2016/11/28 のログ
セリオン > 抱きとめられた女の体は、外気に比べて熱かった――先ほどまで屋内にいたか、それとも運動でもしていたか。
少なくとも、自然体の人間の体温よりは幾分か、大きな熱を持っている。
しかし、目の温度を問えば、相当に低い。
抱きとめられても暫くの間、自分がどういう状況にあるのかを分かっていないようにさえ思えた。

だが、さすがにそれも、一度近づいた体温が再度去っていけば――抱きとめてくれた彼女が体を放せば、状況を認識したか。

「……ああ、これは失礼。大丈夫ですよ」

詫びはすれども礼は無し。ぶっきらぼうな口調、やさぐれた目は、身につける衣服にまるで似合わないもの。
似合わないといえば、空の左袖も似合わない。
腕を失って、尚生きているような経歴が似合わない、とでも言えば正しいだろうか。

女は、右手の酒瓶を顔の上で逆さにした。
酒は無い。だから、何も溢れてはこない。
たっぷり5秒もその状態が続いた後、ようやく瓶が空だと気付いてか、女は酒瓶を、近くの建物の壁へと投げ付けた。

「……失礼ついでに、お酒はありませんかね?」

まっすぐ歩けないほどになりながら、良くも言ったものだ。
空になった手を、覚束なくも相手へと伸ばす様子も、支えを探しているようでさえある。

ノア > 気まずさからすぐに離しはしたものの、随分と高い体温に気付いて。其の酔い様もあって、相当量のアルコールを摂取したのでは.. と。他人とは云え心配そうに、貴女の顔を覗き込めば

「 ねぇ、ほんとに大丈 ─── 」

冷えきった目元に、数日前の出来事が蘇る。思い出した屈辱と恐怖に思わず語尾が消えるも.. 目の前の相手とは関係のない事だと 自分に言い聞かせ、片手を差し出す貴女に言葉を続けた。

「 悪いけど持ってないの、ってゆーか.. 酒瓶片手に歩いてる女の方がレアかと.....

ま.. 余計なお世話だと思うけど、今日はもうやめといたら ? 」

瓶が砕け散った外壁をチラり横目に苦笑い。一番の特徴である綺麗な金髪に気付いたのは、腕、冷たい瞳に続いて最後だった。

セリオン > 伸びてくる、手。
幾度もの受打で骨から丸く分厚く変形し、皮膚には消えぬ傷が幾つも刻まれた、固めればそのまま鈍器となる手。
修羅場を潜った人間の手であった。
今、この女の左肩に備わっていない、失われたのだろうもう一つの手も、おそらくはこうだったのだろう。
冷え切った目と相まって、その手には害意さえあるように――

有る、のか?
その有無を判別するのは、また個々人の資質に寄るのだろう。
だが少なくとも、これが好意的な動作であろうと見る人間は希少である筈だ。

伸ばされた手は、相手の左肩に置かれようとする。
ふらふらと歩き、背も伸び切らない女だが、近付いてみれば167cm――相手より10cmばかり背が高い。
仮に意識が明瞭であれば、その伸びてくる手に、どれだけの速度と重さを載せることが出来るのだろうか。

だが今は無力だ。
押し倒し、跨り、喉を抉ればあっさりと殺せそうな程、この女は力が無い。

「……じゃあ、貴女が代わりになりますか?」

だと言うのに。
今、どちらが強いかを問えば、間違い無く自分が弱いだろうのに、普段の癖か、高圧的な物言いだった。

「飲むか、遊ぶかしていないと、余計なことばかり考えるんですよ。」

覗き込んで来る相手を迎えるように、自らも首を前へ――逃げられなければ、額まで重ねるだろう。
酒精の匂いがたんと混ざった吐息が、鼻をくすぐるまでに距離を詰めるだろう。
それは一瞬、彼女を試すようでもあった。
この女は今、間違い無く弱い。
だが、彼女が感じ取った――恐怖か、それ以外か――感情も、全く間違いでないことは、この女の手が、目が示している。
このまま、逃げずに居て良いものか。
本当にこの女は非力な、無害な存在なのか。

「貴女が、お酒の代わりになってくれるんですか……?」

案外に明瞭な舌が綴るのは、弱音にも似た言葉。

ノア > 「 代わりって、何を言っ て.. 」

泥酔していたって修道服を身に纏った聖職者だと、自分の過去を目の前の酔っ払いに重ねても仕方ないと.. 繰り返し自分に言い聞かせるも ──

( ─── なんか、こわい。)

「 いや..... 飲みたいなら酒場、遊びたいなら娼館だってあるし.. 」

形容し難い恐怖に表情が強張る。貴女の意識を自分から他所に向けようと、通りの店を指差してみたり。こつんと重なってしまった額も、渇いた作り笑いと共に離し距離を取って。

「 .....てゆーか近っ。残念だけど他あたって、あたしそろそろ帰るし。シスターにも色々あるんだろーけど、まぁ.. 頑張って、神のご加護があらんことをー 」

我ながら酷くクオリティーの低い作り笑いで、ひらひらと手を振りながら よく耳にする言葉を付け足した。そのままくるりと身体を反転させ、来た道を.. 来た時よりもやや早足で戻る。

途中、悲壮感だだ漏れの男娼の手を取り無理矢理に引っ張ってゆく。宿まで連れ込んだ彼に一晩分の料金を支払えば、特に何もせず少しの間、恐怖を紛らわす為の話し相手にでもなってもらうのだろう。

ご案内:「平民地区 /歓楽街」からセリオンさんが去りました。
ご案内:「平民地区 /歓楽街」からノアさんが去りました。