2019/11/02 のログ
ミゲル > 「ん……そう言ってくれると…嬉しい。リュシカが、攻めてくれるから…サポートしやすかった…。
相性……色々と…いいね、俺達…」

今日の狩りもそうであったが他にも色々。
それを頭に浮かべれば視線はリュシカの身体に向いてしまう。

そんな話をしながら料理を作るのを眺めていれば完成。
今日はあり合わせとは思えないおいしそうなシチューで。

「討伐より…探すのに疲れた…ね。
リュシカもお疲れ様…ん、頂きます」

食器を受け取りながらお礼を言い。
こんな生活、凄く良いなと頬を綻ばせてシチューを口に運び。
美味しい美味しいと食べる姿はいい奥さんを貰った新婚のように見えるかもしれず。

リュシカ > 一働きした後か、素朴なシチューも素晴らしい味に感じる。
食事を終えて、荷物や武器の手入れも済ませ……

「……ミゲルさんミゲルさん!
 いい所みつけましたよ、あっちあっち!」
少し周囲を見回ってきた少女だが、
帰ってくるなり顔を輝かせてミゲルの手を引き、何処かへ連れて行く。

しばらく歩いた先には……

「ほら、温泉ですよ!」
湯気が立ち込める、天然の温泉が。
湯加減も丁度よく、汗を流し身体の疲れをとるのにちょうどよさそうだ。

ミゲル > 野営でこれだけおいしい食事ができるだけでも嬉しく。
一人の時ではつい帰ってからにしてしまう道具や装備の手入れもして。
その手入れが終わるとリュシカの姿が見えない事に周囲を見回せば呼ばれる声のほうへと視線を向け。

「一人でどこか行くの…危ない…。いい場所…?」

一人で見回っていたのかいい場所を見つけたという少女に注意を一言。
しかしいい場所と顔を輝かせる発見物は気になり、手を引かれるままに連れていかれ。

「温泉……?凄い…よく見つけた…ね」

案内された先にあった温泉。
天然は初めて見たので淵に近寄り軽く手を入れると温度も丁度いい。

「汗……流せる…ね。入ってこう…か」

周囲に危険な獣の気配もなく、折角見つけてくれた温泉。
汗を流せ疲れを取れるという魅力に入ろうという提案。
二人で入るのが当たり前と言うように服に手をかけ始める。

リュシカ > 「ふふ、こんな所に温泉なんて運がいいです。
 さっそく入りましょう!」
リュシカも衣服を脱いで、素肌を晒す。
もう何度も見慣れたリュシカの女体だが、
ここ最近さらに女性らしさを増してきた様に思う。

「ふぅ、いい湯加減ですねー。」
温泉に浸かって、手足を伸ばす。
程よい温度に、狩りの疲れがほぐれていく。

少し白く濁った泉質の湯が、
リュシカの裸体を薄く多い隠し……
それはそれで、ミゲルの劣情を刺激してくるだろう。

ミゲル > 「本当に……うん、いい。
地図に印……して……仕事後に…また来れるように、しよ」

自分が脱ぎ終わる頃にはリュシカも脱ぎえて素肌が見える。
何度も見て見慣れてはいるが見惚れる事はあっても見飽きるなどはなく。
最近は最初に見た時よりも女性らしさが増して見えて。

「ん…本当に…いいお湯…見つけてくれて…ありがと」

温泉の中で手足を伸ばせば関節の鳴る音が聞こえ。
疲れた体の芯まで温まる気持ちよさに頭の耳も垂れてしまう。

そんな中でふとリュシカに視線を向けると白く濁ったお湯のせいで裸体ははっきりと見えず。
その姿に欲情してしまい、そっと近づいていくと後ろから抱きしめるように乳房へと手を伸ばして。

リュシカ > 「……んっ……」
後ろから抱かれ、胸を揉みしだかれる。
甘い声を漏らしながら、そのままミゲルに体を預け……

「ふふっ……。
 今日も子作りですかー?」
手を後ろに回し、ミゲルの股間のあたりをさわさわと。

初めて会った日から、連日の様に情事を繰り返してきた二人。
リュシカもつい先日処女だったとは思えないほど、性行為にも慣れてきている。
そればかりか、なかなか淫乱の素質があったのか……
のめり込む様に子作り行為に夢中になってきているのであった。

「あ、でも、お外でするのは初めてですね!」
いわゆる青姦。
幸い周囲に人もいない。
星空の下で致すのは、開放感に溢れていて、また気持ちが良さそうだ。

ミゲル > 「…気持ちいい……?」

つい欲が我慢できずに胸を揉みしだくと心地よい感触。
聞こえる甘い声に耳が動き、預けられるリュシカの身体を支えて刺激は続け。

「そう……今日もいっぱい子作り」

リュシカの手が股間のあたりに触れるとそこには既に固くなった肉棒。
暑くなったそれが手に触れてしまい。

出会った日に押し倒し、それからは連日に体を重ねてきた。
初めてだったリュシカに連日と負担をかけていると判ってはいてよ欲は止めれずに交わり。
のめり込む様に子作りにお互いが夢中となり交じり合う日々。

「いつも…部屋だから……恥ずかしい…?」

人目こそはないが初めての外での行為。
いつもよ違う感じがして気持ちいいと囁いては顔を寄せて耳を食み。
胸を揉む片手で乳首を摘まみ転がし、もう片手は下へと滑るお腹を撫で、足の付け根へと進ませていって。

リュシカ > 「はい、もっと触って下さい……。」
お返し、とばかりに、ミゲルの男根を握り、
さわさわと緩く上下して、少し焦らす様に刺激していく。

「ふふ、ありがとうございます。
 疲れていたら、無理しないでくださいね?」
ミゲルの愛撫に身体を震わせ、快感で呼吸が乱れ始める。
肉棒を刺激する手も、次第に速くなっていき……

「いいえ、誰もみてませんし、開放的で気持ちいいですね!」
明るく笑って、言葉を返す。
リュシカは、求めればどんなプレイも積極的に応じるタイプだ。
ミゲルが求めれば、どんな変態的なプレイもきっと受け入れてしまうだろう。

ご案内:「王都某所」からミゲルさんが去りました。
ご案内:「王都某所」からリュシカさんが去りました。
ご案内:「旅路の最中」にグラムヴァルトさんが現れました。
グラムヴァルト > 【約束ロールの待機中となります。】
ご案内:「旅路の最中」にミンティさんが現れました。
グラムヴァルト > 「――――ククッ、あのチビスケ、妙に気合入れてやがったが無事に検問通過出来ンのかね。」

未だ日も昇りきっていない早朝。冬の訪れを間近に感じさせる灰色の秋空の下、王都街壁の検問所を越えてすぐの立木に二頭引きの幌付き馬車が停められていた。その荷台に腰掛け、長脚を組んで検問所の方角に銀色の三白眼を向けるのは、灰色の蓬髪と彫り深い凶相が目を引く一人の男。
スラリとしなやかな長脚を黒色のブレーに包み、逞しく鍛え上げられた上体には毛皮襟の革ジャケットを羽織ったその姿は旅装にしては少々頼りなさを感じる軽装。しかし、前立てをはだけたヘンリーネックが覗かせる胸板は、鋼糸を束ねて作ったかの様で、そこには弱々しさなど微塵も存在しない。

普段は旅をするにも身一つ、精々が一頭の馬を足として使う程度のこの男が行商人が引くような幌付き馬車を持ち出して来たのは、今回の旅路の同行者に配慮しての事だった。というよりむしろ、その同行者―――未成年にしか見えぬ小柄な少女を1週間程離れた場所にある観光地へと連れ出す事が今回の旅の目的なのだ。

昨日、旅に必要な物品の買い出しと馬車への積み込みを二人して行った際の彼女の張り切り様を思い出せば、自然、狂狼の顔にも笑みが浮かぶ。クククッと忍び笑いを漏らすその表情は、残虐な手口で殺した過去の犠牲者を死に様を思い返す殺人鬼の様にしか見えぬだろうが、これで案外機嫌が良い。
なにせ、旅慣れたグラムヴァルトにとっても恋人と二人きりでの長期の旅行など初めての経験なのだ。それはどうやら、これまでの人生を血なまぐさい出来事と傍若無人な淫行ばかりで彩ってきた人造キメラの心にも、浮き立つような心地を与える物らしい。

ミンティ > 王都の外へ続く道を歩きながら、ずっとそわそわしている。
生まれてから今日まで普段着のほとんどがスカートだったのに、丈が短くなるだけで、まったく落ち着けなくなってしまった。そもそも膝丈より短いスカートを履く事がめったにないから、太腿を風が撫でる感覚だけで不安になってしまう。
ちょっとした事で裾をあわてて押さえたりしていると、のろのろと歩く足は、いつも以上に遅くなってしまう。
ガーターの紐が見えているのも、本当にこれであっているのか判断がつかなくなってきた。他の人が同じようにしていたら、かっこいい、大人っぽいと思うのに、いざ自分が身に着けてみると、なにか間違っている気がして、眉も下がりがちに。

そんな風にして検問所が見えるところまでやってきても、すぐには通過できなかった。一人でそこを通った事がないから、遠巻きに眺めて、先に歩いていく人の様子を何度も窺って。
いざ意を決して検問所に向かってみたけれど、今度は声が小さいせいで、通る許可を得るのにも、かなりもたついてしまう。
それでも、やっとの思いで受付を済ませて。衛兵にぺこぺこと頭を下げて歩きだす。あと一歩で王都の外かと思うと緊張して、息を飲み、おそるおそる踏み出した。

一度は連れ出してもらったけれど、その時は馬の背中に乗っていたから、自分の足で立った状態では、はじめて見る検問所の向こう側。
同じように待ち合わせをしている人や、買い忘れの品を売りつけようという商人の姿もあって、まだ街の中にいるように錯覚してしまう。そして思った以上に人が多かったものだから、自分が待たせている馬車を見つけられず、あたりをふらふら歩き回って。

「……」

大きな馬車を目印に探してみるけれど、そもそも馬車の数が多い。
こんな事なら見つけてもらいやすいように、いつもどおりの恰好をしてくるんだったと早速後悔して、顔を隠すように帽子を引き下げる。

グラムヴァルト > 少女の住まう区画はこの時代の商店街の常として朝が早い。
日の登らぬ薄暗い時分には起き出して、開店の準備を始めるのだ。そんな商店主や丁稚の少年たちは、開店準備をするでもなく早朝に店を出た古物商の小さな主の普段とは異なる装いを、一様にぽかんとした表情で見送る事となった。いつもは気さくな挨拶を交わす露天屋台の老店主も
『やぁ、ミンティちゃん、今日も早………、ミ、ミンティ、ちゃん……?』
などとその言葉を途切れさせ、垂れた白眉に埋もれがちの双眸を大きく見開き街門に向かう少女を見送る一人となった。

そんな顔見知りの対応とは裏腹に、街門を守る衛兵の対応は妙に親切な物だった。どこに行くのか、同行者はいるのか、旅の最中の簡単な注意事項など、検問待ちの旅人達を待たせながらの説明は、まるで初めてのお使いに出る愛娘に対するかの様な代物だった。
そんな衛兵とのやり取りを経て、石造りの堅牢さと落とし格子の厳しさが目を引く街門を潜り抜け、未だ大勢の旅人や商人の姿でザワつく街外で少女を出迎えたのは一陣の寒風。
眼前に広がるのは刈り入れを終えた広大な農地と、地平線まで見通す事の出来るなだらかな丘陵、そして無限の広がりの向こう側に見える雄大な山峰からようやく顔を覗かせつつある朝日。

「……………………。」

そんな光景の中、忙しなく行き交う旅人の中で心もとなく立ち尽くし、帽子のつばを引き下げてしまった少女は気付く事が出来るだろうか。意外な程に近い場所、ふと右の方へと視線を巡らせればはっきりと目にする事の出来る程の位置に停車する馬車の荷台に腰掛けた長駆が、酷薄そうな銀瞳を驚きに見開き、普段とはまるで印象の異なる彼女の服装に見惚れてしまっている事を。

ミンティ > 旅行の予定が決まってからは、周囲とも念入りに連絡を取り合った。かなりの期間、お店を空けてしまうから、その間は信頼できる商人仲間が交代で店番をしてくれる手はずになっている。
しばらく留守にする事も近所の人たちに伝えていたから、出かける事そのものを驚かれたのではないだろう。
家のクローゼットを開ければ、まったく同じ服が何着もしまわれている。それを着まわしているせいで、他の服を身に着けている印象を持たれていない。そのせいで、まるで別人を見るような視線を向けられた事も、不安の一因になっていた。
やっぱり似合っていないのか、と思うと、今からでも引き返して、いつもどおりの服に着替えたくなる。もう一度、検問所を往復する勇気もなく、そもそも恋人に見てもらうため、今日のために時間をかけて準備していた服だから、今さら着替えるという選択肢もないのだけれど。

弱気になりかけたものの、普段とは違う装いをしている、そもそもの理由を思い出して、あらためて勇気を振り絞る。
住み慣れた王都をしばらく離れるのだから、いつもみたいに、くよくよしてばかりはいられない。
引き下げていたベレー帽を元の位置まで戻して深呼吸をし、寒風から守るようにスカートを押さえながら、あらためて周囲を見回す。

「…………」

そしてすぐに探していた人を見つけ、とたんに不機嫌そうな顔になった。眉を寄せて、ジト目で睨みつけるような表情。
こんなに近くにいたのに、どうして声をかけてくれなかったのかと言いたげな視線を送りながらも、とりあえずは馬車へ歩み寄って。

グラムヴァルト > ハッと我に返れば、洒落た服装の小躯が眼鏡の奥の翠瞳をじっとこちらに向けていた。
時間にして数秒。数十秒という事は流石にあるまい。
それでも、子供にしか見えない恋人の装いの愛らしさに目を奪われ、思わず動きを止めてしまっていた事は確かである。彼女の向ける何やら物言いたげなジト目の奇妙なプレッシャーに思わず慌てそうになった事、そして、事あるごとにチビだのガキだの失礼な言葉を投げて揶揄って来た相手に見惚れてしまったという事実が、凶相長駆の割りに意外な子供っぽさを残すグラムヴァルトを苛つかせた。

不機嫌そうな舌打ちと共に荷台から飛び降りた長駆が、無言のままザクザクと石畳で舗装された地面を踏み付け、近づいてくる少女との距離を狭めていく。ただそれだけの挙動でさえ近場を歩いていた行商人を慌てて飛び退かせる悪人面の威圧感は、恋人たる少女の眼前、ふわりと男臭い燻香を漂わせる程の距離にて立ち止まる。

「――――オウ、随分と待たせやがったなこのチビスケ。」

ただでさえ小柄な少女からすれば遥かな高みにある銀瞳を、顎を持ち上げた傲岸な立ち姿で見下ろし放つ第一声。そしてほとんど間を空けず、おもむろにしゃがみ込んだ長駆はひょいと伸ばした長腕の先にて摘み、捲くりあげようとする。
スレンダーな体躯の中で、意外に発育の良い下肢を覆うフリル付きのティアードスカートを。
何をされてもしれっとした無感情で対応してきそうな少女が、その実はかなりの恥ずかしがり屋であることを知った上でのスカート捲りの暴挙であった。彼女がそれを許してしまうならば、コケティッシュなミニスカートの奥に隠された下着は眼前の狂狼だけでなく、ゴロツキめいた長駆と未成年にも間違われかねない可憐な少女とのやり取りを心配げに見つめていた大勢のギャラリーにも目撃される事となるだろう。

ミンティ > 彼が見知らぬ人であったなら、遠巻きにする他の人たちと同様、もしくはそれ以上に怯えた事だろう。青ざめるか、表情を強張らせて、微動だにできなくなっていたかもしれない。
けれど、向こうから迫ってこられても臆さずに、先ほどまでの自信なさげな歩き方から一変し、こちらからもずかずかと距離を縮めていく。精一杯顔を上げて、睨みつけるのも忘れずに。

「……さっきからいました」

まるで待たせていないと言いたげな口振りだけれど、待ち合わせの時間よりも大幅に遅れているのは確かだった。ここに辿り着くまでに、相当もたもたしてしまっていたから、本来ならまず謝るべきところ。
しかし取った行動は、スカートに伸びてくる手を予想していたように、小さな手を振るって払いのけるというもの。まるで熊が魚を取るような動きになったから、まわりを驚かせたかもしれない。
恋人に対しては、なぜか日に日に狂暴になってきている。距離が近くなった分だけ、首を反らさなければならず、それでも睨むのをやめない。彼から見れば、小型犬が威嚇しているようにしか思えないかもしれないけれど。

「……ごめんなさい。お待たせ、しました。…ほかに、言う事はないですか」

勢いよく手を払って、とりあえず溜飲が下がった。すると、今度は待たせていた事が急に申し訳なくなってきて、睨みつける表情を崩して、小さな声で謝罪。
いささか情緒不安定なのも、慣れない服装のせいだろう。また悪戯をされないように、両手でしっかりとスカートを押さえながら、小首を傾げる。いきなり不機嫌そうにしたけれど、今の服を揃えるのにかなり苦労したから、感想は欲しくて。

ご案内:「旅路の最中」にグラムヴァルトさんが現れました。
グラムヴァルト > 狂狼と少女の体格差は距離が狭まる程に強調される。まさに大人と子供。かたや衛兵が放置しているのが不思議でならぬ悪人面、かたや可憐で小柄な少女。にもかかわらず、彼女の放つ声音は長駆の威嚇めいた第一声に怯む事無く、意地を貼るかの様な、それこそ対等な相手に向ける様な言葉を返した。
余りに予想外の対応に、周囲で見守る旅人達がギョッと目を剥く。
更には突然しゃがみ込んで少女のスカートを捲りあげようとする長駆の不意打ちさえも、小さな白手にて払いのけるという勇敢さを見せつけた物だから思わず『おぉぉ……っ』なんて歓声が上がったのも不思議では有るまい。

「―――チッ、目聡くなりやがって。いいじゃねェか下着をチラッと見せるくらいはよォ。」

叩かれた手をこれみよがしに擦りつつ、しゃがみ込んだ事でようやく同程度の高さに落ち着いた恋人の翠瞳と視線を絡ませ文句を言う。そんな相手から別に引き出すつもりも無かった謝罪の言葉に続けて『他に言うことはないか』なんて問いを投げられ、凶相の眉根が知らずピクッと皺を刻んだ。
彫り深い眉庇の作る暗がりの奥から見上げる銀光が、不機嫌極まりない様子で少女の翠瞳を睨みつける。しかし、愛らしく傾げた小首はその双眸を揺るがす事は無く、結局折れてふいっと視線を反らしたのは長駆の方。
フンッと鼻先を鳴らして立ち上がって背を向けて、無言のまま馬車へと向かうかと思われたその動きが

「―――――まァ、なんだ……てめェにしちゃあ、上出来なんじゃねェか。」

吐き捨てるかのように小さく呟いた。そうして改め長脚のストロークを活かした大股が、少女から逃げ出す様に馬車へと向かう。子供でももう少しマシな褒め言葉を投げるだろうという不器用さなれど、狂狼と付き合いの長い少女にはそれが彼からすれば精一杯の言葉であると分かるだろう。
そのまましつこく問い続ければ更なる褒め言葉を引き出す事も出来ようが、それは気恥ずかしさを苛立ちで誤魔化そうとする狂狼の、スカート捲り以上の暴挙を招く危険がある事もきっと理解していよう。

ミンティ > 旅立ちのはじめから、それなりに人のいる場所でスカ―トを捲られるなんて恥ずかしい思い出を作るわけにはいかない。そんな考えから振るった反撃は成功したものの、払いのけた手が痛くて、手のひらをさする。

「目だけは、いいんです」

ぽつんと返した言葉に嘘はないけれど、見て動いたのではなく、彼がしゃがみこむ動作から予想しただけ。もし悪戯を仕掛けられなければ、意味もなくスカートの前で手を振っていたかもしれない。
そして、そのままの位置で見つめ合う。
不安そうに周囲を見回していたかと思えば、恋人を見つけたとたんに不機嫌そうな顔、それから申し訳なさそうに謝罪して、最終的に表情筋をぴくりとも動かさない仮面のような顔で見つめて、感想を引き出そうとする。聞くまでは、この場を動かないとでも言いたげに口を真一文字に引き結んで。
そんな百面相も、最終的には、ほっとした表情で終わる。

「はい、……がんばりました」

一言の感想でも十分満足して、控えめに笑った。大股で馬車へ向かう彼の背中を、小さな歩幅で、小走りして追いかける。
前日までに荷物を積みこんでおいたから、馬車の構造はわかっているものの、あらためて乗りこもうとすると、すこし戸惑う。特に、今日はスカートが短いから、足を上げる動き一つにも躊躇してしまい。
どうしようかと迷いながら、きょろきょろと荷台を見回して。

グラムヴァルト > 『…がんばりました』
安堵の吐息と共に紡がれた言葉に込められた想いと、愛らしくも無愛想な表情が咲き綻ばせた笑顔が、人造キメラの胸郭の奥を何故かギュッと締め付けた。心臓を鷲掴みにされたかの様であるにも関わらず、胸の奥が不思議と暖まる奇妙な感覚。眼前の小娘と行動を共にするようになって以来、何度かこの様な感覚を覚える事があるのだが、その原因は未だに分からぬまま。
そんな感覚を振り切る様に馬車へと向かい、少女に先立ち荷台の後部にたどり着いた長駆は、革ジャケットの裾を翻して振り返って恋人の到達を待つ。そして彼女が追いついたなら、小動物の如き所作でキョロキョロと周囲を見回す小躯を無造作に伸ばした両手で抱えあげる。

その際には無骨な長指が少女の敏感な箇所を擽りゾワワッとした感覚を送り込むだろうし、丈の短いスカートは翻ってチラリと暗がりの奥を覗かせてしまうかも知れぬ物の、自分勝手な狂狼はそんな事には頓着しない。
むしろ、これ幸いと少女の羞恥を楽しみさえするだろう。

そうして少女の放り込まれた馬車の内部は食料品の入れられた木箱や、主に彼女の着替えが詰め込まれた長櫃、酒や水などの入れられた樽を詰め込まれてなお、それなりの広さを有していた。
長身の狂狼が寝そべるには些か手狭なれど、小柄な少女であれば十分に寝転がれるだけのスペースにはクッションやら防寒用の毛布やらが既に用意されていて彼女を出迎える。
改めて馬車の前面、御者席へと乗り込んだグラムヴァルトは、革のジャケット越しにも盛り上がりの分かる逞しい肩越しに振り返って

「――――オゥ、出発すんぞ。忘れもんやらなんやらはねェだろうな?」

手綱を手に取り問いかける。

ミンティ > この服を選ぶために費やした時間と苦労が、やっと報われた思い。入った事がないお店に踏み入れるだけでも緊張してしまうような性格なのに、その冒険を何度となく繰り返した。
店員に声をかけるのも苦手だけれど、わからない事があれば尋ね。口下手だけれど相談もした。そして、普段身に着けている服とは比べものにならないくらいの金額を支払った。
これで彼の好みから外れていたらという心配もあったけれど、見たところ、気に入っていない様子もない。不安も消えて、表情も軽くなろうというもの。

「……ッ、…ちょ、…急に……っ」

あとは荷台に乗りこむだけ、と考えていたところで脇腹がくすぐったくなったから、あわてて足をばたつかせようとして、それより先にスカートを押さえる。
もうすこし裾が長いものでもよかったかもしれないと、すこしだけ後悔。なにをしても下着が見えてしまいそうに思えて落ち着けない。
それでも荷台に放りこまれたら、あとはただ座っているだけ。
彼の姿を追うように前の方へと移動して、積まれたクッションの山に身体を預ける。長旅とはいっても、その道中、自分はずっとこうしているのだろうかと思うと、少々申し訳なくなってくるけれど。

「……はい。だいじょうぶです」

あらためて外の景色を眺めながら、御者の席に座る彼に頷く。
街の中と違って、どこまでも視線が通る。遠くにそびえる山々も、広がる青空も、二度目ではあるけれど新鮮なもののように思えて。はあ、と感動を溜息をしてこぼす。
細道の商店街に並ぶ、小さな古物店。その薄暗い店内に引きこもりがちだったから、あまりに視界の広さに、軽く眩暈を起こしそうな気にもなって。

グラムヴァルト > めかし込んだ少女に掛けた褒め言葉は余りに少なくぶっきら棒な物でしかない。しかし、日頃隙という物を伺わせぬ野生の獣めいた男が、数秒もの時間に渡って晒した無防備な姿。それこそが時間と金銭を掛けて衣装を選んだ少女に対する狂狼の評価を示していた。

「―――ハハッ、てめェにまかせてたんじゃいつまで経っても出発出来ねェだろうからな。手間ァ省かせてもらったゼ。」

隆々たる筋骨に鎧われた双腕には余りに軽い少女の体躯。擽ったさに身じろぎしながらスカート裾だけはきっちりと抑える隙の無さには妙な関心を覚えるも、こうした不意打ちで少女を慌てさせるのは小気味良い。
洒落た装いに思わず見惚れてしまった機嫌の悪さもあっさりと消え、出発の覚悟も定まっているらしい少女の返答にニヤリと頷き

「――――ハッ。」

低く掠れたバリトンボイスが鋭く吐き出す声音と共に手綱を振るって馬背を叩いた。それに合わせて力強い四肢で地面を蹴る蹄が、ガラガラと車輪の回る音と、舗装された石畳の上であってもそれなりの振動を覚える荷台の揺れを伴い長旅のスタートを切った。
カーテンめいて左右に割られた馬車幌の先、しなやかな細身に見えて逞しい広さを有する狂狼の背筋と、その向こう側にどこまでも広がる丘陵と田園の風景。
ようやく山嶺から姿を表した朝日が、道行く旅人の影を長く長く街道に伸ばす。
馬車に乗る者、一頭の馬に跨る者、重そうな荷物を背負って徒歩で地面を踏みしめる者、冒険者パーティと思しき厳しい装具の一団、はしゃぐ子供に笑顔を向ける家族連れ、旅路の先に待つ儲けに野心たっぷりの双眸を輝かせる行商人。多種多様な人々が、それぞれの目的を胸に街道を進んで行く。

2頭引きの馬車にしては荷物の少ない2人の旅足は早く、他の旅人と共にいられる時間は、精々が数刻程度の時間となろう。その後は時折出会うすれ違い以外は2人きり。
野盗がうろつき、モンスターが徘徊する外の世界で、片道だけでも1週間は掛かるだろう長旅の開始に少女が感動の溜息を漏らせば、それを鋭敏に聞きつけた狂狼もまた何やら愉しげな気分になってククッと忍び笑いを漏らしてしまった。

ミンティ > せっかく外に出たのだから自分の足で歩いてみたいとも思った。けれど、この服装では大人しく座っているのが無難だろう。
はじめての遠出だからと気合いを入れて服を選んだものの、旅装としては相当不向きな恰好だったかもしれない。いつもの靴よりも踵が高い赤い靴も、なにもないところで転ぶほど不安定ではないけれど、外の世界を歩くには危なっかしい。
結局、クッションを抱え、クッションの山に埋もれ、馬車に揺られて運ばれているしかなく。

「……わたしの事、小さな子どもか、なにかだと思っていませんか」

これでも一応17歳だと、彼の横顔を睨みつける。同じ年頃の同性よりも背が低いから、実際に子どものように見えているだろうと思いはしても、不満を言いたくもなる。軽く口を尖らせながら、ぶつくさと呟くような声音でこぼして。
そんな自分の小さな身体で過ごす空間としては、荷車の中はとても快適だった。ずっと座っていても身体が痛くならないようにクッションが積まれていて、揺れに慣れさえすれば、そのまま眠る事もできるだろう。
一定のリズムで聞こえてくる車輪が回る音を聞いていると、つい、ぼーっとしてしまうほど。

「いろんな人がいますね」

柔らかい感触に包まれながら、同じ場所から出発した馬車を追い抜いていく様子や、向こうからやってくる冒険者と思わしき集団を眺めて呟く。
外の世界は危ないものだと教えられてはいるけれど、今のところ、その片鱗も見られない。すっかり寛いで、警戒心も緩くなっている。検問所を通る時が一番気を張っていたかもしれない。

グラムヴァルト > 「―――あァ? ………ククッ、良く分かってンじゃねェか。中々正しい自己認識だと思うぜ、ミンティちゃんよォ。」

不満げな翠瞳に返すのも、意地の悪い笑み。
そんな風に子供扱いしてしまう少女に対して劣情を覚え、様々な猥褻行為を働いてしまう己は何なのかと問われれば言葉に窮する事にもなるだろうが、幸いにしてこの場にそんな小賢しい意見を述べる第三者など居はしない。
蹄と車輪の奏でるけたたましさに負けぬ様に張り上げる声音はそれなりに大きく共、追い越して行く旅人にはその言葉の一端がわずかに聞こえる程度だろう。

「―――ンァ? あぁ、まァ、今のうちはな。つっても賑やかなのは基本的にァ最初のうちだけだゼ。大抵の場合は足の速さが違うからな、他の連中と旅を続けるなんてェのは早々ねェよ。」

御者といってもそれなりに経験を積んだ馬が引く馬車であれば、それほど気をはらずとも街道に沿って進んでくれる物。その点、今回グラムヴァルトが選んだ馬はどちらもベテランで、これなら多少野犬に吠え立てられたとてパニクって大騒ぎになる事もあるまいという安心感がある。
その余裕から鍛え上げられた上体を捻って振り返った長駆が、どこかぽやんとし始めた恋人の様子に気付いて

「おいおい、ミンティ。てめェ、17だとか大層な下駄を履かせた癖に、ガキみてェに昨日は旅が楽しみであまり眠れなかったとか言うンじゃねェだろうな?」

伸ばした人差し指が、桃色の前髪が覆いかぶさる額をトンと付きつつ笑みを向ける。

ミンティ > 不満を訴えたところで、そう簡単に聞き入れてくれる相手でない事は承知している。しかし、今のように笑われるだろうと予想していたとはいえ、実際そのとおりにされたら面白くない。
むっと眉を寄せながら、また不貞腐れた顔をして。どうにか仕返ししてやれないかと考えるものの、基本的に他人をからかったりする性格でもないから、なかなか言葉が出てこない。

「…………他の人にしようかな」

考えた末に、ぽそりと呟いたのは、浮気をほのめかす台詞。もっと他に、自分を年齢どおりに扱ってくれる男性を探そうか、という意図ではあるけれど、いつもどおり言葉足らずな部分は否めない。
当然、本気でそうするつもりもないから、眉を寄せたままの表情ながらも、すぐに気持ちを切り替えて、外の景色を眺める方に意識を向ける。

「……グラムさんは、よく…外に出るんですか?」

自分よりも旅に慣れているだろうとは、以前に連れ出された時にも感じていた。しかし、よくよく考えてみると、彼が普段なにをしているのか、王都にいる間はどこで暮らしているのかも、よく知らないままだった。
お金に困っている様子もないから、仕事の心配をする必要もなく、呼べば何故か姿を現してくれるから、いつもどこにいるのかを尋ねた事さえない。

「……ちゃんと寝ました。どうせ、どこかで見ていたでしょう。
 …いつも、わたしの事を見張っていて、お仕事とか……だいじょうぶなんですか?」

さすがに部屋の中まで覗けてはいないだろうけれど、日ごろ、暇があればこちらを監視しているようだから、寝ていた事くらいは知っているはず。
そう考えて、ぼやいてから、小首をかしげた。恋人の事をあまり知らないのも、よく考えてみると落ち着かない。それとなく探りを入れてみるつもりで、とりあえず簡単な事から尋ねた。まさか彼が暗殺者だなんて思いもせず。

グラムヴァルト > 「あァ!? てめェ、今なんつった!? このチビ、商店街の連中にちやほやされていい気になってンじゃねェだろうな!」

少女の呟きを耳聡く聞きつけ、その端的な言葉の意味をきっちりと理解してみせた狂狼は、小生意気な不倫宣言を仄めかせた少女の額をビスッ、ビスッと続けざまに人差し指で突き回した。
小柄な少女が子供の様にしか見えない時はたしかにあるも、本当にただのガキでしか無ければ斯様に惹かれる事など無い――――はずだ。年増よりは若い娘の方が多くの仔を孕む事が出来るという意味でも好ましいのは確かだが、それでも狂狼に子供好きの気は無い。
とは言え、それを素直に少女に告げるでもなく、子供扱いを続けて揶揄ってしまうのは、好ましく思う異性にちょっかいを掛けて泣かせてしまういじめっ子に似たような心理が働いているからこそ。それについてはグラムヴァルト本人とて正しく理解はしていないのだが。
それでも、少女の呟きもまた戯れめいたじゃれ合いの一つと感じ取る事くらいは出来る狂狼は、切り替えられた話題に

「あ―――……そうだな。てめェら街人連中に比べりゃあ、良く外に出てるってェ言えるかも知れねェな。」

と、曖昧な返事を返した。
他者に後ろ指をさされる様な己の生業にも何も感じぬ人でなしではあるが、何故か恋人たる少女にはその詳細を知られたくは無い。そんな思考が改めて揶揄いの言葉を飛ばして少女の問いから逃れようとするものの、今日の彼女はいつも以上にこちらの事を知りたがった。

「――――ハ、そりゃあてめェの自意識過剰ってェ奴だ。誰がてめェみてェなちんちくりんを四六時中見張ってるってンだよ。たまに暇で暇でしょうもねェ時に、てめェがちまちましてんのを観察してるってだけだ。」

昨晩も塒に帰る前に少女の様子を遠間から伺っていた。木窓の閉ざされた室内から、健やかな寝息が聞こえていた事も知っている。
ついつい憎まれ口が多くなってしまうのは、こうした話題を突っ込まれる事に狂狼自身少なからぬ危機感を覚えるからだろう。

「――――オゥ、そろそろ見えなくなるゼ。しばらくの間ァこれで王都は見納めだ。しっかり眺めておくんだな。」

鍛え上げられた上体を捻って振り返った長駆が、顎をしゃくって背後を指し示したのは、半ば無理矢理にでも話題を断ち切ろうとしたからなのやも知れない。
とは言え、なだらかな丘陵の連なるその向こう、王都という名に恥じぬ巨大さを見せつける少女のホームタウンが随分小さくかすみはじめているのもまた事実。比較的高い位置まで上るこの丘道を越えてしまえば、後はもう王都の姿を見ることが出来なくなる。

ミンティ > 一言、短く言い返した分よりも手数の多い反撃を受けて、反射的に目をつぶる。額をつつき回される感覚にあわせて、鬱陶しがるように、ん、ん、と不機嫌そうに喉を鳴らして。
放し飼いのように扱うくせに、なにかとこちらの動向を把握していたり、冗談で心変わりを口にしたら、わかりやすく狼狽してくれる。反抗期の少年みたいな彼の性格は知っているつもりだけれど、、態度以上に大事にされているのがわかるから、額に受ける小さな痛みに反し、口元をむずつかせるように笑って。

「皆さん、優しくしてくれますし、こんなわたしなんかを、お姫様みたいに扱ってくれますから。……誰かさんと違って」

焦りを感じさせる雰囲気を嬉しく思っているけれど、それと、繰り返される子ども扱いとは別。チビ、という呼び名を改めないようならと、こちらも負けじと食い下がり。
とはいえ、ただクッションに埋もれて座っているだけの今も、お姫様扱いのようなもの。慣れない遠出で、こちらが疲れてしまわないように、きっとたくさん気を回してくれているのだろう。
何度目か額を突かれそうになるのをかわして、大きな手に頭をすり寄せ、口には出さないけれど感謝の気持ちを示し。

「……そうですか」

はぐらかされたとわかる返答に、小さな溜息をこぼす。言えないような仕事か、とは思うものの、それ以上、無理に聞き出そうともしなかった。
今は聞かないと頷いてみせると、馬車の前方を向いていた身体を翻し、遠ざかっていく王都に目を向けて。

「ちまちましていません。……でも、よかった。…じゃあ、わたしが誰と会っていても、わかりませんね」

あいかわらずの小さい生き物扱いに眉を寄せる。食い下がりこそしなかったものの、質問に答えてもらえなかった事を、ほんのすこし不満に思いもしたから、また痴話喧嘩のような物言いをした。
そんな感情も、馬車の後ろに広がる景色を眺めているうちに紛れて。

「……お城が、あんなに小さい。馬車は、速い、ですね。もう、こんなに遠くまで来れた。
 ……どこへ、行くんですか?」

街の中から眺めている時には、遠くにあっても大きく見えていた王城が、今はとても小さく感じられる。子ども扱いを嫌がっておきながら、幼い子どもみたいに、目に映るままを口にする事しかできず。
自分一人では出る事もできなかった王都が、あっとう間に遠ざかっていく事に、ただ驚くばかりで。
しばらく後方からの景色を眺めたら、また荷車の前へ移動する。彼の腕に軽く触れて、あらためて旅の目的地を尋ねる。どこか遠いところへ行ってみたいとしかリクエストしていなかったから、肝心の行き先がどこかも知らないままだった。

グラムヴァルト > 「―――ッチ、なァに笑ってやがンだよ! 何がお姫様だ、てめェなんざ身長も胸もねェガキじゃねェか!」

ケッと品悪く切り返す物言いは、やはりゴロツキらしいデリカシーに欠けた物。チビだのガキだの繰り返す度に彼女の眉根が不機嫌に歪むのを見ても、天の邪鬼な気質の強い狂狼の物言いが改善される事は無かった。
とは言え、そんな子供めいた意地っ張りなりに恋人たる少女の事を大切に思っているのは確かで、クッションや毛布以外にも彼女の体躯に合わせた旅装なども準備していて、彼女自身の足で旅路を楽しめるタイミングも作ってやろうなんて事まで考えていた。
無論、そんな事は決して口にはしないのだが、それでもこちらの気遣いを機敏に察する小躯が無骨な手に柔らかな頬を擦り寄せて感謝を示すのなら

「―――――フン。」

どこまでも素直になれぬ狂狼は、照れ隠しめいた鼻息を吐いてその長駆を前方へと戻すのだった。そんなやり取りの最中、やけに食いつく少女の追求から逃げ切る事の出来たグラムヴァルトは密かにそっと安堵の吐息を漏らした後に

「………………この尼。てめェ、どんどん生意気になりやがンな。」

不満げな表情が再び不貞を仄めかすのに、グラムヴァルトが向けるのは苦虫を噛み潰したかの様な微妙な表情。
商店街の有象無象に少女を寝取られるとは思っていない。それ故に彼らとの淫行はむしろ推奨してみせるグラムヴァルトも、彼女が時に出会う事となる幾人かからはただの街人とは異なる雰囲気を嗅ぎ取る事もあり、そうした相手の匂いが彼女身体から漂って来た際には心のざわつきを覚えもする。
それでも、傍若無人な人でなしが、己の所有物である少女が他者に抱かれる事にもとやかく言わぬのは、自身が自然ならざる存在であり、いつしか彼女を残して消える事になると気付いているからだ。
そんな複雑な心の揺らめきを凶悪な顔貌の仏頂面に押し込めて

「あぁ、今回は馬も良いし、荷も軽いからな。歩きに比べりゃよっぽど早ェだろうぜ。」

独り言めいた呟きには律儀に言葉を返しつつ、続く問いにはニヤリと笑うばかりで明確な答えを返しはしない。現在向かっているのは昇り続ける朝日へと向かう方向。その先の分かれ道を南下して悪名高い山賊街道を南下して、港湾都市を抜けた先にある観光地として有名な都市へと向かうつもりなのだが、意地の悪い人造キメラにはそれを早々に明かすつもりは無いらしい。

ミンティ > どこかで自分が折れなければ、子どもみたいな言い合いが続いてしまう。せっかくの旅行なのだから、大人しく引き下がれる自分から会話の流れを変えたらいいのだろうけれど。
不満そうな顔をするわりに、こんな口喧嘩でさえ、すこし楽しく思っていた。他の誰かに、ここまで生意気に口ごたえする事はない。いつも自分が悪いのだと思って引いてばかりいるから、ぶっきらぼうにでも、こちらの言葉を受け止めてもらえるのが嬉しかった。

「…身体の事は、関係ありません」

お姫様の条件に、胸の大きさは関係ないはず。身長以外のところにも言及しはじめた彼の背中に、抱いていたクッションを投げつけ、跳ね返ってきたものを、そのまま受け止める。
あいかわらず不貞腐れたような目で彼を睨んではいるものの、口元は楽しげに緩んだままで。もそもそと動いて、荷車から御者の席へと移動する。彼の隣に腰を下ろすと、並んで歩を進めている馬の背中を眺めて。

「……おかげさまで」

こちらへの気づかいを態度に出されていたら、自分なんかのためにと申し訳なく思う事もあったかもしれない。
子どもみたいな口喧嘩を仕掛けてくる相手だから、時に口を尖らせたり眉を寄せたりはしても、基本的に気楽でいられるのだろう。
そもそも、浮気をするなんて、本来の自分の性格を考えたら冗談でも言えるものではない。意図的に相手を困らせようとして、する気もない事を口にできる関係は、人の顔色を窺ってばかりいる自分にとって、居心地がいいものだった。

「……この間の馬は、お留守番ですか」

馬車の揺れには、なかなか慣れない。うっかり転げ落ちてしまうような気がしたから、支えになってもらおうと、彼の方に凭れかかり。
行先をはぐらかされると、それ以上は聞かなかった。あとの楽しみにしておけという事なのだろうと理解して、別の質問をする。
以前、外に連れ出してもらった時に乗った馬を思い出し、元気にしているだろうかと問うように、彼を見上げて。

グラムヴァルト > 研究所を共に抜け出したキメラ同士でさえ殺伐とした仲であり、それ以外の人間を欲望を満たすための獲物としてしか見て来なかった狂狼にとっては、無力な少女との口喧嘩めいたやり取りもまた新鮮に感じられる物だった。それ故に、攻撃的な台詞とは裏腹に、その口端は僅かに上向きな歪みを見せていた。
そんなグラムヴァルトとは理由こそ異なれど、小柄な恋人もまた同じ様に奇妙な楽しさを覚えてくれて居るからこそ続けられるやり取りなのだろう。

「――――うォッ!? って、なんだてめェ、大人しく荷台に……っと、危ねェよ!」

ぼふっと柔らかなクッションが叩きつけられたかと思えば、続いてもそもそと小躯を擦り寄せる様にして荷台から御者席へと割り込んでくる恋人の姿。ジャケット越しにも感じられるほのかな体温と、すっかり嗅ぎ慣れてしまった番の匂い。
石畳で舗装されているとは言え、時に転がる石礫を踏んで跳ねる馬車上。あまり運動神経のよろしくない少女の移動に、狂狼は慌てて逞しい長腕を伸ばして抱き支えた。

「……ったく、てめェは鈍臭ェんだから無理してンじゃねェよ。」

咎める様な事を言いながら、傍らにちょこんと腰を落ち着かせた小躯を見下ろす銀瞳は存外に機嫌が良い。好ましく感じる雌とこうして身を寄せ合う事は、狂狼にとってもそれなりに心地良い事らしいかった。

「あ――――………あいつな。……ン、まぁ、そんな所だ。」

傍らの細身をぐいっと抱き寄せ、頭頂を飾るベレー帽を鼻先でどかしながら少女の匂いを嗅いでいた狂狼は、不意の問いかけに一瞬ピクンッと眉根を寄せた後、今回もまた曖昧な言葉で返事を濁した。
彼女との小旅行という思い出を共有出来るかの馬を、狂狼は頻繁に借り受けて仕事の伴にしていたのだが、とある依頼の最中に受けた流れ矢がその生命を奪っていた。
かつてのグラムヴァルトであれば、記憶にさえ残らぬ出来事に過ぎなかっただろう。しかし、今の狂狼には失血に伴ってゆっくりと黒瞳から光を消していく彼の姿がしっかりと残っていた。

ミンティ > 彼の驚きようを見て、どれだけ運動神経が鈍いと思われているのかと眉を下げた。実際、どんくさい自覚があるから反論もしづらい。先ほどのスカート捲りを阻止した手の振りも、予想が完璧に的中しただけの偶然で、伸びてくる手を見てから動いていたら、絶対に間に合っていなかっただろう。
もうすこし運動をして鍛えた方がいいのかと、足を伸ばしたり、曲げたりして。そうする間も、荷車から一つだけ持ってきたクッションを腿の上に置いて、裾を守っていた。

「……この旅行の間に、ちょっとくらいは、逞しくなります」

舗装されていない道を歩く機会もきっとあるだろう。すこしでも運動をすれば、身体を動かす事にも慣れるかもしれない、と甘い考え。
支えてほしいと口にするまでもなく、寄り添わせた身体を長い腕で抱き込まれて、この状態なら席から落ちる事もないだろうと思う。安心しきった顔で、以前乗せてもらった馬の近況を聞きたがり、彼を見上げていたけれど。

「そうですか……」

先ほどと変わらない短い返事だけして、小さく頷いた。なにも伝えられていないけれど、きっとよくない事があったのだろうと推察できた。
しばらく考え事をするように小首を傾げて、静かに目を閉じる。祈りを捧げるように、黙って頭を垂れて、それから彼を慰めるように、逞しい身体に頬ずりをした。

「……もうちょっと進んだら、朝ごはんにしましょう。お弁当、作ってきましたから」

すこししてから目を開けると、控えめに微笑みかけながら、食事の提案をした。王都を出る時に持っていた唯一の手荷物、小さな鞄を振り返って、また前方に目を向ける。どこか休憩できそうな場所がないか探しながら、まだしばらくは、馬車に揺られていた事だろう…。

グラムヴァルト > 御者席の隣に座って枯れ枝の如く華奢な脚線の先を伸ばしたり曲げたりする様子は、それこそ子供の様にしか見えない。それでも、純白の太腿の付け根を気にしてクッションで抑える所作は、子供には存在しない淑やかな色気が感じられ、そこを飾るガーターベルトの淫靡と共にグラムヴァルトの獣欲を煽り立てた。
思わず、高い位置にある銀眼にてじっと脚線の付け根を見つめていた所に意外な言葉を返されて

「―――――ぶはっ。クッ、クククククッ。」

思わず噴き出してしまった。
どの様に想像したとて、勢い込んで歩きはじめ、さして進まぬうちに息を切らしてへたり込む姿ばかりが浮かんでくる。そうした見当違いな決意さえ愛らしく感じられ、半ば衝動的に抱きしめた小躯の醸す匂いを嗅ぐ。密着する柔らかな体温と、甘やかな香りに覚える奇妙な安心感。
そんな最中に交わされた共通の知人の行く末に、何事かを察したらしい少女がそっと黙祷を捧げるなら、こちらも何も言わずに少女の匂いと体温を享受し続け、僅かに痛んだ胸中の疼きを癒やす助けとさせてもらった。
彼女と出会う前までは覚える事さえ無かった胸の痛みを、彼女との触れ合いによって癒やす現状をどう考えるべきなのか。その答えは出せぬまま、それでもこうした時間が大切な物の様に思う人造キメラ。

「おぉ、そいつァ楽しみだな。おめェは料理とセックスだけァ美味ェからな。」

儚げな微笑みに返すのは、鋭く尖った犬歯もむき出しな子供じみた笑み。よく知らぬ者からすれば稚気よりも凶悪さばかりが感じられる笑顔には、再び揶揄いの色が顔を覗かせていた。
少女の用意してくれた弁当を平らげた後には、食後の運動と称した屋外性交を恋人に強要し、ぐったりと弛緩した体躯を荷台で休ませたまま馬車を進めるなんて顛末が待つのだが、可憐な少女がそれを知るのはもう少し先の話となるだろう―――。

ご案内:「旅路の最中」からミンティさんが去りました。
ご案内:「旅路の最中」からグラムヴァルトさんが去りました。