2020/10/30 のログ
ご案内:「街外れ」にラルカさんが現れました。
ラルカ > かろうじて王都の中ではあるものの、街外れのこの辺りは昼も夜も静かで、
工房で働く人形師と下働きの人たち以外、人に行き会うこともない。
深い森の中にぽつりと佇む石造りの建物から、小さな馬車ならやっと通れるかという程度の道が、
でこぼことろくに整えられもしないまま、街道へと伸びている。

普段は眠った状態で運び込まれ、また眠っているうちに戻されるのだが、
今日は――――今夜は、すこし勝手が違った。
もう一体、一緒に来た人形の修復が長引くらしく、
待ちぼうけの少年人形には、ささやかな自由が与えられることになる。
もちろん、街道へ出て行くことまでは許されていないが、
小道を少し散策する程度なら、と。

「わあ………お月さま、きれい、です」

外へ出て、仰ぎ見た夜空に輝く銀盆のような月に目を細め、嬉しそうに呟く人形の手には、
今夜ももちろん、たいせつな石が握られている。
中心の辺りにだけ、いつの間にか薄く紅色を滲ませたそれを、
胸元でそっと掌に包み込んで―――――さくり、さくり、乾いた土を踏みしめて歩く。
建物はすぐに、木々の枝間に隠れて見えにくくなり。
月明かりが鈍く照らす小道を、行きつ、戻りつ、ささやかな自由を楽しむことに。

ラルカ > ドレス姿に華奢な靴、きちんと整えられていない道を歩くにも、
月明かりだけを頼りに夜道を辿るにも、向いているとは言いがたい。

それでも、手にしたささやかな自由を謳歌すべく、
しばらくは夜風に髪を弄らせながら、幼子のような散策を楽しむのだろう。
―――――掌のなかの宝石に、今宵、目立った変化は訪れない。
ただほんの少しだけ、あたたかさを増したかも知れない―――――。

ご案内:「街外れ」からラルカさんが去りました。