2019/10/26 のログ
ご案内:「魔族の国」に影時さんが現れました。
■影時 > ――謂わば、此れはちょっとした冒険だ。或いは好奇心の為せる業である。
日々の「仕事」の合間で、魔族、魔王殺しの武勲を挙げようとしている者達と関わりを持ったことがある。
その際の他愛もない、あるいは確証の薄い事柄として魔族の国の中にある、ある種の奇景ともいうべき場所の話を聞いたのだ。
伝え聞くところによると、其処は風の司るともいえる強大な力を持った魔族の王、魔王が納めていた土地だったという。
魔王同士の抗争か、それとも暴威を振るった魔王を討たんとした命知らずの者の手によるものか?
兎も角、落命した風の魔王が死したことで、重しとしての役割を果たしていた地が、秘めていた風の力故に地から剥がされ、空に飛び去ったというのだ。
以降、何者かが付けたかは知らないが、“風帝の亡骸”と呼ばれる遺構は風化に任せたまま、虚空を彷徨っているという。
それを見てみたい、と思えば、それを為さぬという手はない。
数少ない文献を漁り、時には魔族の国の大気に身体を慣らし、タナール砦を経由しないルートで魔族の国に渡る。そして――。
「……っ、うぉぉぉぉぉぉ! 思った以上に風が、荒んでンなぁこりゃぁ!!」
――空を行く。道連れとした竜の子に頼み、特殊な加工をした木材と布を使って現地で大凧を組み立てて空に上がったのだ。
道標は、風の魔法力に感応する磁針と風に親しい竜の感覚頼みだ。
別段たどり着けるかどうかは関係ない。元より、無ければないで帰るだけなのだから。
竜に引かれた凧が浮かぶのは、灰色の空。だが、まるで全方向からなだれ込むように吹きすさぶ風は木の葉の如く、凧を揺さぶる。
どんな鍛え方をしていても、いずれは限界を迎えて凧から落ちてしまいかねない。
それでもなお、笑いさえ浮かべながら四肢を踏ん張り、身を捩って凧を操る。風に乗ろうと試みる。
ご案内:「魔族の国」にラファルさんが現れました。
■ラファル > 風が呼んでいる。自分を喚んでいる。
流れゆく急流、吹き飛ばそうとしているように見えて、ただ流すようにも見える。
少女の姿は珍しくも、竜の姿を取っていた。
大きく羽ばたく翼は風を打ち、己の体を空へととどめる。
うねる風は旋風のように、空へと舞い上がる存在を翻弄するのであろう。
ただし、其れは普通の存在であれば。
少女は、風の属性を持ち風をつかさどる風竜で、風に関しては完全な読みが行える。
竜巻が起きたとしてもその中を悠々飛び回ることができる存在であるのだ。
そして、タナールを経由しないルートと言うのが、少女が空を飛んでいくという簡単な選択なのである。
おなかに結ばれた荒縄が、唯一の命綱、それを切らぬように少女は風の中を選んで飛ぶのだが。
それでも、それなりの風圧は受けるのであろう、でなければ凧は飛ばないから。
「しゃぎゃぁ!」
大丈夫なのだろうか、師匠である影時の声に、幼女は竜の頭をくり、と動かして問いかける。
しかし、竜の姿を取っている時は、むろん竜の鳴き声しか出ないのである。
笑顔が見えるので大丈夫なのであろう。少女は視線を前に向ける。
風のうねりを見て、風の音を聞いて、風の中をするりするりと滑るように空を飛ぶ。
ああ。
か い か ん ! !
■影時 > 精霊使いの知見から見れば、此処は非常に異様な場所だろう。
四大の属性の調和が取れていないのは、一目瞭然。風の力だけが異様に高まり、渦巻いている。
その副産物として風の精霊たちのぶつかり合い、擦れから雷も生じ、時折青い稲光が閃き、轟く。
しかしその癖、水の気配はない。皆無ではないにしても非常に薄い。
降雨を伴う嵐ではなく、まるで水が風に成り代わったかの如く、濁流として溢れて渦増している感覚だ。
こんな領域でも適応した生き物は少なからずいるだろう。
風を乗りこなすもの、あるいは風自体を御して凪を己から作りながら進むものだ。
移動手段の要として恃みとする竜は、きっと前者である。読み切れるならば、これを進めぬわけがない。
「気ィ抜いたら、死にそうだがなァ!
波乗り出来ねェ位の荒みっぷりだ。帰りばかりはお前の背に乗せてもらわらなきゃ、どうしようもないな!」
首を巡らせて問いかけてくる弟子たる竜に応えつつ、凧という移動手段であることで得られる視点より、遠くを見る。
手首に巻いた方位磁針が指し示す方向は、その向こうにある。
竜の視点と自ずとその上方に位置するが故の高さより、先を俯瞰できることを求めたが、流石に帰りは凧は持つまい。
固く縛った縄や結び目が、凧の骨共々時折みしみし、ぎちぎちと鳴いている。限界が近いと噎び泣くように。
逆巻く風が、命面でもある荒縄の先に結ばれた凧をぐるぐると回す。
風が抜けて、今度は縒られた縄が元に戻ろうと凧をさらにぐるぐると回す。嗚呼、眼が回りそうだ。そんな中で、見るのだ。
「……! アレか!!」
厚い灰色の雲のとばりの合間に、見えたのだ。白い建築物とも山とも見えるものの影を。
雲のヴェールの隙間を進んで行けば、見えてくるだろう。白い岩山が聳え立ち、その麓に同じ色合いの石造建築が並ぶ街の跡を。
■ラファル > 師匠は知らない、と言うか、こういう事はあまりしてないのであるから、伝えてなかったというのが正しいのである。
ラファル・トゥルネソルと言う竜は、風の竜は、両方なのである。
風を乗りこなすも、凪を作り上げるも、思いのままなのである。
彼が望むなら、凪いだこの場所をすんなりと進むこともできよう、ただ、凧で飛びたいという願いがあるから、それに応えたまでの事である。
風も、水も、同じく波であれば乗ることができるのだ、形のない流れでしかないのだし。
「しぎゃぁぁぁ!」
帰りは凧じゃないらしい、うれしいので、嬉しいと雄たけび一つ。
ぐるんぐるんと身を捩り、風の抵抗を受け流すようにくねり跳び、凧に掛かる圧を最低限にしていくのだ。
凧は風を受けて飛ぶが、受けすぎると縄に掛かる力が強くなりすぎ、切れてしまうから、である。
翼をはためかせ、更に、更に、ぐん、グンと前へ進んでいくのだ。
「―――!」
何かを見つけたらしい、凧は自分よりも上空に飛んでいるから、そこから見えるものが有るのだろう。
竜は視線を向ける、そちらの方に或る何か。
空気の壁を抜けて、雲が沸き立つ天空の城。
その場所に向けて竜はさらに翼をはためかせて進む。
近づく、近づく近づく―――!
■影時 > 凧を使って空に舞い上がり、高みという視点を得る技がある。
風を読んで使うのであれば、長距離ではなくとも移動の手段として使える。
己が忍びの術にはそういった手管がある。使う機会がなければ、そのうち忘れてしまいそうなものだった。
故国で材料として頻繁に使っていた植物材が、マグメールの地では得られない、得難いということがその最たる理由だ。
手間はかかるが代替として使えるものに、目途が立ったからというのも決行の理由としては大きい。
安全、確実ばかりでは冒険を愉しむための味わいに欠ける。危険というエッセンス、スパイスを欠かしては駄目だ。
少なくとも身をもって、風に乗ることが主になる手段のリスク、危うさを思い知った。
風に乗り、御する竜などの頼みなくして、翼なき身が行き着くのは無理が過ぎる。それを知れたのは僥倖だろう。
「っ、嗚呼、助かるぜ。凧じゃァ、やっぱりこの空は死にかねン」
命綱たる縄の具合を気遣ってくれたのだろう。翼をはためかせ、意図をもって飛ぶさまに素直に礼を述べよう。
そうしてやがて、雲というよりは舞い上がった砂塵のヴェールともいえるものを抜けた先に見える風景に、おぉ、と声を上げる。
「――ラファル! あの建物と建物の合間だ。広間に見えるトコに向かって降りてくれ」
魔王という字面だけ見れば、極悪非道の徒に見えるが、此処は少なくとも年月と計画性を以て建築された街だったのだろう。
風化してゆくだけの、風の力を内包した地盤の上に構築された白い街は雨に流されることなく、整然さをまだ奇跡に保っている。
足元に広がっている都市の亡骸は区画された街並みそのもの、だ。
剥がれも目立つが、石畳が続く先に円形の広間が見える。其処に向かって飛べと頼もう。
やがて、適度な高度になれば命綱の中途に結わえた符に念を送り、爆砕させて縄を断ち切り、凧を壊しながら降り立ってゆこう。
猿の如く身をくねらせ、適切な受け身と共に衝撃を受け流すのだ。そうすることで高みから落ちることの衝撃を凌ぐ。
■ラファル > マグメール産ドラゴンのラファルは東方の国の凧と言うものを知らない、説明を聞いただけでは良く判らないが面白そうだと思ったのが一つ。
師匠が出来る事なら、きっとあとで教えてもらえるのだろうと思ったのが一つ。
自分で飛べるけれど、好奇心があふれて止まらないお年頃なので、師匠の言うとおりに凧を括り付けて空を飛ぶというウルトラCを決行したのだ。
結果は、お蔵入りになりそうだ。
じゃあ、あれは何のために有るのだろうという疑問、今度訊いてみよう。
「しゃぎゃぎゃ!」
空は、自分の物である、ばさり、と翼をはためかせ、師匠の言葉に返答を返す弟子。
はっきりと見えてくるその白亜に目を軽く細め。
そして、地表が近いので乱気流を気にして航路を決める。
空も強い風が多いが地表もこう見えて侮ってはいけないのだ、そもそも、此処は空にある島なのだから。
「ぎゃ!」
了解の意を短く叫び、竜は翼で、空気を叩く。ぶおん、と言う音が聞こえて、其処から、目的地へと吹く風に乗り、滑空をする。
徐々に、徐々に風を使い減速しながら近づいていくのだが。
その途中で、軽くなるのを感じる。
綱が切れたのだ、其れは、人為的なものなので、彼が―――師匠が行ったと知る。
それならば、竜の姿でいる理由はなくなり。
その場で、人の姿へと戻ることにする。
3m程の竜の姿から、更に収縮し、小さな子供の姿へと。
そして、くるくるくる、と回転し、したっと着地。
「あーーーー!たのしかったー!!」
思う存分風に乗ったので、幼女はご機嫌だった。
そして、全裸だった。
■影時 > もとより、凧というものを使うかどうかがこの辺りでは謎だ。
子供の遊びとして成立しているのであれば知っているかもしれないが、大きな凧を作って人が乗るという発想にはそうそう至るまい。
だが、ちょっとした遊びとしても考えてはいた事柄でもある。
若くして凄く、卓越した風の使い手に頼めば凧遊びも容易に成せようと。
この場では心もとない手段ではあったが、この地以外であれば多少は安定して使えることだろうから。
「……は、足元が少々心もとないンだが地面があるってのは、有難ぇな。」
二度、三度と足元を踏みしめ、三半規管の感覚が正常であるかどうかと、何より地べたがあることの安堵感を味わう。
此処も厳密に言えば空中だ。いわば、空という海の上を浮かんでいる浮島、船と同じと考えてもいい。
その証拠に、時折揺れを覚えるのだ。堅固なる大地が揺れないということは無いけれども、こんな微動は覚えることはそうない。
だが、と。足元にしゃがみ込み、白砂が舞い散った地面に触れて氣を流す。
その流動、反発の具合を確かめれば表情を引き締める。
地脈の感覚がやはり、ない。循環というよりは、源流から唯垂れ流して放散してゆく。その感覚が強い。
ここもまた、れっきとした異常地帯だ。興味深い一方でそのリスクを覚えながら、
「……ぁぁ、ラファルよ。服着ろ。服」
己に続いて、滑空と共に変化し、くるくると回って見事な着地を決める弟子に声をかけよう。
御機嫌なのは大変良い。裸でなければ、もっと良かった。仕方がないが。