2016/10/11 のログ
ご案内:「魔族の国」にテイアさんが現れました。
テイア > 隠形の魔術に身を包んだ女が小さくため息を零す。
こうして密かに潜入するのも、この砦でいくつめだったか。
行方不明になっている第七師団の将軍を探し出すのが目的であるが、今まで探った砦はすべて空振り。
騎士団のほうに捜索隊の編成は行わせたものの、当の第七師団と足並みを揃えるためにまだ動かしてはいない現状。
どうにも、貴族の横槍により第七師団も身動きがとりづらいようだ。
貴族の動向を気にした団長は、捜索隊派遣には消極的ではあるが、彼も第七師団の必要性は理解しているからか、渋々編成に同意をしてくれた。
その旨はすでに、副官であるサロメに書簡を送っている。
あとは、師団の返事しだいといったところだが、とりあえずは現在職務を休んでおり、身軽に動けることから魔族領にとらわれている可能性を潰していこうと要人を捉えていそうな砦を回っているわけだが。

「……生臭い…」

この砦にいる魔族の臭いなのか、飼っている魔物の臭いなのかなんともいえぬ生臭さが漂っているのに眉を潜めた。

テイア > 「さて…やはり牢は地下か…。」

魔力を風に乗せる探索魔術が砦すべてに行き渡ると、目的の場所も、その道筋も頭の中に描く地図に映し出される。
しかし、特殊な仕掛けなどはさすがに分からぬため用心に越したことはない。
足音を忍ばせて、素早く哨戒の兵の横を擦りぬける。
大気が動く感覚に、兵は振り返るが気のせいかと首をかしげながら後方へと歩きさっていく

「…あそこか」

右へ左へ、迷路のような砦の中を駆け巡り地下への入口を発見する。
見張りの兵の横をすり抜けると、闇の広がるその階段を慎重に下へと下って行き。

テイア > 階段を下りるにつれて、生臭い臭いが一層強くなっていく。
ぱき…ぐちゅ、ぼきき…と不快な音が聞こえ始め。

「…臭いの正体はこいつか…」

むわっと醜悪な臭いの立ち込める地下の空間へと、女は足を踏み入れた。
どろどろとした粘液に包まれ、触手を蠢かせる醜悪な見た目の巨大な生き物。
ぎょろ、ぎょろ、と絶えず大きな目玉が左右別々に動き回り、その大きな口にはその不快な音の源があった。
その口から飛び出しているのは、人の手足だ。その口が動くたびに骨が砕かれ、肉が潰される音が響き渡る。

「…全く、悪趣味なことだな…。捕らえた人間を食わせているのか」

おそらくは尋問などを終え、用済みになった捕虜を片付けている所といったところか。

テイア > 「確認だけして、迅速に退散したいところだが、見た目によらず鼻がいいん、だなっ」

すん、と鼻と思われる器官が大きく空気を吸い込む音が響くと同時、正確に女が隠形している場所に触手が伸びてくる。
見た目よりも早いその動きに、すんでのところで触手を避けると剣を抜き構える。
使っている隠形の魔術は、相手の認識を極限まで下げる効果であり一度存在を認識されてしまえば意味がなくなってしまう。
あまり時間がない。
今はまだ上の連中が気づいている様子はないが、これとの戦闘を始めれば騒ぎになりまもりを固められてしまう。
やつの腹の中まで確認できればいいが、今は牢の中だけ確認して早々に撤退するのがよさそうだ。
たん、と地面を蹴ると身軽な体は宙を舞う。
びゅっと伸ばされた無数の触手が剣ごと女に絡まりつこうとするのに、ぐるん、と体を横に回転させると諸々を切り刻んでしまう。
宙を舞いながら、魔物とすり抜けざまに牢を確認すると人間の生きた捕虜の姿が見える。
――しかし、目的の人物はどうやらいないようだ。

テイア > 粘液をまとった触手は、刃の切れ味を著しく低下させるらしい。
もしかしたら、腐食させる作用もあるかもしれない。
しかし、龍の鱗より削り出された透明な刃は、刃こぼれも腐食も知らない。
粘液で覆って切れ味を悪くさせるなら、その粘液を吹き飛ばせばいい。
すぱっすぱっと次々に切り落とされていく触手たち。
ぎょろぎょろと動く目には涙らしきものが浮かび、醜く形相を歪ませ、魔物は痛みに不気味な咆哮をあげ暴れまわり粘液を撒き散らす。

「全く…泣くなよ。醜い顔がさらに醜くゆがんでいる。」

ざわざわと上が騒がしくなってきた。どうやら気づかれたらしい。
これだけの咆哮をあげられれば当然といえるか。
気づかれないようにと、極力魔法を使わないように抑えた戦い方に徹したというのに台無しである。
魔物を挟み、階段を正面に見据えると

「一陣、二陣、三陣、紡ぐは糸ならず、平原を駆け抜ける疾風。」

どかどかと階段を駆け下りてくる足音が響く。
女は剣を両手で持つと、肩幅に足を開き腰を落とす。肩に担ぐような格好になり。
言葉を紡ぐ度風が刀身に収束し、地下の空間を風が吹き荒れる。

「風よ――切り裂け」

風を纏った重い刀身を、渾身の力で振り抜く。
次の瞬間轟音と共に風が駆け抜けた。
幾重にも圧縮された風圧と、真空の刃が魔物を両断しちょうど階段を駆け下りてきた兵たちを尽く切り裂いていく。

吹き荒れる風は、地下から地上へ続く階段の上にいるものまでなぎ払い暫しの静寂が訪れる。

「…どうやらここも空振りのようだな。そこの者達。脱出する気があるならば、武器を拾いついてこい。」

やれやれ、とんだ騒ぎになってしまった、とため息をつきつつ足元に落ちている鍵を拾い上げると牢を解放する。
目の前で仲間を魔物に食われる様を見てきたのだろう。
憔悴しきった顔の男たちがそこにはいた。
残念ながら、自ら動き自ら戦うことのできない者まで救うことは今の女には不可能だった。
ここから先、女自身無事に出られる保証はない。
女の声に、生きる気力を失っていた者たちの目に光が戻る。
立ち上がり、女に倒された魔族から武器を剥ぎ取っていく。
それでも諦めたままの者は、牢の中で座り込んだままだ。
その者達の心はすでに死んでいるのだろう。

テイア > ルビーの中に劫火の炎を閉じ込めたものを道すがら要所要所に配置しておいた。
魔力で遠隔操作を行い、次々に爆発させて砦内を混乱へと陥れる。
その混乱に乗じて、脱出を図る。
一緒に脱出する者達のうち、何人かは敵の刃の前に倒れた。
外へと出る頃には、砦は炎に包まれていることだろう。
砦から脱出できたからといって、まだまだ安心できない。
ここは魔族領だ。炎に包まれる砦に集まってくる魔族も数多くいることだろう。
近くの森の中、目立たぬように、転移の方陣は一人分の大きさのものしか描いていない。
なんとかぎりぎり二人いけるそこに、捕虜の人間たちを二人ずつ詰め込み転移させる。

テイア > 「…これで最後か。」

こういった場面を想定していなかったわけではない。
それゆえに、要所に劫火のルビーを配置しておいたのだ。
背後に燃える砦を振り返る。
以前、出くわしたヴィクトールという男がほかの砦で大暴れしたのに加え、今回の砦の炎上。
さすがに今後は、そのほかの砦も警備が厳しくなるだろう。
そろそろ単身での砦捜索は、潮時かと考えながら自身も陣の中へと足を踏み入れ呪文を唱える。

次の瞬間には、女の姿はそこにはなく、風が吹いて描かれた魔法陣を消し去っていくか。

ご案内:「魔族の国」からテイアさんが去りました。