2018/07/28 のログ
■ミリーディア > 如何やら感じ取ったのは覚えの在る存在なのが理解出来た。
其れならば無駄に意識しておく必要も無いだろう。
其の存在が想像の通りで在る為らば、間違いなく向こうから声を掛けてくる筈なのだ。
結果から云えば予想は的中であった。
姿を見せる相手へと目を向けて、確証を得る。
自分が頻繁に使う解析や分析の能力を得意とし、妙な縁を紡ぐ相手だった。
「成る程、何故に君がこんな場所に居るのかと思えば…
残念乍、儂はあちらへと向かっている途中だ。
……然し偶然とは珍妙なものだと、そう実感しているよ」
彼女へと言葉を返し乍、周囲へと視線を一度巡らせる。
答えと共に先に見えるタナール砦を指し示して。
近付いて来るのに結構速度は在りそうだが大丈夫だろうか?
大丈夫そうならば昔からの変わらぬ動きに面倒だと何もしないが、危なさそうであれば寸でで避けるだろう。
■アザリー > 水の車輪は勢い良く回転こそしているが――それもまた、少女が近くなるにつれ徐々に減速していく。
昔からこうではある。こうではあるが、流石に初対面の時にはこうはならなかった。今にして思えば自分も若かったのだろう。
そのまま、面倒くさそうな少女姿の魔王――昔ながらの友人にでもあったかのように抱きしめると、軽く持ち上げて少女の頬に自分の頬を擦りつけようとする辺り昔より悪化しているかもしれない。
「また帰るの~?折角こっちに来たならゆっくりしていけば良いのに~。偶然っていうのは~計算も出来ないから~私達からすれば珍妙な事が多いのは仕方ないんじゃないかしら~」
実際、お互いある程度は計算と解析、分析で現実の予測は出来てしまう。迷子のスキルはある意味、そういった解析や分析を無視する様に偶然の出会いを齎してくれるので便利ではあった。
抱き上げたままで砦の向こう側、未だ恩寵の残る王国の土地の方を見据えると――
「あれ~?そういえば、メッフィーちゃんってまだ宮仕え~?
お城の中だとメッフィーちゃんって呼べないから~中々会いにいけないのが残念だな~。」
実際。自分自身もまた、一時宮仕え。王宮に在籍していたこともあった。記録と記憶はほぼ消してあるが、少女にだけはその消去魔法を向けなかった。
無駄だと知っているし、別に少女が言いふらす様な人柄では無い事くらいは想像がつくのだから。
寧ろ、まだ騎士団にいる事の方が意外だったりする。こて、と首をかしげ少女の目を見据えると――
「お城って楽しい~?あの頃は詰まらなかったけど~。まだメッフィーちゃんがいるなら楽しい事があるのかしら~」
■ミリーディア > 難しく考える事も無かった、其の侭の勢いで当たればお互いに只では済まないのは当然理解出来るものだ。
途中の減速で大丈夫なレベルの速度と為れば、避けるのも面倒と広げた腕の中へ。
続けて持ち上げられて頬擦りをされるも、困る程度の行為でも無いので好きな様にさせておいた。
「用事は終わったのでね、一応は調査との名目と為っているし戻らない訳にもいかんのさ。
確かに儂等からすればそんなものだったな…久しく計算外とも思える程の事が無かったので忘れ掛けていたよ」
王国では如何しても許容範囲外の出来事は起こり辛い。
彼女の質問に答え乍も、そうした彼女のスキルは少しばかり羨ましく感じるのかもしれない。
あらゆる事象も知識も記憶する自分には在り得ない出来事なのだから。
「まあね、立場上は研究施設の室長だが。
確かに城内では困るが、研究施設では余程誰も部屋には来ないんだ、暇ならば来てみると良いだろう。
……ああ、其の時には甘い菓子を持参してくれると儂が喜ぶ。
菓子に合う紅茶とかでも良いな」
彼女が宮仕えで在った事は当然知っているし、其処から離れる際に自身の事を周囲から消し去ったのも理解している。
其の理由も、自分には其れを行わなかったのも、難しく考える程のものではないだろうとも。
後に続く言葉は彼女の為でもあり、自分の為でもあるもの。
お互いの暇を紛らわせるかもしれないし、あわよくば土産もと…分かり切った様な言葉だ。
「昔に比べれば少しは活気が出てきているな。
色々と内に秘めた遣り取りを見ているのは面白いものだよ」
人間は見ていて飽きない、勿論、魔族に飽きた訳でもないが。
此方に向けられる眼を見詰め返し乍、其れを思い出すかの様に小さく笑う。
■アザリー > 「ふふ~ん。メッフィーちゃんの計算能力を超えた私の迷子力は~また高みに上ったのでした~。」
本当に少女の侭のような頬の滑らかさ。
肌の質感は己も相応に上質だが、やはり天然の、自然の滑らかさには敵わない。黒髪が乱れ散るほどに激しく頬ずりするが、あまりやりすぎるとよろしくない熱を持ってしまいそうだ。
とすん、と地上に下ろすとお城の方角――とは全く違う方角を眺めているのだが。
「人間さんも見る目少ないのね~?お姉さんが宮仕えしてたら~メッフィーちゃんの研究所で一晩遊ぶのに~。
ふむふむ~。紅茶なら~。ロザちゃんの領地に良い紅茶があったから~。それを少し買っていこうかしら~?」
判り易いお誘いの言葉には嬉しそうだ。
頬をほころばせ、瞳こそ伏せられているがきっと瞳の7色は愉悦よりも喜悦。その色合いが濃い7色に変化しているだろう事は想像に難くない。
お土産は山ほど持って行こう――としたところで、ふと。
彼女が宮仕えであれば伝言をお願いしておくべきかと。思い立ったように少しだけ頬の緩みを正した。
――また直ぐに愛らしい魔王の姿を見ているうちに頬は緩んでしまうのだけれど。
「そうそう~。えぇっと~6師団長の~ゲイちゃんに~。約束してた件は無理だった~って伝言頼まれてくれるかしら~?
ふむ~。人間さんも人間さんで、活気が生まれるのは良い事ですね~。
豪胆な人もいますし~俯瞰視点をもてる人もいますし~。あっちには可愛らしい妹も出来ましたし~。」
少女の様に、内に秘めた遣り取りを間近で見られるわけではない。
自分がいた頃は己の功績や虚栄心ばかりが目立つ王宮だったが、どうやら今は幾分マシになっているようだ。
――少女がもしかすればバランサーとしての役割を果たしているのかもしれないが。
「うふふ~そうだ~折角~また窮屈なお城に戻るなら~たまにはお姉さんと遊んでみる~?」
すぃ、と人差し指が1本だけ。自分と少女の目の前を泳ぐようにして右から左に線を引くように横に滑っていく。
ただそれだけで生まれているのは空間の歪みであり、もし宮仕えの身に戻る前に。
少し体、というか色々動かしたり解放しておきたいなら付き合うという提案だろう。
■ミリーディア > 「目標も無く彷徨うか、予想外の事が起こる楽しさも在るのだが…
何も無い時の虚しさが思いの外に深くてね、中々に手が出し難いものなのさ」
迷子では無いのだが、其れに近い行為は試してない訳ではない。
あくまでも結果論だが、結局は何度も続ける気にはなれなかった訳だ。
肩を竦め乍そう伝えていれば地面へと降ろされた。
飽きたと云うよりも別の何かでは在りそうだが、敢えて其れは聞かないでおこう。
「場所が場所なんだ、仕方無いってのは在るんだろう。
何せ王城から少し外れただけの所に建っているしね。
成る程、此の魔族の国の地にも中々の物があるのか、期待しておくよ」
彼女は彼女で何かしら暇をしているのだろう、反応で何と無く分かる。
後々如何為るのかは別の話として、喜んでいるのなら良いだろうと。
然し、不意に表情を変えて伝えられる言葉に考える様な仕草。
其の表情は直ぐに戻るのだが、其れは気にしないでおく事にする。
「第六師団の団長…ああ、ゲイゼリク君か、記憶している。
何やら幾つか混じった面白い反応を感じているからね。
其れだけで良いなら伝えるくらいはしておくよ。
200年前か、あの頃も面白い連中は多かった…面白い出来事が在った事もあったのだろうが。
其れに近付く様な勢いだよ、儂としても嬉しい限りだ」
勿論其れが目に見えて解る訳では無いのだが、情報として自分には伝わって来る。
人間の歴史と云うのも浅く深くと流れの変化は面白い。
彼女の思う通りに、自分がそう云った役割を担っているのかは分からないが。
「……君がかい?…悪くはないね。
何分、今の儂は見てるばかりでね…釣り合う様な相手がそうそう居る訳も無いってのもあるのだけれども。
まあ、久々に遊んでみるのも良いか」
一度だけ眼をタナール砦へと向けるも、直ぐに彼女へと戻す。
長々と駄弁っているのは拙いが、少し遊ぶ程度為らば問題は無いだろうと。
言葉と共に其れを肯定する様に一つ頷いておいた。
■アザリー > 「魔族さんの土地も~中々面白いんですけどね~。何分食べる物は~人間さんの土地のものが美味しくて~。お姉さん、太らないか心配だな~」
どうせ太らないという事実はこの際目を瞑るとして。
頼み事を気軽に引き受けてくれた少女には、ありがと~と感謝の言葉。それとともに、お互い近距離でも遠距離でも『遊べる』力の持ち主。
そして千日手になる位には拮抗もするのだから。
相手がこちらの提案に乗ってくれるなら、ととん、と踵を軽く丘の土に打ち付けて、ほんの数メートル程度だけ距離をとった。
不意打ち等という野暮な事はしない。
そして無理に目を惹き過ぎる必要も無い。
遊びは、お互いに楽しめてこそ遊びでもある。――故に。
提案者の自分が周囲の空間を僅かに歪める。空間と空間の結合を一旦分解し、好き勝手な空間と結合させる。
中で誰が何をしているのかは、見え難く。それでいて魔力の波長や傾向等を、外部から感知、解析、分析を不可能とするジャミング効果のある空間形成。
内部にいる、自分と少女には無関係な遊びの場を作り上げていく。
「私も~メッフィーちゃんも~。正面から喧嘩を売ってくれる様な魔族さん減っちゃったからね~。200年前は~人のことをおばさんだ~なんていう悪い子もいたけどね~。」
懐かしいものだった。今はもう、そういう機会は殆ど無い。
さて――遊ぶからには全力で。となれば閉じられていた瞳は開かれ――本来は7色に輝きを灯す瞳が、今は金色一色に染められている。
自分の背後、それと上空に生まれていくのは空間の歪み。
お得意の全方位からの熱線砲撃の準備というところだろうか。
「一応~外に魔力露呈とかはしないようにしてるし~。
お互いの火力がお互いの計算を超えないなら~他の土地に被害は出ない筈かしら~。」
■ミリーディア > 「どちらの土地で在っても、其処に生きる者達次第なんだろう。
土地が豊かでも腕が悪ければ使いこなせない。
土地が枯れていても腕が良ければ案外何とかなるものさ。
其れは食べ物だけでない、如何様な事で在れ当て嵌まるもの。
……そう思うだろう?アザリー君」
其の言葉が差すものは言葉にする必要も無いだろう。
力も知識も知恵も同様だ、使い手で全てが決まる。
距離を取る動きを見せ、周囲の空間の歪みを起こす彼女。
此れからの遊びの前準備と直ぐに理解をすれば、手を添える様に其の力へと自身の力の付与による強化を行う。
最早此の空間に関与出来る存在は皆無、若し居るとすれば神なる存在だろうか?
彼女一人に準備をさせるのは不平等だろう、そう云わんばかりに。
「確かに…更に前であれば、儂は研究に没頭している時期だったから気にもしてなかったのだがね」
其れより更に昔の話。
少女がまだ様々な種族の解析を行っていた頃だ。
相手からすれば殺戮や虐待とも云えるだろうか…懐かしい話だ。
其れを思い出してか、小さく笑う。
そして…
「世の中には計算だけでは解け切れぬ事も在る。
そう、昔にか弱い人間が協力は在れど邪神を退けた様に。
見せよう、一つ一つは小さな力で在っても、大きな力に匹敵するのだと云う事を」
語る様に言葉を紡ぎ乍、右手の指先が胸元へと触れる。
其処に在るのは神の要石、左右の手の甲に在る石と共鳴すれば、普段感じさせていた魔術師並の魔力から一変し桁外れの魔力を解放させた。
其れに連動する様に少女の周囲に魔法陣が浮かび、円を描く様に動き始める。
周囲を移動する魔法陣は更に別の魔法陣を其の場に固定させて生み出す。
気が付けば周囲は何百、何千とも云える魔法陣で埋め尽くされる。
少女が伝えた様に一つ一つの魔法陣から感じる魔力は大きくも強大とは云えない。
但し、其の数は更に円の動きを大きくさせ彼女の周囲さえ巻き込み、今だに魔法陣を生み出し続ける…其れは無限に続くと云えよう。
彼女とは別の形での全方向、攻守を兼ねたものであるのは理解出来るか。
■アザリー > 「うふふ~。そして腕を揮わせるのも~上に立つ者の器量次第~。
腕に限らずとも。全ては―――」
間延びした声が引締められた。
それは自分自身にとっての一つのトリガーだ。意識的に力を解放させ、それを制御する事に己の意識を持っていくための。
続けられた言葉は、律儀な――少女の助力によって飲み込まれ、そして仄かな微笑み。好ましい相手が好ましい姿のままで居てくれた事への感謝か。
ここまでくればもう、寧ろこの空間の内側に他の生命体が予め存在している方が不運としか言いようが無い段階。
虐殺や殺戮を繰り返す魔王にして、狂王。そういう評判も耳にした。
もっとも。それは必要以上に行なわれた訳ではない、自分に向けられらた訳でもない。
――但し、相手は必要以上に、ソレを行わなかった。
そして得た力をみだりに揮おうともせずにいた。その気になれば――魔界の災害と称された歩く大災害の自分よりも魔界で猛威を揮っていただろう。
自分に付けられた放浪の二つ名は。放狼、と昔は書かれた物だ。
野に放たれ、領地を持たず目の遭った魔王や魔族と気楽に戦闘をしていた自分。
群れず、一人流離い続けるので狼とは又違うのだが――誰かが気を利かせたのだろう。
「その計算だけで解けきれない未来をこの目で見るのが私の夢であり、目標。見せてくれる、いえ――その計算の範疇を。予測を、予想を超えた世界をこの目に。」
瞳に浮かぶ7つの輪は何れも金色。
数千度程度の熱線なら容易く山脈を賽の目に出来る程度に精度高く制御されていく。。
対面する少女が神にも値する理由のひとつ。その要石の力と共鳴させる無限にも湧き出る魔法陣を相手にするには幾分出力不足。
では――此方も一段階火力を引き上げるとしよう。
空間の歪みと少女の間にまた生み出される空間の歪み。偏光と集束の為の魔力レンズが生み出されていく。
増殖する類の能力でも、無限に生み出されるのはそれなりに厄介なのだ。
無制限に何かを生み出すこと、それがどれほど高尚な事か。単純な触手だとか、そういった階位の話ではない。
無限に生み出されるのは、いくら小さくとも魔力を有する魔法陣。
一撃ですべてを打ち抜けないなら次の一撃を準備している間に相手の魔法陣の展開の方が早いだろう。
自分の魔力炉は――少女の要石程の魔力を保有しているわけではないのだから。
「本当に似てますね。――まったく、私の天敵その物の力ではないですか。――さて千日手の次。千一手目。
始めましょうか。今回は解析も分析も。細かい事無しになりそうですが」
少女の動きに呼応するように。右腕を――まるでオペラ劇場で役者が愛の告白でもするかのように彼女に向ける。
パチン、と軽い音は指を鳴らす音。
それと共に。空間の歪みから打ち出されていく万の熱に近しい熱量の線。その太さは針の様であり、けれど周囲には。自分達以外の生命体の存在を許さない様な灼熱地獄を生み出していく。
白く輝く光は射出元の空間の歪みから打ち出されると、そのまま彼女の魔法陣を打ち抜こうと直進していくもの。
或いは空間レンズにより角度を変更させ、魔法陣のほんの僅かな隙間を狙うように伸びていく物。
或いはレンズにより収束され、針が数本結合するだけで光の槍と変じ、万を超えた熱を持つその槍が雨霰と降り注ぎ――或いは地面から天蓋へと突き抜けるように射出され。
魔素や瘴気といった原始的な物さえも焼き尽くす様な白光の世界を生み出した。
線の数は数えるだけ無駄。但し、少女の魔法陣の数に比べれば少ない。
精々、数千本が限度だ。さてこれを如何様に捌き
如何様に此方に反撃の手を向けるか――
■ミリーディア > 「上に立つ者か…上下の定義とは、一体何から生み出されたものだろう…そう考えた事は無いかね?
と、そんな難しい話は如何でも良いか…悪い癖だ、本当に」
どんな状況であろうと、会話であろうと、ふと気に為ったらつい考えてしまう。
其の様を彼女に伝え乍も、そんな自分に苦笑を浮かべ肩を竦める。
其れでも、昔の自分と比べたら随分と余裕も出来たものだ。
過去は過去、消え去る事はない。
だが引き摺り続ける必要もない。
今の自分が如何在るのか、其れが重要なのだ。
だから…彼女がどんな存在で在ったかは知っているが、知っているだけでいい。
今の自分に重要なのは、矢張り今の彼女。
「……だから、全てを知る事を求める。儂も君も。
全てを知った先を見たいから…変わらないな、お互いに。
そして…力の使い方も、否応無く理解させられるものだ」
無限に生み出され続ける魔法陣、ぱっと見は同じに見えるだろう。
だが僅かな違いは存在し、其れが様々な効果を発動させる。
それらを自在に操る事こそが少女の此の力の真骨頂だ。
ある魔法陣は攻撃を、ある魔法陣は防御を、ある魔法陣は補助を…其処から更に細分化される。
其れはどの様な状況と為ろうが判断し対処するに特化した能力。
全ての存在を解析し分析する少女との相性は抜群である。
今回の相手は彼女だ、勿論其れに合わせた魔法陣が張り巡らされていた。
「勿論無い、そんなものは。
尤も儂の此の力自体が非常に細かく繊細なものでね。
そう云った意味では細かい事が無いとは言えなくもないだろう。
君の合図で全てが始まる…好きに始め給え」
言葉を交わす、其れが途切れる事が此の遊びの上で在るのかは分からない。
投げては受け止めと言葉のキャッチボールの様に繰り返し乍、彼女が向ける腕に答える様に自身の胸元に左手を添える。
そして、合図とする指を鳴らす音が響く。
視えている空間の歪みから生み出される灼熱、其れを収束させ光り輝く槍と成して襲い掛からせる。
其れに合わせる様に、自身が生み出した魔法陣が各々に持つ効果を発動させた。
攻撃の魔法陣は空気をも凍て付かせる冷気を放出し、補助の魔法陣が其の効果を引き上げ周囲に絶対零度の空間を撒き散らせる。
其の瞬間に本来は此の空間内の全ての存在が、効果が、其の活動を停止するだろう。
防御の魔法陣は其の間を縫う様に輝いており、自分と彼女だけをその輝きが包み込んでいた。
お互いの目から見える光景はまさに純白の世界だろう。
正しくは純白しか見えない、触れるもの全てを完全に凍り付かせる死の世界と云えよう。
但し、其れは此の力が確りと効果を現わした事で起こるものだ。
思っていた以上に彼女の力が強ければ、上手くいってお互いの灼熱と絶対零度が打ち消しあったりとするのだろうから。
然し其れだけの事が起こそうと、魔法陣が全て消え去る訳ではない。
其の間でさえ魔法陣は生み出され続けているし、発動させていない魔法陣もまだ残っているからだ。
■アザリー > 「そうね。人が己の適正を把握した上でこの人物の下でならばと思い、集う形が理想の関係――例えばメフィ。貴女の所の様にね。」
始まったのは。嘗ての決着の付かなかった千日手の一手先。
誰にも見られない、そんな世界で生み出された白色の熱による彩りは、次は少女の生み出した白い世界と鬩ぎ合い、お互いの力の余波は双方で組み合わせた空間の歪の中で押さえ込まれていく。
純白の世界の中でもお互い、視界は利くだろう。目だけで世界を見ているわけではないのだから。
始まった鬩ぎ合い。最初は冷気程度物ともせず突き進む自分の熱。
しかし補助の魔法陣の力を得て冷気が絶対零度となると様相が一変する。
絶対零度に縫い止められる白熱の槍。あるいは熱線。
一つ二つの魔法陣の効能であれば容易く打ち抜ける熱量も、少女の言う通りに、宣言通りに。
先ずは余波の熱を打ち消され、次の絶対零度が本体の熱を急速に下げていく。
更に更に更に。次々に、無数に生み出されていく魔法陣の生み出す冷気に絡め取られていく。
上手いのは攻撃の為に絶対零度の範囲攻撃を展開させ、効率的に余波を削り取っていく点。
白光の槍が万全の働きが出来る空間がそれにより削り取られ、無数に集った防御の為の魔法陣に触れると幾つかを巻き添えにして対消滅するのが限界。
熱線程度の熱量では魔法陣にすら届かず、収束させた所で魔法陣を打ち抜くには至らない火力。
攻撃、補助、防御。一つ一つの力は弱くとも、束ねそして使い道を誤らなければここまでの作用を見せてくれる。
補助の魔法陣との結合を幾つか強制的に解いても結果は変わらない。
何故なら、此方が分解していく魔法陣の数は相手が生み出していく魔法陣の数の1%にも満たない速度だからだ。
少女の生み出す魔法陣が組み上げたのは芸術的な作品とも言える。
―――水蒸気が生み出されるならそれを利用した次の手も打てるが、絶対零度という世界を生み出されてしまえばそれらも直ぐに氷に戻される。
そして終わりを知らずに生み出される魔法陣は一つ一つの力が小さい為に展開も、そして効力の発動も早い。
此方が先ほどと同じ規模、同じ火力の為の陣を敷き終える頃には相手の魔法陣がこの空間全てを埋め尽くしてしまうだろう。
そして冷気に自らの体をむざむざと差し出すつもりも無い。
指先に空気を結合させ、そして水蒸気すら凍らされたその霜と氷。
結合させると長大な氷壁となるそれに自らの手を触れさせ――水の分子運動を促すように、氷の城壁を微細に振動させる。
氷の城壁は瞬時に沸騰した湯となるが、形状を崩す事を相手の生み出している絶対零度が許さない。此方の動きと相手の絶対零度が解除されるまでの間、その干渉壁により此方は若干の猶予を生み出していた。
「まったくもう、何が小さな力ですか。その力の源泉が小さくない力――貴女の努力の賜物である以上、謙遜が過ぎるという物です。千一手目は――私の方が不足してましたか。」
研究という言葉は使わない。
――努力と言うのは、力に溺れず。平素を保ち続けている少女への賞賛の意味合いも強いのだ。
ふぅ、と一つ息を吐くと空間の捩れはゆっくりと閉じられていく。激しい熱と冷気の鬩ぎ合い。気流もまた無茶のある動きに引っ張られた結果、自分の黒髪も乱れている。
ふるふると頭を振ると――ぱらり、と。僅かに自分に届いていた冷気の名残。髪飾りのように小指の先一つ分の氷のかけらが、地面に落ちていった。
遊びの終わりの合図の様に、氷の氷壁もまた消え失せて行く。
「たまには良いガス抜きになったかしら~?」
氷壁が消えると、また自分の瞳は閉じられた。
のんびりとした声で、ゆっくりと問い尋ねる。王国にいては大規模な魔法の展開をしても打ち合える相手が少ないだろう。
魔界に来てもその保有している力量が甚大な為に、少女に喧嘩を売るような魔王階級も殆どいない。
適度なガス抜きになっていればいいのだが、と。
――少女は長く生きる。そして目指す物、目指す存在が似通っている為に奇妙な親近感も感じてしまうのだ。
■ミリーディア > 「成る程ね…然し其れは買いかぶり過ぎだよ、アザリー君。
どんな見返りも無く、そんな関係を作り上げる事は本当に難しい事さ…儂等は魂の契約あってこそ、だからね」
そう答える事が出来たのは全てが終わった後の事だ。
あらゆる存在が其の生命活動を停止させる死の世界、其れが解けていった後の。
流石に少女が如何程の力を持つとは云え、其れを行使し乍の余裕を持った言葉の遣り取りは困難である。
「仕方無いさ、此の力を確りとした形として具現化させられた切っ掛けは人間と云う存在なのだからね。
大きな力を力任せに振るうよりも、幾つもの力を寄せ集め一束とする事が強いのだと。
……確かに君の云う通りである処も在る訳だが…」
結局の処、大元を辿れば彼女の云う通りに強大な自身の力だ。
自分がそう思おうと相手が違うのだと思う為らば、其れも含め受け入れ考えるべきである。
時に其れが新たな発想を生み出す事も在るのだから。
終わりと理解すれば、浮かんでいた魔法陣の全てが一瞬にして消え去る。
同時に大きな溜息を一つ吐き…同じくして、解放していた魔力が収縮し元の魔力へと戻っていった。
「……そうだね、力と云うものを久々に使った気がするよ。
まだ、ちゃんと使いこなせてはいる様で安心した」
彼女の思っている通りだ。
王国だろうと、魔族の国だろうと、何かを対象にして力の行使なんて機会は皆無だ。
其の力の感覚を忘れてしまいそうになる程に。
そして、この短い一時がガス抜きと為った事も。
「さてと、儂はそろそろ戻らないとな。
さっきも云った通りだ、儂に会いたければ研究施設に来ると良いだろう。
一応、誰でも来訪可能と為っているから目立つ事もないしね。
其れで…君は如何するかね?」
色々と思う処も在るが、今は其れを置いておこう。
もう一度だけ其れを伝えれば、改めて彼女へと向き直り乍聞いてみた。
■アザリー > 「ん~。お土産を渡す約束の娘もいるし~。一箇所に留まれない性質なのは知ってるでしょ~?だから~ふらふら歩いて~。
あ~でも、メッフィーちゃんとお茶はしてみたいから~。今度、遊びにいこうかな~?」
力についての問答は――答えは先送りにする。
ここで問答を繰り返してしまえば、少女が戻る妨げにもなってしまうだろう。
空間の歪みや結合が解除され、元の世界へと周囲の風景、元の小高い丘の上に降り立つ奇妙な重力感を感じ取ると――如何するか、の声には正直に応えていた。
迷子のスキルを持っている以上、どこかに行こうとしても違う所に辿り着く事も多いのだ。
それに同じ場所に留まれない性質も重なり、ふらふら散歩と放浪を繰り返す事を素直に。
それでも、人間世界にもう一度向う時には研究室へ遊びに行こうという前向きな言葉。
ガス抜きになれたなら何より。そしてそれ以上に、なんとなくだが。悠久の時を生きている、そしてこれからも生きていく筈の少女に儚さが見え隠れした気がした。
――理由は判らない、しいて言えば直感とでも言おうか。
タナール砦にはくるりと背中を向ける形になり、少女とはまた違う方角に歩き出すつもりなのだろう。
「もう少し~人間さんと~魔族さんの~面白そうな人材を探す旅を続けるつもりよ~?
ひょっとしたら~作られたレールを飛び越えていけるような子達がいるかもしれないし~?
んー、お城に入ると~メッフィーちゃん呼びはまずいから~。えぇっと、ミーちゃんって呼んでいいかしら~?」
砦は――魔族側の支配に落ちているが。逆に有名な魔族の支配ではないのが目に見える。
少女一人で十分なんとでもなるだろう。気付かれずに抜ける事も。
そして例えばだが、砦内の魔物を眠らせてこっそりと抜け出す事も。
「次に会えるその日まで~ミーちゃんも元気でね~?」
■ミリーディア > 「分かった、では次に遊びに来た時にでも相手をしよう」
此方から如何こう云うのは違うのだ、素直に受け止めて。
土産を抜きにしても彼女為らば暇潰しの相手には十分だろう。
其の時が来る事を期待しておくとする。
魔族の国の側へと向きを変えるのを見れば、此方はタナール砦の方へと。
そうして、お互いにお互いの行く道へと付くのだろう。
「為らば、面白そうな存在を見付けたら儂にも教えてくれ。
君が興味を持つ様な相手だ、きっと悪くは無いだろうしね」
確かに現在のタナール砦は魔族の側が占領している様か。
が、自分にとっては大した問題とは為らないだろう。
こう言葉を向け乍、挨拶代わりに右手を振った。
「ではな、アザリー君。良い旅を…又会おう」
■アザリー > 「ふっふ~ん。そうね~その子達のお話でもしながら~ミーちゃんと紅茶っていうのも~優雅かしら~。」
旅は自分の足で行なう物という心情でもあるのか、先ほどの様に水の車輪を生み出したりしない。サク、と足元に生い茂る魔族領内でも逞しく生き延びている雑草。
それを踏みしめながら小さく右手を振って微笑んでいた。
少女とは紅茶を飲む以外にも楽しそうだ。――何より、純粋に好奇心は強く抱く相手でもある。
「ミーちゃんも~。また会おうね~。」
トトン、トトン、と丘を下りて行く自分。時折右に左に体が揺れる辺り迷子の理由の一端が垣間見えるかも知れない。
平衡感覚というか、バランスが悪いのだ。歩く時の。
兎も角、久方振りに出会った相手。次の出会いを楽しみに、胸に刻み込むようにしつつ。
お互いの道が一瞬だけ交錯した後、又違う道を進んでいく。
一瞬の激戦の名残は――痕跡はどこにも残されないだろう。この夜に行なわれた一戦だけは自分達だけの秘密なのだ――。
ご案内:「魔族の国」からアザリーさんが去りました。
ご案内:「魔族の国」からミリーディアさんが去りました。
ご案内:「魔族の国」にカノンさんが現れました。
■カノン > 尻尾を揺らし歩いてく。
買い物を済ませたあと、腕に抱える食料は大きく重い。
王都にいた頃よりは自由もあって、姿も隠すことなく過ごせてた。
さすがに昼間に外を出歩くと、気温も高くて暑い。
木陰にあるベンチを見つけると、とりあえず休憩と座って休んでた。
■カノン > 少しの間、日陰で涼んでいたけど、屋外なので日陰だろうと暑い。
もう少し、と立ち上がれば屋敷にむけて歩き始める。
ご案内:「魔族の国」からカノンさんが去りました。