2022/10/29 のログ
ご案内:「魔族の国」にエリーシャさんが現れました。
エリーシャ > ――――――これ以上ないというくらい、娘は苛立っていた。

戦場に於いて力及ばず、虜囚とされるのは致し方のないところ。
大人しく囚われている気も無いが、捕虜として扱われるのならば、
ここまで苛立たないに違いない。

けれど、これは違う。

頭巾で顔を覆った者たちに身を清められ、ドレスなど着せられて、
ふかふかと柔らかなベッドのある部屋などに、閉じ込められる、というのは。
腹立ち紛れに飲食を要求すれば、同様に顔の見えない使用人の手で運ばれてくる。
要らぬ、と突っ返せば、無言で首を垂れて盆を下げてゆく。
―――――全くもって、気分が悪かった。

武器や軍装を剥がれるのは、未だ、良い。
けれども着飾らされて、尋問も拷問も加えられず、ただ、
珍しい鳥か何かのように囚われている、というのは――――――

「……誰だか知らないけれど、気に入らないわ」

鉄格子の填まった窓の向こう、見たことのない闇色の空を睨むように見つめ、
低く呟いて息を吐く。
奪われたきりのしろがねは、ともに捕らわれた愛馬は、その後どうなっただろう。
――――――これを考えるのも、もう、何度目かも知れず。

エリーシャ > ぼぉ――――――… ん、 ぼぉ、――――――… ん …

低く、重苦しい音が聞こえ、娘はそちらへ視線を向けた。
サイドボードに置かれた、年代物の飾り時計が立てる音だ。
そこに示された時刻が果たして正しいものなのか、
外の様子からも、ほかの要素からも、娘に知る術は無い。

―――――ただ、それが次に音を鳴らす時。
いつも、扉は軽く叩かれ、外側から開かれる。
金物で出来た水差しとグラスを盆に乗せ、頭巾の女が現れる時刻だ。

はじめの数日、娘はもちろん黙っていなかった。
彼女人質に取ってでも、逃げ出すことも考えたものだ。
しかし――――――――

ドレスの裾から覗く素足、細く白い右足首に、頑丈な鎖が巻きついている。
ベッドの脚にがっちり繋がるその鎖は、どうやら魔力で編まれたものらしく。
繋ぎ目もなければ、鍵穴らしきものもない。
―――――つまりは人質ひとり取った程度では、脱走はままならない、ということ。

「……いっそ、さっさと顔を見せれば良いのに」

誰がこんな真似をしたにせよ、相対してみなければ何も始まらない。
元来気の長い方とは言えない娘にとって、待つことは何よりも苦行だった。

エリーシャ > 歓迎しても居ないものを、起きて待ち侘びるのも業腹だ。

腹の立つほど柔らかなベッドに身を投げて、娘は硬く目を閉じる。

やがて訪れる頭巾姿の女が目にするのは、行儀悪く四肢を投げ出し寝息を立てる、
令嬢とは思えない娘の姿であった、という――――――――。

ご案内:「魔族の国」からエリーシャさんが去りました。