2021/03/11 のログ
ご案内:「王都マグメール 平民地区 鍛冶場工房」にアルシェさんが現れました。
■アルシェ > 様々な工房や商店が立ち並ぶ平民地区の一画
買い出しに出た先で、金属を叩く音が耳に響いた。
それはこの辺りであれば、決して珍しくはないもの。
けれども、足を留めたのは、それが澄んだ高い音を響かせていたからか。
「そろそろ研ぎに出さなきゃいけない頃合いだし、覗いてみようかな?」
新しい武器を買えるような懐具合ではないけれど。
だからと言って得物の手入れをしないというわけにはいかない。
自分でもある程度のことはできるようにと仕込まれてはいるけれど、やはり本職に頼むのが一番。
規則正しく響いてくる音を頼りに、工房の扉を叩く。
作業中に返事が返ってくるかと言えば、それは期待薄だけれど、そこはマナーと言うもので。
■スピサ > 金床の上で叩き、もう一度藁と金食い虫の灰を塗す成形していく過程で、途中から感じる槌への違和感。
表面を見ると、スピサの力に耐えられるはずの槌が、少し歪み始めていた
力に対し、硬度が負けていたという印に口が半開きになる。
「嘘……。」
反対側に回し、打ち続けるのならば、色が鋼色に戻ったところでハンマーを数本、新たに用意した
槌を後で、自分用に鍛える必要もでてきた今回の鍛冶
鞴を鳴らし、火力を強め、尚緋色を帯びた代物を打ち続ける。
真っ直ぐに 長く 途中、切っ先を造る為に先端を斜めに斬りつける際には、ノミ状の工具が二本先端がつぶれ、駄目になった。
槌は二本目は根本から折れてしまい、槌よりも柄が負けてしまう始末
コォンッ コォンッ と続く柔らかさを得た硬い塊に打ち付ける独特な音
鉄の悲鳴ではなく、衝撃を吸い込む鉄の音
汗がにじみ、手に痺れが少しだけ感じられる。
切っ先を作り上げ、真っ直ぐな刃の形状に持ち込むまでを終えたときには、息切れと汗でしっとりと肌が濡れていた。
一度、そこまでに至れたものを休ませ、次は夜に打ち始めよう
そう思ったのは、休憩と暗い中で火の色を見分け、より明確に形作る為。
真っ直ぐな、四角い取っ手のようなナックルガードを取り付ける予定のこれは、岩砕きくらいできてしまいそうな手ごたえを感じる
傍に於いていた、塩と柑橘を混ぜた水筒水を呷ると、集中していた喉がやっと水を欲していたのを感じ取る。
「ンッ……ンッ……ンッ……はぁぁぁ……。」
手ぬぐいをつかい、汗を拭いながら、楽しくて、集中して、独り鉄を打つだけの時間が体の中で静かに脈打った。
トンットンットンッ
「?」
工房の扉から響く控えめなノック音
来客かと、昼間の時間なのだから当然なものの、独りの時間に浸っていた故に体が現実に戻るまで数秒かかった。
紫革の眼帯をまき直し、単眼を隠すと扉を開けていく。
オーバーオール姿の、鉄を打っていたあとの工房は熱気か漏れ出るだろうか。
「……はい。」
静かに、一言そうつぶやく
目の前にいたのは、少なくとも熟練には見えない、小柄な同性
再度テールを揺らし、薄い青肌人と対面したのなら、見下ろす者と見上げる者となった。
■アルシェ > ノックしてしばし。
鳴り響いていた槌の音が已む。
もう一度声を掛けようかと逡巡したところで、不意に中から物音が聞こえ。
開いた扉の奥に見えたのは、厳ついおっちゃんでもなければ、毛むくじゃらのドワーフでもなかった。
蒸し風呂のような熱気を纏って姿を現したのは、長身のがっしりとした身体つき。
目元に巻いた眼帯が目立つけれど、それよりもそれが女性だということに驚きを露にして。
「え、えっと……お邪魔……でしたか?
できれば、研ぎをお願い…できないかなぁー……とか?」
汗だくの様子から見れば、目の前の彼女がつい先ほどまで鍛冶場に居たのは間違いないだろう。
端的な返事は、歓迎されているのかいないのかはっきりとは知れないけれど、恐らくは後者だろう。
眼帯のせいもあって表情が良く分からない。
しどろもどろに言葉を紡ぎつつ、相手の反応を伺ってみる。
まぁ、「邪魔するな」と怒鳴られるくらいであれば、大したことはないのだけれど。
「そ、それとも、出直した方が、良かったり……?」
間近で対面すると、どうしても見上げる形になる。
腰に提げていた短刀を鞘ごと取り外して、相手の方へと見せてから。
何時でも回れ右ができる態勢だけは整えておき。
■スピサ > スピサの工房に訪れる客は様々
戦士の伝手や置かれてる武器屋の話
そしてこうして、槌の音を聞いてやってくる
中には報酬条件を耳にした者もいる中で、鍛冶師という職人の性格なんて、色々だと思う
しかしスピサは、造るという手前で鍛冶屋泣かせでも拒みはしなかった
嫌われ者がいるとすれば、それこそ金に物を言わせて乱暴に使うだけの、無法な棍棒でも持たせておけばいい者だろう
「ん。」
首を振り、大丈夫と伝える。
単眼族故の、人付き合いとのコミュニティが薄いせいだろうか
ハキハキとしゃべることはせず、わざわざ鞘ごとククリナイフを取り出した相手を無碍にしなかった。
「ど どうぞ。」
噛みながらも、工房の中へと招いてから、扉を閉じる。
中は明かりは炉のものだけであり、薄暗い。
汗を拭いながら、ヤットコで先ほどまで鍛えていた代物を、保管場所へと移動させると、そのままヤットコは炭を一つつまんだ
ランプの蓋を開き、明かりを灯す。
室内が明るくなったころ、アルシェとスピサは互いに名乗りでも済ませるだろうか。
「こ、これどうぞ。。」
そう言って、作業場近くで丸太椅子をドスンッと差し出し、腰を互いに下ろす。
研ぎの依頼と聞いては、差し出された鞘の代物を預かるだろう。
中身を貫くと、小柄な丈に合わせたククリナイフの独特な形状が姿を現す。
「……。」
ジッと刃を見つめ、ランプの明かり越しのシルエットと、直接眼帯越しでも見えているかのように刃を立てて眺める。
「あの。」
一言、そう言ってスピサはアルシェのほうを向き。
「こ、これどんなふうに使ってますか?」
スピサは使用頻度は見てとれるものの、使用方法を聞いた。
■アルシェ > 返ってきた相手の反応は、またも短い返事のみ。
けれども、そこに不機嫌そうな響きは感じ取れなかった。
どうやら職人には多い無口な性質の人らしい。
そうと分かると、引き気味だった腰も元に戻り。
「えと、それじゃあ遠慮なく……お邪魔します。」
中へと案内されると、そこは先程感じたよりも熱が籠っていた。
じっとしているだけでも汗が噴き出してきそうなほど。
炉だけが煌々と灯りを放つ中で、室内全体はどこか薄暗い。
物珍しそうにきょろきょろと視線を向けてみる。
部屋の隅に並ぶ様々な道具は、使い道は想像できても使いこなせそうにはない。
どこか形の歪んだ槌などは、その最たるもので。
「おおぅ……っと。ありがと。
それで、小物で申し訳ないんだけど………」
脇見をしていると、ドスンと目の前に突き刺さるかのように落とされた丸太。
どうやら椅子代わりらしい、それに目を丸くして。
大人しく座る前に、改めて手にしたままだった短刀を差し出して見せる。
「どんな……って、言われると難しいんだけど……
武器としてなら、主に攻撃を捌くのに使ってるかなぁ…
あとは狩りの時にも使うけど。」
眼帯をしたままで尋ねられた、そのなんとも抽象的な質問に、言葉を詰まらせる。
対人戦では相手の攻撃を防ぐのがメイン――つまりは相手の武器に打ち合わせることも多く。
刃毀れもいくらか目立つだろう。
そんな答えで良い?とばかりに首を傾げて見せ。
■スピサ > ククリナイフの刃は、肉を斬りつける 頸を落とす、貫く等の形状と幅広な先端から
かなり攻撃的な印象のあるナイフだ。
血を吸わせてからではないと戻してはいけないという逸話もあるほどの代物
使われる鋼は強く、鋳造品ではできない強さを持つ。
しかしこの刃は、肉骨を斬り落として刃がつぶれたり、伸びるようなものよりも
凹み方がそれよりもやや細い 片側がつぶれたようになっている部分もある。
欠けている部位も同じくだ。
使用方法を聞いて予想通りに納得しては、研ぎをどうするか相談し合う。
「……。」
ククリを眺め、顎を撫でる。
防御仕様の部位は、先端の膨らみよりも中間部位
パリィならばそれはふくらみの威力に寄る物だろう。
「じ、じゃあ……。」
ククリを指さし、話を続けるスピサ。
答えは出たように。
「先端、と膨らみは攻撃力ですから、鋭く……で
防御に回す腹の部分はほんの少し、ま、丸くしていいですか?」
攻撃と防御を兼ね備えるために、研ぎの鋭さを敢えて分けることを提案した。
攻撃を受けとめるところを、つぶれにくくさせたいように。
勿論、防御ではなく攻撃と攻撃がぶつかり合えば、先端の膨らみを使用するだろう
しかしそれは強度と切れ味で武器破壊も兼ねられる。
■アルシェ > それなりに長く使っている愛用品
武器としての経歴も長いけれど、むしろ最近の使用頻度で言えば狩りの方が多いかもしれない。
それでもやはり染みついた扱い方は、色濃く刃に出てしまっているらしく。
端的な言葉で紡がれる問いかけに、一つひとつ答えていきながら。
ナイフに刻まれた傷についても、あれこれと補足する。
曰く、どこぞの大剣遣いと対峙した時の傷であったり、投げつけられたモーニングスターを防いだ時のものであったりと。
「ん、それで良いかな。細かい所はお任せ、で。
ちゃんと、このナイフのことを分かっててくれてるみたいだしね。」
少し特殊と言えば特殊な形状のナイフだけに、本職であっても忌避されることもなくはない。
しっかり話を聞いて、現物も見てくれたうえでの提案に否やはなく。
にっこりと笑って見せてから、宜しくお願いします、と。
「あ、あとついでに、革製品も扱ってたり…?
このブーツも補修と補強をお願いしても良いかな?」
工房に置かれているのは、金物ばかりではなく。
なめし皮もいくつか置かれているのを見れば、ダメ元でそんなお願いを。
■スピサ > 研ぎをお願いし、鋭くさせる
それだけで済めば研ぎ師も鍛冶屋もいない
包丁のような使い方になってしまうだろう
互いで、この鋼の使い方を聞き分けながら使い分けの構造を話し合い
話はまとまった。
依頼主の、任せても大丈夫だと安心する笑みを見ると、鍛冶師としては嬉しいものだろう
笑みこそ浮かべないものの、頷き、任せてというような態度だ。
早速研ぎをして、元の依頼主の元で振るってもらおう。
独特な形状は研ぎも分けられる
ククリナイフを撫で、側面の受け止めでついた傷までしっかり直す。
そう思い撫でていると、革製品も扱っているのかと聞かれた
革を最初から聞かれたのは初めてなものの、特に溜めをすることもなく頷く
視線の先は、防具用や鞘のために使用する革の作業台とその素材だ。
「ブーツ、ですか。」
渡されたのは革のブーツ 修繕と補強と言われ、ダメージ具合を見た。
踏ん張りによる靴底と縫い目のほつれもそうながら、先端から甲の部分がより潰れて滑らかになり、色が変色している。
靴底も同じくだ。
防御のククリなら、これは蹴りということだろう。
「……ここ、蹴撃ですよね?」
一言確認してから、修繕はいいものの、先端の具合を見ると作り直しのほうがいい気がする。
「これだと、補強してもいい、けど……長引くだけですよ?
つ、作りましょうか?」
元より、革の鎧やマントならばともかくブーツは常に使われる
革素材ならヘタレ易い 貴族の使う靴は一度使えば三日は置き、型を嵌め込んで形状と硬度を復活させるものなのだ。
「消耗品なら……既製品を買うのもいいです、けど?」
下手にすると手間も金もかかる。
そう言ってブーツの素材を調べるものの、普通の革素材だ。
■アルシェ > やはり言葉数は少ないものの、決して不愛想というわけでもなく。
むしろ仕事に関して言えば、まじめで誠実といった印象
それだけならほかの職人にもいるだろうけれど。加えて女性らしい細やかさも感じられる。
だからこそ、多少お金が掛かったとしても任せたいと思えて。
ナイフの方は目途が立った。
結果はまだ見てはいないけれど、この分ならばもうひとつも頼んでしまいたい。
そう思って、履いたままのブーツを見せる。
使い方としてはこちらの方が荒っぽい。
何せ、相手が人であろうと魔物であろうと蹴り飛ばしてきたのだから。
多少の補強はされてはいるものの、ごくごく普通の代物。
故に損傷もかなりひどくなっており。
「やっぱり、すぐ分かっちゃう?
オーダーメイドだと、結構しちゃいそう…?
そっちのほうが良いのは分かってるんだけどね。」
ナイフと違ってこちらの方は、説明するまでもなく使い方を言い当てられる。
苦笑を浮かべて頷いてから、提案された受注生産に渋い顔を見せる。
研ぎがいくらかかるか分からないけれど、そこにオーダーメイドまで入れると手持ちが底を突くかもしれない。
となると、彼女が言うとおりに既製品で済ませるもの手ではあるけれど。
■スピサ > 研ぎだけなら普通の金銭にやりとりでいいかなと
スピサにそう思わせていた依頼人のアルシェ
しかし、研ぎよりも相応の、蹴りという規格に見合わせた靴を要求されると価値は高まる
新造ではなく研ぎを 新品ではなく修繕補強を依頼する辺りは金銭にあまり心持がないようだった。
「―――。」
ククリナイフは作業場に一先ず置かれており、手元のブーツを眺めて考える。
スピサは結局のところ、いつもと同じ質問を口に出したのだ。
「ゴルドがむ、無理なら、身体でもいいですけど。」
所謂身体を報酬とした交渉
スピサの顧客が真面目なこういった物を除けば、残るものは負けた者やカジノで散財した者
そしてもとから何も持たない、攻撃を欲する復讐者
この世界では当たり前な話だ
村人はどうして冒険者となりえるのか
それまで積まれた金はどこからくるのか
女冒険者ならばそれはより現実的になる。
身体を売り、金銭を稼ぐ そこに尽きるのだ。
そして、アルシェがうなずくならば後払いでいいと言い、作成期間の間、別の手持ちとしての代用品
制作済みのマチェットを一つ与え、事が終わるだろう。
■アルシェ > ブーツの方はまた今度でも致し方がないだろう。
防具ではあるものの、それこそ布でも巻いておけば多少の補強にはなるだろうし。
そんな風に考えていると、不意に示された提案に、瞳をぱちくりと瞬かせ。
「ふぇ…? それって、ここで下働きをするとか、そういう?」
相手が厳ついおっさんであったなら、そういう意味だとすぐに理解もしただろうけれど。
身体つきはともかく、どちらかと言えば大人しい雰囲気の彼女からそういうことを提案されるとは思わなかった。
思わず肉体労働を求められているのかと勘違いしてしまうほど。
「うぅ……そっちの…?
それは、まぁ……悪くは、ない……けど…」
これが好ましく思える相手からの申し出でなければ、すっぱり断っていた。
歯切れ悪く口籠ってしまったのは、それも悪くはないかと思ってしまったが故のこと。
話した時間も短く、交わした言葉も決して多くはないけれど、そう思ってしまうくらいには彼女のことを気に入っていて。
悩みに悩んだ挙句に、頷いたのはやはり背に腹は代えられなかったのか。
それとも相手のことが気になかったからなのか。
それに関しては、口にはせずに。ただ頷くだけに留め。
ナイフを預けて、代用品を受け取ると、その日は工房を後にする。
入って来た時と同様に、ちょっとばかり挙動不審な様子で―――
■スピサ > 「一週間、ください。」
修繕はともかく、作成はそうはいかない
サイズを測り、手でもしっかりと素足を触り、握る
形状 硬さ 柔軟性 蹴りの角度
スピサは、防具として攻撃として見出す術を思いつく。
こちらを一度チラッと見て帰ったアルシェを見送ると、店内をクローズにした。
ここからはなじみの客以外、依頼は受け付けなくてもいいだろう。
「……よし。」
眼帯を外したスピサは、一度剛剣をチラリと見た後で、名残惜しくもあるもののブーツ素材を求めて外に出た。
検討はついている。 ならば行く先は乗り物売りの業界だ。
素材代もある程度省けるだろう。
―――“一週間後”
再び聞こえるノックの音と共に、アルシェがマチェットを包んだ鞘を掴み、現れる。
視線はお互い、報酬条件が決まっているだけに目線を少し合わせづらそうにしながらも、招き入れた。
後払いにしているのは、完成品が気に入らなければどうしようもないからだ。
「こ、これ まずはククリは終わったので。」
そう言って、鞘もおまけのように新品をつくられていた。
縫い目とボタン穴まで済んでおり、グリップまで磨きなおされている。
抜かれれば、先端の鋭さ 刃の出来 そして受け止める傷が多かった部分は強く、丸めの研ぎを。
攻撃と防御で刃の部分を違え、表面も研ぎ直されたそれは光沢は鏡面ではなく鈍く光る
光り過ぎる刃というものは、威嚇でしかなく目に止められてしまえば避けやすい。
「あと……これ、ブーツです。ナナ・ゴダを使ってみました。」
老いた≪ナナゴダの脚革≫
飛脚蜥蜴の一種である爪脚が得りの素早い二足蜥蜴
脚の素早さ 備わる爪に依る狩りを得意とするものであり、乗り物としても捕食対象が強くなければ優秀となる
最も、仲間としての信頼か強者としての屈服がなければ無理な相手。
鋭い爪を持つ馬という意味としてククリナイフと同源の言葉が使われている種類
老いたというのは、乗り物として使われていた老衰間近か、老衰したものを使用しており、年老いたことで強靭性は若干下がる
しかし使い込まれたそれは柔軟性を示しており、革靴で言えば皺が多くできたものといえた。
蜥蜴革を用いているため、皺のある脚革は濃緑が迷彩ペイントのように走る
その下は濃い土色をしており、黒々爪は先端の補強に使われている
爪の曲線を生かし、三つの黒の太いラインが先端を包む 踵の爪ももちろん、踵落としか回し蹴りで使用するために
さらに太く、一本の装甲が走っていた。
爪と革を癒着させるために、琥珀蝋で繋げている。
「こ、これなら最初から靴擦れしない、と思います。」
購入したばかりの靴は、固くズレや先端の柔軟性がない
故に経験豊富で生力を少し失った老いた革は最適だった。
靴紐は丈夫な編みにしてあり、これは単純な製品。
ここは消耗品になるだろうからと、黒膠で煮詰めた程度。
「ど、どうぞ。」
履いてみてもらいながら、どんな具合だろう。
■アルシェ > 「こ、こんにちはー…!」
扉を開けると、ぎこちなく。
けれども、挨拶の途中からは半ば開き直って工房に入ってくる。
この一週間は外での依頼はこなさずに、ずっとそわそわしっぱなし。
食い扶持を稼ぐために、街中での依頼は引き受けてはいたものの、いつもよりも効率は悪く。
約束の期日になれば、借金取りも斯くやという勢いで工房にやって来たのだった。
「え? 鞘まで作ってくれたの…?
抜いてもいい…? わっ……綺麗になってる……」
手渡された愛用品は、見違える姿になっていた。
お願いしたのは研ぎだけだったのに、鞘はおろかグリップまで新品同様。
そっと抜き放つと、艶のない鈍い輝きが見て取れる。
軽く振り回してみるも、手に馴染む感覚は以前と同じもの。
磨き、砥いで、重心も変わっているはずなのにと、改めてその磨き抜かれた刃を見つめ。
「……これって、飛脚蜥蜴の……?
うん、早速履かせてもらうね。」
ナイフを鞘へと納め、今度はブーツを手に取る。
手にした感覚は、見た目よりも軽く。そのくせしっかりとした厚みがある。
脚を包み込むような、そんな密着感があるのに、足首の動きは妨げない柔らかさ。
屈伸して、その場で跳躍。そこからくるりと回し蹴り。
爪先と踵の爪がちょうどよい錘になって、遠心力が働いてくれる。
いつも以上のキレのある動きに、ブーツひとつでこれほどまでに違ってくるのかと驚いてしまい。
「すごいね、これ……
こんなの、ほんとに貰っちゃって良いの…?」
タダではないのは理解しているし、返せと言われても返すつもりは更々ないけれど。
それでも、予想以上の出来栄えに、くるくるとダンスよろしく動き回っていて。
「すっごく気に入った! ありがとうっ
……お代が私でほんとに良いのか心配になっちゃうくらいだけど……」
ひとしきり動きを確かめたところで、上気した顔に笑みを浮かべてお礼を告げる。
お代については、ちょっぴり恥ずかしそうにして。
けれども、これだけのものを作って貰ったのだから、一生懸命ご奉仕しようと気合を入れるのだった。
ご案内:「王都マグメール 平民地区 鍛冶場工房」からアルシェさんが去りました。
■スピサ > ククリは良し
眼帯越しに、特に気になっていたのはブーツの相性
爪という装甲と蜥蜴革のブーツ 走行と攻撃の靴としてはいい出来になれた
「……。」
目の前で依頼人が、屈伸跳躍 そして回し蹴り
冒険者としては身綺麗な姿が宙でくるりとまわった。
聞くと爪は装甲攻撃だけではなく、若干の錘として勢いが載せやすいとのこと。
普通の窟に比べ、両端は少し重さはある者の素早さは失われていないようで何より。
老いた革なだけに値は下げられたしよかったと言える。
目の前で興奮からか、はしゃぐ様子に少しだけ笑みを浮かべた。
気になる報酬はと言えば、逆に何回できるのかと聞く程度だ。
回数分けにするのであればそれでもいい。
ナナゴダのブーツは若干の宣伝にもなれるだろう。
そうして、事が終わり、、また一人になるならば。
「おまたせ。」
造っていた剛剣の途中
それに魂を込めるように、再び炉の火と向かい合い、コォォォンッ!と鳴り響くのだ。
ご案内:「王都マグメール 平民地区 鍛冶場工房」からスピサさんが去りました。
ご案内:「花畑」にタン・フィールさんが現れました。
■タン・フィール > 「んーーーーっと……あっ…またみっけ!
これは、ほっといたら…タイヘン、たいへんっ…」
王都の一角にある自然公園…そこに茂るきれいな花畑。
しかし、現在そこは甘ったるい香りを放つ薄桃色の瘴気じみた空気に包まれていて…。
突如、突然変異として花畑に生えるようになった一種の毒草。
匂いや蜜や花粉をまき散らす季節が近づくと、それらを吸ってしまった人間や動物に、
精神錯乱や酩酊、性欲過多などの症状がでかねない、甘い毒の花。
麻の布で鼻と口を覆い、マスクとしている小さな薬師が、
白や黄色や青…色とりどりに咲き乱れる花畑の中から、その対象となる薄紫の小さな花だけを選別して引き抜き、
手元の薬草籠に放り込んでいく。
普通の人間であれば、この花畑に踏み入るだけでも、
噴霧された甘い酒を吸い込み続けるかのように、徐々に体がほてり、ぼんやりとしてしまうだろうそれを、
わずかなり薬師もマスク越しに吸っているせいか、少し風邪っぽいような頭のクラつきを感じる。
ぺちぺち、と頬をたたけば、その頬はさくらんぼのように赤らんでいて。