2016/10/02 のログ
■レイカ > 依然、私は彼女のところへ足を運んだ。
その理由はひとつ、この耳飾りをとりに行くためだった。
二度と戦わない、だからもう必要のないものだ、と騎士団を抜ける際に、彼女に手渡した。
精霊との会話を可能にし、力を借りるために必要な耳飾。
母様の肩身だからこそ、一番信用できる彼女に、私はこれを預けていた。
「い、いえ……テイア様こそ、元気そうで…。」
敬意をこめて、私はいまだに彼女を”テイア様”と呼んでいた。
騎士団にいたころ、いろいろとよくして頂き、心を壊した際にも世話をしてくれた。
同じエルフだから、という理由だけでなく、彼女だけが私の心の支えだった。
まるで、姉のような感情を抱いていたのを、今でもはっきりと覚えている。
その彼女と、まさかドラゴンフィートで会えるなんて、思っても見なかった。
思わず顔がほころんで、彼女に近寄ってしまう。
そして、敬礼をしてしまう。
彼女に敬意を払うのは、私の中で一番大事で、そして必要なことだった。
「まさか、ここで出会うなんて思ってもいませんでした…!
テイア様、いったい今日は何用でこの場所へ?」
■テイア > 人の世。
人そのものであったり、あり方であったりと惹きつけるものは様々なれど、エルフに憧れを抱かせる存在。
エルフにはない、魅力があるのかもしれない。
けれど、その反面エルフにはない毒気を孕む。
その毒気は、今の時代この国に満ち満ちている。
そんな強い瘴気のような毒気に晒されて、壊れそうになってしまっていた彼女を知っている。
形見である耳飾りを預かった、壊れる寸前の憔悴しきったあの表情を覚えている。
そんな彼女が、再び耳飾りを、精霊の力を求め戦うことを決意した表情を見たとき安堵した。
「ああ、私の方も…色々と変化があったがこのとおりだ。」
うん、と一つ頷いて答える。
敬礼には、もう騎士団所属ではないから必要ないとは思うが彼女の思いに答えて返して。
「私もそなたに会うとは夢にも思わなかったな。最近、こちらと森の繋がりができたのでね。街道の山賊対策に警備の面での協力と、こちらで作成した馬車の提供を受けているんだ。色々と荷を持ってきたのと、話したいことがあったんで、こちらの代表であるアーヴァインに会えればと思って向かっていたところだ。」
■レイカ > 毒気、それに当てられて私の夢や理想はもろくも崩れ去った。
憧れではなく、自分の力でやれるところまで。
理想の世界を作ろうと、あがいて見せた。
けれど、現実はとても恐ろしいものだった。
あざ笑う貴族の顔、虐げられるミレー族、ありとあらゆる毒気にさらされた。
そして――――私は、壊れた。
もう戦いたくない、あんなものを見るために、騎士団に入ったんじゃない。
そういって、私は彼女に戦わないことを近い、耳飾を預けた。
今にして思えば、ひどい顔をしていたのかもしれない。
弟にも、あの人にも見せたことのないような、絶望しきった顔を。
だけど、私がもう一度彼女に会いに行ったときに、にこやかに出迎えてくれた。
そして、必要ならばもっていけと快く、返してくれた。
むしろ、今まで預かっていてくれたことを感謝しても仕切れない。
「街道の山賊対策でしたら、私もその部隊に時折編入しています。
近頃は山賊の動きも穏やかで、警備を少し緩めようかという動きも…。」
街道の警備も、私は時折ながら参加していた。
ただ、もっぱらその理由はドラゴンフィートの周辺警備、なのだが。
「アーヴァイン…団長なら、今は少々出かけていると思います。」
――――団長、それだけで今、私がどこに身をおいているのか知れよう。
もっとも、戦うと決心した際に少々話したと思うが…。
■テイア > 耳飾りを取りに来たとき、決意を固めたその顔をみてもう大丈夫だと、安堵した。
騎士団を去る際、森へと誘った。
けれど、最終的に彼女が選んだのは王都に留まること。
静養などで一時的に森で過ごしたとしても、そこに永住することはなかった。
そして細々とミレー族の支援を行っていたのも知っている。
支援を行っているにもかかわらず、耳飾りを取りに来ることはなかった。
そんな彼女が、耳飾りをふたたび身に付ける決心をしたのだ。
「そうか、そなたも参加しているのか。森からも自警団を出して街道の警備を行っている。街道も長いからな、ドラゴンフィートと一緒に警備を行うことは少ないが。…様子を伺っているだけかもしれないし、もう少し今の警備体制を続けるべきだとは思うが。その辺も相談する必要がありそうだな。」
警備に参加しているということは、ここの住人という立場だけではないようだ。
おそらくは、チェーンブレイカーに所属しているのだろう。
彼女の今までのミレー族の支援のことを考えれば、納得もいく。
それは、ここの代表のことを団長と呼ぶところからも伺い知れる。
「そうか。アポイントメントをとるために書簡を送ったのだが手違いかなにかで、到着のほうが早くなってしまったからな。仕方がない。アーヴァインには、後日改めて時間を取ってもらうとしよう。」
やはりか、と小さく吐息を吐き出すがいないものは仕方がない。
彼も多忙だというのも知っている。
■レイカ > 戦う方法はいくらでもあった。
ただ…私はそのときに、彼女に入っていない、あることを抱えていた。
今の私は、女であって女ではない…。
一番大事な機能を失ってしまって…もう、以前の私とはまったく違う。
だけど、それ以上に――――私がもう一度耳飾をつけるにふさわしい理由を見つけた。
もう迷わない、私はもう一度戦うと、決心した。
彼女が、それを見て笑ってくれたことが一番心に残っている。
「はい、といっても今はほとんど周辺の警備と…少しだけ気になる話があるので、王都とここを往復しています。
そのあたりは、団長と相談をしてください。
私はただの一般団員ですので、さすがにそこまでのことは…。」
いつ帰ってくるのかわからない人だ、普段何をしているのかも見当がつかない。
ただ、こんな場所にいるなら、何かしらのミレー族の支援をしているとは思う。
先日、帰ってきたらしいけれど――誰かと少し話をして、再び出かけたらしい。
「気づかなかった、という線もないとは言い切れないかもしれませんね…。
付き添いのものに、言伝を頼んでいくのはどうでしょうか?」
確か、いつも一人で行動していたわけじゃなかった気がする…。
なんといったか、あの大きな鳥。
あれに言伝を頼めば、もしかしたら伝わるかもしれない。
■テイア > 「あまり無理はしないようにな。そなたは無理をしすぎるきらいがあるからな。ああ、足並みは揃えておきたいので、しっかりと相談させてもらう。」
耳飾りをつける理由。
打ちのめされ、壊れそうになった彼女がふたたび見つけたその理由はとても大切なものなのだろう。
けれど、彼女自身も大切にしてほしいと願ってやまない。
「そうだな、帰ってくるタイミングによっては書簡が読まれていない可能性もあるが…。まあ、それだけ急ぎというわけでもないから、また日を改めるとする。そうだな、簡単に言伝を頼んでおいてもいいかもしれんな」
■レイカ > …この人には伝えておこう。
今の私のことを。
「…よく言われます、お前はいつも、ミレー族のためなら無茶をする女だって…。
だから、自分の体を元大事にしろと…大切な人から。」
私は軽く、自分のおなかをさすりながらそういった。
その顔は、どこか幸せそうな顔をしているかもしれない。
ただ――私の体に、新しい命が宿っていないことだけは、付け加えて教えておこう。
私の体を大事にしろ、とよく言われる。
だけど、この身ひとつでたくさんのミレー族が笑える世界が作れるなら、今度こそ壊れても。
私は、とある人に出会うまでそう思っていた。
「じゃあ、またこの集落にこられるということなんですか…?
あ、あの……よければ今度、食事でもどうですか…?」
私がミレー族の支援を行っていた際、協力してくれていた人がここで店を構えている。
その店のパスタがおいしいので、よければテイア様にも召し上がっていただきたい。
■テイア > 「そうか…。ならば、私からは何も言うことはなさそうだな」
その仕草、表情を見ればかけがえのない存在ができたのだと伝わってくる。
その人が、彼女を気にかけ言葉をかけてくれるなら大丈夫だと双眸を細め。
「ああ、また改めて訪問させてもらう。そうだな、あまり長居はできないが食事をする時間くらいは大丈夫だと思う。」
ドラゴンフィートとルミナスの森の距離を考えれば、滞在時間はどうしても短くなってしまう。
宿泊すればいい話ではあるが、森に残してきている子供達のことを考えると難しいし、心配でいられない自信があった。
馬車がなければ、オルカモントを走らせて移動時間を短縮できるだろう。
もし話が長引いて時間が取れなくても、そのときは会いに来ると約束をして。
■レイカ > 「……はい、あと。
もうレイカリオは棄てた名前です、私のことは、どうかレイカと呼んでください。」
騎士団だったとき、私はこの名前を誇りにしていた。
だけど、その名前を持っていた私は、確かにあの時死んでしまった。
だから、今の私はレイカ。
もう何も失うことのないように、強くなることを決心したエルフだ。
「ええ、それでかまいません。
相変わらず、多忙な日々を送っておられるのですね…。」
そういうテイア様こそ、自分の体をご自愛なさってください。
私は、彼女にそう伝えた。
姉のように慕っている人が、何かの拍子で倒れてしまったなどと、笑い話にもならない。
だけど、私は知らなかった。
彼女に、二人の子供ができたことを。
「私も、仕事が片付いたら森へ遊びに行かせていただきます。」
あの森は心地いい、私がエルフだからというだけの理由じゃない。
きっと、彼女の努力の賜物なのだろう。
■テイア > 「ああ…。では、改めてこれからもよろしく、レイカ。」
名を捨てるということの意味を思うと遣る瀬無い。
けれど、レイカと名乗る彼女の表情をみれば女も笑みを浮かべて改めてその名を呼ぶ。
「それほどでもないさ。騎士団では今はしがない部隊長だし、騎士団のほうの職務は休んでいるからな。」
そのおかげで腰を据えて領地の問題に向き合うことができるわけだ。
心遣いには礼をいって。
「ああ、いつでも歓迎する。実りの季節が巡ってきたからな、今の時期に森にくるのはおすすめする。」
果物も何もかもが美味しい季節になったと笑みを浮かべて、しっかりと頷き。
■レイカ > よろしくといわれ、新しい私の名前を呼ばれるとなんだかこそばゆい。
かつて、私の道しるべとなり手を差し伸べてくれた彼女が、私の目線で話してくれる。
相変わらず、この人は優しく、そして気高い。
この人という存在は、私にとって大きな意味を持っていた。
もちろん、大切な人とは別の意味で、だが。
「…休職?…あの、もしやテイア様も貴族に何か因縁を…!?」
私は、心の中で大きな焦りを感じた。
こんなにやさしく、気高い人にも貴族が何か因縁をつけられたのか。
やはり、傲慢な貴族を野放しにはできない、もしそうなら…。
私の顔が、一瞬怒りでゆがむが…。
「あ…え、ええ……そうですね。」
あっけらかんとしているような彼女の言葉に、少しそれが収まった。
気にしているそぶりもないし…貴族に何かされているわけではない?
軽く肩を落としながら、とりあえずこの人が貴族に因縁をつけられているわけではない、と安堵した。
■テイア > 「その程度で休職していたら、仕事が滞って仕方がなさそうだな。一身上の都合、というやつだな。そろそろ復帰しようかとは考えているが。」
その歪む表情から、こちらへの気遣いが痛いほどに伝わってくる。
そして、彼女の心の奥に残された傷跡が垣間見える。
大丈夫というように、ぽんと彼女の肩を叩いて女は少し不敵に笑ってみせる。
「そうだな…職務を休んでいた理由は、森に来た時にその目で確かめてもらうとしようか。」
きっと驚いて、そして祝福してくれるだろうことを想像すれば唇には笑みが浮かぶ。
■レイカ > 「はっ……し、失礼しました!」
そうだ、彼女の心は私などよりもずっと強い。
貴族の嫌がらせや、遊びを目の当たりにしたくらいで心を壊したりはしないはずだ。
やはり、以前のトラウマで…私はどうしても過敏に反応してしまう。
しかし…彼女を目の前にすると、どうしても騎士団に所属していたときの癖が抜けない。
「…森に、ですか?」
以前、森へ赴き耳飾を返してもらったときに、ある程度のものは見て回った。
きれいな城だと思ったし、そこで働いていたエルフたちもとてもやりがいを感じていた。
まあ――過去に私が言い寄って、こっぴどく振って、そして私に言い寄るという、なんとも失礼ないとこはいたけれど。
しかし、彼女の顔はどこか、本当に幸せそうな顔をしていた。
私が騎士団にいたころには、どうあがいたって見たことがないような、本当に幸せそうな顔だ。
その理由を私は気づくことができず、ただ少し首をかしげるに留まるが。
■テイア > 「けれど、その心遣いに感謝を。…それから、あまり畏まらなくてもいい。騎士団所属時代はともかく、今は対等な立場なのだから。」
彼女の心遣いは痛いほど伝わるから、双眸を緩めるとそう礼を言って。そして、苦笑する。
癖というのはなかなか抜けないのも理解はできるが、肩がこるだろうと。
「色々とここ最近大きな変化が私にもあったということだ。言ってしまっては楽しみがなくなるからな。」
耳飾りを受け取りに来てから今までの間に、自身に人生最大の変化があった。
左手の薬指の指輪は、今は手袋に隠れてしまっていて見えないだろう。
柔らかな笑みを浮かべたまま、森に来るときまで内緒だと唇の前で人差し指をたてて。
「さて、色々と話をききたいところだがまた次の機会にとっておこう。そろそろ荷下ろしの手続きをしないと…。」
代表がいないなら代わりの責任者に伝えて、もってきた品々を受け取ってもらわなければならないと話を切り上げて。
■レイカ > 「………。ふふっ…。」
変わった、この人は代わった。
どこがというわけじゃない、雰囲気が変わった。
あの、気おされてしまうほどの雰囲気を感じなくなり、変わりにその空気はとてもやわらかくなった。
畏まらなくてもいい、そういってもらえた…けれど。
「癖なので、どう足掻いても抜けそうにないので…。
それに、ずっとこの口調だったので、いまさら変えることはできませんよ…テイアさん。」
だから、これで妥協。
彼女のそのしぐさに、私はどんな心境の変化があったのか…それを楽しみにすることにした。
またいずれ、必ず森に行くことはある。
だからそのときに、彼女の心境の変化と、そして今までのことを、いろいろ話すことにしよう。
「あ、それならば私が代理人として処理しておきましょう。
私は、団長直轄の部隊に所属していますので…。」
だから、積荷の受付は私を通してもらえれば、と思う。
もちろん私も彼に会える機会は早々多くはないが、事務的な手続きならば、少しはやれる。
■テイア > 「まあ、そのあたりで妥協しておくか」
様からさんに呼び方が変わったのに一つ頷いて、冗談めかして。
空気が柔らかくなったと彼女が感じるならば、冬の尖った氷柱が春の木漏れ日を受けて丸くなっていくように。
女を暖かく照らす存在が傍にあることと、そして彼女を対等と認めているからで。
「ではよろしく頼む。助かるよ。団長が受け取りを拒否しても返品不可だと伝えておいてくれ。」
馬車の積み荷は、その馬車の制作費として持ってきたものだった。実際に彼から請求がきたわけではないが、森からの誠意として持ってきたのだと説明して。
謙虚な彼のことだから、もしかしたら断るかも知れないと考えてそう念押しをして
■レイカ > 「そうしてください、何しろ弟にも敬語で話すような女なので…。」
以前、私に家族はいなかった。
いなかった、というと少し語弊があるかもしれないが、とにかく私に身内と呼べるような人はいなかった。
だけど、私は自信を持って弟、と呼べる子供を一人預かっている。
だが、どうしても敬語だけが抜けないのは――もう、性格だと思うしかない。
「わかりました、しっかりと受け取っておきます。」
事務的な手続きさえ終わってしまえば、もう受け取るしかないだろう。
なんだか、姉と一緒に友達へいたずらをしに行くようなそぶりで、私は彼女の荷物と点検し、そして記していく。
記述を終えれば、私はテイアさんを見送るために、門まで一緒に歩いていくだろう。
久しぶりに会った恩人の顔が、とても幸せそうで、少しだけうらやましく。
そして…傭兵の仕事で出かけている彼に、なんだか少しだけ会いたくなってしまった日だった。
■テイア > 「それならば仕方がないな。」
粗野な喋り方よりも、敬語の方が聞いている者も気持ちがいいだろうと思えば、頷いて。
4台の馬車には、それぞれ森の特産の果実、薬草、霊石、魔術鉱石、一般鉱石などが積み込まれており次々に下ろされていく。
「では、またなレイカ。」
門まで送ってくれた彼女に挨拶をすると、一段は街道を南へとくだって去っていった。
ご案内:「ドラゴンフィート」からテイアさんが去りました。
ご案内:「ドラゴンフィート」からレイカさんが去りました。