2017/08/14 のログ
■アーヴァイン > 「そうか……それは嬉しいんだが、こんな炎天下の中待ってたら、体に悪いぞ?」
今までも十分素直だったが、更に素直になったような気がした。
どちらかと言えば、愛情を甘受しやすくなったというところか。
その要因といえば、彼女を孕ませる勢いで抱いたあの日のことを思い出す。
子供をあやすように優しく黒髪を撫でると、包容を解きつつ、代わりにその掌を優しく握りしめる。
「少し涼むとしようか、いい場所がある」
行こうというように、ゆっくりと手を引いて歩き出すと、そこは倉庫として浸かっている小屋が並ぶ一角だ。
大体は食料品などが多いのだが、そこに真新しく大きな小屋が一つ。
そこの扉を開くと、夏の熱気が嘘のように感じるほどの冷気が溢れる。
「スノーフルーフ用の小屋を作ったんだが、ついでだから冷やすといい食材もここで保管するようにした。」
中央の大きな広間には、季節外れの雪が降り積もり、そこの上で雪綿毛と呼ばれる大きなエナガが幾つも丸まっていた。
彼らの避暑地といったところだが、そこを通り抜けて奥の部屋に入ると、程よい涼しさの空間にたどり着く。
テーブルと椅子が並ぶそこは、ちょっとした夏の休憩室といったところか。
「壁一枚隔てたせいか、あそこよりは冷えすぎてなくて丁度いいかと思ってな。商業区や王都に雪と氷も卸せて、まさに一石二鳥といったところだ」
丁度彼女と出会った頃からになるが、義父からの命で資金繰り周りを特に重要視した動きが多い。
この間の祭りの時もそうだが、独立した資金源とはいえ、手の入れ用は大きい。
適当なところに座っててくれ と彼女に告げると、片隅にある雪の積もった部分へ。
そこから瓶とグラスを二つ手に戻ってくると、テーブルの上へグラスを置いた。
薄っすらと白く曇るほどに冷えたグラスに、コルク栓を抜いて瓶から注ぐのは、ここへ連れてきた時に口にしたジュースだ。
凍らない程度、確りと冷え切ったそれは、まさに彼らの恩恵の賜物。
「遠慮せず飲んでくれ」
向かいの席に座ると、じっと彼女を見つめた。
■ルーク > 「はい、気をつけます…。」
ふとした瞬間に、いいのだろうか、と冷静になった頭であの晩の彼の言葉について考える。
自分などよりももっと、彼を理解し彼を立てて、彼を援助できる女性がいるのではないか。
それでも、そばにいたいと強い思いが彼の姿を探す。
あやすように撫でられるのに、どこか安堵するような表情を微かに浮かべ手を引かれて歩き出す。
「氷室かなにか、でしょうか?」
倉庫の立ち並ぶ方へと行き、小屋のひとつの扉が開かれれば夏とは思えないひやりとした空気が流れてくる。
「スノーフルーフ、以前王城にきていた鳥ですね。雪まで積もるのですね…。」
以前彼を王城に送り届けてきてくれた、真っ白でまん丸なフォルムの鳥たちは小屋の中で丸くなっている。
人の気配につぶらな黒い瞳を開いてパチパチと瞬くさまは、なんとも可愛らしい光景だ。
これほど冷えた場所ならば、夏場で傷みやすいものの保管もしやすそう。
「確かに、この時期氷の確保は大変困難ですし、氷室から街に運ぶまでに大半が溶けてしまうようですね。」
スノウフルーフたちがいた部屋よりは、寒いというよりも涼しい程度に上手く空調が調整されている部屋は、夏の日差しを浴び続けた体を冷やしてくれる。
椅子の一つへと腰掛けると、キンキンに冷えたジュースを出され。
「ありがとうございます。………。」
冷たくて、甘いりんごジュースはルークの好みの味のはずだった。
こくん、と一口飲むと表情はあまり変わらないながらも、カップをテーブルに置いて少し戸惑うようにジュースを見つめる時間があった。
まずくはない、けれど甘すぎるように感じるというか以前感じた味と少し違うように感じて。
■アーヴァイン > そんなところだと言いつつ連れて行くと、氷室というよりは鳥小屋の様な場所。
呟く言葉に小さく頷くと、手を繋いだ事で念話のラインが繋がったせいか、普段は聞こえないスノーフルーフ達の声が流れ込む。
『涼しい…』『幸せ…』『最高…もう冬まで出たくないの』
ぷぅぷぅと可愛らしい鳴き声を溢しているが、どうやらそんなことを呟いているらしい。
ルークと彼を見やれば、隼たちよりは言葉が流暢であり、符号紡ぎさんだ、お嫁さんだ、と、少し気の早い言葉で彼と彼女を認識しているのも聞こえるはず。
「……どうかしたか?」
冷たくなったリンゴジュースは、自身でも一度味を確かめたものだ。
彼女も納得がいく味だろうと思っていたのだが…反応が思っていたよりもよろしくない。
首をかしげる思いで問いかけると、ものが古かっただろうか?と思いながら、手元のグラスにも少し注いで味を確かめる。
前に確かめたときと味は変わらない、だが、彼女は何か違うと思ったのだろうか?
グラスに向けた視線を改めて彼女へと向けると、苦笑いで口を開いた。
「すまない……あまり口に合わなかった?」
自分からは言い出しづらいだろうと思えば、気遣いながらもそんな問いかけを切り出した。
■ルーク > 「………。」
ぷぅぷぅと冷たい雪の中で微睡むような真ん丸の鳥たちの声が、手をつないだせいで聞こえてくる。
彼が言っていたとおりの様子に、冷蔵庫の冷却材的な役割はともかくこの炎天下の外に出て動くのを拒否するさまが目に浮かぶようだった。
「――………。(お嫁さん、だなんて…私などよりも、もっと優秀で美しい人がいるかもしれないのに…ああ、でも…お嫁さんになれたら…従者ではなく、彼にとっての唯一になれるのかな…)」
隼よりも流暢な言葉が念話で伝わって来ると、その中に気の早い言葉が混ざりカァっと頬が熱くなる。
きゅっと握り締めた手から、無言の中に以前のようにノイズのように思考が混じり。
「あ、いえ…。よく冷えていて美味しい、はずなのですが…甘さが気になるというか。甘すぎるように感じるというか…。」
苦笑しながら問われるのに、慌てたように手を振る。
りんごジュースが傷んでいるわけでも、味が落ちているわけでもなく恐らく悪いのは自分の味覚なのだと。
■アーヴァイン > 事実、最近彼らが働いている姿を見れるとすれば、日暮れと朝方だけだろう。
それ以外は暑くて嫌だというのもあるが、体質的に熱に弱いのもあって周囲の空気を冷やしながら行動しなければいけない。
エネルギー効率が少々悪いのもあり、疲れさせないためにもこうした処置を行っているのもあった。
とはいえ、このだらけ具合は、隼達は雲泥の差だろう。
『お嫁さん嬉しそう』『いいお嫁さん?』『符号紡ぎさんは幸せもの』
彼女のノイズ混じりの思考が聞こえると、可愛い娘だと思いながらも、近くに居た鳥達にも聞こえてしまったらしい。
純真無垢といったところか、悩みながらも嬉しそうにしている声に、祝福するような賛辞を紡ぎ、ころころと雪の上を転がっていった。
「甘さが…強くなった?」
彼女の素直な告白に、不思議そうに呟く辺り、気を害したどころか、その謎に意識を向かせるほどに興味を示す。
呟きながら俯き考えを巡らせると、よほど気になったのか、ちょっと待っててくれと呟いて、勢い良く外へと飛び出していき、数分もせずに走って戻ってくる。
それは普通の倉庫に入れていた、同じりんごのジュースだ。
少し息を荒くしながら椅子に座ると、コルク栓を抜いて、普通のグラスに同じように注いで、彼女へと差し出す。
「もし本当にそうだとしたら……冷やすだけで、より甘く、美味しいものになる」
ならば確かめる他ないというように、彼女に味比べを頼む。
自分は色々と知ってしまっている分もあり、そういう嗜好品に触れることがなかった彼女のほうが、敏感なのだろうと考える。
真面目な顔をしているが、子供が新しい発見をした時のような好奇心を宿す目で、彼女を見つめていた。
■ルーク > 雪の上でだらけている姿は、けれど彼らのフォルムのせいもあってか涼しげで見るものを和ませる魅力を持っている。
「―――…っ(もしかして、また思考が混ざってしまっているのだろうか…。恥ずかしい…)」
表情には恐らく現れていないはず、と口元に手を触れてみるがそんな大きな変化は感じられない。
なのに鳥たちに嬉しそうと言われ、思考がノイズとして混ざってしまったときのことを思い出して、頬が赤く染まる。
ころころと転がりながら、鳥たちが口々に賛辞を紡ぐのに頬を赤らめながら俯いていたことか。
「…はい、以前飲んだ時は、甘くもすっきりとした甘さのように感じたのですが、甘ったるくて…。」
申し訳なさそうに彼を見上げると、考え込むようにしていたと思ったら、突然倉庫から出て行くのに何度か瞬きをして見送り。
そして、すぐに戻ってくると、その手に瓶が握られている。
コルクを抜いて注がれるのは、今注がれたのと同じ色のりんごジュースだった。
今飲んだのと違うのは、それは常温だということ。
「……――っ…常温のほうが、甘さがしつこいというか、これはあまり飲めません…。」
こく、と勧められるままに一口グラスを煽るが微かに眉間に皺が寄りグラスをテーブルへと下ろして。
傷んでいるとか、出来の悪いジュースであるわけではなくルーク個人の味覚の変化だということが分かるかも知れない。
■アーヴァイン > 「……やっぱり、練習しないとな?」
『ぁ、これお嫁さんの考えだった?』『ごめん、聞いちゃった』『こういうのは内緒がいいって聞いたから内緒、でも幸せ者』
雀のさえずりのように鳴き声が重なりながらも、転がる様子はどこか嬉しそう。
それとは裏腹に恥じらいに真っ赤になる様子を見やれば、可愛らしさに目を細めつつ軽く黒髪を撫でていった。
りんごの甘味が変化したのが、環境によるものではないかと考え、直ぐに動くさまは王族の養子にしては珍しいかもしれない。
すぐに飛び出していってしまったので、その驚きの顔は見れなかったが、見たとすればどうして驚いているのやらと、首を傾げたに違いない。
「……なるほど、それは…どちらかというとルークの味覚が変わったようだが…最近の生活のせいかもしれないな?」
常温の方は甘みがくどく感じたらしく、顔を顰めたのが見える。
冷気は感知を弱めるのもあり、甘いものが少しスッキリとしたように感じるかも知れない。
だが、温ければ、ダイレクトに甘みが舌に染み込むだろう。
日常に感じる人らしい味覚の変化を得た…ともいえるが、もう一つ、思い当たる理由があった。
もしくはと呟きながら立ち上がり、彼女の隣へと映ると、片膝を付いてしゃがみ込み、下腹部へと手のひらを重ねていく。
「身籠ったりすると、変わると聞いたことがある」
酸味を欲するようになったり、甘みに対する感度が上がったりと、子を育てるための栄養素を求め、身体が欲するのだという。
そんな話を思い出しながら紡げば、重ねた掌をゆっくりと動かして、優しくさすっていく。
■ルーク > 「…はい…。勝手に混ざってしまったものですので、お気になさらず…。」
頬を染めながら、慰めるように撫でる手を受け入れながらスノウフルーフたちのごめんとの言葉にはそう返して。
彼のフットワークの軽さにはいつも驚かされるものがある。
普通なら従者などに頼んで待つものを、彼自身が考えついたら次の瞬間には行動に移している。
従者として仕え始めて間もない頃は、そういった彼のあり方に大いに戸惑ったものだ。
「いろんなものをアーヴァイン様に食べさせていただいているから、味の好みが大きくなった、と?…しかし、こんなにも変わるものでしょうか」
栄養剤などで栄養とカロリーを補給していた時と比べ、彼とともに食卓を囲むようになっていろんなものを口にする機会が増えた。
それは味覚を豊かに育てているが、急に好きだったものが食べられなくなるなんてことはあるのだろうかと首をかしげて。
しかし、もしくは、とつぶやきながら彼がすぐ傍へと片膝をついて下腹部に手のひらを重ねられて紡がれた言葉に琥珀の瞳を丸くして。
「――…そういえば、今月は…予定日を過ぎても月経がきていません…。」
何度も瞬きを繰り返して驚きながら、心当たりにそう呟いており。
ゆっくりとさする様な彼の手を感じながら、彼の子がいるかもしれない驚きと、信じられないような気持ちとで言葉にならない。
■アーヴァイン > 「そういうことも考えられる。だがそれは、細かさが分かるようになるというところだ」
いろんな料理を口にするようになり、味覚への刺激が増えた。
それは甘いや苦い、塩味や酸味といった味の深さを感じやすくなったというところだろう。
それとは少し違うような…些細ながらにそう思いつつ、もう一つの可能性を語ると、彼女のつぶやきに、少しばかり目を見開きつつ、口が半開きになっていく。
それは、確実性が一気に高まる事実で……徐々に笑みに変わっていった。
「……少し、確かめてみるか」
符号紡ぎとしての視野を開き、一瞬瞳が青く変化した。
彼女の身体にも無数の符号が見えるわけだが、同時に違う命がそこにあるなら、その密度が増えるはず。
間接的な方法で彼女の下腹部に、新たな命があるかどうか確かめようとすると、少し、掌にじっとりとした汗が滲む。
■ルーク > 「…はい…。」
振り返ってみれば、ここごく最近だが甘味の強いナツメのドライフルーツよりも酸味の強いレモンのドライフルーツのほうが食べやすかった。
それも関係あるのだろうかと思いながら、月経の呟きを聞いて彼にしては珍しい驚きの表情が浮かぶ。
確かめてみるかとの言葉に、一つ頷くとそわそわそ少し落ち着かなさげにしながら彼に体を視てもらう。
ルークを構成する符号の中で、ルークの下腹部部分には彼の符号が流れ込んだかのように絡まり合っているのが見えるだろう。ほんの小さな小さな命は確実にルークの下腹部で息づいていて。
■アーヴァイン > 何気なく食卓に残っていたドライフルーツを思い出すと、よく食べていたナツメのが残っていた事が浮かぶ。
そのあたりを加味するならば、更に可能性が高くなる。
そして、符号の並の中に見えるのは自身に流れる符号と、彼女に流れる符号が溶け合うように集まっていく状態。
符号に塗りつぶされ、そこに何があるかまでは視認できないが、それだけで十分だ。
視野をオフにしていくと、薄っすらと笑みを浮かべながら下腹部に添えていた掌を彼女の頬へと伸ばす。
「おめでとう」
なんと言えばいいか、もっと気の利いた褒め言葉はなかっただろうかと、口にしてから思う。
しかし、簡潔で分かりやすい答えとして、これ以上の言葉はないだろう。
微笑みのまま優しく頬をなでた後、背中に腕を回して体を抱きしめる。
妾ではなく、唯一無二の従者として傍に居続けた彼女の願いがかなった瞬間。
膝をついたまま、少し首を伸ばすようにして耳元に唇を近づけていく。
「後は俺が……ルークを嫁として、認めさせるだけだな」
義父に、彼女が自分の大切な人だと伝えること。
同時に、それを認めさせて、妻としての地位を与えることだろう。
彼女が不安がっていたところではあるが、優しく背中を擦りながら言葉をつなげる。
「あの義父が直ぐに頷く方法も考えてある、そこは安心してくれ。それよりも今日は……お祝いだな。皆にいうのは、義父に認めさせたあとになるが」
その頃には、彼女の立ち位置は不動のものとなるからで。
前祝いというように、その日は仕事を早く片付けながら、二人っきりの祝杯をあげるだろう。
子供を宿したのだから、一層無茶はしないようにと囁きながら、腕の中で眠る彼女をいつも以上に愛しく感じつつ、今宵に幕を下ろすだろう。
■ルーク > 「―――…っ」
下腹部に宿る命の存在を確認した彼に、どうだったろうかと視線を向けていれば微笑みとともに頬にその手が触れる。
『おめでとう』
多分、生まれて初めて言われた言葉だ。
彼との間に望んだ子供ができた。彼がそれを喜び祝福してくれている。
胸から感情の名などつけられないほどに熱いものが、とめどなく溢れてくるのに目頭が熱くなる。
「――…っ嬉しい、です…とても、とても、嬉しい…。貴方さまに愛されることが、貴方様とのお子ができたことが全てが…」
悲しみからでもなく、痛みからでもない熱い涙がこぼれ落ちて頬に添えられている彼の手を濡らしている。
触れている手からも、嬉しい、愛しいといった思念が漏れて伝わってしまっていることだろう。
そして、消しきれない不安の影も。
背に腕を回されその腕に包まれて、嬉し涙をこぼしながらぎゅっとルークからも彼の背にしがみついた。
「…はい…」
嬉しさに満たされる反面、その光に照らされる影は濃くなる。いいのだろうか、これでいいのだろうかという気持ちと、そしてなによりルークにとって絶対的であったルーアッハの存在。
しかし、彼の養父を説き伏せる自信と、お祝いとの言葉に今はただ幸せを噛みしめる。
早く仕事が片付くよう手伝いながら、夜は更けていき二人だけの祝福の時が流れていく。
ご案内:「ドラゴンフィート」からアーヴァインさんが去りました。
ご案内:「ドラゴンフィート」からルークさんが去りました。