2019/08/12 のログ
■ノヴェ・ルア > ブラシで丁寧に梳いた後、特にやることも無くて部屋の中を歩き回る。それから本棚から本を取り出す。学術書など勉強の為の本は無い。学が身に付くと厄介だから禁止されている。先ほどした計算だって、客からこっそり教えてもらった物だった。だから取り出したのは絵本だ。たまにチップの代わりに客がプレゼントしてくれる。ここに来る客は子供に優しい人が多い。そういうのを娼館側が選んでいるからだ。―――今の年頃の、間は。
「……新しい本欲しいな。」
ベッドにうつ伏せに寝そべって枕元で本を広げる。王子様がお姫様を助けだす、在り来たりな話。客が、女の子はこういうのに憧れるだろうと言ってくれたのだが、正直少女は好きになれなかった。何も出来ないお姫様。何もしないお姫様。自分に起きている事なのに、自分ではなんにもしようとしない他力本願なお姫様。正直好きになれなかった。王子様には憧れる。けど、自分なら何とか竜の城から抜けだして、王子様に会いに行こうとするだろう。泣いてばかりで、自分では何もしようとしないお姫様。
「……」
それでも助けて貰える。幸せになれる。お姫様を抱きしめる王子様の絵にそっと指を乗せて、目を細める。足を行儀悪く揺らしながら、じっと見つめる。
「きっとこのお姫様はとてつもない美人で、王子様は彼女と親の金と名誉が目当てなのよ。そうじゃないとおかしいもの。」
まるで自分に言い聞かせるように呟いた。いつだって他人が他人に何かを施す時は裏がある。優しい客だって自分という穴を使いたいから優しいだけ。飽きたら居なくなるし、年老いたら使い物にならなくなる。溜息を吐きながらも王子様の絵を見つめて、空想に浸るのだった。もし自分だったら。王子様じゃなくて、もっと強くて逞しくてフェアな戦士や騎士が良い。それで、一緒に旅をするの。知らない場所に行って、知らない事を沢山するの。目を閉じ、絵本の横に横向きに寝転がって空想に耽る。客が来ないと、とても退屈だ。
■ノヴェ・ルア > ―――暫くそうして空想に耽っていたり本を読んだりと時間を持て余していた。正直言ってチップの額から考えても自分の売れ行きというのはそこまで良くない。客が全くつかない日もある。ベッドから起き上がると部屋から出て廊下を歩く。そしてボーイを見付けると駆け寄っていく。
「客が来ないから仕事は無い?」
客が来ない日は積極的に店の裏方を手伝う。そうする事で少しでも貯金を増やしたいのだ。いつかこの館で無残な死を迎える前に、抜け出す為に―――……。そうしてその日は結局客は取らず、店の手伝いで終えたのだった。
ご案内:「娼館「山猫亭」」からノヴェ・ルアさんが去りました。
ご案内:「娼館「山猫亭」」にノヴェ・ルアさんが現れました。
■ノヴェ・ルア > 王都の一角にある娼館、山猫亭―――。必要最低限の家具や道具などしか無いが、豪華とは言えない物の見映えの良い家具類や飾りを施された部屋で、寝台にうつ伏せに寝転び絵本を読みながら客を待っているミレー族の少女。昨日は客を取れなかったので今夜こそはと思うのだが、呼び込みをしている訳でもないし他にも娼婦は居る為果たして指名してもらえるかどうか。部屋の扉がノックされる事を期待しつつも、のんびりと過ごしながら客を待った。
「……あ。そう言えば薬の予備あったかしら……」
思い出したように起き上がればサイドボードの引き出しを開けて確認するのは、媚薬兼避妊薬。客にはただの避妊薬で通しているが、どうしても気分が乗らない客が来た時には積極的に使うようにしている。強制的に発情させる薬で、あまり得意ではないのだが。他にもサイドボードの中には卑猥な薬や道具で犇めいているが、既に慣れっこだった。そしてどうせヒマなのでそれらの手入れを始めるのだった。