2018/07/11 のログ
■ルーク > 「そうでしたか…お出迎えできず、申し訳ありません。セラスが今日は早くおねむになったので、乳母におねがいしてきました。」
彼も、この不安定な情勢の中あちらこちらへと飛び回る日々が続いている。
そんな彼が、珍しく仕事が早く終わり城へと戻ってきたのに、出迎えることができなかった事を悔いる。
そして、此処にいるルークを見つけたという彼の目配せに、日傘で顔を隠すようにしながら答えた事に優しい声が返る。
彼以外の大勢の誰かを気遣うというのは、それだけ視野が広がったということで、その成長を褒める言葉と日傘の下から滑り込んだ手が優しく頬を撫でるのに、胸の中が温かくなる。
けれど、同時に少し苦く思うのは集落の少女たちに対する後ろめたさがあるからだ。
もちろん、危険に身をさらしながら忙しく動き回っている少女たちが喜んでくれればと思ったのは、確かな気持ちではあったが心のどこかに、申し訳なさやうしろめたさといった感情があったのを否定できない。
そんな感情は、日傘が表情と一緒に隠してくれていただろうか…。
優しい手のぬくもりはそのまま、頬を撫でていく。
少しの沈黙のあと、日傘から見える彼の指先がウィンドウの奥を指差すのに日傘を上げて視線で追いかける。
「やはり、そうなのですね…。そうなると、その保存期間に集落に戻れなかった少女は、口にできなくなりますし…。」
大体、少ない経験から想像したことは間違っていなかったようで、それを彼の言葉が裏付けていく。
視線を誘導するように指先が動けば、店内に陳列されている半透明の小山が見える。
水の中に宝石を埋めたかのように、光を反射させながら少し白い濁りの中でベリーや果物が泳いでいる。
「見た目も涼やかな感じがしますね。なんだか、すぐに溶けてしまいそうに見えますが、生菓子よりも保存がきくのですか…。ソルベ…は…えぇと…氷菓子、ですか。こちらは、集落の運送馬車がないと難しそうですが…。」
ゼリーは儚い見た目がするが、生菓子よりももつらしい。
見るからに口当たりのよさそうなそれは、冷やして出されればきっと少女たちの暑気払いによさそうな印象だった。
そして、もう一つ指し示されたのはウィンドウの端に貼られた紙に書かれた葡萄のソルベ。
ソルベとはなんだっただろうか、と名前だけではイメージできずにポスターの文字を視線で追い、それが氷菓子のことであるのだと理解する。
一番喜ばれそうであるが、少女たち一人一人に行き渡るように購入するとかなりの数になる。
それだけの量を、保冷して運ぶにはそれなりの設備が必要だった。
こっそりと店で注文から配送まで済ませようと思っていたが、安全に確実に届けるのはやはり集落の技術が一番だった。
「…日持ちを考えるなら焼き菓子…口当たりを考えるならゼリーですが…とけてさえしまわなければ、ソルベはどちらの条件も満たしているのですよね。」
暑い中の訓練や偵察などから戻った少女たちは、きっと冷たくて口当たりのいいスイーツを喜ぶだろうなと、喜ぶ姿が目に浮かぶ。
「あの、集落の運送馬車を使わせてもらってもいい、でしょうか…。」
視線が焼き菓子、ゼリー、ソルベのポスターと行き来して、そしてアーヴァインへと戻ると遠慮がちに問いかけを口にして。
■アーヴァイン > 「そう気にしなくていい、此方もそう早く終わるとは思っていなかった。そうか……たまには抱いてあげないと、忘れられそうだ」
集落から王都の合間を行き来するのもあるが、そこに加えてタナール砦、その周辺の村々まで回っていたのも合わせれば、ここ最近は忙しない。
今日のように早めに仕事が終わることこそ稀な事だが、そんな事もあるさと言うように、軽く考えながら緩く頭を振る。
寧ろ、こうして心遣いができるだけの成長をした彼女の行動に、嬉しさが溢れるぐらいだ。
頬に触れると、指先に伝わる僅かな表情の動き。
小さなものだが、隠し事をしていた時のような落ち着きの無さ。
「そうだな。凍らせてしまう手もあるが…食感はかなり劣化するから、難しいところだ。プリンとかに比べればになるがな……?」
やはり食べ物の腐敗の大敵は水分だ、保存食作りのときから戦い続けてきた相手である。
小山を築くゼリーは、ゼラチンに含む水分の割合からか、それとも表面の水気の少なさか。
体感程度の差で、痛みづらい記憶がある。
とはいえ、どんぐりの背比べ程度かもしれないが。
ソルベの張り紙に視線が動き、更に考えこむ様子をただ静かに見守っていく。
最適な答えを出すよりは、彼女が自分なりに最適だと思う事を考えるのが大切なのだから。
少女達に少しでも癒やしをと思う優しい気持ちを、育てるために相手を想う事を覚えていく。
心を成長させる子供を見るかのように、それ以上の助言はしなかった。
「そうだな……どちらも一長一短といったところか」
小さく頷き、何が最適かと視線はさまよい続けていく。
そしておずおずとお願いを申し出る彼女の言葉に、ゆっくりと口角を上げる。
勿論だと囁きながら頬から掌を滑らせ、黒絹へと絡めるように撫でていく。
覗き込む視線に視線を重ねながら、顔を近づけていくと、耳元へと唇を寄せていった。
「……咎と思う必要はない。あの娘達も、自分達の居場所を守るために戦っている。俺も、参謀の彼も、誰一人死なせぬ為に最善を尽くす」
今までと違い、明らかに激しい戦いに身を投じている。
元々は後方支援を主体としていたが、立ち位置が変わり、力が必要になるほどに戦場へと一歩ずつ近づいていった。
そして、彼女達がこの戦に頷き、脅しにも屈しないのは、自分達の頑張りが仲間を救うからだ。
500人のミレー族を雇用するには、つながりのある里から希望者を募るのもあるが、それよりも多いのは奴隷とされた彼女達を買い取る事だ。
道具として使い潰される仲間が、多く開放されるチャンスは命を賭けるだけの価値はあるだろう。
それに報いるためにも、短期決戦の奇襲を彼と参謀は綿密に考え続ける。
とはいえど、それだけで彼女の中にある懸念は溶けないだろう。
だから、否定の言葉を紡がせる前に唇に人差し指を押し当てながら言葉を重ねていく。
「ルークは……皆を癒やしてあげて欲しい、そうやって優しい気遣いができるんだからな。差し入れも、集落でできる範囲の手伝いでも、食堂で愚痴を聞くだけでもいい。ルークが癒しになると思うことを、するといい」
彼女には自分達とは違う仕事を委ねていく。
普段自分が彼女に癒やされているのと同じ様に、今度は集落の少女達を癒やすこと。
方法も癒やしとなるポイントも異なるだろうが、相手を気遣う思いが強く育った今なら、それほど難しくないだろう。
彼女の不器用さも少女達も知るところだ。
少しズレていても、彼女らしいと気持ちを受け止めてくれる筈。
そんなお願いを告げると、唇から指を離していき、行こうかと店の中へと促していく。
ご案内:「王都 大通り」からアーヴァインさんが去りました。
ご案内:「王都 大通り」からルークさんが去りました。
ご案内:「王都 大通り」にアーヴァインさんが現れました。
ご案内:「王都 大通り」にルークさんが現れました。
■ルーク > 「はい、ありがとうございます。…そうですね、日に日に体重も増えていますし、首もしっかりしてきましたので、抱いてあげてください。」
あちらこちらへと、文字通り飛び回っている彼が城に帰れる日があるとしても、夜遅かったりと娘が起きている時に戻ることはほとんどできない状態。
成長具合をその目で見ていても、実際抱き上げると更にそのことを実感して驚くだろうと思いながら、彼の言葉に頷く。
そして、集落の少女たちへと贈るお菓子が決まると頬に添えられた手が、髪の方へと滑ってさらりと揺らす。
「―――っ…。」
日傘は彼の目から、表情を隠してくれていたが触れた指先から伝わってしまったのだろう。
耳元に囁かれる言葉に、はっとした表情を浮かべて、開きかけた唇から出かけた言葉は彼の指によって押し止められる。
今回の騒動が起きる前に、集落へと自分が行ってしまった過ち。
その影響が落ち着く前に、国の情勢が一気に不安定なことになってしまった。
その罪悪感を和らげようとするように、彼が言葉を紡ぎルークができることをお願いとして告げてくれる。
「…はい…。」
そんな事を自分ができるだろうか、自分にそんな資格があるのだろうか。
微かな表情の変化は、それでも不安を彼へと伝えてしまうのだろう。
けれど、彼が出来ると言ってくれる、それを期待してくれるならば答えは一つしかない。
できないと決め付けるよりも、自分には何ができるだろうと考えて実践していこうと、ひとつ頷いた。
そして、日傘をたたむとドアベルを鳴らし店内へと入っていく。
店の外にいるときよりも、より甘い香りに包まれる店内には、砂糖菓子や飴細工が飾られ可愛らしい印象を受ける。
■アーヴァイン > 「この間まではおっかなびっくりに抱いていたが……あっという間だ」
自分と妻の間に生まれた子供は、まだまだ小さいが日に日に小さな成長を見せる。
それも日が出ているうちに見れるもので、深夜に戻る事もある今は、静かに眠る姿を遠目に見て、彼女のベッドに潜り込む日々だ。
この忙しさの原因たる争いが去るまでの辛抱と、苦笑いで小さく頷いた。
「ルークは純で真面目で、水晶のように綺麗な心だ。それは今もずっと変わらない」
声をつまらせながらも、指先に伝わる振動が何を浮かべ、何を考えたかを教えてくれる。
罪悪感に溢れそうになる言葉を人差し指で遮りながらも、重ねたのは彼女に抱く想い。
純粋だからこそ、毒素を受け流せず飲み込んでしまう素直さは、今も変わらない。
その証拠が言葉になりそうになるも、紡ぐほどに罪悪感という毒を巡らせる事になる。
だから、遮りながらも、違う言葉に変えさせようとしていく。
できるだろうかと不安そうな様子は見えたが、昔と違い、進もうと頷く姿に微笑みで応える。
いい子だと言うように黒髪をくしゃりと撫でると、彼女に続いて店内へ。
オーブンで焼かれた小麦の甘い香りが店内を包み、陳列のケースには飴細工も飾られていた。
棚の上には小さな袋で包まれたクッキーが並べられ、到るところに甘い匂いの正体が詰め込まれている。
いらっしゃいと店主らしい中年の男性が、しわのある顔で笑顔で出迎えると、そちらへと近づいていく。
「結構な数なんだが、ソルベを頼みたいんだが……」
と、大口のオーダーであると断りを入れた後、わかったというようにメモ紙とペンを準備していく店主。
その先は任せたというように、軽く彼女の方に掌を置いて促していく。
店主も、それを見やればどれ位必要なのか、何時までに必要なのか等と具体的に彼女へ問いかけるだろう。
店主も二人を普通の夫婦程度にしか見ていないらしく、下町にありきたりな砕けた口調で彼女へ迫る。
■ルーク > 「本当に。毎日そばで見ていても、成長の速さに驚きます。」
彼よりも、娘の傍にいる時間が長い自分でさえ昨日より今日と、成長していく娘に驚かされるといいながら、彼の頷きに頷き返す。
「……そのように、言っていただけて…嬉しく思います…。アーヴァイン様と貴方様の傍にいる方々に、癒しを与えられるよう努力します。」
闇に呑まれ、黒く染まってしまった自分にそんな言葉をかけてもらう資格はない。
罪悪感にそう否定してしまいそうになるのを、穏やかに見つめる茶色の瞳が押しとどめる。
自分を否定して、罪の意識に呑まれてと負の連鎖に陥りそうになるのを、その指が引き止める。
だから、罪を否定し、逃げるのではなく向き合って前に進むのだと彼を真っ直ぐに見つめて言葉を紡ぐ。
そして店内に入ると、店主の中年男性がいらっしゃいと二人に声をかける。
素朴な焼き菓子から、婚礼などの祭事の飾りに使われる飴細工店内には、甘い香りに満ちていた。
「…数は45ダースほどお願いします。…材料を揃える時間はどれくらいかかりますか?…そうですか、では5日後に。集荷の馬車をこちらに向かわせますので、そちらに渡してください。」
大口と、彼の言葉から聞いていた店主だったが、ルークから告げられた数字は予想よりも多かったらしい。
少々驚きながらも、メモに文字を書き込んでいく。
量が多いため、材料を揃えるのに少し時間がいるね、という店主の言葉に問いかけながら期日を設定していく。
大口の注文に、ほくほく顔に店主はせっかく注文するのだから、味見をしていきなと冷気の魔石の使われた箱からソルベを器に入れて二人に出してくれた。
■アーヴァイン > 「本当の事を言ったまでだ。ありがとう、期待している……だが、無理せずにな?」
また難しいと思わせてしまいそうだが、彼女の決意の言葉に微笑みながら矛盾するような言葉が交じる。
水晶の様に自身の言葉を飲み込んで、癒やしになれるようにと頑張るのだろうと思うも、その頑張りに歯止めが効かなくなる不安もあった。
真面目にどこまでも頑張って、自身がボロボロにならないように無理は無しと釘を指しつつも、店内へと移る。
大口の注文と切り出した後は、彼女の手慣れた仕事ぶりを隣で見守るのみ。
そこはやはり、師団や組合での買い出しや、装備の発注などを手伝って貰っているのもあり、的確なもの。
秘書の娘もそうだが、こうして彼女にも支えてもらってこそ、自分があり、今の組合があるのだと改めて噛みしめるばかりだ。
「では、遠慮なく……」
物思いに耽るようにその様子を眺めていると、気のいい店主のサービスを頂いていく。
ガラスの器に伝導していく冷気は、うっすらと白い曇りを浮かばせる。
心地よく冷える器を手に取り、小さなスプーンで崩しながら一口。
しゃりっと小気味いい食感と音を響かせながら、舌の上で溶けていく氷の小粒達は濃厚な葡萄の味を味蕾へ染み渡らせる。
料理は前の仕事柄それなりにしてきたが、菓子やデザートを手掛けた事はごくわずか。
葡萄の味がたっぷりと感じられるな と、素直な感想を呟きながらも、彼女の小さな一歩は進み始める。
人目を気にせず掌を重ねて帰路につくひと時は立場を忘れ、氷菓より甘い時間を過ごしたことだろう。
ご案内:「王都 大通り」からアーヴァインさんが去りました。
ご案内:「王都 大通り」からルークさんが去りました。