2018/07/23 のログ
ご案内:「九頭竜山脈某所/湖」に影時さんが現れました。
ご案内:「九頭竜山脈某所/湖」にラファルさんが現れました。
影時 > ――九頭竜山脈の山中には、こんな場所がある。

街道から離れた山道を進んだ奥の奥。
とても広大とは言い難いが、幾つかの清流が流れ込み、合流する処に一つの湖というべきものが広がっている。
湖からさらに分岐する川こそあるが、場所が場所であるが故に知る人ぞ知る、という処が強い。
跋扈する魔物や山賊たちを潜り抜けて至らなければならないとなれば、如何に風光明媚でも気軽に立ち寄るとするには難しい。
だが、逆に言えばそれは幾らかの実力を持っている存在で有れば、勿論至ることは容易だ。
例えば腕の立つ冒険者。また、或いは自分達のような何かだ。

「よく晴れて日差しは中々きついが、見た目は良いトコじゃねぇか。風も存外悪くない」

今回、この場所に至ったのは単なる物見遊山や観光ではない。
湖を水源とする下流の町や村からの水質調査の依頼だった。
何か、上流側で危険な状況等がないかの調査。並びに幾つかの地点の水のサンプルを取得してこい、というもの。
遊びついで、と云う訳にはいかない。ささやかなれども、支払われる報酬というのは重要なものだ。

朝の陽ざしを受けて煌めく湖面を見つつ、持参した荷物類を背後の木陰に置いて一息つく。
装いは平時の装いではなく、褌にゆったりとした半纏状のゆったりとしたシャツの如き上着だ。
草鞋を履いた足先を撫でる水の冷たさに、成る程と頷こう。
水面にはちらほらと周囲の木々や、先日降った雨の影響か、木の葉や流木等が目立つ。

後で報告書に認めておこう。そう思いながら、伴ってきた弟子の如き存在の様子を見よう。

ラファル > 「あ。ここ、遊び場だ、わーい!」

 ばひゅんという音がするぐらいの勢いで、少女は湖に向かって走りジャンプ。
 そして、速攻ドラゴン化。

 ここに、この湖があることは知っている、いつもいつも空からびゅんびゅん飛んでみていた。
 ここに入ったことも実はあるというか、水質調査の依頼の原因かも知れない。
 今日はどんな風に入ろうか、湖の水の上をパタパタしながら悩むドラゴン。

 ちなみに、ちゃんと師匠の脇に胸ベルトと、ナイフとズボンと、今日の差し入れのお弁当とかが置いてある。
 飛び込んでないのはお弁当とかが濡れるとダメになるからである。
 今日はゆっくり入って全身冷やそうかな。
 うむうむ、3m級のドラゴンはどうだろう、と視線を岸辺にいる師匠のほうに向ける。

 ―――水質調査ということをスパンと忘れてるのは見てわかるだろう。

影時 > 「……ぁー、お前なァ。
 そのナリで泳ぎたくなるのは分からんでもないが、水の中をあンまりかき回してくれるな。ちゃんと採れんだろう」

嗚呼、知っていたのだろうか。
勢いよく飛び込むと思いきや、人の姿から竜の姿にバケる姿を見遣って、ぁー、と遠い目をしよう。
己の近くに置かれているのは、向こうが持参してきてくれた荷物と一張羅である。

まずは最低限の仕事を済ませよう。
己も依頼主から託されて持ってきた荷物を広げる。
頑丈そうな手提げ式の木箱だ。その中に幾つかある硝子管――試験管と時計、地図を見る。
どこそこの地点の水を採取し、その時刻を記録せよ、というお達しだ。
故にそのとおりにする。湖の中に踏み込み、試験管を水面にくぐらせて水を掬い、コルクで蓋をする。

「巳の刻位――いや、こっちだとこう書くんだったか。便利なもんだなァ、時計という奴は」

時刻を確かめて此れも添付されたクリップボードに留められた紙に書き記し、事が済めば一旦木箱を仕舞う。
その上でこの荷物と弟子が持ってきた荷物を衣類と得物と共に、木陰の方に運んでは戻ってこよう。

「……この位の水面なら、偶にこれを使うのもいいな」

一緒に運んでくるのは幾つかの木片を組み合わせた、履物のようなもの。
かんじきにも見える代物を足に履いて、水面に踏み込もう。
裏面より氣を流しながら静かな湖面をスィー、と言った風情で進むのは、さながらアメンボのように。

ラファル > だって、水につかる面積広ければ、冷たくて気持ちいい面積が広がりますもの。
 本当の姿でのびのびお水遊びしたいお年頃なのです。
 とはいえ、止められたので不承不承元の形に戻り、パタパタ、と翼をはためかせながら戻ります。

「……ぉ?」

 忍者には似つかわしくない道具が木箱の中に入っていた。
 興味を強く刺激された少女はパタリパタリと翼をはためかせ、戻ってくる。
 水をすくっている様子を眺め、んー?と首を傾ぐ。

「おっちゃんのところには時計なかったの?」

 サラサラと報告書を書き上げる様子に、少女は首を傾ぎつつ問いかける。
 今日も修行だと思ってたので、別のことをしてることに興味がわいた模様。
 でも、すぐ終わったのかしまっていく様子を眺めていて。

「……木の履物?大きいけど。歩きづらそう。」

 水蜘蛛を見た感想はそんな感じ、ドラゴン形態用の履物だろうか。
 でも、と、思いながら彼がそれを履いてスイスイ水の上を歩き始めるのをみる。

「ぉぉ!?
 師匠が……浮いた!」

 人は水の上を歩けない、そんな常識を覆す履物に目が輝く。

影時 > 気持ちはわからなくもない。
炎天下が続くと、思いっきり水浴びをしたくなるものである。
己だってそうだ。この位修行で何とかなる? ――何とかなるものか。
気狂いしそうなこんな天候の下に人間を縛って、転がしておけば、何もしなくとも死ぬ。
如何に鍛えていて、人間離れしていたとしても、斯様な天変地異は少々辛い。

「ない、否、ない訳じゃなかったが……こんなに掌に収まるような奴はそうそうお目にかからん代物だったなァ。
 たまに狂ってしまうにしても、置時計だって貴重なものよ」

故郷ではこのような絡繰り仕掛けの道具は、やはり貴重品な部類だった。
殆どが舶来物となれば、掌に収まる位の小ささで尚且つ正確な時計は目が飛び出る位に高価なものである。
日差しの傾きや或いは猫などの小動物を捕え、その瞳孔の大きさから大よその時間を測ったりしたものだ。

「嗚呼、こいつは水蜘蛛といってな。
 見ての通り、川の上や静かな水面を浮いて歩くためのものよ」

もう少し大きければ、ボートの如く乗って使うものにも見えただろう。
履物状の浮きの如き役割を果たす忍具の効用を披露してみせつつ、弟子の方を見遣ろう。
扱いが難しい道具だ。気の扱いをよく分かっていれば、忍者の体表や足元の水面に気が流れる気配が見えるだろう。
その証拠に水面からいくつも、不自然な波紋が広がって見える。気を流し、浮力の補助としているためだ。

「……もう一人くらいならば、抱えられるな。俺の方に来れるか? 
 飛ぶんじゃなくて、ほれ、木の葉や流木が浮いているだろう。そいつらを飛び移ってこい」

此れからは、修行の時間だ。まずはどこまでできるかを確かめるため、水面を指差しながら問おう。

ラファル > ドラゴンだし、この炎天下でも、死にはしない。
 でも、暑いものは暑いし、快適な方がいいので、湖とか涼しい風とか、欲しいものである。
 こういうところは人間でない自分万歳。

「すごく高いもんだしねー。
 これで魔法の道具ではないんだし、本当に人間ってすごいよね。」

 小さなものは魔法の道具の割合が高いのではあるが、この腕時計100%魔法の道具ではない模様。
 人間というかドワーフあたりが作ってると思うけど、でも充分すごいと思う。
 チクタク動く針を眺めて思う。

「水蜘蛛。
 ……ボクに必要はあるのかなぁ……」

 ふと、少女は悩む。
 忍者としてのスキルとしては必要なものなのだろう、ソも、水の上を歩く必要というものが感じられない。
 空を飛べるし、それに、その気になれば水の上を走れる、物理的に。
 そんな折に来る指示。

「はーい。」

 飛び移る、少女は視線をふ、と向けて、自分と彼の位置を確認する。
 水の上にある、木の破片とか、木の葉、とか。
 飛び移れ、というのだから少女は、翼としっぽも消して完全に人間の形態。
 軽く体をほぐしてから、気を巡らせる。
 あれから色々と練習して、気を巡回させるのはかなり慣れてきた。
 ひょい、と気軽くジャンプし、木の葉に飛び乗る。木の葉に気を通し、水面に固定、次にそこから流木へ。
 繰り返し、彼の懐に飛び移る。

「こんな感じ?」

 やろうと思えば、気を使わずに水面ダッシュは出来るけど。
 気の扱いの修行なので、言うとおりにした。

影時 > その意味では、時折彼女らのような人間ではない存在を羨ましくなる。
暑さに逃げ隠れするまでもなく、単独で完結すらしそうな無双と謡われるもの。強きもの。
しかし、己はやはりヒトなのだ。
如何に強い力を持とうとも、技を誇ろうとも、この性根が肉体が変じたとして変わりようもない。

「これ一つで、苦労もなく時間を測ることが出来るからなァ。恐ろしいくらいに値が張るのも頷ける」

細工を凝らした懐中時計等は、偶に貴族の間での贈答品として需要があるとも聞く。
それだけ価値のある道具であるということだ。
魔法仕掛けではなく、機械仕掛けの時計はその精緻さと時間に正確な行動を行う力をヒトにもたらすからこそ。

「音無く飛べるなら、使うまでもないかもしれねぇな。
 これが無くとも水に浮こうと思えば浮けるが、……かなり疲れるんだよなァ」

飛べないからこそ、このような水面に向かうとなると必要次第で浮いて渡る必要が出る。
泳げば済むならば使わない。しかし、濡れると困るという場面は潜入工作を行う際にどうしても付き纏う。
水が滴った跡を辿られる、あるいは持参した火薬が湿気てしまうという事態を避けたいとなれば、其処に必要性が生じる。

語らいながら、指示を与えた弟子の方を見遣ろう。
そう、翼は使わない。使わせない。あくまで覚えた技とヒトとしての姿、機能でここに至ることを指示する。
必要なのは精緻な氣の制御と自然の見切りの技能だ。
見た目は静かな湖面にも、水面下では流れがある。対流がある。
故に木の葉や流木は時折動く。ピン止めされたかの如く、安定しない。
それ等の現在位置を把握し、即時の判断を氣の制御と共に隙なく重ねることが出来れば――、

「おぉ。出来るモンだなあ。此れ位出来れば上出来よ」

己の懐に飛び移ってくる様を正面より受け止める。
勢いの制御に一瞬、沈み込む爪先が湖水が洗うが直ぐにもとのように復帰する。
そうしながら、よしよしと頭を撫でてみようか。

ラファル > 人間は、技術や発明で蔓延っている、個体としてはそこまででもない彼らが、国を作ったりしているのは間違いなく強者として分類されるのだろう。
 狼のような群れとしての強さであると、少女は思う。

「でも、ボクそれ嫌いなんだよねー。」

 時計は持たない。自由を信条としている少女は朝昼夜がわかればいい、正確にこの時間にと、細かくされるのは縛られているようで。
 そういうものに価値を見いだせないのは長い時を生きる存在から、かもしれない。

「おっちゃんは年だしねー。」

 少女の場合は、彼とは違う意味で必要がない、風を纏えば音を消すこともできる。
 走ればそのまま到達できる。
 濡れて困るものは、必要な時には飛べばいいだけの話でもあるし。
 色々と違うのである、なので、知識と軽い経験だけあればいい気もする。
 ああ、人として誤魔化すとき用ぐらい?

「えへへっ。」

 合格をもらって頭を撫でられれば、少女は嬉しそうに笑って頬ずり。
 ひょい、と降りて水の上に普通に立つのは、木ではなく風。
 風を圧縮して踏み台として水の上に浮いてみせる。
 次はどうするの?と首を傾ぐ。

影時 > 「だと思った」

だろうな、と。くつくつと喉を鳴らしながら、低い笑い声を転がそう。
時間に正確に行動することを求められると、息苦しさを覚える人間はどうしてもいる。
特に彼女のような自由奔放に生きる事を良しとしていれば、この手の道具は寧ろ邪魔であろう。
続く言葉には、肩を落としつつ困ったような顔つきをして見せて。

「歳ってほどじゃないんだがなァ。俺は生きている限り、現役よ」

見た目通りの姿から言われると、少しばかり傷つく――程ヤワではないが、遠い目をする。
修行と服用した秘薬故に加齢速度は落ちている。足腰も見た目通りの年代のものと同じ位に頑健さを保っている。
ただ、年齢にふと遠い目をせざるを得なくなるのは、実際に重ねた年月故だろう。
故郷に居れば、いい加減後継等を考えよなどと、同郷の者達から言われる程である。
今は、どうか。手ほどきと知識の伝達は同じように後継を育てるに足ることだろうか?
撫でれば、頬擦りしてくる姿を見遣り、ひょいと降りる姿を見る。

「――……次は、そうだなァ。ラファル。分け身の術、というコトバは聞いたことはあるか?」

思う事を語らず、忍ばせながら己とは似て非なる手管で水の上に浮く姿に問おう。
分け身、あるいは分身。絡繰りとなる術理は数あれど、忍者の手管としてよく謳われるものだ。

ラファル > 「あ。むー。」

 なんか馬鹿にされた気がする。
 まあ、だからと言って、時間がだいかどうか、で言えば大事なのである。
 そこまで細かく区切る必要はないと思っているだけ、とも言えるのだ。
 肩を落とす姿にちょっと溜飲は降りた。
 年発言は効果大のようだ。らふぁるおぼえた。

「えぇー、ほんとうにござるかぁ?」

 遠い目をする相手に追撃の一撃。
 一歳の子供、外見は13歳、まだまだお子ちゃまは純粋な邪悪さで責め立てる。
 無邪気というのは怖いね、邪気なくグリグリとえぐるのですから。

「分け身……?ぷらなりあ?」

 一番最初に出てきたのは縦に切られても別の個体として復活するあれであった。
 影を走る職業ではあるが、残像を残して相手を惑わせることはできても。
 忍びのような分身の技術はなく、だからこそ首をかしいで問いかける。

影時 > 「どこで覚えやがったンだその言葉は。
 ――おぅよ、忍びは死ぬまで忍びよ。逸れ者でも、その性根は捨てきれん」

別段馬鹿にしたわけではないが、切り返しとして帰ってくる言葉に、むむむ、と唸って頭を掻く。
無邪気って本当に怖いものである。
悪意はなくとも、その純粋さの刃は世俗に塗れたオトナの心をぐさぐさと刺す。
気を取り直す。呼吸を整え、気息を血脈を通して全身に改めて巡らせ直そう。これからやることの為に。

「あれ、と同じ――いや、似ていなくもねェな。
 先程の手並みを見れば、残像を使って敵に己が何人もいると見せかける分身が出来ることだろう。

 それもまた分身……分け身の術の手管の一つよ。
 もう一つ、な。           

                    「「――こういうものがある」」

云いつつ、フリーにした両腕を胸の前で構えて、神妙な顔つきで幾つかの印を続けざまに切る。
魔法使いなどのように仰々しい呪文の詠唱はない。
ただ、静謐に。ただ、静かに。森羅万象を御す道術、仙術に類似した技は迅速に効果を発する。
紡ぐ言葉の最後が不意に、二重に響く。
ずるりといった風情の動きでもう一人、忍びの男からの背後より全く同じ姿格好のものが抜け出るように出でて、並ぶ。

ラファル > 「おねえちゃん。」

 最近お姉ちゃんが侍言葉になってました、何を言ってるのかわからないだろうが、本当に侍言葉になってて妹衝撃。
 どこでと言われると、姉という、お姉ちゃんのまねしたいお年頃……??
 冗談とか抜いても、死ぬまで変わらないというので、なるほど、そういうものなんだなぁ、と感心して納得。

「うん、結構便利だよね、残像に攻撃する時に攻撃してみせたり、とか……って。

 …」

 九字印……だったか、姉だか、母親だったか、誰かの書物にあった気がする。
 いくつか種類があったが、そのどれ、だっただろうか。
 原型か、刀印か。
 印の一つ一つに意味があり、それらを総合すると。

 臨む兵、闘う者、皆 陣列べて(ねて)前に在り
 臨 兵 闘 者  皆 陣 列 在 前
 ただ、これは知識でしかなく、本当にそれであるかどうかも判らない。
 それよりも。

「おいちゃんが増えた。
 気の塊が喋ってる……」

 技術で言えば、残像に音を残して喋ってるように見せることもできるから、できなくは、なさそうだけど。
 本気で、もうひとりのおっちゃんも喋ってるんだ、少女は直感する

影時 > 「――姉であるか」

つくづく、奇っ怪な。そんな感想が脳裏で過る。
きっと、そうだ。まだ若いが故に直ぐに出会った諸々に影響されるのだろうか?
そう思う。そう思いたい。
だが、己の語った事柄については嘘ではない。
なりたいから、なったのではない。そうなるように仕込まれて育ち、挙句の果てに群れから抜けたものだ。
故に性根には俗世に染まっていても、忍者として刻み込まれた道義がどうしても残る。

「お前さん位の歳でそれだけできれば、大したもんよ。
 さっきも遣っていたが、竜の姿とヒトの姿、それらを使い分けた上でだからな。
 
 よく鍛えた人間でも、其処までやれる人間はそうそう見かけん」

然り――いわゆる九字印というものがある。
手指を組み合わせて作る印にはそれぞれ名称があり、さらにこの地にはない異邦の神を顕している呪文だ。
前、というコトバで組む手印は護身や勝利を司るカミの意を持つ。
故にこの効果を導き出す。身を分け、幻惑し、己の身を守っては勝利――最終的に目的を果たす。

「「はっはっは、こういう技よ。
  呪符の類を使う方がもっと楽なんだが、手数が見ての通り増えるぞ」」

二人並んで、同じ言葉を別の口から話す。異口同音という熟語があるが、それを文字通り体現する。
腕組して、肩を揺らして笑って見せては増えた方――水蜘蛛まできっちり履いた幻影は、後ろの方で湖の真ん中まで進んで見せる。
放出される氣の総量も両者とも等しくしていれば、看破の難易度も戦闘時であれば難しい。

物理的な干渉力を持った、実体のある幻影を創る。そのための術の具現である。

ラファル > 「うん、口数少なかったんだけど、急に侍言葉覚えてた。」

 本当に奇っ怪。
 まあ、姉は姉のやりたいことのためにそうなったのだろう、少女はそう思うことにしてる。
 口調で何か変わるかといえば、変わるものは何もないし。
 彼と違うのは、成りたいから、成ろうとしている。
 そういう意味で彼女は忍び足り得るのかは――――判断するのは目の前の師匠なのだろう。

「えへ。」

 褒められると嬉しい。嬉しくてテレテレしてしまう。
 嬉しくなるから、もっと頑張る気になる。師匠はなにげにこの娘のやる気スイッチを押すのが上手なようだ。
 ちょろゴンと言わないで上げるのが吉。

「おっちゃん。その指のうねうねだけど、覚えないとダメ?」

 九字印を結ぶのはともかく、神に祈る―――基本的に竜は祈らない。
 神に願い祈り、力を発言させる僧侶の魔法などには適性がないのはその辺もある。
 その分本人の魔力とかで回復させたりするのだろうけれど。
 神の意を持つ言葉、そういったものが、必要なものなのかと質問をする。
 今までは気――――己の体内にある力の具現化ばかりだったので、特に違和感を覚えたのだ。

「ステレオで喋られると気持ち悪いね!
 は、ともかくすごい。ボクも覚えたい!!」

 二人並んでの言葉に関する感想をストレート剛速球で。
 でも、彼のその技術は少女にとってはとても、とても興味が沸く。
 欲しいと、思ったのだ。

影時 > 「……その辺りはよく分からねェなぁ。
 御母堂の片割れが、そんな風にしゃべるというワケではないのだろう?」

うむ、よく分からぬ。そう結論すればしゃっきりするだろう。
気分なのかもしれない。読んだ本にでも影響されたのかもしれない。
その辺りは本人に聞かねば、類推するだけで真実ではない。今は其れよりも重要なことがある。

「重装備の騎士や侍でおなじような技を使う奴、というのは聞いた事無ぇからなあ。
 お前さん位の軽装でやるのが一番なんだろう」

頭ごなしに駄目、これはいけない、と否定するのは好みではない。
ただ抑圧するだけでは何も伸びない。
人間も竜も同様に向き不向きがあるのなら、出来ることを素直に良いと褒めて伸ばすが良い。
そんな顔を見ているとつられて笑ってしまうが、言う言葉はいたって真面目だ。
“重装備で分身を使う程の身のこなし”が出来るというのは、尋常ならざるものそのものだ。

「覚えなきゃならん――とは、云わんぞ。

 前にも言ったが、忍びというのは目的達成のための手段を択ばんものだ。
 別の手段、手管、遣り方……どんなことを使ってでも、コトが為せるなら全く問題は無ェな。

 覚えるたいか。分かっていると思うが、一筋縄ではいかねェぞ。
 右手で物書きしながら、左手で飯を作って、右手で縄を編みつつ、左足で刃を研ぐ――位に面倒だ」
 
ふぅむと。向こうに移動する分身体といっしょに腕組しつつ、考える。
己と同じ喚起の仕方が通じる、適用できるとは限らない。人には人にあったやり方がある。
故に拘らなくともいいと伝えつつ、合わせてこの術の最大の難度を語る。
幾つもの術を同時で起動し、維持するための集中力、そして何よりも地力が重要であると。術を説きながら語ろう。
ぽんっ、と。向こうで幻影が爆ぜ消えて、還元する氣を取り込み、ふぅ、と息を吐く。

ラファル > 「うん、ちょっとはんなりしてるけど、さむらーいじゃないね。」

 どこの言葉、だっただろうか、詳しくはわからないけど、はんなりといえばわかってもらえるはず。
 因みに、もうひとりの方はここの国の言葉ですので侍とか関係ありませぬ。

「うん。隠業するのに基本的に鎧は邪魔だからね。」

 隠れられないわけではないけれど、あまりごちゃごちゃ着るのも好きじゃない。
 寧ろ、ドラゴンの姿のように裸でもいいぐらいだがそれはそれで怒られる。
 なので、今の格好で妥協しているのだ。人間めんどくさい。

「うん、でも、覚えたい。

 それは凄いこと、覚えればきっとボクは便利に使える。
 だって、それ、忍ぶときに囮出来るでしょう?」

 離れていく分身に、説明を受けながら返答する、消える姿を見て、やっぱりと確信する。
 面倒なのは覚えるまで。
 覚えてしまえばその面倒はなくなり、どう使うかが重要になる。
 つまり、その便利なものを覚えるのに必要な面倒は、必要な面倒なのだ。
 やる気が、湧いて出る。

影時 > 「……あー。

 俺も鎧を着ないワケじゃあないが、合戦に出張らなきゃならん時位しかないなァ」

嗚呼、何となくわかった。そんな気がする。低く頷き、不精髭が生えた顎を摩ろう。
何処ぞの都のような、という風に表現すればきっと近いのだろう。
そう思いつつ、己が鎧を纏う際に選ぶものを脳裏に浮かべる。
身のこなしを崩さない程度のチェインメイルか、簡素な造りのハードレザー位だ。
下手に装甲で受けるのではなく、見て躱す、紙一重で見切る術を得ていれば、過剰な護りは重しにしかならない。

もっとも、字義通りの裸一貫では、身に装備を纏うこともできない。難しいものである。

「そうだな。前もって使っていれば囮にも出来る。戦う時の手数も増える。良いコトずくめだ。
 必然的にどれだけ多くの氣を集め、蓄えて使えるかがまず第一に問われる。
 まァ、此れは氣に限らん。魔力で同じようにやれるなら、それでもいい。

 次に、己の姿形を氣に投影して、映し身を作る。
 ――粘土遊びをしたことがあるか? ラファル。したことがあるなら、無形の力に形と色を付けることが必要だ。
 
 最後に、己の意を通すことが必要だ。
 これも人形遊びと同じだな。見えない糸を使って人形を繰るのと同じように、己の意を伝えて操る。

 何にしろ、まずは練習だなぁ。……やれるか?」

やる気があるのであれば、あとは練習だ。
必要なのは莫大な氣力。あるいは魔力。教本なんてものがなければ、あとはひたすらに試行を重ねて体得する。

己も言いつつ、右手を前に出しては掌の上に気の塊を生む。
渦巻く風から、火、火から砂塵、砂塵から水、と。続けざまにその形態を変え、形を成すことを実演しよう。

 

ラファル > 「あ、わかってくれたー。
 鎧に関してはまあ、ボクはねー。」

 雅というのか、はんなりというのかちょっとわからないけど、真似できないから真似はしない。
 人間じゃないから、ウロコがなくても鉄などで傷付くような弱い体ではない。
 本気を出せばウロコが出るし、ウロコがあるなら生半可な攻撃ではなんともない。
 それに、当たる前に回避するから、今のスタイルが一番いいのだろう。

「気を集めて、蓄える……。
 ちょっと、岸に戻るねー。」

 流石に、ここは水の上なので、集中するなら戻ったほうがいいだろう。
 慣れてきたなら、水の上などの極限状態でもいいだろうけれど。
 まずは練習なら安定した場所であろう。

「…………っ。」

 大きく深呼吸して、集中を始める。
 気を集めて貯めるのはできる、自分の姿を思い浮かべつつ作り上げていくのは己の写身。
 自分が変身する時に思い浮かべる自分の姿を連想しながら気を練り、固めていく。
 まずは自分の姿をした気の塊を作ることに専心する。

 練習続けても、少女はこれが今のところの精一杯なのだろう。
 動かすのは。もう少し先――――

影時 > ああ、と。言葉を聞きながら己も岸へと戻ろう。
尋常な人間ではなく、竜の化身であれば余分な装甲の類は寧ろ重みでしかあるまい。
その身一つで足りるというならば、どうして余分を足す必要があるか。

「戦っている途中となれば、今のように集中している余裕は無ぇぞぉ。
 最終的にはあれもしながら、これもやるという境地に至るといい。今は練習だ練習」

履いた水蜘蛛を外し、乾かしながら練習を始める姿を監督し、必要であれば適宜言葉を挟む。
今すぐできるようになれ、とは言わない。形に少しでも今なることがあれば、ちゃんと褒めることに躊躇いはない――。

ご案内:「九頭竜山脈某所/湖」からラファルさんが去りました。
ご案内:「九頭竜山脈某所/湖」から影時さんが去りました。