
自分もまた、同じように家庭教師での勉強だったが、先生の言う通りに友人を、というなら、コクマー・ラジエル学院の方が良いのではないか、と。
妹がいじめられていないのか気にもなる。姉として。
ううむ、と悩むのであった。
「うへぁ。」
変な声が漏れる、まだ半分と聞いてしまえば、長いなぁ、と思うのだ。それに、ああいった手合いが、まだまだ出てくると考えれば。だるいなぁ、とも。
そんな風に考えて居た所、先生の言葉に視線を向ける、何事と思ってみてみれば、其処に立っているのは。
「でか、ふと。」
そんな感想しか出ないぐらいに、でっぷりとしている体格、全身に脂肪と、筋肉を乗せた、巨漢。
物凄く太くて、物凄くデカい、オークにしても他のオークの三割以上大きく見える。
丸々肥えた豚というイメージは、然し、質量を感じる。
逆に考えればそれは、ぶつかって来た時の衝撃の強さが見てわかるという物。
「レスリング。かぁ。
いいじゃん、やったろうじゃん。」
彼の動きは、其れに見えた。
正気を失った瞳は、どろりと濁って居て、あれには魅了は通じないことは判る。
唯々、純粋な肉弾戦しかない。
レスリングを嗜むものとしては、それで威嚇するなら、其れで答えるしかないだろう。
ちろり、と桜色の唇をマスクの下で舐めずって。
ゆっくり腰を落としレ重心を下げる。
「――――。」
名乗りなどは要らない、唯、唯。
勢い良くぶつかっていく、傍から見れば、トラックにぶつかっていく、お子様用三輪車の様な対格差。
■影時 > 「先に迷う、悩むなら其れもイイだろうさ。
気兼ねなく母親に相談してみろ。子供のうちに出来る特権、とかいう奴よなあ」
学院のような教育機関の出ではないが、学びの大事さというのは言葉にする以上に計り知れない。
少なくない入学金やら支度金が居るのなら、豪商の家であるというのであれば、困らない。
そして何より、教育の重要さというものを、雇い主が分からないということも一層ないだろう。
下手に血と汗と暴力で生きるよりは、ずっとマシに違いない。そう考える。
――己には縁のないものだったが、という言葉は口に出さない。小さく肩を竦め、現実に戻ろう。
「一先ず此れを片してしまえば、探索には困らんだろうさ。恐らくな。
奇怪な植物は、導火線を引いて火薬を仕掛けて焼けばいい。
……――ああ云う力任せの奴は、苦手なんだよなァ俺は。一呼吸程度堪えられるか? 堪えられるなら、片す」
云いつつ、ずらりと腰から改めて太刀を抜く。その刃に紡がれる氣が這い、覆えば特有の圧の気配は薄れる。
文字通りに主として御しているという姿を示しつつ、ぶつかり合うつもり満々の姿に声を投げよう。
竜と言ってもまだ長く生きていない。どんなものであろうとも、ただねじ伏せるとと云わんばかりの巨躯は次の瞬間に、
『――!!!』
びりびりと大気を震わす大音声と共に、ぶつかり合う。取っ組み合う。
質量とそれに馬力、膂力。がっぷり二つで力比べとなれば、その刹那に生じる拮抗にこそ、忍びが致命の一撃を見舞う機がある。
■シロナ > 先生の同意の言葉を聞きながら、少女は前を向く。
その理由は、陶然の如く、目の前の巨漢の所為、彼の視線は此方を見ている、後ろには飛んでいない。
狂っていたとしてもオークの本能なのだろう、犯して孕ませることの出来る獲物を、狙っているのがありありと判る。
だから、先生の言葉を聞きながら、答えることをせずにいた。
呼吸を整える、先程と同じように、吸って、吸って、吸って、貯めていく。
先程氣の塊を作り出した時の様に、吸い上げる。流石に、あれに竜氣塊は無粋に過ぎる。
だから、それをぶつける力を己のうちに貯める。
放出するのではなく、竜としての力に回していく。
「―――――!」
怒号の様な叫び、それに応えて竜も吠える。
衝撃が全身に走る、その全てを、幻想竜鱗は受け止めきった。
それは、ぶつかり合う肉体と肉体で、シロナは負けることなく受け止め、そして、押しかえる。
全力を持って、竜を以って、自分の数倍もの質量を受け止め、押し返し、押さえつける。
地面を抉るほどに足を踏ん張り、みき、みき、と音がするぐらいに筋肉を収縮させる。
ぎしぃ、と歯を食いしばり、肉を引きちぎらんとばかりに掴み、爪を立てる。
そして。
「うぉおおおおりゃぁぁっ!」
気迫を込めて、下から背中に乗せるように持ち上げて、行けば、巨体は浮いて、そして、仰向けに地面に叩きつけられる。
背中から、衝撃をすべて余すことなくぶち込んでしまえば、幾ら狂ったオークと言えども、呼気を吐き出し動きは止まる。
スープレックスホールド。
言われたとおりに、一呼吸の間の時間を、作り上げた。
■影時 > 女体を壊す、破壊するのも厭わぬ繁殖欲。否、それを果たして欲求と云えるのだろうか。
――知ったことではない。
壊すべきを壊し。殺すべきものを殺す。其れが道理から外れたとはいえ、忍びの徒の勤めに変わりはない。
だから観察する。注意深く敵を見る。その動きを。急所を見極め、ただの一撃て事を成す。
そうするには、獲物の動きが止まっていることが何よりも望ましい。
肥えた肉とその重みを支えるために歪みながらも頑強となった骨は、並の刃を通すまい。
それらの総合として、見紛うべきもない巨躯の重量を、ずっと見劣りする筈の小柄な姿が受け止める。あろうことか、押し返す。
思いもよらぬ脅威と驚異に、このオークは濁った眼を見開く。
幻想ならざるリアルな膂力に任せ、押し潰そうとするはずが――あろうことか、浮いた。
地面にたたきつけられる。五体を震わせ、戦慄かせて身動きをわずかな間に止めた隙に。
「……――仕る。」
その一言とともに、柿渋色の羽織がたなびき、僅かな風が生じる。
体重を無としたかのような足取り、歩法でオークの上半身の上に踏み込み、逆手にした太刀を胸郭に突き下ろす。
肋骨の隙間を見極め、心臓を穿って送り込む氣で内部を爆ぜさせたうえに、血煙と共に抜き戻す刃を振るう。
分厚い脂肪の層を物ともすることなく、オークの首、脊髄を断ち刎ねて正確にその生命を奪うのだ。
確かな機と手練れの技、そして業物と呼べる得物。これらの三位一体が為しうる殺戮の技。
その一端を見せて脅威を払った後、残る敵の捜索と異界同然の植物の繁茂を確かめ、時限式の火薬を仕掛け――この場を後にしただろう。
発見した幾つかの宝物と、その始末と換金については、語る機会があれば――。
ご案内:「元鉱山」からシロナさんが去りました。
ご案内:「元鉱山」から影時さんが去りました。
ご案内:「王都マグメール 地下」にユエインさんが現れました。
■ユエイン > 王都マグメールの地下深く、華やかさとは程遠い暗く湿った空気が漂うそこは滅多に人が訪れず、また進んで訪れようともしない。
――そんな場所を1人の女性がゆっくりと進んでいく。カツン、カツンとブーツが石造りの床を叩く音を鳴らして歩く彼女の後ろには魔物化した蝙蝠や小型の魔族、それらの死骸、残骸が散らばり転がっていた。
「全く…あの狸ジジィめ。これの何処が“ちょっとした”掃除じゃ、これが」
山となった残骸を見て思わず溢れるのはマグメールにおける協力者(スポンサー)への愚痴。
『王都地下の下水道は魔族や妖魔の隠れ家となっているから掃除をお願いしたい』金と美味い酒を餌にホイホイとつられて依頼を受けたものの、王都に来て日の浅い半仙はマグメールの地下を完全に見誤っていた。
■ユエイン > 古くから地下に眠っていた遺跡に隠れ家として密かにつくられたであろう部屋や通路らそれらが下水道に絡まるようにして存在すするそれは最早ダンジョンと読んでも遜色ない複雑さで
「……まぁよい、騙されたのは癪じゃが儂が不用意であったのも事実。それに…わざわざ装備まで用意してもらったしの」
自分以外誰もいない地下で一人呟く半仙の服装はいつも着ているシェンヤンのドレスではなかった。
真っ黒い布性の外套を巻き、その下は脚先から首元に至るまで伸縮性に優れたスーツがピッチリと余すとこなく全身を覆っている、口鼻を覆う様に巻かれたマスクと合わせて殆ど露出の無いその格好はさながら東方の暗殺者の様な出で立ちであって。
■ユエイン > 確かに常に汚水が流れ湿っぽい空間なのに先程から寒さや臭いを特段感じる事はなく、動きにくいなどということもない。
「高高度を飛行する竜の翼膜を加工したとか言っておったか……まぁなんにせよこんな所で服をダメにするよりはマシか」
右ため息と共に太腿に巻かれたホルダーから一枚のブダを出してそれをぺたりと近くの死骸へ貼れば薄緑の結界が地下内へ広がり穢れの残滓を消滅させていく。
飽和した薄緑の光が砕け、辺りが静けさを取り戻すと大量の死骸やこびり付いた血痕は消え去っていた。
「うむ、これで良しと……さて、もう少し奥も覗いてみるか…」
浄化を見届けた半仙はそう言って踵を返すと王都の地下、更に深くへ進んでいく。
ご案内:「王都マグメール 地下」からユエインさんが去りました。