2018/06/04 のログ
ご案内:「港湾都市ダイラス 倉庫街」にタピオカさんが現れました。
タピオカ > ダイラスの夜。
夕食を摂って宿へ歩いていた――というところまでは覚えている。気づけば、自分は薄暗い倉庫に居て。太い鉄の支柱に後ろ手に縛られ、両脚は開脚させられた状態で重い鉄球に括り付けられていた。

外から聞こえてくるのはこんな会話。いかにも荒っぽい男の人の声だった。
”逃げた奴隷の替わりが見つかってよかったぜ。”
”ああ。頭数さえそろえりゃ問題ねえからな。あの褐色の子にゃ悪いが、そのまま明日一番に出港する王都への奴隷船に乗ってもらおう”
”そうだな。……よし。貰った前金で遊びに行こうぜ。縛っておいたし、逃げやしねえよ。”

なにやら不吉な未来の予感。
人さらいに捕まってしまったらしい。
どうやら立ち去ったようだけれど……。

「ぅー……!ぅぅ……っ!」

口に詰め込まれた布でろくに声もでない。
身動きもとれず、武器も手元になく。
人気もろくにない、薄暗い倉庫街の一角に小さな呻き声が響き。

ご案内:「港湾都市ダイラス 倉庫街」にヴィクトールさんが現れました。
ヴィクトール > 奴隷の大掛かりな買い取りと同時に、奴隷商の悪事の裏を掴んで役人に潰させる。
その金を国に還元しながらも、奴隷を生み出す金に回さぬように間接的なコントロールを促す。
兄が王族の一員になったことで、より仕掛けやすくなった環境変化の手法。
黒い噂の耐えない奴隷商を探っている中、大きな足がかりを見つけたのは先程の事。
逃げ出した奴隷がまさしく……彼らの首を絞める存在となったのは、今になって気づいても遅い。

「よぉ、景気良さそうじゃねぇか? ……テメェのケツに突っ込んどけや、獄中の看守に媚びうるのにも金がいるだろ」

どちらが悪党やらと言わんばかりに、ニタァっと口角を上げながら黒髪のヴェールで影の掛かった瞳が煌々と輝く。
しばらくすれば、外の騒がしさが聞こえるだろう。
彼の引き連れた腕自慢達が奴隷商の男達と取っ組み合いを始め、鈍い音が幾つも重なり合っていく。
そんな中、倉庫へと近づく足音が二つ。
低い声が何やら話し込む声が聞こえるが、唐突にカエルが潰れるような醜い声が響く。
同時に、木の扉が丁番ごと千切れ飛びそうな勢いで開かれると、ドアに蹴りつけられた男達の一人が頭から床に滑り込みながら卒倒する姿が飛び込む。

「ったく、人攫いまでしやがって……腐ってる奴ぁとことん腐ってやがんな」

それはアンタもそうだろうと、外から茶化す声と共に鈍い音が重なり合う。
うるせぇと抜き身の剣で声の主へ振り返り、切っ先を突きつけながら文句をつける。
あの野郎と悪態をつきながら、カンテラの明かりが差し込むドアの向こうへと踏み込む。
あの夜と変わらぬ人相の悪い顔に黒尽くめの格好、獣を思わせるギラついた金色を宿した顔が、しかめっ面で部屋の中を見渡す。
よく見えんと呟きながら、カンテラを掲げれば、遠目に見える彼女の姿に気づき、カツカツとそちらへと歩んでいった。

タピオカ > 「……ふ……っ、……、……んっ……んうぅ……、……!」

一度太腿とふくらはぎに力をこめ、そして力を抜く。自分の薄い肉付きでも、鉄球にくくりつけている荒縄の結び目ぐらいは緩める事はできるだろうと顔を赤くして筋肉を緊張させる。何度もそう繰り返すけれど。クレイモアを背負う大柄な傭兵が探っているとおぼしき奴隷商の仲間は元は船員だったらしく。マストの帆をゆいつけるよながちりと硬い結びはとれず、鉄球はびくともせずに。

……肩を落としたその時、肉食獣めいた声が外から聞こえてきた。
その声には聞き覚えがある。……前にも、危うい状況を救ってくれた。
ぱああっと、猿轡のままで表情が明るくなる。
倉庫の外に溢れる鈍い音は彼の鉄拳制裁の音だろう。奴隷商の仲間を強く撃つ音に胸がすく思いがする。その音は、一連の奴隷売買の悪事を潰すきっかけになった、件の逃げ出した奴隷も同じような思いになるだろう。この場に居れば、の話だけれども。

「……っ!……うぅ……!うー……!ううう、ぅー!」
ここ、ここ。ヴィクトール。口が自由ならそう叫んでいた声も、塞がれてひどく不明瞭だ。
相手の大立ち回りの場面が、木の扉が吹き飛ばされる派手な音と悪人が卒倒する音で区切りがついたと思えば、薄暗い部屋の隅にいる自分の存在を主張するために無理やり上げたか細い声だった。

「……!……ぅぅー!」

黒尽くめの巨躯。獣の雰囲気。彼のカンテラに浮かんだ遊牧民が一瞬、怯えたように震える。しかし、そのしかめっつらの金色の瞳を確認すればほっとしたように身体の力を緩め。少し瞳を潤ませた。
彼の視界には、猿轡、支柱に後ろ手に縄で縛られたままの遊牧民が座り込んでいる。膝は開いて外向きへ曲げられたまま、別の縄が足首にて鉄球に固定されていて。そんな窮屈な開脚状態を強いられていた。

ヴィクトール > 「ん……?」

蹴り飛ばした奴隷商の仲間が痙攣しつつ白目を剥くのを見ていると、何やら呻き声のようなものが響く。
なんだろうかとそちらへと視線を向けるが、逆光気味の状態では余計に見づらい。
カンテラを顔のあたりに翳すようにしてあげると、ゆらゆらと踊るオレンジ色にしかめっ面が照らし出された。
視野の先、よくよく見れば見知った姿だというのに気づいてくると、不機嫌顔も鳴りを潜めていく。
驚きに目を丸くしながら小走りに近づけば、瞳を潤ませた彼女の姿があり、こっぴどく縛られた姿に唖然と眺めていたが、一間置いてから呆れた様に眉をひそめて笑う。

「タピオカよぉ、もうちょい用心しようぜ? 今回はマジで廃人の奴隷直行コースだったぞ」

それなりの値段で売り飛ばされた後は、薬漬けなり心身を破壊する性的な責め苦だったりと、女を壊す弄び方が待っている。
小さく純粋な彼女がそんな目に合えば、あっという間に物言わぬ人形になりそうだと思えばこそ、窘める言葉も溢れた。
猿轡の結び目に腕を回せば、熱気を帯びた胸板が彼女の額に重なっていく。
それを解き、口を開放しつつ身体が離れると、今度は腰のベルトに掛けた作業用の小さなナイフを抜いた。

「動くなよ? 解くの面倒だから切っちまうからよ」

鉄球を結びつける縄も、船乗り達が使う普通には解けぬ結び目が使われている。
解くことも出来るがその手間を惜しむと、足首と縄の間に刃を滑り込ませていく。
肌を傷つけぬように、ゆっくりと刃を縄に食い込ませ、繊維がプツプツとちぎれる音を響かせること数秒。
両足でそれを繰り返し、足の自由を解くと後ろへと周り、手首も同様に肌を傷つけぬように丁寧に縄を切り裂く。

「いっその事、俺んとこの集落に閉じ込めちまうか。それなら安心だからよ?」

クツクツと悪どい微笑みを浮かべつつ、冗談じみた言葉で締めくくり、ナイフを収めていく。
前へと再び戻れば、ひょいっとその身体を抱き寄せていき、背中に回した掌で後頭部へと添えるようにして銀糸を撫でる。
軽く笑い飛ばしてはいるが、心配になったのは変わりなく、あの夜の時よりも早い鼓動が身体伝いに聞こえるだろう。

タピオカ > 「ん……、ん……っ……!」

手練な彼らにとって今の争いは戦闘とはいえないものだったかもしれない。奴隷商やその仲間たちを床ペロさせた後の、どこか鋭い刃物めいた雰囲気背負った相手がカンテラのぼんやりとした明かりのなか、自分のほうへ小走りに寄ってきながらも呆れた笑いを浮かべるのを見て、恥ずかしそうに。そして悔しそうに低く呻く。もそもそと膝を揺らして、褐色の頬に赤味がともった。

「~~~……っ。~~~……。――ぁ!」

猿轡の結び目を解かれると、恐怖と安堵の混じった口元をただ震わせた。
もう少しで、肉の人形にでもなってしまうところだった。生命の危険から脱出できたという実感は、彼の胸板に顔をうずもれる事でさらに湧き上がってきた。
彼の熱を帯びた匂いを、すん、と嗚咽じみた鼻息こぼして胸に吸いこみ。両肩の力が抜けていく。後ろに固定されていた腕が解放されて、くたりと強張り続けていた上半身が彼の身体にかかった。そして離れて、鉄球を切る確認を尋ねる様子に、猿轡のままでしおらしげに頷き。――鉄球と足首の隙間に刃物がさしこまれると、慌てて身をひねった。彼は気づいていないとは思うものの、広げた足の隙間、自分のスカートの奥が覗いてしまうのが恥ずかしかったからだ。

「怖かった……怖かったよ、……ヴィクトール……!
ありがと……。ほんとに……。ありがと……!」

相手のナイフが収まれば、まるで何日かぶりに身体が動かせるようになった気分。
売られた後の自分なんて想像ができず、やっと感情が元に戻ってきたように。
張り詰めていた気持ちが崩れていくみたいに、撫でられながら小さな子どものような泣き顔になった。きぅと彼にしがみつきながら声を震わせ。ぐす、と鼻を鳴らし。柔い身体を逞しい胸にくっつけて甘え。

「閉じ込められるのはつらいけど……。ヴィクトールの集落って……どんなところ……?」

身体に伝う鼓動を感じながら、少し気が落ち着く。顔を彼の胸板に埋めてからひと心地つくと、興味をもったらしく語尾を上げ。

ヴィクトール > 捕まったままの姿だが、最初に見つけた瞬間に比べれば、マシな表情が戻っていく姿にひっそりと安堵していた。
恥じらいの表情と呻き声に、呆れたように笑っていたが、そんな表情を出来るままでいられたことが運がいいとも言える。

「……ぁー、わりぃ、怖がらせるつもりはなかったんだけどよ? 俺とて、市場でタピオカと再会なんつぅーのは嫌でよ」

猿轡を解く合間、服に伝わる震えから察したのか、目を細めながら苦笑いを浮かべていく。
喜怒哀楽がコロコロと変わる愛らしさ、子供っぽさの中にしっかりと女であり牝の一面を持つ彼女の魅力。
それが物言わぬ人形として店先に並べられるのは、想像するだけでも苦しい。
避けたいという言葉を紡ぐが、余計怖がらせそうだと思った時には遅いというもの。
わりぃ ともう一度だけ呟くと、黙々と縄を切ろうとしたのだが…不意に身体をひねる様子に訝しげに振り返る。
薄暗くて気づいていなかったが、足の隙間からスカートの多くが見えそうだと分かれば、笑みがこぼれないようにしつつ、気づかぬふりで縄を切り落としていった。

「俺も無事で安心したぜ……おうよ、まぁお礼はあれだ。スカートの中とかも、あとでじっくり見せてもらうとするからよ?」

しがみつき、泣き声混じりになる声によしよしと背中と髪を優しく撫ぜていく。
幼子のように泣きじゃくる姿は、庇護欲と共に安堵を噛みしめるに十分だったが、少々湿っぽい。
意地悪に耳元に囁くのは、お礼の受け取り方と身体を逸した意味に気づいている証拠。
クツクツと笑いながらも、柔らかな身体の感触を楽しむように密着させていけば、先程まで戦っていた身体は薄っすらと湿っており、雄の香りが零れ落ちていく。

「ぁ、そいやいってねぇな、その辺の事。ドラゴンフィート……九頭竜山脈の麓に、商人やら旅人が立ち寄るでかい集落があってよ。ミレーだろうが人間だろうが、好きに過ごせるいい場所だ」

商人達にはダイラスや王都への接続口となり、九頭竜山脈の温泉街やその向こうへ旅する人々の駅にもなる交差点。
戦争が終わった後作られてから、一気に成長した竜の足元を名乗る集落は、冒険者ギルドにも仕事を斡旋することもあり、聞いたことぐらいはあるかもしれない。
蹴り開けられたドアの向こうから、ひょいっと若い男が顔を覗かせると、俺ら撤収しますと声をかけてきた。
わかったと言いたげに背中を向けたまま手を振るが、若い男はそのままニヤッと笑いながら言葉を重ねていく。

『隊長、俺らちょっと離れた宿か酒場行くんで、かぶらねぇ様に頼んます』

一言多いと言いたげに振り返って睨みつけると、笑いながら逃げるように去っていく部下。
暗に彼女とのこの後を示唆箚せられる中、ぁー…と呟きながら、苦笑いのまま軽く頬をかいて彼女を見つめる。

「……で、俺はそこの軍事つぅか、傭兵つぅかの遊撃部隊にいてな。一応隊長だ、野良犬たちのな?」

野良犬部隊なんて揶揄をそのまま部隊名に当てはめた、遊撃部隊。
見た目は風来坊の悪人面と、人を率いる質には見えないだろう。
だが、そういうことだと言いたげに口下手な説明をすると、ぽんぽんと軽く頭を叩くように撫でていった。

タピオカ > 「……。僕も……、もし、あのまま誰も助けが来なかったら……、奴隷市でヴィクトールで会ったらどんな顔したらいいかわからないよ……。」

苦笑いの様相をする彼に、泣き笑いのような顔を向けた。運ばれていく奴隷船の中で自分の身の安全も保証されないだろう。ぼろぼろの雑巾みたいになった自分が彼と再会したとき、を想像してぶるっと身震いをする。……彼が自分を怖がらせる意図は無いと知っているから、恐縮したように少し首を振って。――奴隷商の仲間たちが戯れとばかり括り付けた、はしたない格好の拘束だったけれど、獣の強さと紳士の優しさを備えた彼が気づかないフリをしてくれるのが少し嬉しくて。そっと頬を赤くしてうつむく。

「うん……。うん……。
ヴィクトールのにおい……。はぅ……。落ち着く……。
けど……、あはっ。……少しどきどきしちゃう……。
ヴィクトールに抱いてもらったときのこと、思い出しちゃった……。
お礼……?~~~~~~……っ!」

優しく撫でられて、彼の胸元で顎先を揺らすように頷きながら。
争い事の直後、雄の香りにすんすんと小鼻をゆり動かし。
少し笑顔になって彼を見上げた。その頬はほんのりと興奮を帯びていて。
続いた彼の台詞にトマトのように真っ赤になって目を丸くする。

「わ!あのドラゴンフィートのことだったんだ……!
ウォード錠の巨木のこと、ギルドで聞いたことあるよ!
まだ行ったことはないけど、……今度遊びに行きたいな」

相手の口から出てきた名前はギルド内で耳にした事がある。ミレー族がその里以外で安穏とできる珍しい場所だそうで。その居心地の良さや、ほの甘い巨木の言い伝えについて興味を持っていた。いつもは通過するばかりの地点だったけれど、羽根休めとして訪れてみたいとばかり彼を見上げて。

「わああ……!隊長さんなんだ!
だからとっても強くて……仲間も多いんだね!
野良犬なんて……。あはは。名前はあらっぽいけど、きっと狼みたいに家族を大切にする人たちなんだねー!
――ええっと……。」

旅と孤独を道連れに。鳥が飛ぶ方向にブーツの足先向けるよな彼を尊敬の眼差しで見上げる。もしかしたらそのあたりの自己紹介は彼自身にとってこそばゆいのかもしれないけれど、力ある群れの長と知って彼のことが増々たのもしく見える。軽く笑い声をたてて。
――力で無理矢理押さえつけた感じのしない、気さくな上下関係らしい部下とのやりとりにくすくすと肩を揺らしていたけれど。やがて、気恥ずかしそうに目線を泳がせ。

「……ね。ヴィクトール。……、僕、ヴィクトールに、その……ちゃんとお礼がしたいな……」

街の女の子みたいにうまくは誘えないから。彼の服のすそを、きゅ、と指先で握るようにして。伏し気味のまつ毛を揺らしながら。上目遣いで彼で伺う精一杯。薄い乳房を衣服ごしに、広い彼の胸板に寄せる必死の誘惑。

ヴィクトール > どんな顔をしたらいいか。
寧ろ、どんな顔ができるだろうかといいたくなる想いをぐっと呑み込む。
もう起きることはない事だが、この国では日常的に起きうる狂気なのだ。
心なく壊れた笑みを浮かべる彼女を見たとしたら……憤怒に駆られて、辺りを血の海に変えてしまいそうだと思うと、ほんの少しだけ獣じみた殺気が零れそうになるが、ぎゅっと抱きしめて温もりで抑え込む。

「俺の匂いが? 汗臭ぇって集落の女には言われることはあるけがなぁ……ははっ、じゃあお礼がてら抱かせてもらおうか。俺も血が疼いて堪んねぇよ」

少女や女から溢れる、甘い体臭はほんのりと感じる程度のはずだが、鼻のいい男からは誘うかのように濃厚に感じていく。
こちらもスンと鼻の音を鳴らしながら首筋に顔を埋めていき、戯れるように頬を擦り付ける。
そして囁く言葉と共に顔を上げれば、恥じらいに染まる表情にニヤッと意地悪な笑みを見せつけた。

「を、話が早ぇな。 じゃあ何時でも来いって、俺が案内してやるからよ? 馬車の発着場にごっつい馬車がいたら、俺の名前出しゃあ乗せてくれるからよ」

まだ今夜の話もまだだというのに、その次の話まで楽しむように語りながら笑みを深める。
少し朗らかに崩れてきた表情は、悪どさが緩んであの日の様に悪戯小僧の様な少し子供っぽさのある笑みへと変わっていく。
それを茶化すかの様に、部下が話を割り込ませてくるわけだが。

「兄貴が人の上に立つ練習しておけって煩くてなぁ、ガラじゃあねぇとは思うんだが……家族、かぁ……意図して思ったこたぁねぇが、それっぽいな」

兄弟とも、家族とも取れるような部下達。
自分が数字が苦手だと知っていれば、その手のことは引き受けてくれるし、今日のように無駄に茶々を入れてお膳立てもする。
彼女の視線がむず痒くなり、珍しく照れくささを隠そうと視線を反らしていった。
可愛らしい笑い声につられ、視線を戻せば普段よりもはにかんだ照れ気味な笑みを見せつつ、ごまかすように銀糸をわしゃわしゃと撫でてみせる。
そして、徐々に熱が込み上がっていく彼女の声は不器用ながらにとても甘ったるい。
上目遣いを伏せながら、子供っぽい指先の仕草も、女を感じさせる密着具合も全て。
ゾクリと興奮が体中を電気の様に駆け巡ると、金色の瞳を輝かせながら言葉を失い、答えの代わりに掌が頬へ添えられる。
上へと傾けた瞬間、顔を傾けながら瞳を閉ざし、直ぐに唇を奪っていく。
重ねるだけのキスをほんの数秒、それが数秒と思えないぐらい長く感じるのは、興奮と抑えられる気持ちのせいか。

「……タピオカ、抱かせてくれ。そんなに女の子されちまうと、我慢きかねぇよ」

少女の精一杯のオネダリに全力で答えるお強請りを。
唇が離れれば、間近に迫ったまま瞳を開いて言葉を紡いだ。
声と共に溢れる熱が、唇を撫でるほどの距離で見つめながら囁くと、改めて唇を重ね直してしっかりと抱きしめる。
先程よりも長く重ねては、ゆっくりと離して薄っすらと笑うと、静かに腕を解いていく。
代わりに小さな手を大きな掌で包むように握り、指を絡めて立ち上がる。
エスコートするように緩く引き寄せ、立ち上がりやすいように促せば、行くかと囁いて歩き出す。
大人と子供、それぐらいの背丈の差はあるが足取りは揃うだろう。
歩幅もペースも、時折彼女をみやりながら薄っすらと笑い、女として連れ歩くからで。
ダイラスの港に近い通りを歩いていくと、輸入品を取り扱う店を下に構える宿屋の前で足を止めた。
ここなら丁度いいかと、思案顔で看板を見上げた後、一応彼女にここで良いか視線で確かめてから、中へとご案内していく。

タピオカ > ヴィクトール……?と少し戸惑うように彼の名を呼ぶ。
優しげな彼の空気が、鋭さを伴った気がして。抱きしめられるまま。そっと彼の短い黒髪を手先で撫でた。

「きっとそれは、集落の女の子の照れ隠しなんだと思う。
……ヴィクトールは、強い人の匂いがする。頼りがいがあって、道に迷った時の大きな木のたもとみたいな匂い。
――あはっ!くすぐったいよ……。
う……うん……。
えへへ……。」

彼の鼻筋が自分の首筋にくっつくのがくすぐったくて。なんだか嬉しくて。
弾けるように笑って首を震わせた。彼の鼻腔へ漂うのは南国の果実にも似たよな匂い。
意地悪そうな笑みに、思わず視線を思い切り下げてから。はにかむように頬を紅潮させて微笑んだ。

「案内してくれるんだ?やったー!ヴィクトールの広いお庭を一緒に散歩できるなんて楽しみだなー!
……あ!それって装甲馬車でしょう?炎が飛んできても平気なやつ!」

隊長として、集落の長として。そして風まかせを好みそうな。そんな彼の予定にお邪魔できたら幸いなことだ。顔じゅうに笑顔綻ばせながらはしゃぎ、いつか前に冒険者ギルド内で聞いた話を彼に確かめて声音を明るくする。

「そっか、お兄さんが居るんだね。……ふふ。きっと素敵なお兄さんなんだろうね。……こんな感じの、ちょっとクールな人かな?
――集落の人たち、たぶん……ヴィクトールの事を心の中でこう呼んでる気がする。
おにいちゃん、兄貴、おやじさん、むら長、おとーさん、パパ。」

野性的で力強い彼に対して、相手の言う兄貴は背が高くて目端の眼鏡をついっと指先で上げるイメージ。眉をきりっと寡黙なイケメン的な仕草を戯れたあと、自分のような異邦人に優しさ注いでくれるような彼の周囲の人となりを想像してみせ。にーっ、と笑う。温かい血の通った共同体。そんな集落の人たちが気さくによせる呼称をいくつか浮かべてみせ。
わしゃわしゃされて散っていく猫っ毛な銀髪。「ひゃあー!やめておにいちゃんー!」とミレー族の妹になりきり。わざとらしい悲鳴を上げてからから笑うのだった。

「ぁ……。ヴィクトール……。ん、……ッ。
は……ぁ……っ。
うん……。……嬉しい……。
んっ……んっ……ぅぅ……」

台詞の前に頬に手を沿えられると、思慕の表情を浮かべ頬が熱っぽくなる。
奪われた唇はさくらんぼの実と似た触れ心地。ぷる、と小さく、彼の唇に塞がれる気持ちよさに震える。遅れて瞳を閉じ。小鼻同士も触れる距離で言葉を紡がれると熱い呼気を散らした。瞳をうっすら濡らしながらかすかに顎を上下させて。再びの唇に、甘い息声。

彼の腕に首を寄せながら立ち上がると「うん」と微笑んで彼を見上げ。
以前と同じように、自分の歩幅に合わせてくれる優しさが嬉しい。絡む指を、きゅぅと力をこめて喜びを伝え。時々向き合いながら瞳を細める。
物珍しい舶来品が並ぶ店の二階、そのおしゃれな佇まいと看板を彼と一緒に見上げて。
こくん!と頷けば、すり、と頬を彼の腕にすりよせた。
そのまま、首を彼の肩口へと傾けたまま中へ。