2021/05/06 のログ
■プリシア > 紡ぐ言葉がたどたどしいのは、まだ言葉を確りと理解し切っていないから。
一言一言合っているか考えてしまう所為だ。
少女が考えている通りに教えていけば飲み込みは早いだろう。
尤も、理解したらしたで今度は相手との接し方を考え始めて同じ様に為るのだが、其れはまだ後の話。
少女の思惑には気付かないも、屹度其れはあんまり気にしないだろう。
誰かと仲良くなりたい気持ちは自分も持っているのだから。
「えっとね、おかーさんも、知らない事はいっぱいあるって。
だからね、プリシアも頑張って、お勉強するの。
いっぱいいっぱい、覚えたい、だからね…
セルフィアおねーちゃん、色々、教えてね?」
モジモジと重ねた手、其の指を動かし乍。
ゆっくりと、言葉を選ぶ様にして少女へと伝えてゆく。
「えっとね、えっとね、ここと…こことか…?」
そうして言葉を交わすのを終えれば。
次はお勉強の開始だ。
広げた本の、所々の文字に人差し指を当てて示してゆく。
読み書きとは云っても基本的な読み書きは何ら問題は無い。
只、少し難しくなった時の、言葉を選ぶ上での思考時間が少し長い為、如何してもゆっくりとしたものに為る。
少しお勉強を続ければ、そうした点は直ぐに解るだろう。
要するに、多く会話を続けて慣れる事が大事なのだと。
■セルフィア > 彼女が懸命に言葉を選んで話す様子は、見ていて大変好ましい。
少なくとも、少女にとっては快い待ち時間である。気にする程のことではない。
短い期間ではあるが、生家では姉として振る舞ったこともあるのだから。
なお、少女の思惑は可愛い子好きの邪なものだが、決して色に耽りたい訳ではない。
むしろ、穏やかな日常の中で撫でたり抱っこしたり一緒におやつを食べたりしたいのである。
万が一何らかの事故なり何なりで、そういう事を楽しむ関係に踏み出さなければ、きっと。
「ん、プリシアちゃんのお母様も聡明な……こほん、とても頭の良い方なのですね。
えぇ、えぇ、プリシアちゃんは一人でも頑張れた子ですから、きっと慣れます!
私もいっぱいお手伝いしちゃいますから、少しずつ覚えていきましょうね?」
目の前の彼女が、もじもじとしている。この光景だけで御飯三杯行けそうな気がする。
――とは言え、あまりデレデレしていると『お姉さん』の沽券に関わるので、気を引き締めて。
「それじゃ、早速始めましょう!そこはですねぇ……」
彼女が指差す部分を眺めつつ、読みや書きをゆっくりと教えていくこととしよう。
読みは一緒に声を出して読みながら、書きは時折手をとって一緒に書きながら。
傾向として、難易度が上がると詰まるのが分かれば、後はその境界線を見極めるだけ。
難しそうなものは少し考えてもらってから、ヒントを混じえて考え方を示していこう。
「――えぇ、そうです。合ってますよー。良く出来ました!
プリシアちゃんのペースで大丈夫ですから、慌てずにやりましょう」
可愛いなぁ、可愛いなぁ。妹ってこんな感じなのかなぁ。などと、幸せ気分である。
切りが良いところまで教えたら、良い時間だから送っていかないと、とも考えながら。
しかし、彼女が勉強に熱心だったら、ついぞ時間を忘れて、一緒に耽ってしまうことになる。
■プリシア > 産まれたばかりの自分にとって、周りは全員親の様で在り、兄や姉の様なものだ。
其れがあるからこそ、傍から見て姉妹の様に見える此の状況も何時もの感覚。
御互いの考え方は違うかもしれないが。
可愛い子好きの少女、甘えたい盛りの自分、噛み合う処は在る。
穏やかな日常でも、其の万が一が起ころうとも。
此の優しい少女に懐きはしても、嫌ったりはしないだろう。
「おかーさんも、おにーちゃん達も、おねーちゃん達も、皆、みーんな、凄いの。
だからね、セルフィアおねーちゃん。
プリシアも、頑張って、そうなるよ?」
現にお勉強を続けて少女に慣れてこれば。
其の距離は縮み、ピッタリと身を預ける様に寄せたりもし始めるのだから。
此方から示し彼女からの教えを受ければ、そうした所から確りと覚えていき。
覚えていけば、少しずつ乍も其の単語の発声は流暢に成ってはゆくも。
言葉と言葉の間に如何しても間が開いてしまうのは中々直し様もないか。
「うん、分かったの、セルフィアおねーちゃん。
ちょっとずつ、ちょっとずつ、頑張るの」
其れでも少しずつでも前進をしているのは解るもので。
其の度に嬉しそうに顔を向け、笑顔を浮かべてゆくのだ。
そうした、頑張って何か出来ていくのが嬉しいのだろう。
時間を忘れた様に少女とのお勉強は続けてしまい。
屹度、少女が其れに気付いて声を掛ける迄、頑張り続ける。
尤も夕食の時間に食い込めば、小さく鳴るお腹に其れに気付けるかもしれないが。
■セルフィア > 教える際は根気強く、相手の理解度に合わせる――それは、自分も一度通った道。
自分の場合、様々なものを教えてくれたのは、敬愛している母親だった。
貴族の愛妾だったこともあり、聡明で嫋やかな母の教えは、今も少女の中にある。
だから同じ様に、彼女に対してもゆっくりと、焦ることなく触れ合おうと思う。
してもらって嬉しかったことは、大抵他者に施しても嬉しく思ってもらえるのだから。
「ふふ、そうですねぇ。皆が凄いから、その後を追っていくのです。
ん、プリシアちゃんも、きっとそうなれますから、一歩ずつ進みましょう」
教えた感触としては、やはり彼女もまた、親の素質を受け継いでいるような聡明さだった。
一度教えたことをするりと吸収して、読み書きの熟達が目に見えて進んでいく。
それでも発話の際に言葉が途切れるのは、頭の中で言葉を選ぶ癖故だろうか。
とは言え、しっかり考えてから言葉を作るのは良いことな気もするから、気にしないでおく。
「ん、やる気ですね!それじゃ、このページは終わりました。
次のページも出来るでしょうかー?……ふふ、まずは、ここから!」
段々と一緒の時間が楽しくなってきて、うっかり時間を忘れてしまう。
その内に、外は斜陽を超えて日が落ちて、とっぷり夜へと差し掛かってしまって。
それに気づいたのは、どこからか『きゅるぅ』という感じの可愛らしい音がしたからだった。
お腹空いたのかな?という事実に気がついて、ふと外を見たのだ。真っ暗である。
「……ありゃ、ちょっと、頑張りすぎちゃったでしょうか、ね?
えーと、お腹、空きましたよね。ご飯の時間だとしたら……ふむ。
うん、それじゃ、プリシアちゃんのお家まで、一緒に行きましょう!
どうして遅くなってしまったのか、ちゃんと説明しないといけませんし」
こんな時間まで残らせてしまったし、頑張ったのに怒られてしまうのは可愛そうだ。
そんな理由から、送っていく旨を伝えよう。怒られるなら、引き止めたこちらが悪いのだし。
そのついでに、親御さんにご挨拶できれば、今後は理解してもらえるかもしれないし、なんて。
そんな事を考えつつ、とりあえずは提案してみよう。彼女が頷いてくれるなら、その通りに。
内緒だよ、と常備していた飴玉を一つ渡して、一緒に夜道を歩き、彼女の家に向かうとしよう。
それからどうなったかは二人のみ知ることだが、とりあえず、次はちゃんと時間を見ようと反省したんだとか――
ご案内:「王立コクマー・ラジエル学院」からセルフィアさんが去りました。
■プリシア > 教える立場には成った事は無いけれど。
教えられる立場には何度か成っていた。
彼女も又教えるのが上手な相手と思うのに時間は掛からなかった事だろう。
現に覚え易く感じているのか上手く読めなかった場所も、其れなりには出来る様に成ったからだ。
出来てゆく事が楽しくて、嬉しくて、気が付けば復習は終わっていた。
お腹が鳴ったのは丁度そんなタイミングだった。
少女につられて外を見れば日は落ちている、ちょっと頑張り過ぎた様だ。
遅くなるなんて連絡はしていないし、家に帰ったら正直に話して謝ろうと。
そう考えている処に掛けられる彼女の言葉。
「うん、もう、お食事の時間になっちゃったみたいなの。
でも、良いの?
セルフィアおねーちゃんも、お腹が空いちゃってるんじゃないかなって思うの。
……あ、あのね、あのね?
だったら、お夕食、お家で食べよ?
お話、ちゃんとすれば、きっと大丈夫だから」
本を閉じれば、クイクイと服の袖を引いて。
名案と云わんばかりに目を輝かせ乍に彼女に聞いてみる。
其れに彼女が如何答えるかは彼女次第ではあるのだけれど。
どちらにしても家に帰ったらちゃんと成り行きを説明して。
大丈夫だったら家で一緒に夕食をとるのだろう。
其の家が何処であるのかも其の時に知るのであった。
ご案内:「王立コクマー・ラジエル学院」からプリシアさんが去りました。