2019/02/24 のログ
ご案内:「魔族の国」に影時さんが現れました。
影時 > ――ただ、此処はひたすらに何もない。

否、無いわけではない。
土はある。空気はある。水は、少しはある。しかし、どれもこれも乾いている。或いは淀んでいる。
故に此処には人が住まう場所ではないという。魔物が住まう場所と人は云う。

しかし、そうではない。こんな場所でも人はある。
傾き、欠けた月が照らす魔族の国の一角にある夜の荒野。
岩塊がまばらに散る場所に独り、人影が立つ。裾がほつれた黒外套を被る夜陰に溶ける影である。
その影が懐から取り出した紙筒の端から伸びる糸に火を着け、その場に放る。
それは所謂発煙筒というものだ。直ぐに紙筒の中に火が燃え移り、一筋の黒煙を吐き出す。

目くらましにも使うが、訓練した者でなければ嗅ぎ取れない独特の芳香を混ぜたそれは一つの符牒を持つ。
「集合地点」を告げるものである。訓練を経て、予め打ち合わせたものであれば、そしてそれが人外であればより遠くまで示すことが出来る。

さながら、大量の水に墨汁を一滴垂らせば広がるかの如く。

「……」

そうして人影は空を見上げる。目深に被ったフードの下、月の光に照らされる口元を薄ら笑いの形に歪めて。

ご案内:「魔族の国」にラファルさんが現れました。
ラファル > 「――――――」

 合図が来た。
 魔族の国のいずれかの場所で、師匠が合図を送るとのこと。
 その合図を頼りに弟子は走るのだ。

 別に飛ぶな、と言われたわけではない、早く来いと言われたわけではない。
 だけれども、忍びであり、影を走る者である少女は、人の姿で走ることを選択した。
 理由は、そのほうが匂いを細かく追うことができるからである。
 竜の姿で翼を羽ばたかせれば匂いが散ってしまうだろう、風を纏えば匂いを嗅ぐことができなくなるだろう。

 闇の中、闇の色をした雲を見つけてそこに駆け寄るには、結局は人の姿が一番だという結論になったのである。
 闇の中を走る足は、音を立てず、風の流れに沿っているかのような流麗な動き。
 闇の中、闇と同化し、闇を崩すことなく、違和感を作り上げることなく。
 駆け抜ける弟子は。


 煙が出てから、半刻、掛かるかどうかの間に、師の元へと到着する。
 その姿は、上から下まで濃紺の装束、闇夜の中で光る竜眼を覆い隠す色眼鏡であった。
 金の髪も、今宵はまとめられて装束の中に。

影時 > 実際のところ、打ち合わせはしたもののそこまで長く待つであろうという予想はしていない。
単純な移動速度という観点で言えば、弟子は己より勝るという実感はある。
弟子にはないものが師たる己にある。そして師たる己には持ち得ようのないものが弟子にある。
ただ、其れだけの違いだ。最終的に事を為すにあたり、幾つかの道順が違うだけと言い換えてもいい。

さて――特殊な匂いを道標としたが、夜陰に紛れてとなると本来は狼煙とすべき発煙筒の意味は薄い。

匂いを頼りにすることに加えて、発煙筒が燻って最終的に灰になるまで発する僅かな光も時に捉えることも重要だろう。
その意味において、竜の姿ではなく人の姿を選んで接近することは理に適っている。

「――よォし、まずは合格だ。弁えてきたなァ、ラファルよ」

程なく、己の元に至る姿を月下に捉えて笑い、目深に被ったフードを脱ぐ。
其処に黒い蓬髪を後ろで纏めた無精髭の男の顔がある。ニィと破顔し、同じく外套から抜き出した手を構える。
印を組む。両手を振り上げ、連続して組む手印がまるで異国の神が背負う後光の如く連ねて、一連の術を組み上げる。

集合地点を中心に遠く離れ、東西南北――に生じる気配は4つ。
体内の氣を分配し、結跏趺坐をした男の姿を投影した分身だ。それらもまた別に印を組み、合同で術を行使する。

「さぁて、まずは仕込むか。……忍法・四神封界の術」

結界の術だ。異国の鳥、虎、龍、亀に象徴されるものを象った印を用い、理想な地勢の配分を術として再現、内外を分かつものだ。
その効用として外界からの観測を阻害し、遮断する、また、内で起こったことも外には漏らない。
高位の術となれば少なからず消耗を強いるが、それだけのことをする意味はある。己にとっては、特に。

ラファル > 機能の違い、性能の違い――――必要なのは、任務を遂行すると言うこと。
 そのために必要な手法の違いというだけだ。
 木に生ったりんごを取るのに、木に登るのか、道具を使うのか、跳躍するのか、魔法を使うのかという違い。
 結果として、りんごが取れればそれで良いのだ。

「――――。」

 少女は、師匠の笑みとは裏腹に、じっとその金の竜眼で、色眼鏡の奥から彼を見る。
 彼の用事を知っているから、彼の一挙動全てに神経を這わせてみつめる。

 ―彼は、人間である。
  竜ではなく、種族としては、ひ弱な方に分類される種族である。
 ―彼は、人間である。
  人間はいつもその知識、その技術で、強者を打ち倒す種族である。
 ―彼は、人間である。
  侮ってはいけない存在であり、少女は彼に勝つ事が未だ出来ない。

 師匠が術を使えば閉じ込められるのが分かる。
 氣が周囲を覆い、異空間とも言える空間を作り上げ、自分たちを閉じるのだ。
 世界が結ばれ、そこは、戦場と言っていい空間となる。
 そこに、本気を見出す。

 少女は、唾を飲み込んだ。
 珍しく、緊張を、自覚するのだった。

影時 > 四神と呼ばれる瑞獣が座すとされる地を術法を以て模したこの結界内は、一種の異空間とも言える。
内側から外を見ることはできる。視線は通る。しかし、外からの侵入を阻み、内からの脱出もまた許さない。
そして、何よりも一時的にこの場を上書きするように顕現するが故に、派手にやったとしてもその痕跡は残さない。

「ッ、は。ひっさびさに使うとキくなァこの術は。労力と結果に見合ってるったァ言えんが、今宵ばっかりはいいだろう」

4体の結界維持の要たる分身を維持しつつ、息を整える。
消耗の補填を補うように体内の氣を巡らせつつ、一方でそれを隠すための隠形も行いながら声を放って身に纏う外套を脱ごう。
その下にあるのは既に見慣れたものであろう、仕事着だ。忍者装束を当地で手に入れられるものを使って手を加えたものだ。

「さて――出立前にも言ったが、改めて言っておくか。
 先達として使えるであろう粗方、伝えるべきこと。教えておくべきことは叩き込んだ。あとは手前ェ次第よ。

 今から、加減無しで戦ってやる。……生き延びてみせろ。出来たなら、免許皆伝を呉れてやろう」

左腰には、特製の呪紐として作った下緒を封として、放つ気配を封じた龍/竜殺しの太刀がある。
だが、今は其れは抜かない。その代わりに胸の高さで組む手指を続けざまに組み、一息に術を組み立てる。

弟子の足元から、土中の金属成分を集めて打ち鍛えた剣状の杭を屹立させる。
加減は無い。氣の編成、展開、それらの予兆を速やかに察知しうるか否か、死角からの初手を如何に対処するか。その様を測る。

ラファル > 生き延びろ、と、師匠は言った。
 そして、そのための術がこの空間というわけである、鬼ごっこと言い換えてもいいかも知れない。
 師匠がありとあらゆる手段で襲いかかってくるのを、この場所の中で生き抜いてみせろ、と。
 
 様々なものを見せてもらった。
 冒険の場で、修行の場で、日常生活の場で。
 それを使って生き延びてみせろ、と。

「―――――。」

 だから、少女は選択する。
 生き延びるための方策を、そのために何をするべき、か。
 足元から伸びてくる剣のような杭に少女は―――――。

 剣の伸びるがままに、その上に立ち尽くす。
 氣功という技を学んだ。
 氣によって、己の体を固くしたりする技術で、熟練者であれば指先で鉄を貫く、とかもできるというそれ。
 少女が選択した氣功は軽氣功。己の体重を羽よりも軽くするそれであり。
 少女の肉体は元々鉄よりも硬い竜の肉体。
 羽よりも軽くなった少女は、剣に持ち上げられるという結果に帰結する。

 とはいえ、そのまま立ち尽くすわけでもなく、ふわりと跳躍して距離を取る。
 少女は闇に溶け込んで霞んでいくのだ。

 うかつな攻撃は、行動は隙を呼び―――手痛いしっぺ返しを受ける。
 ならば、今するべきは、機を作るための準備だ。

影時 > 「ほぅ! いいなァ。それも――ありだ。」

師として弟子が選んだ、示した手管を素直に賞賛する。
決して悪い選択肢ではない。寧ろ、意表を突く意味でいいともいえる。
突き出した槍の穂先の上に飛び乗る、といったことも極めれば出来るであろう技法の一つである。
紡いだ剣杭から跳び上がり、距離を取――ろうとする様を認めつつ、続けざまに印を組む。

「五行を回す。次は、こうよ」

紡いだ剣杭はそのまま、ある。否、違う。その表面に夜露が宿るように水滴が生じ、しとどに滴り落ちる。
――否、水滴だけではない。水瓶から水を注ぎ出すよりもより多く、破壊的に速い。
鉄砲水という形容が似合う勢いで量のある水が大量に吐出し、距離を取ろうとする弟子の姿に追いすがっては打ちのめそうと迫る。
金属に凝固する水を、氣の総量をそのままに高めて武器とする。即ち、金行から生じて繋がる水遁。

水という圧倒的な物理力の勢いと圧は、まだ未体験であったろうとばかりに。