2017/03/30 のログ
イーヴィア > (――もしかしたら。 もしかしたら、記憶を取り戻す兆候なのかもと言う期待は在った。
けれど、己を見る彼女の瞳は、未だ10歳当時の幼い瞳の儘
其れでも、せめて其の瞳の前では、落胆の表情は見せまい
彼女は…少女は、何も悪く無い。 ただ、両親の帰りを待ち続ける少女の
何が悪いと言うのだろうか。)

………何が見えたのか知らないけれど…、……顔が、怖かったって言ってるな。
……不安な時とか、怖くて仕方ない時ってのは…、……こうやって、誰かにくっついてると安心するもんさ。

(腕の中、抱き寄せた彼女の耳元へと、そんな言葉を伝えながら。
己が体温を分け与える様にして、僅かでも、其の顔から恐怖を拭ってやりたいと、思う。
或いは…もしかしたら、其の恐怖にこそ、彼女が彼女を、生きた年月を取り戻す鍵が在るのやも知れない。
――今までは、向き合わせるべきなのか、未だ己には判らずに居たけれど。)

……話して御覧? ……ぼんやりとでも良い。 ゆっくりで良い。
何が見えたのか…、……何が怖かったのか。

(――ふと、少女へと問うて見る。 出来うる限り穏やかで、柔らかな声音で。
少しでも、其れで少しでも、何かが前に進めば良いと、そう願いながら。
少女の頭を、そっと、己が肩口へと抱き寄せては、凭れる様にと促しつつ
叶うなら、其の体躯を、己が膝上へと招こう。 …幼子相手の様に。

或いは――彼女が、彼女であった時、何時もそうしていた様に)。

テイア > 「……そんな顔、してたかな?怖い事なんて、何もないよ?…でも、こうしてもらうの、なんだか安心する…。」

恐怖した自覚がなければ、男の言う事に首をかしげるが触れる体温に緊張が解けていくのも女自身感じていた。
怖かった事、怖かった事…なんだろう、と抱き寄せながら思い出そうと思考を動かせば、開きかけた記憶の蓋は完全には閉じずにじわじわと水が染み出すかのように少しずつ零れ始める。
瞳を閉じれば、先程よりも短い周期で暗闇の中に白い光がよぎり、チカチカ、チカチカ、めまいのように閃く。

「…目を閉じるとね、暗い中でチカチカ白い光が見えるの。そう…光が見えて、おとうさんとおかあさんが、私を呼ぶ声が聞こえて…」

肩口へと頭を抱き寄せられれば、体重を預けるように体から更に力が抜けて頭の重みが男の肩口へと乗せられていく。
そうしながら、更に抱き寄せられれば細い女の体は男の膝の上へと幼子のように抱き上げられる。
それが、嫌ではなかった。
むしろ、しっくりと体が馴染むような安心するような安定感を感じながら女が口を開く。
暗闇の中に見える、像を結ばない白い光の瞬き。
それに意識を向けていれば、両親の声が聞こえてきたこと。
そして――

「――っ…っ…」

男に抱かれて、力の抜けていた体に再び緊張が走る。
白い光の瞬きの間隔が更に狭くなり、そして視界が真っ赤に染る。
必死の形相で少女へと迫る母の顔、そして悲鳴のような名を呼ぶ声とともに母の重みと濡れた感触と、染る視界の赤。
緊張に強張る体は、恐怖に震え呼吸が乱れて肩が激しく上下し始める。

「――おかあさんっおかあさんっ!!」

ガタガタと震える女から、悲鳴のような声が出る。
それは、真っ赤に染る視界のなかで叫んだ悲鳴と重なり母を呼ぶ。

イーヴィア > (――己は、知らない。 女が生きて来た其の永い年月と、女が経験して来た全てを。
千夜一夜で語る事なんて到底出来やしない、其の過去は、果たして己が知って良い物なのかも判らない。
其れでも、漸く開き掛けた其の記憶の蓋を、己から閉ざす事だけは、出来なかった
瞳を閉じる少女が、徐々に語り往く其の光景。 瞼に焼きついた、幼き記憶。
――そして、其れが、思い出、と呼ぶには余りにも悲しい物である事を予感させるのに
きっと、然程時間は掛からなかった、か。)

―――――………! ……、……テイア…ッ ……!

(――微かに、搾り出すような声音。 腕の中で、激しくもがき出す様な彼女を強く抱き締めて支えれば
双眸を細め、ただ、呼び起された其の記憶へと最後まで、向き合わせよう
――何かが、きっと在ったのだ。 彼女の母親に。 其の記憶を追体験させているのならば
己は、何て残酷な事をしているのだろうか。
――否、其れでも。 其れでも、己はきっと、為さなければならない。
だって、そうでなければ。 ……誰が、彼女を救って遣れると言うのだ。)

――――……何が…、……何が在ったんだ…?
……御前は…、……何を乗り越えて来たんだ…、……テイア・ルア・ルナミス…!

(問おう。 ……其れは、少女へと。 そして、『彼女』へと向けた、言葉。
どんなに暴れようとも、或いは、其の体躯が己を傷付け様とも構わない
腕の中、ただ、少女の脳裏に溢れ出した其の記憶を、最後まで取り戻させよう
例え、もし其れが彼女にとって辛い記憶であったとしても)。

テイア > 「嫌だっ!!おかあさんっおかあさん――っ!!」

流れ出す赤と、失われていく温もり。
溢れ出す記憶と、現実とがわからなくなる。
悲鳴をあげ、もがく体は10歳のそれではなく鍛え上げられた女の力で、押さえ込むのは容易ではなかっただろう。
それでも、強く強く男に抱きしめられその膝の上で母を呼ぶ。
暴れる腕が、足が男の体を打ち爪が皮膚を引っ掻いて傷を作り。
森が赤に染まったその日の記憶。
遠い遠い過去に、最も女の中に焼き付いている記憶が呼び起こされていく。

「真っ黒な何かが、いっぱいきて、おかあさんがわたしの名前を呼びながら走ってきて、私に覆いかぶさったと思ったら真っ赤になって、動かなくなってっ――」

神代から人の世へと移り変わっていった時代。
世界には常に光と闇がコインの裏表のように存在している。
世界の移り変わりに際して、ほんの少し生じた綻び。
そこから闇が溢れ出して、森を血に染めた。
ソレは、闇によって作られた異形だったのか闇にとりつかれた人間だったのか分からない。
大群で押し寄せる真っ黒なソレが、森の民の命を奪っていった。
少女を庇う母の肩ごしに見たのは、真っ黒な何か。
何があったと、問いかける男の声は今の女には届いていなかった。
けれど、唇はみている過去の記憶を紡ぎわなわなと震えている。

「真っ黒な鎌みたいなのがまた振り上げられて、私もおかあさんみたいに――っ」

追体験と、記憶としての瞳に焼き付いた映像がごちゃごちゃになってくる。
流れ出る赤と、失われる温もりを感じながらも第三者としてみているような記憶が唇から溢れるたびに、男に女の記憶が伝えられていくか。

イーヴィア > (心は10歳に逆行していても、其の身体は鍛え上げられた其れだ。
英雄と呼ばれし数少ない存在、かつて王都の騎士団すら率いた豪傑
本気で暴れれば、大の男であっても止めるのは難しいだろう
脚を、或いは腹を、背中を、女の四肢が打ち据えて行くのを唯静かに堪え
溢れ出す其の記憶を、僅かでも己の中に留めて置こうと、耳を傾ける
忘れぬ為に、女の苦しみを、悲しみを、少しでも共に受け止めてやる為に。)

――――………聞いててやる。 ……最後まで…聞いてるからな…。

(――今は、己が言葉も届いていない様子の少女へと、其れでも。
宣言の様に、覚悟の様に、最後まで聞き届ける事を、囁いた。
其の唇が紡ぐ光景は、事実であるが故に凄惨で、無情。
少女の瞳が捉えるには、余りにも悲しく、痛ましい映像だった筈だ
これ以上、彼女を無闇に悲しませて良いのかと自問すら浮かび上がる程に
――けれど、それでも、己の知る彼女であれば、きっと乗り越えた筈なのだ
この悲しみも、この苦しみも、乗り越えたからこそ英雄なのだと、信じている
だから――聞き届けよう。 其の、壮絶な記憶の、最後の瞬間までを。
彼女の母がそうしたように、彼女を護る様に強く抱き締め続けながら)。

テイア > 悲鳴をあげながら、体は必死にもがくように暴れ続ける。
けれど、男の腕は決して女の体から離される事はなく抱きしめ続ける。

「――光が、黒い何かを切り裂いたんだ…。黒い何かが、倒れたらその先に私たちみたいに耳が長くない男の人が立ってて…」

それは、少女が初めて見た人間という種族だった。
聖なる光を湛えた長剣が、真っ黒い何かを切り伏せて少女の命を救った。
けれど――

「真っ黒いのが切り裂かれても、おかあさんはもう動かなくて、呼んでも、返事してくれなくて、おとうさんも…おとうさんも、体を起こしたらおとうさんも倒れてて…動かなくて…」

いつしかあれだけ暴れていたもがくような動きは収まり、ガタガタを震えながら瞳から涙がとめどなく流れていた。
自分を庇うように覆いかぶさった母が、目の前に現れた人間によって抱き起こされると少女は母にすがって何度も呼んだ。
けれど、母が目を開けて返事をしてくれることはなかった。
そして、身を起こして少女が見たのは母と少女を守ろうと黒いものに立ちはだかったのだろう父の姿。
武器を手にしながら倒れた父もまた、少女の声に返事を返してくれることはなかった。

「村のエルフも…みんな…森の木も、土も赤くなってて…」

涙を零すその表情にあるのは、絶望と失った悲しみ。
悲鳴に掠れた声は、見ている光景を紡ぎ出す。
そうしなければ、心が砕けてしまいそうで自然と声が状況を紡いでいた。
真っ黒なものは、白銀の鎧に身を包んだ騎士たちによって打ち払われた。
しかし、失われた命と流された血は多く森を悲しみと赤に染めた。

『すまない、もう少し早く来ることができなくて』

そう、少女に詫びたのはあの聖なる光の剣をもつ男性だった。
白銀の聖騎士たちを従える『聖王』と呼ばれた当時のマグメール王国の王。

イーヴィア > (――己は、此れでも戦争と言う物には良く触れて来た
鍛冶屋で在り、時には傭兵染みた事だってした事も在る
けれど、彼女が其の唇を震わせながら紡ぎだす其の光景は
戦争なんて生易しい物では無い、一方的な、虐殺の光景だ。
一方的な暴力で、弱者が虐げられて行く、戦いなどではない、唯の蹂躙
其の時に、父も、母すらも亡くした其の悲しみは、絶望は
――きっと、己には推し量れない。

少女の言葉に声を返す事も憚られる、嗚呼、と小さく頷くだけで精一杯
何時の間にか、其の瞳から溢れる涙を、己が肩に全て染み込ませてやりながら
――ゆっくりと、腕から力を抜いて行く。)

……全部…居なくなったのか。

(――大きな、侵略が在った。
全てを失うほどの、大きな侵略が。
けれど、其の侵略を止めた光も存在したと言う。
其の存在を、己は知らない。 己が生まれる遥か昔
この大地を統べた偉大なる王の存在を――けれど、彼女は知っている。
次第に、落ち着きを取り戻し始めた其の体躯を、優しく、宥める様に
其の背筋を、ゆうらり、ゆうらりと撫ぜあやしては
僅かに、其の濡れた頬へと、己が頬を摺り寄せた)。

テイア > 今の世ならともかく、妖精郷、理想郷とまで謳われた当時の王国においては有り得ないような悲劇。
それは、神々から人の世へと移り変わる綻びで、一瞬だけ生まれた悪夢。

「おとうさんも、おかあさんも、おじさんも、おばさんも…みんな知ってる人はいなくなっちゃった…。」

ぐっしょりと肩の布が濡れるほどに、涙がとめどなく溢れて濡らす。
森の民が全て死に絶えるということは、騎士たちの働きによって防がれた。
綻びによって一瞬生まれた悪夢は、聖なる光によって消しさられたが少女にとって身近な者は残らなかった。

「おおばばさまは、いつか私が大いなる流れに還るときにみんなに会えるよって言ってくれたけど、寂しくて寂しくて…悲しくて…」

世界の全てが色あせて、目の前は闇に包まれた。
そんな中で、光り輝くものが少女の中に焼きついていた。
それは、黒きものを切り裂いた聖なる光と、その光をもつ王と騎士たち。
彼らは、勇敢に戦い、死者を丁重に弔い、生き残ったものを支援した。
そんな彼らの姿が少女は忘れられなかった。

「おおばばさまから、助けてくれたのは人間の王様とその騎士だって教えてもらったの。
 私も、その人たちみたいに強くなりたいって思った。そしたら、おとうさんやおかあさんみたいに死んじゃう人がいなくなるって。
 私も、守れる力が欲しいってそう、思ったの。」

それは、光に縋るように抱いた強い憧れ。

「おおばばさまは、すごくすごく反対して、だから…私は森を出たの。」

――そして、少女は騎士を目指した。

イーヴィア > ―――……そう、だったんだな。

(――それは、英雄譚には語り継がれぬ物語。
一人の少女が、悲しみを振り切って、騎士を目指した始まりの物語。
誇り高き人の王に憧れ、歩み始めた其の切欠は、余りにも悲しい出来事だった
少女が其の意志を固めるまでに、果たしてどれだけ悲しんだだろう、涙に暮れただろう
其れでも、少女は前を向いた。 其処に希望を見出した。
だからこそ…今、この腕の中に居るのだ。

背筋を撫ぜていた掌が、そっと少女の後頭部へと沿う。
其の乱れた髪糸を梳き、整えてやりながら撫ぜては
其の頬へ、流れた涙の痕を辿り、口付けを緩やかに触れさせて。)

―――……大変だったろ、騎士になるってのは。

(――届くかは、判らない。 けれど、静かに囁く。
騎士を目指した一人の少女の物語、其の続きを。
完全で無くても構わない、彼女自身の記憶を辿らせ
そして、少しでも思い出せば良い、自分の存在を)。

テイア > 柔らかな細い銀糸は、暴れたことで乱れ涙で肌に張り付いている。
そっと大きな男の掌が、沿うように髪を撫で付けては涙ではりつくそれをはがしていく。
労わるように、慰めるように男の唇が涙の痕を辿り触れるのに瞼を震わせれば新しい涙が流れ落ちていく。

「王都にたどり着いて、騎士になりたいと申し出たけど最初は門前払いだった…。何度も何度もお願いして、追い返されて、それでもお願いし続けて、一人だけ騎士になりたいってわたしの話を聞いてくれる人がいたの。」

女で異種族である自分が騎士になりたいと申し出ても、聞き入れてもらえなかった。
何度も門前払いを喰らいそれでも、諦めずに願い続ける少女に応えた騎士がいた。
師と仰いだその騎士に、下働きから仕え騎士道精神や剣術や武術などを学んでいったことをぽつりぽつりと、語る。
騎士見習いから、従騎士を経て厳しい修行の日々を思い出す。
――そして

「森を救ってくれた『聖王』に再び会う事ができたのは騎士としての叙任を受けた時だったな…。森で出会ったときにお若かったあの方も、随分と年をとられていた。」

少し女の口調に変化が見られる。
まるで昔を懐かしむような口調と表情を垣間見せる。
水が染み出すように溢れはじめた記憶は、両親の死の悲しみと絶望、そして聖王と騎士への憧れの一番強く心に焼き付いた記憶を契機に女の中で一気に溢れていく。
しかし、長い年月の膨大な記憶はすべてが刻まれる事なく流れていくものも多い。
印象に残る記憶だけでも、膨大な情報量になる記憶に頭がついていかなくなってきたのか、男の肩にもたれながら額を抑えて何度も頭を振る仕草が増えていく。

「――っ…」

イーヴィア > (止め処無く溢れる涙は…けれど、此れまでに少女が流した涙に比べれば、一瞬の事だろう
もう、すっかりと肩の布地は涙に濡れて仕舞っているけれど、構いやしない
何時の頃からか、昔話を語る様に記憶を辿る少女を
己が体躯を揺り篭めいて、ゆうらりと揺らしながら抱いては
――彼女が、ふと、疲労めいて首を振る其の仕草の合間に、緩やかに頭を撫ぜてやり。)

……覚悟も、決意も、本物だったんだな。 ……今でこそ、エルフが騎士になるのは珍しい事じゃない。
……きっと、誰かさんが、其れだけ頑張ったからだろうさ…。

(今は、王都の騎士団は様々な人材で構成されている。
其れも、前任者が築いてきた流れが在ってこそだろう
再び、今度は騎士として、伝説の聖王に謁見出来るまで認められた
其の間にだって、人に換えれば永い年月を経た筈だ。

小さく、そして穏やかに、少女の耳元へと囁き掛ける
急がなくて良い、と。 ゆっくり、自分の中で整理しながら、思い出して行け、と。)

……騎士になった…、……けれど、其れはまだ始まりだ。
……其処からは、俺も少し知ってるぜ。 ……テイア、御前の話を、な。

テイア > ゆらりゆらりとゆりかごのように、抱かれる体を揺らされるのに膨大な情報量についていかない頭は、疲労から睡魔のような感覚に襲われ、何度も頭を振って。

「もうその時の私には、騎士になることしかなかった、からな…。それでも、人が騎士になるよりも随分と時間がかかって騎士に叙任された…。」

通常であれば、10年ほどでで騎士に叙任されるところを倍ほどの時間を要したと、長い修行の年月を語る。
それでも、叙任式で再び会うことの叶った年老いても聖王の気高い姿は強く印象に残っている。

「……そう…そう、始まり…まだ私は、新米で…いや、部隊を指揮した記憶もある…。
 わたしの話を、知っている…?」

記憶の混乱に、眉をひそめながらも何度も瞬きを繰り返して記憶の整合性を探る。
混乱する記憶を探る中で、自分の話を知っていると囁く男の顔を見上げ。
紅い髪、褐色の肌、どこか見覚えのあるような気がする顔立ちが目の前にあった。

ご案内:「ルミナスの森 城」からイーヴィアさんが去りました。
ご案内:「ルミナスの森 城」からテイアさんが去りました。