2019/10/27 のログ
ラファル > 「んー……。でも、良く浮いてるよね、これー。」

 地面を踏み踏み、踏みしめてみる。ちゃんと踏みしめることができるし、走ることもできそうだ。
 空から見たときには、風に流されているようにも見えるのだけれど、あと踏みしめたら穴が開いて落ちていきそうな気もしたが。
 どうやらそうではなさそうで一安心である。

「おいちゃん、其れは酷ってもんだよー。
 ボクだって、たった今竜から戻ったんだし。」

 ぷくぅ、と頬を膨らませる幼女。
 子竜とは言え、3m級の大きさになっていたのだ、そして、変身を解いて着地した瞬間に言われたらむくれるしかあるまい。
 取りあえず、紐で結わえてあったバックパックを取り外し、中からごそごそと服―――と言って良いのだろうか。
 ベルトブラと短パンを取り出して佩くのだった。
 腰に小太刀と背中にバックパックで、いつもの幼女に。

影時 > 「今、地脈の流れを探ってみたンだが、やっぱり異様だなァ。
 中でぐるりと回っている感覚が無い。ただ、外から流れている感覚だけがあった。風が、な。

 重みと溢れ出す風の強さが、今は釣り合ってるだけだ。
 いずれ出涸らしになって落っこちるか、或いは風化しきって崩れ落ちるか……なんだろうなァ」

都合よく浮いているだけ、ではない。今は辛うじてバランスが取れているだけだろう。
恐らく山中や地中深くにある魔力溜まりか、それとも結晶か。兎も角そう言った風のモトが出し尽くしてしまえば、落ちるのだろう。
或いは、強すぎる風の力の吐出の結果、この浮上した地盤を風化させて崩し去ってしまうか。

「そりゃぁ、な。だが、着ておけ。何があるかどうか分かったモンじゃぁない」

外套に包まれた肩を竦め、立ち上がっては口元を覆う覆面の位置を直す。
目の細かいの布と数種の薬草、炭を混ぜ込んだ防護面だ。それによって有害な塵の吸入を防いでいる。
それほどまでに、この地の異様な大気は無策では危ない。
弟子の準備が整ったのを見れば、ゆっくりと歩き出してみよう。先ずは前方に見える城らしい遺構だ。

ラファル > 「んー……竜巻のような感じでも、無いんだよなぁ。
 此処の風、壁の中をぐるぐる回されているような感じの風だよ。」

 空を飛んで、この中に入ってきた感覚は、上手く表現ができないが、こういうのが一番近いだろう。
 恐らく、結界か何かで包み込み、そして、その中を風が暴れているようにも思える。
 抑え込む結界と、暴れる風の均衡がとれていない、と、幼女は伝えるのだ。
 其れは恐らく、彼の推測を裏付けるものであるのだろう。
 風がこの島を持ち上げているのだが、それが出尽くせば、堕ちる、と言う所。

「空気の守りは作っておく?」

 この場所、高空であり、酸素は地面に比べてとても薄い少女はそもそも竜なので問題はないのだが、修行をしているとしても、酸素の薄さは、火薬を使ったりするのに不具合が起きる。
 そして、覆面をして塵から守る様子に、空気の結界で浄化した酸素を送ることを提案する。
 返答を待たずに先に歩き始めるので、ちょこちょこと付いて行くことにする弟子。

影時 > 「然様か。んじゃァ、概ね当たりってトコか。
 ……重しになってた魔王サマがいなくなっちまったから、風が暴れ出したなんて触れ込みだったが、存外間違いじゃあなさそうだな」

風読みの一点に於いては、精度が高いものとして弟子の言は信用における。
ただただ溢れ出して、垂れ流すだけではこの地盤を浮上させたままにするには心もとない。
源流、源泉が枯れ尽くせば墜ちるのは間違いない。
如何にしてこの地に至る所以の話が王国側に伝わったのか、気になる処ではあるが真実であった。その一点を以て良しとする。

「嗚呼、ちょっとだけくれ。調息する時は改めて欲しいがな。
 土の力は辛うじてあるが、五行を回すにゃ手間がかかるな。……風そのものを捏ね繰り回す方が、早いか」

己の識る五行の理に於いて、風は木の行に纏わるチカラだ。
風の力が強すぎる故に、土の力を剋してしまう。逆に魔力を籠めた火を使うと異様なふるまいを見せかねない気さえする。
ふぅむと考えながら、一先ず呼気を整えようと弟子の提案には小さく頷いて頼む。

そうしつつ、周囲を見回そう。
強度が低く、脆いものについては真っ先に吹き飛ばされるか、砂交じりの風で削られて朽ち果てている。
原形を保っている建物もよく見ると、時折鑢で削られたの如く、角が削られて丸められているような印象がある。
それでもなお、確かに魔族たちが住んでいたという生活感が残る場所が、あるのだ。

ふと、足を止めて覗き込むのは大きな商店だったと思しい、側面が開けた建物の一角だ。
木箱の残骸やら、模様も削れた硬貨らしい金属屑がどうにか、吹き溜まりとなっていた辺りに積もるように放置されている。
一方で、積もった塵に自分達のものでは明らかにない足跡めいたものも見える。

どうやら、魔物の類も棲んでいるのかもしれない。そんな想定が出来るものが。

ラファル > 「うん、多分、両方とも別々の魔道具か何かだと思うよ。」

 魔王が居なくなって、風が収まらない、と考えるならば、魔道具で風と結界を作り出しているのであろう。
 そして、結界は安定をつかさどる物だから、暴走しているのは風を作り出していく方なのだろう。
 そして。

「これが落ちてきたら、大変だよね。」

 そう、こんな大きなものが落ちてきたら、下に或る場所はその周囲は大きな被害を受けるのであろう。
 王国も―――バカではない人が居るので、そういう存在が、恐らく警戒していたのであろう。
 幼女には、興味のない事なので、他人事マックスなのであるが。

「あいっ。……ではでは。」

 精霊にお願いをして周囲を見回している師匠の周囲に、薄く膜のような空気の層を作り上げる。
 防御ではなくて、呼吸のためのものである。
 また必要になれば、行ってくれるだろうから今はこれでいいのだろう。
 それが終わってから、少女はクンクン、と鼻を鳴らす。
 空気に混じる匂いを感じ取るために。


「…………ん。
 此処に居るのは、魔族ではない、お金を必要としてはいない。
 という事は、知恵の無い物、若しくはごく少数で、金銭を取引に必要としないぐらいの数。

 ―――足跡の数からみると、前者というところ。」

 視線をゆっくりと動かしてみる。
 師匠の後ろから少女も店の中を眺めまわして、推測を零してみる。
 見立てに間違いがあるかどうか、ちゃんと見立てられているか。

「―――別の場所に菜園とかあるのかなぁ?
 食料が、気になる。」

 生き物が生きるのに必要な物。筆頭として、水と食料。
 水は雲やなんかを集めればいいのだけれど、食料はどうするのだろう。
 先程匂いを嗅いだ時も、そんな匂いがしなかった。
 居るのは、アンデッドだろうか、と。

影時 > 「まどーぐ……という説も無ぇワケでもないか。

 俺が聞いた話によるとな。どうも、この辺りは異様に四大の力のうちの風が強ぇンだとよ。
 風に関する絡繰りが関わっているのか。それとも、天然の何かかあるのか。少々気になるトコじゃあるわな」

嗚呼と、頭で覚えている範囲を口で伝えよう。
有り余るほどの風の魔力を秘めていた土地は、鎮守たる王を失ったことで押さえつけられていた魔力が溢れがした。
故に大地から放逐されるが如く、地盤ごと浮上した――などという、真実ではないかもしれないが、そんな逸話だ。
この風の源泉が王国で云う何がしかの魔導機械である可能性ももちろん、否定はできない。
気になれば、ありそうな場所を探しに掛かるのが人情というところだ。

「改めて空に揚がりゃぁ、見えンだろうな。どっかが崩れて落ちるところが。
 下界に住んでるモノにとっちゃあ、そりゃぁ災難だろう」

己も、生憎とこの地に住まうもののことまでは心を傾ける由縁はない。
ただ実際の事物を見て、思いを馳せるだけだ。斯様な光景はそうそうあるものではない。
廃墟となった遺構を黒い影が、かつて住まった者たちと同じように、風の音に紛れながら静かに闊歩するのみだ。
見回している折に、薄く生じた大気の層を美味そうに吸って、反芻して僅かなりとも休息を得る。
王国に戻ったら、暫くは身体の具合を戻すために休養も必要だろう。

「その見立てで正解だなァ。何故なら、俺も同じ見立てだからだ。
 ラファルよ。この辺りは確かに風は強いが、同時に風除けに出来るのが幾つもある。詰まり、身を休める場所はあるってこった。

 ――だが、えり好みはあるンだろうなぁ。

 風を抜けて、あるいは逆らって飛べる奴同士が此処に住む。てなら、縄張り争いでもやって負けた方を喰らう……って寸歩よ、ッ!」

植生は皆無ではないにしろ、如何せん水分を賄えるかどうか心もとない。
そうなると、自ずと敷かれるのは弱肉強食の理屈だろう。獰猛な猛禽たちが風を凌ぎ、飢えを満たすために争い合うのだ。
この地に現れた闖入者をその野生で歓迎するかの如く、ふと上空が陰って襲い掛かってくるものがある。
その影を認めれば、ぱっと退いて抜き打ち様に右手を振る。
そうすれば、袖口に仕込んだ棒手裏剣が滑り出して手に収まり、続く手の振りで擲つのだ。

重い音ともに胴に突き立った鋼鉄の勢いのままに、建物の壁に叩きつけられる魔物が転がる。
ギャアギャアと耳障りな鳴き声を上げるのは、曲がりくねった鉤爪と嘴が目を引く鳥型の魔物だ。
止めと更に投げ込む苦無の刃で、鳴き声が止めば肩を竦める。嗚呼、地獄で鳴く怪鳥があればきっとこれに似ているに違いない。

ラファル > 「そ。みたいだね、風が強いのもそうだし、風の精霊もすごく元気にしてるもん。
 ちょっと、力が強すぎて狂ってるようにも見えるし。
 面白そうだね!」

 風の力が強いというのは、良く判る、こんだけの物を飛ばしているし、風の壁も、吹きすさぶ様も、それをよく表しているからである。
 逸話を聴きながら、未知なるものへのワクワクを抑えられない幼女は、うひひ、と笑ってみるのだ。
 面白いもの有れば良いなぁ、と。

「見てくるのは、後でいいんじゃないかな。
 それに、ま、この下は、魔族の国だし、良いんじゃないかな。」

 どうなろうとも、彼等の自業自得と言うものである、この城を飛ばした魔族に怒ってもらおう。
 風の音の中、これなら足音を消すのは楽だけど、匂いを消すのは面倒だなぁ、と言う認識を一つ。
 風が強いから、直ぐに匂いがかくさんしてとんでいってしまうな、と。

「あぁ……そっか。」

 飛んでこれるのだから、それが出来るのがほかに居ないわけではない。
 此処に昔から居たのだろう存在、そして、大きな食用肉。
 美味しそうなお肉をと思ったが、数は多くない様で、師匠の掌から放たれる苦無が、棒手裏剣が風を切りそれに突き立っていく。
 どすどすどす、と肉を切り裂く鉄の音を聞き、堕ちていく怪鳥。
 それを見やり、ちぇ、とつぶやいたのは自分の分が残っていないから。
 ま、いっか、とぽてぽて、死んだ怪鳥に近づいていくのだ。

「ししょー、これ、ごはんにしていいよね?」

 と、背負っているバックパックを開き、怪鳥の死体をバックパックの中にしまい込みながら問いかける。

影時 > 「狂っている――嗚呼、良い表現だなァ。さっきまで凧に揺られている時もそんな心地だったぞ。
 偏りが過ぎて、一切合切吹き飛ばしちまいそうな塩梅だが、見物にゃなろうな」

生憎と精霊の対話や使役の力は、己にはない。
故に、弟子たる竜の少女のコトバというのは参考になる。もちろん、主観が混じる分だけ正確さに欠けるという意見もあるだろう。
だが、人間とは存在を異とするモノを少なからず客観視して、言語化できる。それはとても凄いことである。
故に軽んじるべき事柄ではない。風も狂う程の、属性の偏り。人界ではなかなか目にかからない事柄だ。

「そこまで関わってやるのも、なァ? 
 だが、余分に落とさないのも大事なことか。こっちから目くじら立ててこられないようにすンのは重要だぞ」

あくまで物見遊山というのは、あくまで当方の言い分でしかない。
我が儘に振舞うが、己が責任の及ばぬ範囲で事を大きくしてしまうのは大変危ない事柄でもあるのだ。
周辺に住人(?)が居るかどうかは定かではないにしろ、余計な痕跡は残さずに立ち去ることは肝要である。

だが、どうしてもこのような偶発事項は無視できない。
襲い来た怪鳥を検分し、打ち込んだ手裏剣と苦無を引き抜き、拭って納めよう。

「骨張ってそうだが、良いぞ。何より、余分な痕跡は残さねェに限るからなあ。
 鳥が居るのは予測はしてたんだが、……狂った精霊の類も闊歩してても、おかしくはないか。」

そして、さっそくと鳥の死体を仕舞い込む姿に目を瞬かせ、仕方がないなあという風情で口元を釣り上げて頷く。
狂った元素のバランスが、余計な産物を生み出すということも遺跡探索の際に見かけたことがある。
城の方に進んで行けば、もしかすると生き残っているガーディアンの類もあるかもしれない。
気を付けて進むぞ、と声をかけながら、左腰に帯びた太刀を確かめる。大きいものを相手取るなら、この刃の方が良い。

道なりに歩き進めば、城らしい遺構に至り付く。
らしい、という表現は天守閣と思しい大きい建物の上部がまるで爆裂したかのように消失しているからだ。
往時は白い壁に彩られた、ある意味壮麗なものであったのだろう。だが、それらも風化によって見る影もない。
城門もまた然り。扉も大きく凹んで、外からぶち抜かれたことを痕跡で示しながら虚ろに開かれたままだ。
 

ラファル > 「あれ、もっと風がおとなしい所でやるべき物だよね?ね?
 これと同じものが、地面に来たら、きっと竜巻とか出来ちゃうね。
 見物にしてもいいけど、命がけだと思うよ?」

 風の精霊王クラスの風が、その存在なしで発現をしている、異常事態と言って良いような状態だけれども、密閉された結界の中でひたすら風を集めた結果なのだろう。
 少女は外に視線を向け、未だ荒れ狂う風を眺めて言うのである。

「知らないし、縁のない所だし、ね。
 無駄に怒られたくないもんね、唯でさえ、色々あるんだし、此処。」

 説明で聞いたが、元魔族の王―――魔王の居城である、故に物見遊山できた、と言う言い訳が通用しないこともある。
 そもそも、魔族の国に不法侵入してきているのであるからして、見つかったら魔族に襲われるだろう。
 不法侵入でなくても襲ってくるだろうが。
 穏便なまま、何事もなく帰りたいね、と少女も思うのである。

「あーい。
 じゃあ、後で焼き鳥にするねー。たれ持ってきてるから!
 んとね、精霊は……今のところ風の精霊は、外でビュンビュンしてるよ。
 この辺にはいないみたい。
 とは言え、この辺を闊歩できるとなると、上位精霊レベルになるとおもうよ。
 紐づけが、小さいから……つまりは、強い精霊じゃなければ、居られない場所だし。」

 言い方を変えれば、水の中で、息を止めて歩くような状態である。
 属性が少ないのに、問題なくいられるというのは単独で行動ができるレベルの強い精霊となるのだ。
 此処で精霊に会うという事は、風の精霊を除けば大体が上位になるだろう。
 だから気を付けてね、と。

「自然に壊れた、と言う雰囲気ではないんだね。
 襲撃に会って壊れたのかな?
 それとも、すたれた後に、冒険者たちが破壊したのかな?」

 壊れている城門、風化の度合いから、襲撃で壊れて、撃ち捨てられたままのようにも見えるけれど。
 どうなのだろう、と近寄り、先ずは罠の有無を確認する。
 誰かが居ると仮定するのは、常のようなものだ。
 罠の安全を確認してから、改めて調べよう

影時 > 「おー、よく分かったなァ。正直ここの風を甘く見てた。
 ……俺の国ではな、夏に颱風という大嵐が来るンだがな。アレとタメ張れるか、それ以上よな」

無策であれば、間違いなく死ぬ。
この場合の無策というのは逃げる算段も何もなく、その身一つで嵐の中に居るということだ。
嵐は時間が過ぎれば、その力を吐き出し切って自ずと消えて失せる。
だが、この場の風とはまるでとめどなく、尽きることなく吐き出され続ける一方でしかない。
風の力が失われない結界、暴風圏内で留まり続けて、暴威を振るい続ける。それはまるで、既に去った王の暴威を忘れないように。

「おうよ。あ、まずい。……嗚呼、あとで凧の残骸が残っていれば拾って処分としとかなきゃならンな」

痕跡を残さないという一点で、しまったと髪を掻く。
先程の凧だ。発火符で生じた炎でちゃんと燃えていればいいのだが、望み通りに出来ているかどうかは少し不安だ。
行きも帰りも痕を残さぬよう、綺麗に去っておくのが肝要というのに。

「準備イイなぁお前。有難ぇが。
 この辺りに居ないってなら、有難い。跋扈できるとなれば相応に力がないと無理だろうよ……と」

手持ちで用意している調味料となれば、塩と目つぶしに転用できる赤唐辛子の粉末くらいだった。
だから、肉の臭みなども消せる調味料の類は何かと重宝する。
追加で教えてもらえる精霊の情報には考え込み、極力避けて移動できるように心掛けようと決める。
太刀に氣を籠めて振るえば、斬り飛ばせることだろうが、余分な消耗は避けておきたい。

「……ブッ、壊された方よなこりゃ。この規模の扉だと、破城槌か火薬仕掛けて飛ばさなきゃきつい」

己も周囲の警戒、並びに破壊手段を検分し、見定める。
扉も魔族の手になるものとなれば、少なからず唯の鋼ではない、魔力が宿った金属だ。
強化された金属の扉をへこませるとなれば、どんなインパクトが叩き込まれたのだろうか。
遠く、遠雷の如く咆哮が響く。その有様に顔を引き締め、中に這入ってゆこう。

作り自体は砦や城とかわりはない。門の中、向こうには庭園――の、残骸が広がっている。
奇怪なオブジェや趣味を疑うような代物はないが、独自の様式に則って整備はされていたのだろう。
だが、悉く打ち砕かれている。否――まだ残存がある。呟くような異音と共に、其れが出る。

左腕がもげ落ちた、翼と牙を持つガーゴイルだ。辛うじて残存していた護衛なのだろう。
口を開けば、其処に有り余る風の力を纏めて、光を伴う旋風として自分達に吐きかけてくる。其れを外套を翻し、横に飛び退いて躱す。

ラファル > 「何というか……風を受けて舞い上がるタイプの道具に見えたんだ。
 あのロープは命綱と言うだけじゃなくて、風の受け方を調節するようにもおもえたし。

 颱風……大嵐かー。ワクワクするね!」

 この、密封された、大きな風の中を考える、それを超えるようなものが有るのだと聞いた。
 風の竜として、そんなすごい風を浴びたいな、と思わず目が輝く。
 そして、風に関して言えば、この幼女が居る限り、無策という事にはなるまい。
 その気になれば、周囲の風を凪に変える事さえできるのだから。

「えー……?。あ。
 あの風でバラバラになっていればいいけど―――うん。」

 痕跡云々を気にし始めたタイミングを考えると、流石に今はまずい。
 そして、あの凧は、マグメールから此処まで持っていたので、あの風でバラバラになるとは考えにくいものだ。
 帰りがけに探すかーと考えよう。
 風が強いと真空もできてしまうので、そうなると燃えるものが燃えなくなるし。

「ご飯は大事だもの!
 風の精霊だったらボクがお話しできるし、違ってもたぶん何とかなるよ。」

 これでもドラゴンである、竜の爪は、牙は、魔法の力を持つ。
 狂って居て会話ができないのであれば最悪引き裂いてしまうこともできるのだ。
 だから、その辺りは自分が出るよ、と。
 有限である道具を無為に減らすべきではないからである、直ぐに補充の利かないものが多いし。
 因みに、幼女のバックパックは、マジックアイテムであり見た目と違って大量の品物が入るのである、重量なども見た目通りの重さ以上はない。
 品物の分の重量でも、幼女は平然と持てるのだけれども。
 なので、基本的に調味料とかそういうのが無駄にたくさん入っているのだった。

「という事は、少なくとも誰かが侵入している、と言うのは間違いないんだね。
 結構昔の痕みたいだけれど。」

 扉の破壊された経年を、錆具合などから、推測しつつ、立ち上がり、師匠の歩みに付いて行こう。

「―ごめんね、ボクに風は、効かないんだ」

 避ける師匠、そして、魔力の質を見極めた幼女は、その場に立ち尽くす。
 痕跡はなるべく内容にとは言えど、攻撃してくるのであれば話は別だ。
 身を守るために其れは排除するべきであろう。
 風の魔力に干渉し、無害な微風へと作り替えつつ、幼女は踏み込む。
 ぐ、と握るこぶしは、鱗に包まれて。
 そして、そのガーゴイルの顔面に、真正面から正拳の拳を叩き込んだ。

 その拳打は、衝撃を纏い、石の頭を砕き去る。
 残った部分は、まるで風化したような跡となり、ガーゴイルは停止するのだった。

「これなら、ボクが砕いたじゃなくて、自然に砕けたになるかな。」

 にひ、と幼女は笑う。

影時 > 「そこまで見抜けンのは、大したものよなぁ。
 適度に縄、糸を振り出したり戻したりしてな。風を捕らえて、高く揚がるコトを愉しむものよ。

 ――南洋の方に行く機会がありゃァ、同様の嵐が来ることはあるとは聞いたな。存外、親父さんの船の行く先で遇うやもしれんな」

風の捕らえる、捕えないの具合を縄ならぬ糸の振り出し方次第で操るのが凧というものだ。
それをすぐに見抜けるのも、風については専門家ともいえるからだろう。
かの商会は海運業をやっていると聞いていれば、南洋に向かう船に乗ることがあれば望み通りの風に遭えるかもしれない。

「まァ、気にしてても仕方が無ぇ。もとより金属の類は使ってないから、朽ち果て易くもある。

 ははは。精霊共々、後で喰らう時には頼りにさせて貰うか」

強化はしていても、元々木材と紙、紐の産物だ。此の強すぎる風でそのうち風化し、朽ち果てて失せる事もあるだろう。
食事についてはもとより沢山食べるからこそのこだわりが、自分以上によく見えて思わず笑ってしまう。
精霊の取り扱いの面倒臭さも任せられるとなれば、つくづく見た目以上にこの幼女は隙がない。
足りないのは経験だけだ。だが、それもいずれも埋めて追いついてくることであろう。だが、それでいい。弟子は師をいずれ超えるものだ。

「こんなに風が荒ぶってる以上、断言が難しいが侵入があったのは確定事項だろうよ。
 その後、地殻から剥がれたこの辺りが浮いた。……あー、地上探したら元住人の骨もありそうだな」

一年以内という断言はしようがないが、襲撃については間違いないと断言して良いだろう。
強大な魔王が死んだとなれば、蓄えた魔力の爆発的な放出で城が吹き飛んでもおかしくはないかもしれない。
その痕跡も探ってみようと、踏み込んでいれば出てきた護衛のなれの果てを竜の幼女が片してゆく。
風の放射を無害化し、間合いに踏み込めば頭を破砕し、風化したような風情を残してガラガラと崩れ落ちる。
その手並みを善し善しと音無く拍手して、良いぞと笑う。

「そんな風情に見えるなァ。いいぜ。んじゃあ、奥まで一丁行ってみるぞ」

そう言葉をかけ、奥を目指そう。其処に何があるか。何かを見定めるかは、まだ今の段階では知りえない。
知らぬ何かと遇うか、得たかどうかはまた別の話にて――。

ご案内:「魔族の国」からラファルさんが去りました。
ご案内:「魔族の国」から影時さんが去りました。