2019/08/06 のログ
イルゥ > 「あらあら、不幸にもお酒にも呑まれてるみたいね……」

少しだけ憐憫の色を浮かべるイルゥであるが、愚痴には下手にフォローはせず受け流す姿勢をとるようであった。

「……随分と珍しい好みね。貴女くらいの年なら、若くて小綺麗な男性に憧れそうなものだけれど。よりによって、おじさんねぇ。貴女、出会いには苦労しそうねぇ……」

たまに居るといえば、居るのであるが。しかし、それにしても、だ。限定的である。この限定的な異性の好みもまた、彼女の背負う不幸といえようか。

「……あら、それは悪かったわね。聞いた名だったから、つい」

店を出ていく男たちをちらりと視界の端に入れながら、イルゥは困ったように笑った。このような相手に「少し落ち着いた方が」などと言っても逆効果であることは百も承知である。


「貴女だってまだ若いでしょうに。これから素敵な出会いも沢山あるわよ、あるある。……そうだわ。今度うちの店に来たらどうかしら? 店員は若い女の子ばかりだけれど……お客さんには、結構ナイスな男性も来ているわよ」

出逢いが先に待つ、という言葉に思わず更に眉尻を下げるイルゥ。
何を隠そうこの少女、こう見えて未亡人なのである。

アスフィア > 「酒!飲まずにはいられませんッ!!
あのクズのようなゴブリン共が人間から略奪して蜜を啜るのと同じことをしている自分に荒れているッ!クソッ!」

急に彫りが深くなったような気がしたが、きっと気のせいだ。
蜂蜜酒は順調に減っていた。空のジョッキが間もなく並ぶ。
バンッと拳をカウンターに叩きつけ、涙目で天井を仰ぐ。

「出会いなんてそんなもんれすしぃ?!どぉせ私なんかが好みのおっさんあんていまへんし?!私が好みなんかのおっさんらんてどぉせ風俗行きそびれた奴ばっかれすしい私から願いさげれすってぇのっ!!アスフィアなんて看板があるからぁ?!高嶺のフラワリーですからあっ!!」

そんな事はない。現在進行形、高嶺から泥沼湿地の雑草が如くどんどん自分を下げていっている。そしてそれに気づきもしないまま、彼女はやがて涙目をそちらへ向けた。

「若くらって恵まれないもんにはめぐみゃれないんれすよろーせ!!あらしなんて、あらしなんてれすねえっ!!……ほえ」

ナイスな男性。女の子ばかりの酒場。
相手の眉を下げるのにも気づかず、真っ赤なお顔を間抜けに脱力させて。

「……いうーさんのお店なら、ここよりは、いいおとこの人ろかくるんれすか?いやもーっ、どーせ、どーせ、どーおーせーえー!!」

バンッ。額をカウンターに打つ。

「……こんろ、いかへてくらはい」

イルゥ > 「……ま、一つだけ私から言うとすれば、貴女は十分魅力的な女性だってことよ。自分の価値を信じることね。あと、流石にそろそろ飲むのやめといた方がいいわよ?」

手にしたグラスを傾ければ、潤いのある白が、彼女の唇を濡らしていく。
ミルクを飲み終えた彼女は、大きく伸びをすると椅子からよいしょ、と。小さく声をあげて、飛び降りるように下りた。背が足りないのである。


「紅竜の舞踊亭――いつでも歓迎してるわよ。さて。サマンサ、ごちそう様。また来るわね。たまには客になるのもいいものだわ。普段なかなか無い、面白い縁との出会いもあることだし。それから――」

「――アレックス、手が空いてたらこの子の介抱をお願いしたいわ。……前回のツケ、チャラにしてあげるから、ね」

近場の男性冒険者にそう声をかけると、声をかけられた男性冒険者は「あんたにそう言われちゃしょうがねぇな」と立ち上がり、潰れたアスフィアの介抱をするのであった。


「それじゃあ、頼んだわよ」

店を出ていったイルゥがサマンサに手渡した飲み代は、ミルク二杯に加え、アスフィアのカウンターに並べられていた分の酒代が加えられていたという。

アスフィア > 「……んうぇーえい」

最早言語にすらあらず。けれど何となし、ブッ潰れて真っ赤なお顔はそちらを見ていたようにも見える。
自分の意識のない間にも、女主人に男性冒険者。彼女と繋がる人は多かったことを知る由もない。
様々な恩義が此処で募ったことは、間違いなく今後彼女自身に大きくかかわってくるはず、なのだが。

「……んぇぁ、あれ、あんら、られれすか、おっさんじゃらいじゃないれすか、うわ、わああああ、わああああぁぁぁぁー……」

男性冒険者に大大大迷惑を吹っ掛け、女主人の苦笑いと共に運ばれていく。
介抱されたお陰と、目が醒めたときには済まされていた会計。

彼女はきっと決意するだろう。
我立ちぬ。
(紅竜の舞踏亭に)往かねば。

と。









「……でぇえーーーあぁーーーいぃーーーーーー!!!」

ご案内:「或る酒場にて」からアスフィアさんが去りました。
ご案内:「或る酒場にて」からイルゥさんが去りました。