2016/12/13 のログ
ご案内:「第七師団駐屯地」にサロメさんが現れました。
■サロメ > 第七師団駐屯地
王国内にいくつか配備されたそのうちの一つ
その一室
普段は怪我をした戦士達が静養する部屋
その部屋は今貸し切り状態に近く、
一つだけにされたベッドの上には、薄い布地の簡素な衣服に身を包む、
かつての第七師団副将軍の姿がある
■サロメ >
「………」
物言わぬ人形のように、虚ろな眼を窓の外の景色に向けて、
爽やかに吹き込む朝風にその髪を揺らす
……あれから、師団はあらゆる治療をサロメに施した
その甲斐あってか、肉体に刻まれた傷跡はまるで元からなかったように消えている
ただ、その両手首には、その手を拘束する枷が付けられていた
鎮静魔法の効果により今は抑えられているものの、
一度効果が切れれば肉欲が芽吹き、粘膜が擦り切れるまで自慰を繰り返してしまう
定期的に鎮静魔法をかけ続け、時間がその心を癒やすことに賭けるしか、
今の第七師団に打てる手立てはなかった
■サロメ >
比較的街から離れ、自然の多いこの駐屯地に運んだのも、
わざわざ怪我人を別の駐屯地に移してまで、この部屋を用意したのも、
師団全体の意思としてサロメの再起を願ってのことだったのだろう
「(───なんのために)」
窓から見えるのは、蒼き山々
豊かな河川、心あらわれる、そんな風景
「(なんのために、いきながらえたのだろう)」
心の中に去来するのはただそれだけだった
ベッドの脇に立てかけられたアイスブランド、魔剣ゼルキエスがカタリと震える
■サロメ >
鎮静魔法のおかげか
ほんの僅かに戻った、すぐに流れゆく水滴のような"理性"が、
今のこの状況をほんの少し、理解させる
奮起し、女であることをハンデとさせないよう息巻いて、
第七師団の為、王国の為に出来る限りのことをやろうとした
一度折れた心を周りに支えられて、もう一度と立ち上がった
それでも繰り返した
自分のやること、為すことが権力の前に無様に散った
オーギュストのように、
蛮勇と刃、力を以って在り方の牙を突き立てる
それくらいの気概がなければ、この国に巣食った魔に食い潰されてしまう
理解っていた筈だったのに
"お前は真面目すぎる"
いつだか言われた言葉が耳の奥に蘇る
「(オーギュスト……)」
彼は、戻ってきた
絶望的だと言われた状況下で、どこからか復活を果たした
信じていなかったわけではない
ただ、彼が戻ってくるまでの間、第七師団を守り抜くという自分自身の誓いを果たせなかった
もはや、合わせる顔もない
■サロメ >
(よく頑張ったほうじゃないか)
心の奥底で何かが囁く
(悪名高い第七師団で、副将軍まで上り詰めた
王城での発言権だってそれなりにあった、先の戦争でも名を挙げた)
"女だてらによくやった"と
これ以上を続けるには、この国はもう根から腐りきっているのだと
理解はしている
自分が歩んできた道とその顛末が、その全ての答えなのだと
(遺した功績を胸に、家に帰って
普通の、アクアリアの息女として余生を過ごすべきなんだ)
■サロメ >
アクアリアは伝統的に王国貴族に仕える騎士の家柄である
貴族に仕える騎士、といってもそれは男の話
当代とって11代、この代に限り男種に恵まれず、本来ならばサロメは養子を迎える筈であった
それに反対を真っ向から押し通し、
父のような立派な騎士になるべく王国へと登城し、
より厳しい環境を求めてその時既にあらゆる噂の坩堝であった第七師団の戸を叩いた
仕える家計と言えど貴族の末席
荒くれの集まる第七師団はショックと困惑の連続だった
「(……あの頃は随分苦労したな)」
鎮静魔法の効果か
普段ですら考えないような過去の思い出が浮かんでくる
そして、もういいのだという諦めの声も、同時に
■サロメ >
……なぜそこまで出来たのか
それは、わかりきっている
目標があったからだ
幼い頃、家に訪れた女騎士の姿に憧れを抱いた
男でなくても、アクアリアの騎士に成れるのだという意思が心に根付いた
第七師団では、近くて遠い、広い背中を見続けた
その背中は余りにも隙だらけで、後ろを守る盾がなければダメだと、心に誓った
そうなろうと、そう在ろうとした
(でも、もう無理だろう?)
そのために積み重ねてきた全てを無駄にしたくない、という想いはあった
だけど、その想いも感情も何かに塗りつぶされたように、表に出てこない
何かが、自分の中で蠢く異物がそれを阻害する、覆い隠している
■サロメ >
「───っ」
がしゃん
手枷が鳴る
鎮静魔法の効果が薄らぎ、同時に意識が混濁しはじめる
疼きと、肉欲と、淫らなことばかりが沸き立つように浮かび始める
がしゃん、がしゃん
その音を聞いて、慌てて第七師団の術師が部屋へと駆け込む
すぐに開始される施術
薄く淡い緑の光が方陣を描いてゆく
やがて心地の良い、安らぎの沼へと心が沈んでいき…
起こしていた上半身をゆっくりとベッドへと倒す
「(───いつまで、いきながらえればいい…?)」
"もう少しの辛抱だよ"
まどろみはじめた意識の奥で、誰かがそう囁いた気がした
■サロメ > やがて、小さな寝息と共に───
ご案内:「第七師団駐屯地」からサロメさんが去りました。