2022/10/16 のログ
ご案内:「タナール砦」にラボラスさんが現れました。
■ラボラス > (戦場の最前線。 勝者と敗者が分かたれる砦。
一時の支配を掛けて、怒号と血煙が充満し続ける呪われた地
そんな場所にも、例え一瞬であっても平穏が訪れる事は在る
勝利に酔いしれた戦士達の、ささやかな宴の声が響く事も在ろう
或いは疲弊と絶望とに苛まれた兵達の、痛々しい静寂と沈黙が包む事も在ろう
だが何れにしても、ひとつだけ、間違い無く同一であるのは
何時か、新たな戦いの火蓋が切って落とされると言う事だ。
"それ"に気付いたのは、果たして誰であったろうか
急ぎ仕事の補修が進められる砦の内部に駆け込んだ、人の兵達のどよめき
つかの間の安寧が、とうとう破られるのだと、誰もが覚悟し、身構えた一瞬で在ろう
若き兵は兎も角、老練な兵であれば、動じる事は無かったやも知れぬ
戦場で起こりうる大抵の事を経験して居るが故に、新たな仕事が訪れたのだと
あくまで冷静に、戦の備えを始めるのかも知れぬ
――”獣”が来た、と言う伝令を、耳にするまでは。)
「――――――――――――」
("其れ"は唐突に表れた。
地平線の向こうから、ゆっくりと近付いて来るのではなく
まるで幽鬼の軍勢の如く、陽炎の様に其の場へと湧き上がった
一糸乱れぬ統率された行軍、闘争心に満ち溢れた数多の咆哮と怒号(ウォークライ)
地鳴りめいた振動が砦に響き、全ての兵が予感しよう
今より――蹂躙が、開始されるのだ、と)。
■ラボラス > (即応した指揮官は、知在る者であったのだろう
軍団が砦へ到達するより前に、砦上部へと徐々に展開され行く魔術詠唱の気配
魔力を乗せた、或いは風を裂く様な強弓が先んじて放たれ空に弧を描き
一拍遅れて雷鳴の様な超長遠距離からの攻撃魔術が、あわよくば一掃を願って放たれる
防衛側としてはこの上なく迅速で、最も適した判断であった筈だ
例え全滅迄持ち込めずとも、先手を取れたと言う事実は
戦闘において、この上なく有利を得られたと言う事に他ならない
――其の筈、で在ったろう。)
「―――――――進め。」
(直撃、そして、着弾
舞い上がる土と砂が一瞬軍団を覆い尽くし、戦果の期待を抱かせるも
程無くして、砂煙をかき消す様にして、進軍を僅かも止めぬ軍団の尖兵が
最後に飛来した巨大な火球を、用いて居た棍棒で叩き壊すのが、砦の弓兵、其の遠目に飛び込むか
爆発の衝撃でぶち折れた棍棒を、用済みとばかりに放り捨てて素手の進軍を続ける尖兵
転がる棍棒の残骸を、塵の如くに踏み潰しながら、後に続く軍勢の様相
決して被害が無い訳では無かろう、だが、其れでも尚威勢を失わぬ黒き獣達に
先手を取った筈の砦側が、その後の行動を一瞬怯ませたのは
きっと、もしこの戦いを、外野として見ていた者が居たなら、一目瞭然であった筈だ。)
「―――――隊列を左右に分けろ、砲撃を躱す。 待機させた奇襲部隊を"降ろせ"」
(――渾身の魔法攻撃。 其れを幾度も続けて放てる魔術師はそう多くない。
矢雨は間断無く降り注ぐであろうが、次に打って来る手は距離を考えれば魔法よりも砲撃
人間が持つ汎用的な大砲の飛距離から鑑みて、射程へと踏み込んだ、其の辺りで
急に軍団が左右に分かれ、其の進行に変化を見せる
一撃目の砲弾が、狙いを逸らされた無人の場所へと着弾した後
蛇の様に、うねりながらの行軍を、二手に分かれて行う軍団に狙いを定め切れず
在らぬ所に、岩と砂ばかりを巻き上げて、幾度も着弾の柱が立ち上る
例え至近距離であっても、不規則に地をうねる蛇へ、正確に投げ槍を当てるのは至難であろう
其れが遠距離であれば猶更、距離感を狂わされ、偏差計算が追いつかず、あてずっぽうとなる
数度の砲撃機会を逃せば、もう、遠距離戦の射程では無くなろう
踏み込んだ砦の目前、大砲の下方射角が不足し、狙いを定められなくなり始めた頃
漸く、魔術師部隊の第二詠唱が開始され、再びの魔術砲撃が放たれようとする
だが――其の時。 弓兵が、そして魔術師部隊が目にしたのは
迫る敵軍の地を這う行進では無く――上空から垂直落下で飛来し来る
数多のサキュバスの魔眼から放たれる、強力な、魅了の光、であったか)。
■ラボラス > (相手が思わぬ方法で、相手が対処し難い方法で行うのが、効果的な奇襲
目前に迫る明確な脅威へと意識を割かれ、視野狭窄に陥った所で
上空から自由落下で接近するサキュバス達の存在に気付けなかったのは
あくまでこちらが、そうし向けたからに他ならない
魔術師たちの詠唱が止まり、弓兵たちの引き絞った弓が力無く落ちる
決して好戦的とは言い難い種である淫魔を、戦場に部隊として配備し
其の能力が最も作用する場で運用する――兵達の意識へ最後に残った光景が
戦場らしからぬ、娼館街のような其れであったのは、皮肉だったやも知れぬが
何れにしても、進行を阻む物は無くなった。
後は、戦場を死に場として中の兵達が決戦を仕掛けて来るか
或いは籠城を選択して、引き籠る事に徹するかの、何れかであろう
何方にしても変わらない。 為すべき事はひとつだけ、蹂躙し、破壊し、制圧する。)
「行け、可能ならば橋を確保しろ。 籠城の選択肢を与えるな。」
(何一つ、相手の思い通りにさせてやる必要は無い
此れは戦争、盤上遊戯では無い、全てを刈り取る最後まで、容赦してはならぬ
行軍が、其処から一気に加速する。 行け、と言う唯一つの命令によって
まるで蝗の大群が穀物を貪り尽くす様に、獣の群れが獲物の群れを一方的に食い荒らす様に。
籠城を選択し、一瞬上がりかけた橋梁が、辿り着いた尖兵達の殺到する重さで元に戻される
一気に扉迄進行した兵達が、其の勢いの儘に扉をぶち破れば
扉の向こう側、打って出る為に待機して居た人間の兵達を吹き飛ばしながら、侵入を果たす
―――其処からは、もう、戦争とは言い難かったろうか
圧倒的な個の力と、暴力によって為されるのは一方的な蹂躙
蜜蜂の巣を、たった一匹でも壊滅せしめん、雀蜂の如くに
叩いて、殴って、蹴って、投げて、斬って、貫いて、焼いて、抉って
ありとあらゆる暴力によって、一瞬で砦の勢力図を塗り替えて行く
そうして拓かれた血と肉と屍の道を、軍団の将たる男は、ゆっくりと踏み越えて行く
向かうべきは唯一つ、将たる己が座るべき椅子に向けて)。
ご案内:「タナール砦」にラボラスさんが現れました。
■ラボラス > (椅子其の物に価値など無い。
だが、己がその椅子に座る事で、戦争の終わりが示される
己にとってでは無く、戦争と言う一連の行いを終える為には必要な事
用途を為すのならば、今存在する椅子では無く、人の屍を椅子としたって構わない
切り開かれた屍山血河を踏み、階上へと進んで、司令官室へと向かう
近衛であろう兵達をも叩きのめし、固められた扉を、傍らの側近が蹴り開ければ
同時に放たれた石弓の矢を、片手で掴んで投げ返す
一瞬にして、生者の数は減って行くのだ。)
「―――――終わりだ、我が名はラボラス。
将の首級を掲げに来た。」
(――振るわれた剣、其の先に居るは老いた指揮官であろう兵
毅然と、此方を睨みつける其の姿は、久方ぶりに見る戦人の其れ。
人の中にも、まだ、そんな目を出来る者が居るのかと
少しばかり、表情へと浮かんだのは、この戦に至って初めての、満足そうな笑みか
だが、だからと言って、何が変わる訳では無い
敵である以上は、兵である以上は、寧ろ誇り高く死を与える事こそ敬意で在ろう。)
「―――名を聞こう。」
(――ほんの数秒。 其れが、老兵に与えられた時間。
己が言葉に応え、自らの名を名乗ったか、其れとも抗い名乗らなかったか
何れにしても、其の命は此処で潰える。 見事に、将としての業を全うして。
――後の事を、描き、伝える者は誰も居まい。
生き残った者も、捕虜となった者も、須らく軍団の褒賞となる
運良く、其処から逃れる者が現れるやも知れぬ、或いは戦場から逃げ遂せた者が居るのやも知れぬ
だが、そんな者達が、この顛末を伝える事など出来る筈もあるまい
ただ一つの事実――『翼在る獣』は今も健在であると言う
其れだけを覗いては――)。
ご案内:「タナール砦」からラボラスさんが去りました。