2019/01/20 のログ
■格闘家ドゥエル > 『あぁ、あたし達は何もしてないから。
やったのは一人、ね?』
言葉の端に自分達も倒した事に関わっているかの様なものを聞き取れば、其れは否定する。
そして続きを促す様に其の侭視線を男へと移した。
「知らねぇな、そんだけ弱かったってこったろ。
謝礼なんざ要らねぇけどよ、感謝の気持ちってのが在んなら俺の相手でもしてくれや。
そうすりゃ、少しは解るんじゃねぇの?」
相手が自分達の事を知りたがろうとも自分には興味も何も無い。
寧ろ自分が求めるのは強いか弱いかだけだ。
相手をする、其の言葉の意味は自分の左掌にパンッと右拳を打ち込む仕草をした男を見れば理解し難くもないか。
『懲りないよね、本当に』
諦めた様子でジト目をし乍見遣る黒の少女。
『あの…出来れば、引いてくれれば…
逃げる相手は、その…追いませんから…』
そんな黒の少女の後ろから、おずおずと聞き取り難い小さな声で其れを伝える白の少女。
一人だけ明らかに戦いを避け様としている様子だ。
■アマーリエ > 「……そういうこと、で良いのかしら?」
少女姿の片割れが放つ否定の句に、首を傾げつつ男の方を見遣って立ち上がる。
如何せん現場を見ていない以上、今のところ信憑性の何もかもを得るには足りない。
向こうの言葉より伺う他無い。だが、確信もあるのだ。あっけらかんと然り、と答えるであろう予感が。
「並の人間よりは強いハズ、なんだけど。練度落ちたのかしら。
……――ふふ、そーゆーことなら得意よ。嫌いじゃないわ」
其処の辺りについては、自分の管轄外だ。想像通りであるかどうかは其れこそ、彼らの統率者にでも訊かねば測れまい。
しかし、この場において少しでも情報らしい情報を得た上でなければ、帰りに土産がないのは格好がつかない。
慨嘆するように吐息をして、向こうの言葉に目を瞬かせては笑い声を転がす。
向こうの動きを見るに、邪魔になりそうな兜を脱いでは「持ってて頂戴」と頭上に高く放り上げよう。
そうすれば、白い竜が器用な動きで自身の頭の上に、投じられる兜を受け止めて宙を横切る。
「それ、逆に言えば余計なコトをする奴は撃つという道理に繋がるわね。
名乗っておくわ。私はアマーリエ。――アマーリエ・フェーベ・シュタウヘンベルク。
王国軍第十師団の長をしている者よ。確か、ドゥエルとか言ったわね。一戦所望するわ」
名乗りと共に左腰に佩いた剣を引き抜く。
右手に提げる剣は細身だが、冷酷なまでに冷たい光を放つ。見るものが見れば何らかの魔力や宿っていると見えようか。
その上で左手に付けた盾を構え、地面に水平に剣身を寝かしながら切先を槍の如く相手に向ける。
■格闘家ドゥエル > 「ま、残念だがそんな約束なんでな」
相手の言葉に面倒そうに細かな説明は省き答える男。
誰と、どんな約束を交わしたか、其れは相手の想像に任せよう。
然し、目の前の騎士の行動は男の期待に応えるものだった。
逃げは打たない、男の唇の端が僅かに上がる。
其れに対して白の少女は何か云いたそうにはしているのだが、伝える前に黒の少女に遮られた。
『残念だけど、此の子はそんなタイプじゃないから。
……って云っても、其れを信じるか信じないかは騎士様次第だけどね。
因みにあたしは撃つタイプね、覚えておいて』
代わりに言葉を向けるのは黒の少女。
逆に自分は余計な事をすれば遠慮無しに手を出すとの意思表示。
只、積極的に此方からは仕掛けないと云う事は構えを見せる相手に対し後ろに下がる事が示している。
「お、そうそう、そんな名前だったな。
長ぇ名前ってのは覚え難くっていけねぇ」
名乗りを挙げる相手に思い出した様に呟き乍、僅かに黒の少女へと意味有り気に視線を向ける。
其の視線の意味を察しているのか、黒の少女は勝手にすれば?、とも取れる様な手を振る仕草を見せた。
「一格闘家として、戦いを望まれ名乗られたんなら返さにゃならねぇ。
メフィストに従ってる、ファウスト騎士団の一人ドゥエルだ。
さぁ…」
『名乗るのは良いけど、其の場合ちゃんと魔王メフィストフェレス様に、って云ったら?』
始めようぜ、と続く言葉を遮る様に一言だけ黒の少女が挟む。
「細けぇ事は良いんだよ、ったくよぉ…よっし、いくぜ!」
気を取り直し、構えを取る相手に対し…
男は不意を付く様に即座に地面を蹴り、一瞬で間合いの内へと入り込む。
其の動きは瞬きをする間も与えない程の速度だ。
動きを追えるとも追えずとも、身を低くして突っ込む男に剣の切っ先を向け直さなければ為らなくなるだろう。
勿論、其の動きを今度は待ってやるつもりもない。
■アマーリエ > 「そう。なら、しょうがないか。
――どの道、こっちは選択の余地も深追いの仕様もないから、其方の言葉を信じるしかないわねえ。
信じられるに死ぬときは、……その時はその時か」
どの道、選択の余地はない。
全力で守りに徹しながら帰り付くにしても、逃げる者を背後から撃ったという謗りを吹聴することにもなるだろうか。
最悪、帰り道の心配と勝負に横槍等を向けられなければそれでいい。そう割り切る。
万一の際の引継ぎも含め、副長に伝達済みだ。師団の解体再編等、何があるかどうかはさておき。
ちらと視線を動かし、男と少女たちの立ち位置を脳裏に描いて戦闘態勢を整えよう。
「そっちに名だけ知られているってのも、あんまりいい気はしないわね。
でも、いいわ。魔王の――騎士団。そんな手練と一手交える機会なんて有難いにも程があるわ!」
格闘家と剣士。その相互の有利、不利は弁えている。故に対峙した段階で幾つもの攻防を思い描く。
その中でも必定と言いうる要素は一つ。必殺を意図するならば、半端な飛び道具では決まるまいということだ。
故に、一瞬で向こうの姿が掻き消えた段階で迷うことなく盾を構え、地面を蹴って前に出る。
盾は構えれば半身を隠せるに足るほどの大きさだ。適切に使えば、手を少し動かすだけで急所を護る壁となる。
翻って、己も前に進みながら盾を突き出せば向こうの視線を遮る壁にもなりうる。
相手の狙いを引き付けることも兼ねて魔力を表面に宿らせた盾を叩きつけつつ、右手の剣を振り落としてゆこう。
狙うは相手の左足。膝からその下を狙い、破魔斬断の威を宿すしろかねの刃が弧を描く。
■格闘家ドゥエル > 『そ、信じてくれるなら其れで良いよ。
其れじゃ、後は好きにどうぞ。
……ほら、下がるよ?』
此処からは二人の戦いと為る、言葉短く答え二人の少女はもう少しだけ距離を置く形を取った。
「仕方ねぇさ、そんな目立つ様な立場に立ってちゃなぁ?
で、其れで防ぐつもりなら俺を舐め過ぎだぜ、嬢ちゃん」
確かに同じ騎士団を名乗る者同士、だが立場としての意味合いの違いはかなり大きい。
国と云う存在の騎士団として立つ事と、魔王と云う存在の騎士団として立つ事、其れは全く異なるものだ。
其れを言葉に乗せ乍も、盾を突き出す相手にそう呟く。
盾を身を守る術と叩き打つ術として扱うのは此方も十分に理解している。
此の侭攻撃を仕掛ければ如何なるか程度解らない訳が無いだろう。
男は盾を突き出し、剣を振り下ろす事に大した注意を向けていない。
突っ込む勢いを其の侭利用し、ドンッと地面を強かに蹴り付けた。
其の衝撃は蹴り付けた地面の周辺を伝い、地に着いた足元から相手を襲う衝撃と為るだろう。
構えるにしても剣を振るうにしても地面を踏み締める足腰が重要なもの。
どちらも該当する行動を取ったが故に、相手は大きくバランスを崩すか、其の身を僅かに地から浮かせてしまうかもしれない。
■アマーリエ > 「――信じさせてもらうわ、少しは」
少なくとも、この先を進めないとなると今のこの戦いと帰り道までは。
手練れ相手となると少なからず集中しないといけない。
後の向こうの動向は、上空に待機する竜に警戒を委任する。その意思を受けたように竜の鳴き声が響く中。
「あら、此れでも結構地味なつもりよ。悪目立ちしないように気を付けていたけど。
其れを言うなら、こっちの言葉でもあるわよ? グラップラー、……ッ」
規模だけで言えば他の師団が勝ろう。主の派手さ加減等で言えば、様々な意味で派手派手しいのもあろう。
自身の師団の誇りと言いうるのは規模が少ない分、一兵単位の価値を高めた精強さと飯の美味さだ。
速度重視で空が続く限り、何処にでも機敏に向かいうる便利屋じみたものもあるが。
ともあれ、剣を振り切ろうとするも足元が揺れる様に唇を噛み締めて即座に二の足を踏む。踏ん張る。
シェンヤン辺りの武術における震脚のそれであろうか。
冒険者だった頃、流れてきた武侠なるものから技の端くれを教わった記憶がある。
その流れを汲む使い手か。呼吸と体内の魔力の流動を整え、バランスを失しないのは国の戦力の一端を担うが故か。
だが、剣を下げつつ盾を肘を締めて引き寄せる動きには少なからず、隙と言いうる遅滞が生じるか。
■格闘家ドゥエル > 何もしていない、そう見えるのは確か。
但し、静観する姿勢を取っている二人だが白の少女は違った。
此れは二人が組んで行動をし、待機をしている時の常套手段。
念には念を、白の少女は【空の目】で周囲の警戒。
黒の少女は何もしていない素振りはしているが、其の周囲に結界を張っている。
手出しをしないが他の手出しもさせないのだ。
「確かに目立ち過ぎるのも居るらしいんだっけか?ま、そんなもんは如何でも良いんだ。
今は此の闘いを楽しもうぜ…!」
本音を語れば、云っておいて何だが立場なんて如何でも良い。
強い者と闘う事、其れこそが男に取っての至福の瞬間。
其れに戦いを通じて感じるものも在るからだ。
其処には相手が何で在るか等と云う事は関係ない、只在るのは自分と相手と云う存在だけだから。
地面から身を浮かせてしまうとの最悪の状況は回避したらしい。
然し男からすれば隙を生み出すだけでも十分な効果だ。
振り下ろされ様とした剣が下がり始めたのを目にした為らば、其の剣を下げる動きに合わせ、剣を握る柄へと拳撃を叩き込む。
其れが当たる事と為れば、下手に剣を手放さず握り続けると其の指が只では済まない事となるか。
だが、其れで手を止める様な男でもなく。
強烈な連撃を敢えて盾へと向けて放ち始める。
連撃で在るにも関わらず一撃一撃がまともな防御では打ち砕かれる程の衝撃。
其れが盾の至る所へと叩き込まれるのだ。
だが、其れも次の攻撃の中継ぎにしかするつもりはない。
最後は地面を蹴り相手の直ぐ脇を抜けて背後に、其の背に肘打ちを叩き込む、との一連の動きを行おうと。
■アマーリエ > 戦う二人とは脇に退いて、静観するように見える者達同士でも見えざる動きがある。
警戒と結界を張る二人と相対するように、宙空に留まる竜もまた人と同じかそれ以上の知性を巡らせる。
観察、並びに警戒だ。万一彼らの気が変わった際、主が反応しきれない処を護る。
この動きに念話や言葉による意思疎通は必要ない。
打倒され、乗騎となったがその間柄とは別に言葉にならない、否、する必要もない信頼関係がある。
「この場から動くことが余りないなら、どうでもいいかもしれないわね。
嗚呼、詰まりは暇していたのかしら? そっちこそ私を愉しませてくれないとブッ、飛ばすわよ!」
今この場で彼らが語った魔王が何なのか、何者なのか。
知っておきたい、把握していたい事柄のいくつかが生じる。王都に戻れば記録を紐解くことで知れるだろうか?
今の段階ではそれらの悉くは不明事項だ。
しかし、それ等をさておいて強者との戦いは得難い機会である。値千金と言ってもいい。
デスクワークで鈍るようなことはないにしても、師団長同士の手合わせ等というのは滅多にない事項だ。
両足を踏みしめ、足場を整えれば「哈ッ!」と気勢を整える。
拳の向く先を直感すれば、踏み込んだ左足は其の侭に右足を引く。そうすることで、連動して剣柄を握る右手は後ろに遣ることが出来る。
柄狙いの拳の対処としての回答と、そして向こうの狙い通りに盾に打撃の連続を集中させることが出来る。
だが、立て続けに生じる衝撃は重い。魔力の防御場を載せてもなお、軋ませ、罅を入れさせうる程のインパクトの連続。
故、盾の柄より左手を離す。中空に刹那、盾を向こうの相手に投げ遣るように置くようにしながら身体を旋回させる。
上空から見れば、時計回りに身体を捻り、勢いをつけて左から――右に。
旋回の動きを載せて、刃を繰り出す。切先が大気を引っ掻き、風を生む。
生じる爆圧めいた剣風を先行して叩きつけながら、相手の左胴と胸元の高さ程に横一文字の剣線を描く。
■格闘家ドゥエル > 互いに警戒状態と為った戦闘外の者達。
そう為れば、更に外野からの干渉が無い限りは此方の動きは無いだろう。
「暇も暇、前に在った吸血鬼の城ん時でも大して動けなかったんだからな。
然も来る連中来る連中大した事もない雑魚ばっかとか、ったくよぉっ!」
キルフリート城での第七師団に依る戦い。
あの時は余計な邪魔が入らない様にとの周囲警戒だけだった。
其れから先も強者とも云える相手と巡り合えない。
男の言葉と動きから、そんな鬱憤を晴らすかの様子が伺える。
「んな事を云った処で何もねぇ。
でもよ、今回はちったぁ当たりクジを引けたかもしんねぇなぁ!?」
人間、魔族、他の存在に於いても気の流れは存在する。
気を扱う事は、自分の持つ其れだけではない、相手が持つ其れの判断材料とも成り得る。
例え其れを相手が自覚しておらずとも。
其の流れを読めば、盾から隠れる様に為っている相手の動きも明確に捉える事が出来る。
相手には見えぬ盾越しの男の視線は正確に相手の動きに合わせ動いている事を相手は気付けないだろう。
横薙ぎに走る動きを見せる相手の右手、其の手に持つのは剣。
流れる空気の変動に何かを仕掛けてくるのは勘付いている、だが…
重く厚い覇気の篭る掛け声。
左腕に気を込め、凪ぐ事で剣風を先ずは吹き飛ばす。
続く襲い来る刃には身を屈め乍の右掌を剣の腹に添えて下から上への強烈な打ち弾き。
真横へと走る筈の剣閃を途中から斜め上へと流れる様に跳ね上げた。
先は此方が一方的な攻撃だったのに対し、今度は相手に攻撃を譲ったのだ。
■アマーリエ > 「吸血鬼の城――面白いわね、この前の伝え聞く戦役の事かしら?
彼らの件にも少なからず関わっていたとなれば、俄然興味が湧いてくるわね。
……何なのよ、あなた達は。その魔王ファウストってのも!」
竜と人と魔の少女と。それぞれに見守られ、あるいは警戒し合いながらも戦いは続く。
拾うキーワードから昨今の情勢の変化を思い出す。
師団長の座を死した父親の遺言より受け継ぎ、師団を再編していた頃の時期だ。
出征等、直接関与することは出来なかったが報告された限りの、公文書とされたものについては知りえている。
かの地に至った筈の第七師団は対魔族戦に特化した最先鋒であったはず。
そんな者達もそうだが、この土地に至るものを雑魚と定義する程の彼らと其れを束ねるものは何か。
「そうね。私にとっても――当たりだわ。昔手解きされた事柄とか、いい具合に思い出せてくれるわ。」
ふと、聴勁なる語句を思い出す。
盾の陰で目で見えざる筈の己の挙動を察す様はさながら、血流に魔力と共に流れる気の具合等々を聴いて察知しているかのよう。
今もまた、そう。手放した盾が先端より重さと相俟って地面に突き立つ。
轟と唸る剣風を捌き、己が剣を打ち弾いてさらに跳ね上げる。剣風を先行させ、本命の剣刃で断ち切る意図を詠んだかの如く。
引き結んだ口元を皓歯を見せるような微かな笑みに変えつつ、手放したことでくるくると舞い上がる剣を追って退く。
間合いを作る。右手を挙げつつ、呪句を紡げば見えざる力が生じる。
「念動」による引き寄せの術だ。盾を手放した状態で十分な間合いを取り、引き戻した剣を右手に提げて溜めた息を吐く。
■格闘家ドゥエル > 『魔王メフィストフェレス、どうせ人間の歴史になんて載ってないよ』
自分達を、従う魔王を、何なのかと聞く相手に答えたのは黒の少女。
何故か何処と無く気分を悪くした感じを見せていた。
あの時、珍しく白の少女の変化を見た事を思い出したからだ。
尤も其れを知る術は無いのだろうが。
「へぇ…昔に手解き? って事ぁ、今はやってねぇんだな。
思い出になる程度しかやってねぇ、其れと俺とを比べてる訳だ?」
跳ね上がる剣、次に攻め入る大きな隙と為っているだろう状況に男は動かなかった。
只、相手が向けた言葉に対し答え乍、一度深く深呼吸を行う。
「只一点を極めんとする者の恐ろしさ、ちったぁ知れや」
気の流れが変わる、其れを気を知らぬ相手にさえ感じさせるかもしれない。
身の内の、周囲の、感じる違和感が男へと集まって行くのを。
時間経過に伴い段々と大きなものへと変化する力、其れは相手に危険を察知させるに十分なものとなるだろう。
■アマーリエ > 「どうせで片付けてほしくないわね。
少なくとも今は、初めて知ったわ。そして――知りたいと思ったら、知り尽くしたくなるのが私なのよ。
調べるだけで知りようが無いなら、知っている誰かに聞けばいいじゃない? 道理でしょ」
知らせるつもりも何も無いなら、最初から知らせなければ良い。
その口ぶりから思うに、歴史書の類にもない御仁かもしれない。
もっとも、王国に限らず古今の国で都合良く歴史を編纂する、改ざんするというのはよくある事象だが。
知ったところでどうなる、ということはあろう。
だが、知らなければ今後の指針やら脅威策定等に支障をきたす。
己の師団が防衛以外でこのように何処かに打って出ることはなくとも、が。
「やっていない、っていうより、私なりに弄ったらちょっと変な具合になったのよね。
私が知っている以上に飛び抜けている、かつ、多分本式なのがきっとドゥエル。あなたのワザでしょうね。
なら――……多様を知って、我を編み為すコトの一端を刻んであげるわ」
故に盾を持たない場合の剣術は王国の古式にのっとっているとは言い難い。
た、た、とステップを踏むように靴底の具合を確かめ、左手の中指、人指し指を揃え、剣指に結んで呼吸を整える。
気の流動の概念を魔力の流動に適用し、呼吸そのものを呪句の詠唱の代替に置き換えた自己強化を重ねる。
悪い言葉で言えば、練気術モドキだ。しかし、その有用性は数々の戦いで磨き上げて己のものとする。
一つのワザを極め尽くすのも強さだ。その対極となる多くを知って、取捨選択を繰り返す研鑚もまた強さであろう。
右手で執る剣の刃金に陽炎が這う。炎熱基礎の穢れを滅却する昇華術式のそれだ。
「――往くわよ」
短くそう告げ、振り下ろす剣刃は上から下への縦一文字。身に生み出す膂力を引き絞った剣風は轟、と地を鳴らす。
だが、其れは前座だ。剣風を前に踏み込む刃が袈裟掛けに相手の左肩から右腰まで下る剣線を刻み、逆の刃で切り返す。
剣圧による威圧と牽制、本命の昇華術式を重ねた剣撃二連。
武に猛る/長ける先達者からすれば、不足もあろう。されども、今を生きるものとすればその手管は評じるに値するか、否か。
■格闘家ドゥエル > 『其れが本当なら、人間の歴史は其の侭残ってないよ。
……結局はそう云う事』
知らなければ調べれば良いと云う。
そんな単純な事で何もかもを知り尽くせるのならば、世の中全員が従う魔王と同じ知識を得られる事だろう。
知れない事が知られる事は無いのだ、と。
「色々手を出して、結局は中途半端になるパターンじゃねぇの?それ?
っつっても、例外は俺もよく知ってっから何とも云えねぇがな」
つまりは自分が従う魔王、全ての知識を得ようとし、其の根底さえも突き詰め様とする存在。
彼女は取捨の選択は考えもしないのだ、全てに何か意味が在ると考えている為に。
何か思う事が在ったのだろう苦笑を浮かべる男。
次なる騎士の攻撃に対し、男は其の行為を止めもしない。
剣風の直撃を其の身に受け、更なる二連撃をも受け止める。
其の衝撃に身を少しばかり揺らすが…其れだけだった。
『……あれ、今少し動いた?ドゥエル?其れを使って?』
だが、其の反応に黒の少女が意外そうな様子を見せた。
其の発言から、今男が使っている能力が相当な力を発現させているものだと解るか。
「うっせぇ、エリン。
何ならお前が受けてみよろ、大層なもんだぜ?
……が、此れで終いだ…!」
御返しにとばかりに、今度は男が黒の少女を名前で呼ぶ。
そして、収束した力を拳に宿し…地面へと打ち込む。
拳に乗せた力が爆発的な衝撃を引き起こし、周囲を一瞬にして吹き飛ばす威力だった。
其の範囲はかなり広大で街一つは入りそうなものだろう。
直撃をすれば如何なるか分からないレベルか。
然し爆発に依る砂埃が収まった後には、男は兎も角として、二人の少女、そして相手だった騎士と、空を駆る竜は無事であった。
白の少女が周囲の存在は其れだけと察知した上で、黒の少女が拡散した結界が其れ等の身を守ったのだ。
尤も其れが必要で在ったのかは分からないが。
■アマーリエ > 「そう。知る必要もない、と。そう断じされたのか――それとも、そういう風にした者、なのかしら」
ある、はずなのに、ない。
いる、はずなのに、いない。力あるものを束ねる者にも拘らず、今の世に知られざるというのはどういうことか。
徹底的な実在の隠滅を図っている可能性が一つ。或いは、と思い閃く由縁に酷く嫌な予感を覚える。
「ぶっちゃけて言えばそーなるかもしれないわねぇ。否定のしようがないわ。
けど、だから貴方みたいな達人と戦える機会って有難いわ。
今の技でもまだまだ先があるし、生きていればもっと磨き上げられる。
……あなたがどういうものか知らないけれど、その武錬の粋。素直に敬意を表するに値する。」
好きに生きる。己が儘に生きる。今でこそ望んで受けた地位を預かっているが、本質は変わらない。
ただこれしか知らぬという生き方をしたくないと思えば、極めた達人の出会いというのは敵でも有難いものだ。
元より、魔族等の異種に座視できない敵対者ではない限り、敵意を抱く由縁を持たぬが故だ。
例外になれるか知れぬし、凡人としてその有り様を極める事になるかはまだまだ知れぬが、向こうの表情を見つつ言葉して、剣を振る。
「あー。――……足りない、か。そーなると、次は……そう、よね、ッ!!!」
如何な手管を使ったか。想起する手段は幾つかある。だが、次の瞬間に彼が為す事となると明白だ。
瞬間、動員できる魔力を費やして地に立てた盾に注ぎ、結界呪法を発動させる。
波濤の如く広がる衝撃に対し、楔を穿つが如く力を籠めるが、閾値を間もなく超える。
それでも、辛うじて凌ぎきれたのは盾が盾としての本分を果たしたからだろう。
地に膝を突いて伏しつつ、剣を杖にして身を支える姿は整った容貌も髪も含めて土に塗れ、土砂と爆圧で打ちのめされている。
その目線の先にあるのは、結界の消失の後に内包した予備武器も含め、罅割れ、崩落するように崩れた盾の有り様だ。
■格闘家ドゥエル > 『……其れはあなたが考え調べる事。
案外、聞けば答えてくれる人が近くに居るかもよ?』
意味深な言葉を伝え、黒の少女は力を解いた。
同時に白の少女も同じ様に力を解いてみせる。
強固な結界の多重発現、全く同じ力を使ってみせた二人の少女。
能力を解き、今度は黒の少女の能力を使い全く同じ力を行使する。
魂を繋げ互いに持つ力を扱う事が出来る【ソウルリンク】の能力だ。
周囲は盛大に破壊の痕が刻まれていた。
其の中央で男は、目の前で膝を衝く騎士を見詰めている。
「何だ、ぶっ倒れてるのを想像してたんだけどねぇ。
状況は如何あれ、残ってんのか…
十分だ、もう終わりだろうし戻してやれ、上のもな」
地面を打ち付けた側の手を振り乍、背後に居る少女達へと言葉を続けて向ける。
『やっぱりあたし達も必要だったじゃない、結局さ』
ムスッとした表情を浮かべる黒の少女が男へと言葉を投げ付ける。
然しやる事はやるのだろう、杖を振り翳してみせて。
「ちったぁ軽い考えでこっちに突っ込む気も削がれただろ。
確りと伝えてやりな、調子に乗って攻め込もうなんざ考えたら、只じゃ済まねぇってな?」
先に王都へと送った兵士達と同様に、騎士と竜の双方に粒子の様な光が集まり始める。
其の後も同じくして、王都の付近へと転送されるのだろう。
■アマーリエ > 「……、は。ご忠告、痛み入るわ」
成る程、此れはヒント――かもしれない。知りたいならば、か。
知ってどうする。そして、どうなるものではない。
思うは知ってスッキリしたいからだ。その動機と欲求に高潔さ云々はない。実年齢には見合わない子供じみた動機でもある。
「素直にブっ、倒れる程、生易しい鍛え方はしてないわ。
そうでなけきゃ、あなた達にとっては雑魚でも――、こっちにとっての強者の頭なんて張ってられない、もの」
見事に砕けた盾は、持ち帰った処で打ち直しても元通りにはなるまい。
俗にいう名工の一品ものだ。同じものが作れないとなれば、其れは其れで良い機会かもしれない。
鍛え直して、一層張り合えるための先は得た。命は拾えた。であれば、大きな盾というのは存外無用となる可能性もある。
しかし、立ち上がろうにも立てず、口の中で喉奥にて鉄錆びた味を得るのは見えない処の内傷も生じているか。
盾の残骸を拾い直す暇もなく、気遣うように空から降りてくる竜と共に気づくのは。
「――帰りの世話まで、してくれるなんてね。
少なくとも、うちの師団は此処まで総軍で攻め入られるような余裕と編成じゃあ、ないわ。
報告書は上げてあげるけど、頭のすっ飛んだアハズレとか押さえていられるとは、思わないで。
それ、と。次はブッ飛ばしてあげるから――覚悟、なさい」
ここまでサービスしてもらうなら、もっと振り絞るべきだったか。そう思うも、此れも今更だ。
転送術が作用し始めるのを思えば竜ともども、其れに干渉せずに任せよう。
慨嘆の息を吐きつつ、清々した風情と悔しさを顔に同居させながら消えてゆく。
その後には何もない。残るのは砕けた聖銀の盾と予備武器とした小剣の残骸のみ――。
ご案内:「魔族の国」からアマーリエさんが去りました。
■格闘家ドゥエル > 「俺もまだまだ天辺にゃ届きゃしねぇなぁ」
剣を受けた痕に触れ乍に男が呟く。
完全に弾き返し微動だにしない、そうなると思っていた。
然し結果は僅かに揺らぎ、素肌に赤い線を作る事となった。
更なる強さを求め、更なる強者に挑んで行かねば為るまい。
「久々に団長と全力の一戦交えっかねぇ」
『……敗北必至じゃない?』
呟く言葉を耳にしてサラッと黒の少女が答える。
『……あ、あの…そろそろ…戻って、来い、って…』
遣り取りの間に割って入るのは白の少女。
長くなると又何か在るかもしれないとの心配からだ。
「しゃーねぇ、上はチェンが一人でやってんだろ?
今日はもう来ねぇだろ、手伝いに行くかねぇ」
男の言葉に頷き杖を翳す黒の少女。
今度は三人が粒子の様な光に包まれ、消えて行った。
ご案内:「魔族の国」から格闘家ドゥエルさんが去りました。