2022/08/18 のログ
■銀華 > その日は冷たい雨の降り注いだ日だった。
止んだのは日も静まった夜。 空気は少し生ぬるく湿度が高い。
魔族達がタナールを奪い返した後の砦としては、その空気 相応と言えるのか。
しかし皆が言う 嫌な予感がすると。 誰かが言う。 いつもより冷えてきていないかと。
「あれが、タナール砦か。 本当に人間界に近いんだな。」
人間の領域から姿を現したのは、長烏帽子成兜 独特な形状のそれを被る先陣は
光沢のない銀鉄と鎖帷子の強軽鎧 そしてロングスカート姿という和洋折衷の成をした者だった。
まるで草を食む笛頭竜の頭部のようだと頭の中で浮かべる砦内の面子。
兜を身に着ける 将と思える姿の女丈夫の姿。
しかし、周りに控えるは総勢 砦潰しに訪れる数と言える。
触手と目 鋭い牙をはやす首だけで飛ぶような飛頭類
烏帽子成兜の傍で従う爬虫戦士族
いろいろな魔が混合された姿 しかしどこか異質。
魔族領で見たことがない部類がいくつもいる。 その先陣がなぜ人間の形なのかと。
「流石名所の一つ 血が香るようだ。 己(わたし)も見識が狭い。」
見たことがまだなかったかのように振る舞う姿。
あのタナール砦をだ。
そうして、腰に差した大刀二刀の柄に腕を置くような姿で響く声を出す。
―――「魔王エルビーが一突 銀華(ぎんか)だ。 降伏すればよし 出なければ、屠る。」―――
魔族の取り込んだ砦を、別の魔族が屠る。
そんなバカげた話は聞いたことがなく、魔王の名前まで出している姿。
しかし、互いは味方ではなく敵同士 人間でも魔でもない第三勢力というバカげた事態に、砦は攻撃を仕掛けようと始めるだろう。
「さぁ、戦だ。 砦潰しは竜の話でいくつもでてくる。 経験しよう。」
人間の姿で、その笑み 嫋やかに浮かべながら大柄な者 飛び交う首 魔 が従い始める。
魔王エルビーの許しは魔族領への攻撃。
そして、爬虫類族はそれぞれが編み込んだ衣を厚く纏いながら 銀華は体から白く霞む氷霧
これを砦を含める辺り一帯に振りまき始める。 濃い霧とは不思議なもので、自身の周囲ははっきりしているのに
一寸先は闇ならぬ白を演出する。 しかもこの夜で 濃霧など もはや闇と同義である。
ご案内:「タナール砦」から銀華さんが去りました。