2018/10/27 のログ
ご案内:「ドラゴンフィート」にヴィクトールさんが現れました。
ご案内:「ドラゴンフィート」にマリナさんが現れました。
マリナ > ―――いつの間にか馬車は消えていて、歩いて戻ることになっていた。
彼のみならず、集落の少女たちであっても難なく移動できるのだろう距離。
体力作りらしいことをした経験のない少女には遠かった。
けれどそれなりに楽しげに移動できたのは、ひとえに彼と一緒だったということが大きい。
繋ぐ手が温かくて心地よくて、時折息切れする様子を見せながらも終始笑顔を向けて見上げていた道中。

「それにしても、マリナのためにこんなに綺麗な模様を入れて下さったなんて……。今度何かお礼をしなくては。
 練習して慣れたら、いつも持ち歩いて、皆様のお手を煩わせないようにしなくちゃですね」

現在借りている組合建物内の客間に辿り着くと、魔法銃の保管場所を探し、しみじみ呟く。
自身が自衛できるようになれば周囲の労力は削減できるのだろう。
制服は一旦ベッドに置いておき、ケースに入れた魔法銃をチェストの上に。
着の身着のままどころか着ている物さえろくにないような状態で来て、少し。
ここで調達した服だったり必要な物を収納するために、家具は少し増えていた。
とはいっても必要最低限で、いずれと言われている離宮に移る際に難儀しない程度。
――――今のところは。

必要最低限に入るらしい姿見の鏡に、貰った制服をあてて映してみる仕草は、山歩きの疲れも忘れて浮かれる少女そのもの。

「わぁ、可愛い。皆様とおそろいですし、すごく憧れてたんです」

憧れてはいたけれど、ミレー族の少女たちに比べて未だ自覚というものは足りていないかもしれない。
とりあえず今は袖を通してみたくて、鏡越しに彼をちらっと見た。
一度おねだりされた外での着替えがすんなり取り下げられたのは、冗談だったからだろうとの認識。
自分が制服を汚したくない意図を汲んでくれたとまでは考え至らず。

「ヴィクトール様……着てみようと思うのですけど……目を瞑っていただくか、窓の外を見ていていただけます……?」

とっくに体の隅々まで知られているのはわかっているのだけれど。
ここでパッと脱げる程割り切れない乙女心が存在する。

ヴィクトール > ちょっとした運動がてらに歩かせてみたものの、小さな体の歩幅は小さかった。
その足取りに合わせながら、ゆっくりと集落までの散歩道を歩きつつ、小さな手を握っていく。
自分とは異なり、白絹の様な柔い肌に、柔らかな感触を伝える掌。
集落での出来事に花咲かせつつ歩く度、息を荒くしながらも微笑む姿にこちらも口角が上がっていく。
観光名所として割り振られた大通りは、今日も商魂逞しい人々が馬車から降りた人々を誘い、大きな荷物が行き交う。
流通の心臓部というような混雑に逸れぬ様に手を握りしめても、壊さぬ程度と見た目よりも細かに少女を気遣う。
そうこうしている内に組合の敷地内へと戻れば、遠くにはヘトヘトになりながら駆けずり回る新兵の少女達が見える筈。
それ以外にも、鳥達と語らう者もいれば、的に向かって魔法弾を放つ少女達も居る。
戦列に並ぶことはないが、同じ様に銃の練習ができると、改めて訓練を見やれば、少女にも熱が蘇るだろうか。

「まぁ、ちょいと懐かしい思いも出来ただろうから、気にすんなって。でも護衛は付くと思うぜ? 何かあったら大変だからよ」

少し哀の残る笑みを見せると、一度瞳を伏せていく。
脳裏に浮かんだのは、背を向けた義妹の姿であり、同じ様に模様を施された可愛らしい魔法銃が蘇る。
アイツ等も久しく懐かしんだだろうかと思いながら瞳を開くと、肩から剣を下ろしていった。
黒塗りの剣を適当なところに立てかけると、ベッドに腰を下ろして辺りを一瞥していく。
好きに使っていいと告げた室内は、徐々に彼女の好みが見えてくる。
殆ど裸に近い格好で連れ去った後、秘書の娘が彼女に合わせた衣類を準備していたが、それ以外にもクローゼットには少しずつ服が増えてきていようだ。
そして、重ねた言葉は何もお荷物扱いをしているわけではなかった。
例えどうあれ、少女は王族であり、姫君である。
何より、勇猛果敢な母から生まれた大切な一人娘となれば、それ相応の扱いが必要だった。
無論、彼女を攫うなり、亡き者にするなりすれば組合や師団に傷をつける事になるので、標的にもなり得るだろう。
故に護衛は減らせないが……万が一の切り札が、その魔法銃であることは間違いない。

「そいつぁ良かったぜ。お礼は兄貴に言ってやってくれ、制服のスケッチしたのは兄貴らしいからよ」

制服に込められた決意、覚悟は、今の少女にはまだ分からないだろう。
無論、そんな重いものばかりを背負って袖を通すものではなく、幼い子供達も読み書きを習う最中、同じ格好をしている。
なかなか大きな姿見の前で、身体を揺らして服を合わせる様子を、相変わらずの悪人面で微笑みながら眺めていく。
ブラウスとハイウェストスカートの色合いは少女の要望に合わせたもので、こうして鏡の前で確かめれば紋もよく見えるだろう。
プリーツが広がり、ふわっと裾を踊らせれば、その中で桜のように咲き乱れた薔薇が映り込むのだ。

「別にここなら服も汚さねぇからって思ったんだけどよ? じゃあ……そのまま服だけ脱いで下着姿みせてくれよ、そしたら我慢して後ろ向くからよ」

だから、目を背けないというような意地悪を重ねて、クツクツと悪っぽく笑うものの、あまり意地悪をすると泣かせてしまいそうだ。
代わりにと、間を取るような羞恥の一幕をおねだりすれば、どうだ?というように、ニヤッとした欲のある笑みで金色が碧眼を覗き込む。