2018/11/20 のログ
■影時 > 少なからず、この辺りの土地に踏み入って悠々とごろ寝でも決め込める位の力量はあるだろう。
無用な戦いを避けるのは信条の理由ではない。
不用意な消耗を避けるためである。獣相手の戦いとなれば、血の匂いが他の獣を呼び寄せてしまう。
誰にも悟られることなく気配を隠し、誰にも見られなることなく影を往く。
それは謂わば、このような避けえぬ事態への備えでもある。
そうやって温存してきた氣力を以て――この地にて心得ている者がどれだけいるか怪しい術体系を行使する。
土煙に混じる土を呼び水に金属を錬成し、放つための運動力は己が手で掴むことで生む。
やれるか? 否、そんな甘い達観はしない。寧ろ、どんな手管を見せてくれるのか。
それを仮面越しに愉しげに視線を遣って認めるのだ。つまり、己と同様の業(わざ)を魅せる姿に。
「俺と同じ類じゃァ、ねぇな。似て非なる……ッ、と!」
鎧の形成と。投刃の錬成。其れを為す理屈、理論はどうあれ、同質の結果を導く様を見遣って嗤う。
しかし、投じられる刃をただ素直に受けるわけにもいかない。当たれば、肉を爆ぜさせる威力があることだろう。
故に射線から半身躱しつつ、避けきれぬ刃が肩口を裂いて赤く血が滲む。
良い手並みだ。全力を費やすに足ろう。
「……良い腕だなァ。……あー、知った武将共はこうやってたか? 名を聞こうか! か」
言いつつ、右手を左腰に遣る。左手で鞘を押さえて腰に佩いた刀をずらりと抜き放つ。
夜目にも冷たく、鋭く光る魔性を帯びた刃金だ。影働きのものには似つかわしくない刃が魔界の大気を裂く。
■シュティレ > 「――疾い―――。」
両肩に、心臓に、股間……Yになるように投げたのは、逃げ場を減らすため。
跳躍でも、半身になろうとも、伏せようともどれかは刺さるように投げたその投げナイフ、見事に彼は回避したのだ。
半端な回避では逆に体勢を崩し隙を作るはずだが、回避にさえ隙が見当たらない。
肩口に掠りの傷があるけれど、それはどれだけのものとなろう。
彼は、自分に師事したヒトと同じように、ヒトの侭に人在らざる域まで実力を高めただろうヒト。
―――たしか、HENTAIというんでしたっけ―――?
何か違うような違わないような、そんな気はしますがそれは瑣末事。
相手は強く、気を抜いてはいけない相手だということは確実です。
そして彼の腰から引き抜かれるそれ。
「――――っ!」
息を飲んでしまいました。あれは―――ダメです。
物理的な死をなくしている血族を――――竜を弑するためのモノ。
ドラゴンバスターですか、私は視線を一つ彼を強く見据えます。
アレは、私の鞭よりも一段強いもの。殺すことができるモノと、殺すためのモノ、では隔たりが強くあります。
「シュティレ・ズィゲルトーア。伯爵を頂き血族の一員。
我が名を求めるものよ、その仮面を外し、名乗りなさい。」
仮面をしたまま、名乗りを求める男は、無礼にも程が有りましょう。ただ、ヒトですし、私たちの常識とは違うのかもしれません。
伯爵位というものは、騎士でもあります、故に名乗り、彼の名を問い直しましょう。
それが終われば、おそらく本格的な、やり取りが始まるのだ、と私は認識しました。
■影時 > 単に投じられるだけであれば、身を逸らして躱しただろう。その程度はやってのける。
しかし、向こうは投具を用いた戦い方も弁えているようだ。
身を逸らすだけではすべて回避しきれない。故、重要部位の直撃を避けるだけで善しとする。
ただ――その心の言葉を聞けば、こう叫びたかったことであろう。
俺は――NINJAだ、と。
されども、確かにHENTAIであることにも違いあるまい。
常の人間とも異なり、気質、性質もまた異なる。だが、今はこのような些末事か。
「……――ほーぅ。竜の眷属か? 否、違うか。血族……嗚呼、どらくるとやら、か?」
抜き放つ刃を無造作に右手に提げつつ、向こうが何やら息を呑む姿にほう、と息を吐く。
此の手の反応を見せたのは現状、限られている。
竜種か。だが、先ほど投じた手裏剣が傷つけた傷の治癒の速度が気になる。其れを為し得るものとなると、そうは多くない。
名乗りから聞く竜の名から由来する血族やらいう、吸血種。魔族の類となれば、この場に居るのはおかしいことではない。
「……是非もなしか。どーも、と言っておこう。影時、と云う」
左手で仮面を外す。口元も厳重に包む布地を下げて、不精髭が目立ち始めた肌色を冷えた大気に晒そう。
愉しげに笑う男の顔がそこにある。腰を曲げて頭を下げて名乗りが済めば、直ぐにかぶり直す。
■シュティレ > 私は、戦い方は師に教え込まれています、今回はナイフを選択しましたが、それ以外のものを投擲することができます、筋力が、人と違うからできるのです。
それを使えば意表も突けるだろうと、言っていたのを記憶しています。
彼の心の叫びは当然届きませんでした。
ええ、心を読むようなそんな業は封印しておりますので。
「ご明察、我ら血族に関しても知識が豊富なご様子。そして、それを知り、剣を引かないのですね。」
吸血の一族にも、様々とある。ヒトには分からぬだろうがカインを祖とした一族、自分たちのようにドラクルを祖とした一族。
自然発生した存在による一族、人と子を成して生まれる一族―――など、同じ吸血鬼といっても、それは様々なのである。
それを言い当てる彼の知識には素直に感嘆を――――アレが推測の一助を担っていたとしても。
「カゲトキ。妙な名前ですね。」
どーも、というのは挨拶なのでしょうか、こちらの国のものでもない、さらに異国の言葉に少し戸惑いを隠せません。
しかし、膨れ上がる彼の圧力に来ることがわかります。
鞭を構え、私は動き始めます、彼は速い。待は後手となりましょう。
なれば捉えられる間に、音速を超える鞭の一撃で、彼を倒す――――それが最善手でしょう、と。
―――パァンと空気を叩く音速の鞭。先ずは彼の太ももを打つために直打ちの形で振り下ろします。
■影時 > 「そう褒めてくれンな。本を読んで知ったまでのことよ。
さっきの問いに改めて答えるとな、……俺は奴隷商人じゃァない。
名の如く影に生きるもので、我欲故に群れから抜けた外れ者よ。
我が好むのは、三つ。命躍る戦いと戦いと女と酒と、……おっといかん、四つだな」
竜種となんやかんやと関わることになって、気づけば長い。
彼らのことを知るとなれば、身なりを整えて市井に開かれている図書館にだって赴く。
必要であれば然るべき文献が収蔵された蔵にだって、忍び込んでみせる。
竜の名を種、起源たる名として含む類の魔族がいるというのも知ったのもそれだ。だが、正直言えば半信半疑でもあったが。
わざと口数多く戯れ言葉も加えて並べ立てるのは、思考を巡らせるためだ。
真に刃の効力を試すことは重要ではない。愉しむことがまず第一、そして帰還のための注意を払うのが第二だ。
折角釣ったにもかかわらず、獲物を離す釣り人にも似る。だが、獲物に喰われかねないこともあるのが戦場の常であるが。
「この地の生まれでもないから、なァ――ッ!」
鞭と太刀。形状も種別も違う代物であるが、一つ共通する要件がある。
最大の威力を叩き出せる部位は先端であるという構造だ。一番の威力を出すには振り上げ、振り下ろす所作を伴う。
威力を減ずるとなると、接近が最良。しかし、向こうは血族だ。知識通りであれば接近戦は本来は愚策。
それがどうした、とばかりに気息を巡らせて身を低くしながら前に出る。
氣を放って静から動に変転する所作には、一瞬残像を伴う。
それでも鞭が生む風は纏う外套を爆ぜさせ、前を停める留め具を破壊する。
故に外套を目くらましとするように前方に投げ遣って広げてみせながら、右手の太刀を走らせる。
柄尻を左手で持ち変えつつ、外套ごと向こうの胴を右から左へと断ち切らん、と。
■シュティレ > 「知は力ですから。そうやって、ヒトは繁栄しているのでしょう?
奴隷商人でなければ、私としては剣を引いて欲しいところですが。
そうもいかないようですね。
戦が二つとか、貴方は戦闘に狂ってるんですね。」
命を懸ける戦いも、そうではない戦いも好きだといってます。ウォーモンガーでしたっけ?HENTAIさんは、どこかタガが外れていると認識しました。
きっとここで私が剣……獲物は鞭ですが、収めても襲いかかってくるでしょう、仕方がありません、身を守る為にある程度相手をしないといけないでしょう。
ドラクルを知るのであれば、おそらく私たちのことも研究しているのでしょう。
とはいえ、あの刃は……その研究とかそういうものを通り抜けて私たちを死に至らしめるモノ。
正直相手にしたくないと思いますが――――。
「っく!」
やはり、HENTAIみたいです、動きが音速の鞭に追従してきました。
踏み込みからトップスピードに入る速度、その入り方、美しい流れとも言えます。
その場に立ち尽くしているように見えるのはまやかしで、音を置き去りにする速度の接近を私は認めます。
ばさりと、大きく広げられるのは彼の漆黒の外套でそれは私の視界を閉ざします。
その影で位置を確認しようにも血の匂いは彼の移動速度に追いつけず、耳での確認も―――音を置き去りにした速度です、間に合いません。
その場に立ちつくすのは下策、しかして、あの速度では、具現も間に合いますまい。
鞭を盾に―――できません、これは呪いの鞭。握りの部分以外に触れれば、私でも、力を封印されてしまいます。つまり、防ごうとすればぎゃくに弱体化し、彼の刃に倒れるのでしょう。
―――判断の結果、全力で後退します。しかし、彼の速度は恐るべきものであり。
ぎゃぎゃぎゃぎゃぎゃぎゃぎゃ!と不愉快な金属音。
全身鎧の同部が、切り裂かれその刃は浅く私の腹部を捉えて引き裂いていきます。
久しく覚えてない痛みという感情、彼の刃には私の血がまみれているのでしょう。
「―――ハ!」
痛みを忘れるように叫び、私は鞭を振ります。鞭は手元に戻り次は先ほど投げナイフで傷つけた肩を狙います。
同時に男の目を見ましょう。
魔力を込め、私は刻印の魔眼を行使します。魂に魔力で刻印を打ち込み、逆らうことができなくなるもの。
抵抗力のあるものであれば縛る事能わずではあるが、魂への攻撃は相手の行動を一瞬なりとも阻害することは出来るでしょう。
■影時 > 「いやァ、最近見ているとな。生きながら腐っている気がしなくも無ェなぁ。割と。
狂っているというよりは、アレよ。穏やかな生き方とやらが出来ぬから此処に居るようなものよ」
故に――鍛えなきゃならん、と。そう言い足す。
別段死ぬために生きているわけではなく。
生を謳歌したい。極限まで愉しみたい。
粋に生きるというのは難しいが、己なりの生き方となるとどうしても、死地に遊ぶことからは脱しえなかった。
しかし、一つ誤算がある。
竜の事を知るついでとして件の血族のことを知識に入れたが、純然たる対策となる得物、道具の類はない。
転用できそうなものは皆無ではないが、真逆本当にこの太刀に込められた龍/竜(ドラゴン)殺しが血族(ドラクル)殺しとなるのか?
「――……!」
氣を載せ、走らす刃が鎧を引き裂く。斬れる。斬れた。
夜にあかあかと裂く血の華の匂いを嗅ぎつつ、速やかに刃を引き戻す。痛痒を与えるに足るか。
まだ図り切れない中、次撃へと移る隙を突くように一筋の痛みが走る。
「が、ぁああ……ッ、ぉおぉ!!!」
打ち据える痛みだ。太刀を取り落としかけるのを堪えつつ、踏み止まれば向こうが見る。己を凝視する。
この身を縛ろうとする刻印の目だ。咄嗟に思考内に防壁を張る。
万一敵に捕らえられた際、機密を口にする忍びは害悪でしかない。故、精神防壁の類や対拷問訓練の類は受けている。
唇を地が滲むくらいに噛み締めつつ、一瞬その身を強張らせては全力で後方に飛びのく。
総身に冷たい汗と脂汗がないまぜになって滲む。足元にからん、と転がり、青ざめた顔を覗かせる鬼面はなりふり構わぬ回避行動故に。
■シュティレ > 「それは、ヒトがですか?貴方が、ですか?
でしたらどうかそれは私以外にそれを向けて欲しいものです、私は無用な戦いを望んでいるわけではありませんので。」
通り魔的に襲われるのは溜まったものではありません、どうかそういうのは、別の誰かにお願いしたく思います。
言って聞いてくれるのであれば、こんな風に戦うこともないのでしょう、諦めるしかないのでしょうか。
そして、私の攻撃が、魔眼の効果が確認できて。私は一度離れます。
追撃しなかったのは、感という物もありますが、それ以上に、己のダメージがあるから、です。
「……治らない……。」
正確に言えば、治りが遅いというレベルですが、未だにぽたぽたと、私の腹部から血が失われます。
血族の血は、魔力の源とも言えます、全部抜け出して死ぬということはありませんが、力が減衰していきます。
家に戻り、棺の中で休眠を取らなければ、この傷は治らないでしょう。しかも、時間をそれなりに必要として。
彼は必死の表情、まずい所です、手負いの獣ほど危険だと聞きますが、今の彼はその状態でしょう。
近寄るのは愚策、しかして、遠距離で仕留められるとは思えませんし。
こういう風に立っているだけで、どんどん消耗していきます。
「―――具現。Dolch」
今回は、あらかじめ投げナイフを具現化しておきます。
すぐに使わねども、彼の速度を見てから具現では間に合いませんので。
左手にナイフを挟み込み、私は見据えます。
「―――参ります。」
本来は正直に、言う必要はないのですが、これでも騎士です。
騎士には騎士の矜持というものがあります、故に声にし、彼と同じ速度、音速での踏み込身で近づきます。
じゃらり、と鞭をしならせながら、横薙ぎの一撃を、前方の空間を削り取るような勢いで、振り払いましょう。
いつでも、追撃の投げナイフを投擲できるように握りつつ。
■影時 > 「前者さ。生き腐りたくねェなら、生きていると思うコトをするしかないわなァ。
分かった分かった。次は、そうする。全力を振り絞るにゃ……此処は地の相が悪い」
土はある。風はある。火は必要であれば起こせば良いのだが、如何せん水と金の類はどうか。
井戸でも掘って水が出ればいいが、金属となると幾つか術を凝らさなければなるまい。
土より金――金属の類は火を以て産する。五行を巡らせるように地相を変えるには、相応の手間がかかる。
故に、如何に向こうに痛手を与える武器があったとしても、快勝にはまだ遠い。
「……、ふぅぅぅ……はぁぁ、っ、威圧、強圧の類、ではなく、此れが見竦めるチカラの類か、こりゃ」
きついな、と。この力の具現の時点で向こうが低位ではなく、強い力のある種であることを理解する。
呼吸を以て体内の氣の巡りを整え、戦意を立て直す。精神防壁を組み直す。
数手先を思うと、此れは無用な消耗戦となる。そして何より自殺したいがために此処に居るのではない。
請け負った依頼はまだ、終わっていない。死ぬというのは其れを反故にする。故、まだ死ねぬ。
そう思い、太刀を放り上げる。
瞬間、自由になる両手で再び幾つかの印を切り、口の中で祝詞を紡ぐ。
陽炎を象徴とする軍神の加護を奉るもの。ひいて、願い奉る句を通じて力を喚起し、氣を燃料に投影する。
像を結ぶのだ。己と同じ姿形、気配――装具、得物も含めて。ぱしっと手に落ちる刃もまた、二つ。
「忍法、映シ身の術。――参る」
右手を振り上げた己の背後に、音もなく、静かに同じ仕草をするもう一人の己を現出させる。
ぬっと湧いて出るように作り上げたのは氣で創造した実体ある幻像。震脚で再び地を踏み鳴らし、音と共に土煙を起こす。
それを目くらましとして、前に出る。氣を籠めた太刀の刃の根元で震わせる鞭を受け止める。
そして、もう一方は相手の左方から足音高く飛び上がり、切りつけに掛かる。
防がねば、頭から足先まで叩き斬る、とばかりの剣線を描く。だが、受け止めるとなれば気づくかもしれない。
“軽さ”と。何より、“龍を害す。屠ってでも鎮める”という刃の圧じみた気配がないことに。
■シュティレ > 「―――活気に満ちているとは思いましたが、そういう状態にヒトからは見えるのですね。
………?」
あれ?襲わないで→次は全力で襲うから覚悟しとけ、に聞こえました。勘違いでしょうか、彼のうぉーもんがーが移りこんだのでしょうか。
問い返したくも今はそんな状態ではないので、それは流れていきます。
「―――やはり、HENTAIさんは、心も強いのですね―――嫌な強さです。
血族並と言うところですか……。」
血族といっても、上位の存在であれば涼風の用に受け流すでしょう。ヒトのみで、受けきるのは賞賛できる心の強さです、素直に賞賛はしたくないです、戦闘狂なので。
「増殖しました………!」
魔力には見えないそれはスライムとか単細胞生物とか、そういった分裂方法は知ってます。それなのでしょうか。
唯判るのは、彼は瞬間的に増えることができて、そして―――今二人になっているということ。
「――――っ!」
爆発するように大きくなった土煙。最初の外套のように視界から、男の姿が消えました。
刀によって鞭が絡め取られました。ムチの特性を逆に利用したのでしょう、それによって私の動きも止められてしまいます。
手放すことのできぬ、武器ゆえに、私は足を止めざるを得なかったのです。
そして、左手の方向から来る男の姿、それに感じる違和感は血の匂いと、驚異に思えない刀。
―――おかしい。
私を害するならあの刀は必須。
目の前で防御と足止めに使いあれで攻撃するとしても、いくら彼のちからとは言え、刀には及ばぬ。
そして砂煙――――。
「真逆」
伏兵がもうひとりいるという推測。しかし、私は動くことができない状態。
気の刀は、受けても死には住まい、大怪我はしても。
ゆえにあえて受け、本命であろう一撃を警戒し――――
■影時 > 「俺なんぞのような枝葉を見てもなァ、仕方なかろうさ。
ほれ、山の向こうにあからさまな一例が横たわっていよう。一番わかりやすい見本よ」
ようは、後先考えぬ全力を出すには要件が不足している。
まして全力を費やして殺さなければならない。そう意識するための由縁が己にはない。
世に強者は多い。吸血種の一部にはこの太刀が通じ得る可能性がある。あとは、魔族と言えども好戦的とは限らぬ。
そう思うに足るものを得られただけでも、この一合には価値がある。そう思うのだが……。
「HENTAI扱いか。……あーもう、傷ついちゃうねェ、台所を這いまわる這蟲の類縁扱いかよ、俺」
あれ、ひょっとしなくともその手の色物であったか我は。
行動に転じながら、一瞬ばかり緊張を途切れさせようとしてしまう思考の動きに複雑げに口元を歪める。
しかし、それもあくまで瞬間的だ。事に移れば、余分な思考は払って為すべきことを為すために身体は動く。
「ぬぅぅぅん!!」
相手に先行して斬りかかった己の姿が、ふっと掻き消える。世に稀な得物も含めてこの姿を写し身とすることはできない。
掌で柄をくるんと回せば、錘ごとからめとった鎖鞭をさらにまぎ上げることになるだろう。
そして、その動きを通じて大きく太刀を振りかぶる。其処に氣が重なる。漏れ出る氣の圧が軍神の加護の如く、陽炎として滲む。
そんな刃を全身の筋肉が膨れ、軋む程に渾身の力を込めて、足元の石畳を爆ぜ割りながら振り抜く。
氣と織り交ぜた太刀風は、女の総身を断ち切るのではなく打ち据える猛威ととして吹き荒れる。
――忍法ならぬ刀法、荒風ノ太刀。あからさまな殺し技ではあるが、そうしないのは狙いを変えたからだ。
狙うは相手の足元。地面を爆ぜさせ、起こす衝撃の圧と砂利の礫を痛手の由縁と目くらましとして、その場から離脱するために。
■シュティレ > 「―――え?」
後ろにでも回ったのかと、私は全力で周囲を警戒していました。が―――失念していたのです、血族との戦いは誅伐であり戦いとも言えない試合のようなものだということ。
そして、幻像は、鞭を絡めることができないという初歩的な事実。
消えゆく幻影は気にしていないのですが、周囲に警戒するということは、一点への警戒は漫ろになるということで。
引っ張られるがままに私はよろけてしまいます。そして、目の前には振りかぶられた竜殺しの刀。
そこに込められるのは、消滅さえ免れぬであろう分量の破壊の力。それは、私の魔力に匹敵―――超えるのかもしれません。
轟音と、振動が周囲を揺らしました。
刀の等身は私のすぐ脇を通り過ぎ地面をえぐるのは、それを狙ったが故なのでしょう。
土煙が晴れる頃には、カゲトキと名乗る男は既にいなくて。
敗北を喫した私が、座り込んでいるだけとなりました。
―――暫しの放心の後、私は立ち上がり、歩き始めましょう。彼らを舐めていたわけではなく、純粋に負けたのですから。
ならば、次は負けぬよう、研鑽をしなければなりません。
そして、その場から、戦の後のみを残し、影は消えましょう――――
ご案内:「魔族の国」からシュティレさんが去りました。
ご案内:「魔族の国」から影時さんが去りました。