2019/02/25 のログ
■ラファル > 師匠は、再度術を使う。最初に結界を張っていたときに、疲労を感じていたのを弟子は見ていた。
だから、弟子は考える、師匠は氣の使い方が上手いから、上手く消費を減らしているのだ、と。
逆に言えば、消費を激しくさせていけば、師匠は疲労を貯める。
まさか無限というのはあり得まい、そう考えたのである。
攻撃する気がないわけではない、攻撃するための状況を作り上げなければならないのだ。
印を組む師匠に何を持って攻撃をするのか。
弟子にはひとつだけ腹案があった、が、それをするのは、もう少し調べる必要がある。
竜眼は、氣の流れを見る。
空間の全貌を分析しているのだった。
五行は―――回されるとそれは、延々と周り、止められなくなる。
弟子の選択は、五行は克するべきと判断をした。
「シィィィィっ。」
呼吸を整え、氣を練っていく。地面に立ち、鉄砲水のような水に対して。
地面を思いっきり叩く。
地面を砕きながら、氣を送り込み、土を活性化する。
土克水。
土は水を塞き止めて吸収する五行思想を以て、大水をせき止め、壁により己の身を隠す。
視線を切って、少女は氣を練り続ける。次の一手を、考えるために。
■影時 > その推察は正しい。
森羅万象を御する術を修めているが――最初からあるものを利用するより、そこにはないものを用意する方が疲弊する。
故に先ほど言った。五行を回す、と。この意味はどれだけ座学を聞いて、覚えていたか問われることだろう。
最初に土中から金属を生じさせたのは、土より生じるものであるが故に直ぐに用意することが叶うからだ。
これが森の中であれば、周囲にある植物を起点として五行を巡らせただろう。
「ッ、は。ちゃんと座学は寝ずに聞いてたか。善哉善哉。」
生じさせた怒涛の水量を堰き止め、地勢の変動と推移を押し留める。
此の手の知識、術法は知っているものであれば、対処は容易だ。未知と既知との差の隔たりは何より大きい。
次撃の為に組みかけた手印を解き、己も地を蹴って跳び上がる。進む先は泥濘と化した土の上。
無策に踏み込めば、即座に足首が埋まりそうな地形を肩の線を揺らすことなく疾走するのは先ほど弟子が見せた軽功の応用だ。
体重を打ち消しているが故に、短時間の高速移動を苦とすることはない。
その上で腰の物入れを漁り、その手に鉤縄を掴み出して氣を流す。
「……だが、逃がさんぞ。こういう玩具はまだ、見せてなかったなァ?」
壁と化した土塁を前に、先端の楔を兼ねる鉤に強く気を籠めて右手を突き出せば、さながら槍の如く縄が動く。伸びる。
ただの縄ではない。神の社に張られる注連縄の如く、紙垂のように符を結び付けて連ねた術縄である。
特製の忍具の働きは、媒体である符が縄を経由して伝わる氣に感応して爆裂を起こすことによって証明される。
鉤が壁を穿ち、深く貫入することで派手に土を爆ぜさせ、即席の煙幕を生じさせることが目的の一手だ。
■ラファル > 師匠は跳躍してきた、視線を切ったがそのままにはしてくれずに、土の壁の上へと。
そして、その脇の小物入れから出てきたのは一本の鈎なわ……だろうか?
紐の部分にたくさんの符が貼ってあるのが分かる。
見たことがないものが飛んでくるという恐怖を覚える少女。
恐ろしいことこの上ないものというのは、見たこともないものなのである。
どう対処するべきものなのかがわからないという事である。
知らぬ者に迂闊に手を出してしまえば、大打撃は必死であるのは間違いない。
竜だから大丈夫という、慢心は無い。
師匠の持つ刀は、竜を殺すためのもの、それで斬られれば、人の様に死んでしまうのだ。
そして――――師匠は見えるであろう。
土壁の下にいた弟子は、二人になっていた。
一人は、師匠のもとに来た姿のままの、弟子。
もう一人は、普段の肌も顕な姿の弟子。
二人になった弟子は、忍び装束の弟子は間合いを開けるために奥へと逃げつつ、竜鱗を手裏剣のように、師に向かい額、胸、太もも狙い投げる。
肌も顕な方の弟子は、土壁を蹴り、その手に黒いナイフを握り、師匠のもとへ。
気を使った忍術、影分身で惑わし、一撃を加える参段か。
■影時 > 此の手の道具は使わない訳ではない。否、向かう場所によっては予め用意しておく。
術は高位になればなるだけ、派手になればなるだけ消耗する。
そして、術もまた名前の通りに手段に過ぎない。道具で代替できるのなら、そうすることに何の躊躇いがあろう。
だが、時に作り上げた道具に術を混ぜ合わせることで珍妙な物を作ることが出来る。
先程使って見せた道具もその一つだ。
爆裂の術を組み合わせたものだが、捕縛やら凍結やらと組み合わせる余地は幾らでもある。
「……ン? 二人、か。どっちがどっちだ、ッ、む」
爆裂でずたずたに分断された縄が灰になる。ぱ、と手を離しながら土塁の向こうに見える姿を認める。
己同様の忍び装束の姿と、見慣れた普段着姿と。どちらかどっちか。
其れを定める余地を与えないとばかりに、動く姿に己もまた左方に飛び退きつつ、左腰の太刀を抜き放つ。
そうすれば直ぐに気づこう。刃そのものが放つ、それこそ呪詛めいた圧の気配に。
胸部狙いのものを鎬で受け流し、身体の動きで額狙いをこめかみ、腿狙いを掠らせて見遣る。
「兎にも角にも――まずは、こっちからどうにか、する、かァ!!」
ゆらり、と。氣の隠蔽と。瞬間的な開放と。そして緩急を付けた動きで一瞬、残像をその場に作りつつ、太刀を振る。
下段に提げた刃を弟子の右腰から左肩まで繋ぐように切り上げ、返す刃で正中線に沿って上から下へと切り下ろそう、と。
■ラファル > 「――――っ!!」
師匠に接近をした弟子が息を飲んだ。
投げ放った竜鱗手裏剣を回避されたからではなく、その左手が引き抜いた獲物が理由である。
竜を殺す為に作られた刀は、その存在だけでも竜を恐怖たらしめる。
如何に強くあろうとて、弟子は竜である、その圧、その呪には抗いきれないものがあるのだろう。
視線が刀に吸い寄せられてしまおう。
「――――っ!!」
慌てた様子でも残像に対応するのは、流石に速度を己がものとする竜といえようか。
咄嗟に右切り上げの攻撃を小さな体をひねるようにしつつ下へ避け上から下への唐竹に対して。
腰から師匠の刀と同じ作者の短刀―――脇差を持ち上げて受け止める。
流石にそこは人の姿をとっていても竜だ、ギリギリで受け止めた。
だらだらと、脂汗が流れるのは、その刀が、少女を殺すことが出来ると、知るからの必死で。
離れた分身は、慌てたように、師匠の右手に周り、腕と、脇腹と足に、鱗手裏剣を。
そして、切り結んでしまえば。
いま、鍔競りをしている弟子の足元に影があるのが見えてしまう。
大きさで言えば、鍔競りしているには不自然に小さな、影。
■影時 > 歳経た龍、あるいは竜であればこの刀が放つ圧に少なからず反応するものがあるだろう。
鞘に納めていても竜を相手に生じるこの圧をどうにかするために、手製の呪索として装具を誂えたものだ。
神刀とも魔剣とも言える具合の代物を受け止めるとなれば、竜身ではなく同格の武器が適正だろう。
「っ、む。こっちは……真物か。否、どっちだ?」
己の太刀とかち合う同じ刀工の作の脇差を刃を合わせつつ、眉を顰める。
脂汗を流す弟子の顔と相反するように、見た目の風情は冷静であるが脳裏で幾つもの可能性を算段する。
物理的な作用を為せる実像を持った幻影を作り出す術で太刀の写しを紡いだことはあるが、その神髄までも模すことは出来なかった。
故に、己と同じ練度と仮定するならば、どうだろうか。出来ぬとなれば、この脇差を持つ方が本物か。
だが、先ほどの土塁に隠れた際に持ち替えたという可能性がある。しかし……。
「!」
お、と。微かに声を挙げて、不意に気づいた違和感に即座に後方へと飛び退こう。
投じられる鱗手裏剣を身を捻り、喰らいながらも残像を伴い、更に実像を持つ幻影を都合、二人を囮として置きながら。
■ラファル > ―――バサリと、翼が風を打つ音響かせる。
下にいる二つは両方とも偽物である。
本物そっくりに作り上げられた影分身、ただし、刀の方は少女では複製は無理なので本物を置いてきた。
影が落ちたのは偶然、月の光が少女を照らしたから。
そして、それに気がついた師匠は分身から離れるのだった。
もう少し騙せれば、そのまま爆発に巻き込まれたのに――――などとは思わない。
分身は飛び退る師匠に追いすがるように走り出し、そのまま爆発する。
人一人分の氣を込めた爆発である。
無効化するにしろ、避けるにしろ、体制は崩れよう。
その間に、弟子は己がなすべきことを、為す
――――師匠の術式は、竜眼で解析をし続けていた。
四神と呼ばれるもの。
東西南北を神格化したもの。
そのうち一つに龍の記号がある。
ならば、竜である少女はその一角に干渉ができる。
竜を龍に置き換え、そして――――。
結び作られた結界に綻びを与える。
多少であればそれは修復されるであろう、それが一角そのままであれば――――
音亡き音を立てて、結界を崩した。
■影時 > ――あ、いかん。
この結界は周囲からの探査の遮断、遮蔽、並びに内部に居るものを外に逃がさないという役割が第一義にある。
第二義として、地中の霊脈と云うべき力の流れを局所的に整え、先ほど行使して見せた五行を繰る術を容易とする働きがある。
この恩恵というべきものは重視せず、第一義を免許皆伝に足るか否かの力量を測る舞台の設営に利用した。
迂闊に遣り過ぎれば、余計な目を引く。
その点については弁えている。さりとて、王国側でやるとなると色々と勘案すべき点が多い。
垣間見えた影と、今響く風音が揃えば何を弟子が遣ろうとしているのか、直ぐにピンと来る。
四方に結跏趺坐する分身はあくまで、戦闘のためではなく結界維持のための楔である。
「ち、いっっっ……!!!」
制止しようとするには、遅い。
氣爆の圧に吹っ飛ばされながら、分身を差し向けようとするも――書き換えられる記号が、この領域を変える。
『――!』
四神相応という句で表現される地勢のバランスが崩れ、龍が座す方角の楔たる分身体が爆ぜ失せる。
それに連動して、残る三方角の分身も爆ぜ消えて、結界が崩れる。
巻き起こる風に顔を洗われながら背中から倒れ、あーあ、という顔つきでくしゃくしゃと髪を掻こう。
確かにこれも、ありだ。戦場そのものをひっくり返す。それもまた手管とし得る術である、と。
■ラファル > ―――空気が変わった。
思ったとおりであり、自分でも十分四神の技術に、横槍を入れることができるようだ。
戦いで勝てないなら、戦い以外で。
師匠は言っていた、戦闘さえ、目的を通るための手段でしかないと。
そして、ふと思い出す。
そういえば試験であるが、試験で言うならば戦っての生き延びる方法を。
学んだことを十全に発揮することが試験じゃなかっただろうか。
ぱたぱた、翼を羽ばたかせ、弟子は降りてきた。
分身にあずけた刀を持ってこさせて、合流と同時に受け取った。
髪をくしゃくしゃにしている師匠。
こう、せっかく作ったのを壊されたという雰囲気がよくわかる。
ちょっと目が右左に泳ぐ弟子、どうしようと思考中。
■影時 > 「我が意を挫くにゃ、間違いは無いわなァ。
概念位しか教えてないつもりだったが、いきなりの実演でそこまで遣れるようになったか」
わざと言わなかったというものはある。
言えば、其処に先入観が生じる。
座学以外の余計な知識を入れず、己の実演を以て介し、事の為し方を思い描く。
つくづく才能の塊である。此処まで為せるならば、寧ろ褒め称えるべきであろう。
「今崩した、あれな。
五行回しの下地にも使えるが、外と中を隔てて余計な監視を断つ意味の方に用があったンだよ」
崩れ、失せた分身体の氣を遠隔で意思疎通を行うための“縁”を通じ、引き戻して回復に費やす。
座り込んだ姿勢から立ち上がり、痛ててと呻きつつ、鞘に太刀を納めて身に刺さった鱗手裏剣を引き抜こう。
「だが――まぁ、いい。呉れてやる。
今からおまえは、ストライダーに加えて忍者を名乗っていいぞ。溺れず、驕らず、励め」
余計な気を回し過ぎたのは、己の落ち度である。
だが、ここまで遣れるようになったことを認めるのは大人の仕事だ。
後は生来の才能に溺れることなく、驕れることなく、高める事を己が務めとしてその術を磨くことである。
目を泳がせる姿に歩み寄り、ぽんと安心させるように金色の髪を強くわしゃわしゃと撫でてみようか。
■ラファル > 「なんか、出来ると思ったんだ。龍の一角は……僕も竜だから。」
理論的なものではなく、直感的なものであった。
ただ、適当に手を出した場合は、次があるかわからない、だから時間をかけて竜眼でじっくりと読み解いた。
龍と竜とドラゴンの違いや、思想的なもの、四神の意味。
それらをじっくりと解いて――――あとは、ねじ込むだけ。
ある意味、無理やり中から鍵を捩じ込んで開けたようなものである。
「えっと……つまり、内緒の密談用ってやつ?」
空間をつくり位相をずらせば確かに視線などは絶つことができる。
逆に言えば、これを自分の身に纏うぐらいにできれば、隠業として、一段上がりそうな気もした。
―――制御が頭おかしくなるぐらいに難しいな、とすぐに思ったが。
「いーの?」
わしわし、と頭を撫でられる。
とてもうれしくて、ふにゃぁ、と相好崩れる。
名乗っていいと言われると嬉しくてやったーと思うけれど。
本当にいいのかな、と思うところもあって。
あと。
「いなくなったりしない?」
名乗っていいとは言われたけど、弟子は終わりじゃないよね、と。
■影時 > 「違いねェ。あるものを、使えそうなものを正しく使う。俺がさっき見せた通りよ」
理に適っている。
一つ二つの手印を連ねて作るものではない。
幾つものの印が持つ意味を並べ、関連付けた上で編み上げるものの難易度はこの国で行使される魔法、魔術に勝るとも劣らない。
その身、その肉に宿る力は象徴とする瑞獣のそれを同じ、あるいは近縁とすることが出来る。
今己が携える太刀がそうだ。いずれに対しても、同様にそれを害するための力を持つ。
「おいそれをつかえるものじゃないが、出来なくは無ぇなあ。
だが――それだったら最初から、そういう風に仕込んだものを作る方が早ぇな。
何より、結界って云う一つの世界を纏いながら移動する重みに耐えながら動けるかどうかだが、自信あるか?」
出来なくはないが――手間と労力が見合わない。
故に普段使いはしない。出来ない。
それこそ、確実に標的を殺さなければならない等、そんななりふり構わずにいられない時にこそ、意味があるものだ。
「ああ。……俺の務めはまだ、終わらんさ。」
撫でくりながら、とろけるように表情を崩すも、何処か不安げにも聞こえる気配に頷こう。
まだ、その時期ではないと。一方的に免許皆伝をさせて放り出すということは、しない。
力を示し、技を伝えるものとしての責務がある。それを有耶無耶することは出来ない。
故に、「帰るか」と伝えて折よく吹き飛んできた外套を掴み、その身に纏おう。
帰る前に出来る限り地を馴らし、余計な痕跡がないことを確かめた上で王国領側を目指すか――。
■ラファル > 「状況に即した行動……だよね?」
出来ること、できるものを、見極めて、そこに手を伸ばす。
今回のことに関しては、やや強引が過ぎたがその分効果はあったと思われる。
ただ、たまたま今回は、親和性が強かったから出来た、というものでもある。
「……長い時間でなければ、多分。」
世界を一つという言葉に、少女は考える。
人よりも強い魔力や氣を持っているが、師匠ほどに精密ではない。
まだ、無駄が多いだろうしそれでもするとなると、短時間となろう。
とはいえ、もう少し学んで覚えた時、正確に返答ができるだろう。
「えへ。」
よかった、と少女はぐりぐりと師匠の下腹部に頭をこすりつける。
名乗れるようになったから、と全部終わったわけではないのだ。
それが嬉しくて。
「あい!」
元気を取り戻した少女は。
師匠の手伝いをしてから、竜の姿に戻り、師匠を載せてばびゅーん、と――――
ご案内:「魔族の国」からラファルさんが去りました。
ご案内:「魔族の国」から影時さんが去りました。