2023/04/28 のログ
ご案内:「タナール砦」にラディエルさんが現れました。
■ラディエル > 闘いが終わり日が暮れて、銀月のか細い光が降り注ぐ夜。
血腥さも抜け切らぬ戦場の片隅に、黒衣の人影がひとつ佇んでいた。
羽織ったマントで判り難いが、兵士の類にしては細いシルエット。
俯いた顔は女のように白く、被ったフードの下から零れ流れる銀糸の髪も、男にしては些か長い。
しかし、その上背からして、女と誤解される筈は無かった。
足許に、黒焦げの屍体が転がっている。
おおむね人型をしているようではあるが、人であるかは判らない。
その屍をじっと見据え、マントの下で両手指を組み合わせて、
低く掠れた声が、祈りのことばを紡ぎ出す。
―――――そっと目を伏せ、暫し沈黙。
そうして数歩、歩いた先に別の屍を認めると、その前で同じ事を繰り返す。
淡々と、ただ、淡々と。
―――――それが、今宵、この男に与えられた仕事だった。
■ラディエル > 「―――――― と、」
目につく順に、淡々と。
次々に祈りを捧げるルーティンが、不意に止まった。
足許に蹲る黒々とした塊が、明らかに人ではないものの形をしていたからだ。
す、と双眸を細め、左手を己が頤へ軽く触れさせて、首を傾がせ思案する間をあけ。
なんの感情も籠らぬ呟き声が、ぽつりと、ひとこと。
「……こいつには、別の祈りでなきゃ効かないんじゃないかなぁ」
己の知っていることばでは、救いにはならないのでは、と。
魔に属するもの全般に対して、嫌悪も忌避も抱かぬけれども、
単純に、慰めにも救いにもならないのなら―――と、湧いた疑問をそのまま口に。
とはいえ、それにかわることばを知っている訳でもない。
取り敢えず目を伏せて、頭のなかだけで祈りのことばを捧げることにした。
■ラディエル > ――――――――――――そうして、数刻の後。
砦の明かりが見えなくなる前に、仕事は切り上げることにする。
足許に転がる屍体のいずれにも心を残すこと無く、
いずれかを殊更憐れむことも、軽んずることも無く。
ただ事務的に、純然たる仕事として祈りを済ませた後に。
黒衣の男はゆっくりと、砦へと戻ってゆく。
明日もまた、日暮れには仕事が始まる筈だ。
うまくすれば眠る前に、安酒の一杯も貰えるかも知れない、
その程度の思考だけを、頭の片隅で玩び――――――。
ご案内:「タナール砦」からラディエルさんが去りました。