2023/01/23 のログ
ご案内:「北方帝国シェンヤン「八卦山」」に凰魔さんが現れました。
凰魔 > 八卦山のとある麓。そこに異様な空気が立ち込める。
ぼこ、ぼこり、とゆっくりとそこから地面が持ち上がっていく。
まるでそこに何かが眠っていたように、地面の下から、白い腕が伸びる。
白い、というのは肌の色ではなく。非常に水分の抜けた動物の毛の色であり。
さらにそこからまたもう一本腕が伸びて、地面にヒビが入っていく。

「―――ぷ、はぁ……!」

そこから姿を現すは、なんとも可愛らしい小動物のような姿。
いや、小動物にしてはかなり大きい。それでも動物の姿であることには変わりなく。
その全身には奇妙な札が貼られて、衣類の類いはまったく身に付けていなかった。
太く、長い尻尾を持つその獣はゆっくりとその瞼を開き、空気を吸う。

「ん~~!シャバの空気、何年ぶりであるかなぁ!」

その山の中の空気。淀むその魔が溢れるそこを非常に美味しそうにその獣は吸う。
喋った。そう、人間の言語で、せいぜい魔獣の類いだと思われる獣は喋った。
パンパン、と体に硬くへばりついた土を剥していき、尻尾を軽くたたく。
背中から尻尾にかけて、青く美しい色をした毛。しかしその内側に向かうほど、色は黒に、そして白になっている。
非常に不可思議な色合いをしたその獣は空を見上げて、存分に太陽の日を浴びる。
ごきごきと首と両腕を回して、あらためて自身の姿を見て。

「ちまっこい体になってしまったなぁ~。これでは威厳も何もないではないか。
まったく、どれほどの時間が過ぎてしまったのやら。
まぁ封印される心地は悪くはなかったがなぁ」

そして自らが出てきた地面の穴に腕を伸ばす。
そこから、白骨化している最早化石のような人骨を持ち上げて。
シェンヤンの衣類を持つ、上等な素材を着ていた人骨の服をはぎ取る。

「さて、川でも探してしまうか。それにしても……。
こんなところに我は眠っておったのか。静かでありがたかったが。
人っ子一人いないとはなぁ。我の名前を知っているものもおらんのではないか?」

持っている服を引きずりながら、その獣は川を探して歩き出す、

凰魔 > しばらく歩くと、川の流れている場所を発見する。
その冷たい川に向けて獣は遠慮なくその身を投げ出した。
バシャバシャと水しぶきを上げながら、心地よさそうに泳ぐ。
その水分の抜けている体がゆっくりとだが川の水を吸って大きくなっているようで。
しばらくすれば、ほっそりとしていた体はかなりの膨らみを帯びていた。

「ふぃ~。本当なら風呂がいいのだが、まぁ仕方ない。
この冷たさも、陽の光もこうしていると格別に感じるなぁ。
ふふ、すっかりじじいになっちまったか我も。まぁ実際そうなのだが」

プカプカとしばらく川に浮いていると、持ってきた服の事を思い出す。
それを掴み、遠慮なく川の中で洗い始める。
泥や土まみれだったその服が、まぁ見栄えがいい程度までは汚れが落ちていき。
ちょっぴりだけ綺麗になったその服を太陽に照らして眺めていれば。

「サイズはちと大きいかもしれんな。まぁいいであろう。
後で加工すればいいし、裸のままではさすがにいられぬからな。
それにしても……ここは魔族の国ではない、か。
いったい我はどこに封印されてしまったのだ?まったく、帰る場所もないではないか」

はぁ、とこれからを考えると頭痛がしてしまう。
獣は自身の額を抑えて、ふと川に流している自身の体をもう一度見る。
身体についている札は未だに外れない。その毛皮に引っ付いたままだった。
無理に剥そうと手を伸ばして引っ張るが、まったく取れる気配もなく。
これ以上力を込めても、そもそも現時点の今の身体では無理そうだと判断する。

「んま、そうそううまくいくことはないか。さて、しばらくはどう暮らしたものかな……」

ぐぅ~、と腹の鳴る音がその山に響き渡る。
川に流されながらお腹をさする獣は、ゆっくりとその場に浮遊する。
ふよふよと水滴を毛から滴らせながら浮遊して、あぐらをかいて両腕を組む。

「路銀稼ぎに……言語も変わっておったりせんだろうな?
どこかの人里に降りるしかないか。ん-、まぁもう我を覚えている奴もおらぬだろう。
それにこの姿なら魔族であると思うはずもなし、探してみるか」

ぶるぶると全身を犬のように震わせて水滴を落として。
その衣装に袖を通す。問題なくとりあえずは着れることを確認して浮遊したまま移動し始める。
が――――

「……どこに降りれば人里に向かえるんだ?」

凰魔 > 川沿いを歩くが、目的の里らしいものが全く見えない。
本当にここはどこなのだろう。まずは地理の把握からするべきなのだろうか。
しかし腹が減ってしまってあんまり長くは動けそうにない。
さて、本当にどうしたものか。せめて野獣の一つでもいればそいつを食うのだが。
どうにもそういった別の生命体も、川には魚一匹すらいない。

「不便な場所だなぁ。ここでは我の城は作れそうにないな……。
魔はよく充満して折るが、そもそも他の者の領地でもあるようだし」

そもそも自分の領地が未だ自分のもののままなのかもわからない。
まぁそうでない可能性の方がずっと高いだろうし、別に魔族の国に戻る必要もない。
知り合いもすでに死んでいる可能性が高い。眷族がいるなら、それを感知できるのだが。
全く感知できないというのことは、自身の眷族はみんな野生化したか自由になったのだろう。
であれば、ひとまずどこかに自身の城を築いて最初から眷属集めをしなければならない。

「面倒な作業になるのぉ。まぁ致し方あるまいか。
……最悪そこらの野草で腹を満たすとしよう。はぁ、溜息ばかり出て仕方ないわ」

なんとも惨めな自分の現状に、何度も溜息を吐く。
だが仕方ない。それもこれもあの道士や裏切った眷族共のせいだ。
もし奴らの子孫がいるならばそれ相応の償いをさせてやる。
そう心に誓いながら、山を下りていき、どこかしらの村につくのだった。
もっとも、それ以降の話はまた別の時に語るとしよう。

ご案内:「北方帝国シェンヤン「八卦山」」から凰魔さんが去りました。