2018/11/11 のログ
■キュリオ > 新たな女が連れてこられるまで、凌辱は続く―――
ご案内:「九頭龍の水浴び場」からキュリオさんが去りました。
ご案内:「マグメール郊外」にタピオカさんが現れました。
■タピオカ > 冬の足音も聞こえてきそうな季節。朝の空気はしんと冷えて、澄んで清い。王都からさほど離れていない木立の中にて、ひゅ、ひゅ、しゅっ。何かが鋭く宙を斬る音がする。
「……っ……!……はっ……!」
木立の中、薄着で得物をふるっているのは曲刀を持った褐色肌の小さな人影。曲刀は鞘にいれられたままで、人影は何もなく誰もいない空間を次々と斬りつけ、素早く呼吸を整えて距離をとる。そうやって架空の相手と切り結び続け、揺れる前髪からは汗が散り、朝日にきらめく。
いつもの朝のトレーニング風景だ。
■タピオカ > 「……ふーっ!
はあっ……、はあっ……。
よーし、……、今朝はこんな感じかな。
……いいお天気……!お洗濯日和だね……!」
やがては火照ったおでこを手の甲でぬぐって、曲刀を腰に戻す。
整理体操とばかり大きく伸びをすると、深く息を吸って朝の新鮮な空気を身体の中へ迎えた。
見上げた青空に瞳を細めたら、そばの茂みにかけておいたタオルで身体を拭って。
あとは鼻歌交じりに王都へ戻っていく。さくさく、地面を鳴らす足音も軽く。
ご案内:「マグメール郊外」からタピオカさんが去りました。
ご案内:「九頭竜山脈の滝」にヴィクトールさんが現れました。
■ヴィクトール > 仕事の帰りに、久しく目に止まった思い出の地へとやってきた。
切り裂かれ、既に2年は経った流木の残骸には、土から這い上がった苔が敷かれ、弦が絡みついて緑を濃くする。
ぶつかれば一溜まりもないと思っていたそれも、今では懐かしい思い出となり、片膝を付いてしゃがみ込むと、その表面を軽く撫でていく。
再び立ち上がれば、その足は滝壺の方へと向かう。
あの日と変わらぬ水飛沫と轟音、細かに散る水の粒子が白い霧となって周囲を覆う。
冷えていく空気に熱の籠もった息が、違う白さを宿して吐き出される中、背中の相棒を引き抜いていく。
黒鉄がじゃりっと金属の悲鳴を響かせて刀身を露わにすると、青白い月明かりに黒曜石の様な刃が怪しく光を跳ね返す。
そのまま水面へと近づいていくと、流れる水の向こうに薄っすらとその頃の爪痕が覗ける。
左手を滝の方へと突き出すと、瞳を閉ざしながら意識を集中していく。
普段使い慣れている方法とは異なり、この一瞬のためだけに想像し、己が意志を乗せて具現化するのは時間がかかる。
瞳に焼き付いた滝のイメージを歪めていき、それがそうあることが当たり前だと強く意識する。
その意志を自身が食らった魔に乗せて固めていくと……静かに息を吐き出しながら瞳を開く。
「……退けっ!!」
流れる滝の下の部分、そこが綺麗に消えて無くなるイメージを意志として言葉にする。
真っ黒い靄が周囲へ散ったと思いきや、周囲の空気が叩くように震えていき、世界にその意志を叩きつけた。
結果、流れる水という世界の概念が強固な意志で強引に捻じ曲げられていく。
まるで切り取ったかのように滝の下の部分へは水が流れなくなり、中途半端なところで滝が途切れる。
水面も硝子と同じだと意志をぶつけるだけで、不壊の薄氷が貼られたように、水面の上を歩く彼を支えていく。
そうしてたどり着いた先には、以前幾度も振り抜いた刃のあとが残っていた。
切っ先が食い込み、強引に抉った鈍い傷跡は大きく、獣が爪を擦りつけたかのように荒い。
そこに掌を押し当てると、感傷に浸るわけではないが全てが懐かしくなる。
抉れた部分に生える苔の深さが、経年を掌に伝えていった。
■ヴィクトール > (「あれから大分経ったなぁ……」)
ティルヒアに渡って、剣を悪魔に変える力を得ると、今度は魔法との戦いにいなす為の力を生み出した。
吸血鬼の姫君と戦った際には、粒子化の力を得て、鬼の女と戦った時も、力技を覚えた。
そんな記憶を振り返っていく中、ふと違和感に気付くと、はっとした様子で剣へと視線を戻す。
「そいや……たまに――っとぉっ!?」
違うことへ思考が咲かれた瞬間、目の前の滝が元に戻っていく。
無論、足元の薄氷も言葉通りどころか踏み込む引っかかりすら感じぬほど、元の水面へと戻ろうとしていた。
慌てふためきながら、感触が消え去る前に水面を蹴ると、地面を転がるようにして陸地へと戻る。
立ち上がれば、肘やら膝、背中と言ったところにこびりついた土に、溜息を零しながら肩を落とす。
ざんっと音を立てて切っ先を地面に突き立てれば、ぱんぱんと泥をはたき落としていきつつ、違和感へ思考を傾けていった。
(「俺、たまに形状と力を噛み合わせてねぇ時がある……」)
双剣にし、獣のように低く駆け巡りながら刃を振る中、大剣に戻して神速の一閃を振り抜く事がある。
速度同士の技だし、出来て当たり前のことだと思っていたが、それ自体が考えてみると異質なのだ。
大剣で振り抜くのは技量の攻撃、体全体を使って一気に加速して、振り抜く風の抵抗を限界まで減らし、一瞬にして切り裂く技。
けれど、双剣の時はそういうわけでもない。
素早く駆け回る事を考えた結果の姿だったというのに、その境界線は曖昧になっていた。
だが、曖昧にしても振るえるというのは……その二つが本来は同時に使える可能性を示唆する。
そんな事を考え込みながら、難しそうな表情で目を横線にするように閉ざし、うぅむと小さく唸る。
■ヴィクトール > 馬鹿なりに考え続ける最中、元々の事を思い出していく。
剣の変化は、自身の意志がそうあれと強く想った事により、現実に効果を発揮したものだと。
そうあれ、とは何を指すか。
それが当たり前である事、そしてそれがすんなりと浮かぶなら、力として起こす事ができている。
腕を組んだまま仁王立ちで考え込むこと数分ほど、鼻から勢いよく肺の空気を吐き捨てると、逆手に剣を地面から引き抜く。
くるりと手の中で反転させ、普段のように自然体で握って切っ先を垂らすと、改めて瞳を閉ざしていった。
(「双剣も斧も、イメージに合わせて得たもんだ。それが浮かべやすくて、すんなり浮かんだから強く言えたんだろうよ。なら……」)
既にどちらも手に取るようにわかった今なら、同時に全てが使えるのではなかろうか。
その四肢は獣の様に素早く地を蹴り、爪を振り抜く。
身体は猛獣が如き太い筋の力を宿し、獲物の骨を一撃で砕く膂力を生み出す。
四肢に走る黒い靄が毛並みのように揺れ、身体にまとわりつく魔力は、燃え盛る炎のように踊りながら、黒い毛並みのように身体に張り付く。
全身に満ちる力を崩さぬように深呼吸をしつつ瞳を開くと、トンっと地面を蹴った。
一足飛びというには似合わぬ跳躍となり、大きく跳ね上がりながら浅瀬へと足を突っ込んでいく。
派手な水飛沫が飛び散り、川へ岩でも落下したような轟音が鳴り響く。
それでも身体は水に濡れず、魔力の膜の上を水が撫でていった。
「……」
力と速度、その両方を体に宿す中、右手で柄頭を包むように握り込む。
遠心力を限界まで乗せる握り方をすれば、投げ斧を振りかぶるように剣を構えていく。
身体を反らし、至る部分の筋と関節で加速力を得んとする為のフォームを自然ととれば、それは元とは似ても似つかぬ荒々しい構えとなった。
「ふ……っ!!」
そして振り抜く。
一歩踏見出し、浅瀬の水を弾き飛ばしながら身体を前へと押し出し、腕を全力で振り抜くのだ。
瞬間、パァンッ!! と空気が弾ける音を響かせ、刃は音を超えていく。
元々の斬撃も、その勢いと破壊力で飛刃となって遠くの敵を切り裂く破壊力だ。
速度と力と技、全てを載せた一瞬は水面が熱した刃がバターを切り裂くように、綺麗に左右へ割かれていく。
見えない斬撃はそのまま斜めに飛んでいき、正面の滝を霧崎、岩肌へと食い込んでいく。
削岩するような鈍く派手な音が鳴り響き、周囲の木々が振るえる中、崖上の地表へ達した部分から滝の水が逆流して吹き出す。
荒い呼吸を繰り返す彼の前にあったのは、水飛沫に包まれた滝の光景。
あの頃を超える大きな爪痕を斜めに刻み、そこから水が染み出す2年越しの力の差を示す結果だった。
■ヴィクトール > 「おぉ、出来たじゃねぇ……」
更にもう一つ先へと進むことが出来た結果に、満足げに笑ったのもつかの間。
さっと血が抜け落ちていくような倦怠感が身体を包み、水面を揺らすようにたたらを踏んだ。
無意識に二つ同時にやっていたが、今回はそれを纏めて三つにしてやった分、披露も早くなったというところか。
川から上がると、クツクツとあくどい笑みを浮かべながら剣を背中の鞘へと収めていく。
これだけの全力を振り抜く相手も、暫くはいないだろうと思いながら、今宵は集落へと戻っていく。
珍しく夜遊びもせずに、ぐっすりと眠るのだろう。
ご案内:「九頭竜山脈の滝」からヴィクトールさんが去りました。