2022/08/08 のログ
■ゼロ > 「はい、いいえ。
――――第七に入る前からのものです。名前は、幼い頃誘拐された際に消失しましたので。」
秘密かどうかで言えば、秘密ではない。第七に入る前は傭兵だった、そして、傭兵になる前には、別の国の兵器だった。
幼い頃に誘拐され、様々な実験で、記憶を失い、符牒名を、名前とするようになった。
其のままに生きて来たから、之でしかないのだ。
鎧と仮面とを見れば、そんな風に見えるかもしれない、仮面は無貌であり、のっぺりとしているもので。
確かに、特殊な任務はしていたが、今は、その指示もない。
通常任務と訓練に明け暮れる一兵卒でしかないのだ。
「隙を見せていたのは、悠長な落下だとしても、攻撃されても対応できるから、では?
あの隙を見せつつも、迂闊に攻撃すれば、逆に制圧されると、認識できましたが。」
彼女の感覚は、間違いはない。少年兵は、ずれている、唯々、ずれている。
日常に溶け込み切る事が出来ないから、戦場に身を置いていると言って良い程度には、狂っている。
若さに似合わぬ攻撃力を、戦闘能力と経験を持ち、その所為で、日常を落とした存在だ。
良くある、子供のころから育てられて、それ以外を知らぬアサシンと言うべき、歪。
「此処にいる理由は、警戒、です。
皆は優秀で今も急ピッチで工兵が砦を直しております。
その分この場所での防衛の手が薄まりますし。
師団に所属してない兵士や傭兵は、戦勝だ何だと酒盛りをすることが殆どです。
だから、警戒する必要があると判断し、此処に居ます。」
別に命令を受けたわけではない。
腐っている兵士などは、残念ながら多いし、傭兵などは、真面目とは程遠い存在が殆どだ。
だからこそ、勝ったから、追い払ったから、と酒を飲み始める奴もいれば、遊び始めるのもいる。
相対的に防衛力が下がるのだ。
そう判断するから、少年は一人で此処に立つ、魔族が来ても100や200程度なら一人でも。
魔将軍―――以前出会ったラボラスか、死霊第七師団か、あのクラスには流石に難しくとも。
雑兵程度であれば幾らでも、蹴散らせるから、少年は、此処に立つのだと、答える。
「――――。」
アマーリエ将軍の言葉に、思考を這わせる。
確かに、竜騎士が此処の警戒に入れば、此処にいる理由は薄まる。
しかし、不思議を感じる所が出てきて、それを問いかける事にした。
「何故、でしょう。
竜騎士で警戒するよりも、自分が一人の方が、コストがかかりません。
寧ろ、竜の方が先に休憩を取った方が。」
空を飛んできたのだ、確かに竜は精強な種族だが無敵ではない。
厚意は感じるのだけども、不思議が強く。
仮面は、アマーリエの事を見つめ続け、問いかけた。
納得が出来れば、動くこと自体は、やぶさかではないのだが。
■アマーリエ > 「……あちゃあ。ちょっと面倒なこと聞いてしまったわね。名無しの代わり、か」
色々と立て込んだ事情がある、らしい。
裏付けができていない情報は己が主観で是非を判別するのは危うい。それらをひっくるめて面倒なこと、だ。
誘拐をされて何かされた類でもあるのか。
冒険者としての生活を送ってきた経験、経歴上、装いから色々と察する癖がついている。
こんな装備をまとっているものは、良くも悪くも目立つ。それでも生き長らえているのは、強いからだろう。
「ん、せーかい。その位どうにかできない奴なんて竜騎士にはなれないし、そもそも任じないわ。
知っているかもしれないけど、うちの師団で竜の乗り手になれる者は――竜と互角、対等に戦えることが条件よ」
空中で戦う才能を何かしら持ち合わせている、図抜けた魔術の才など、タネや事情は様々だ。
乗騎にして相棒とする竜と対等に渡り合い、心を通わせる者が弱いのであれば、麾下の師団では竜騎士にはなれない。
落下中の攻撃対策、対応は想定される戦術において基礎中の基礎とも云える。
仮面から素顔は伺えないにしても、受け答えする声色はやはり、年相応の少年、青年の類と呼べるもの。
ともすれば機械的ともいえる言葉の連なりは、戦場以外の何物も知らないかのような素振りさえ思わせるに足る。
「……酒盛り中に襲われて死ぬ奴なんて、素人以外の何物でもないわ。
とは言っても、汚染されている可能性のある飲み水代わりのワインなど運ばせたから、酒盛りが酷くなる可能性もある……か。
ゼロ、キミの言う防衛の手を一時的に穴埋めするために私たちがお使いに出されたのよ。
砦の見張り台から見るよりも高く、そして遠くを私、そして今上に居る竜騎士たちは確かめるコトができるの」
酔って死ねるなら幸せなくらい、とのたまったのは懇意にしている傭兵の一人か。
第十師団はその特殊性ゆえに、兵数の最大値に縛りがある。常備兵が少ない。その穴埋めのために傭兵を雇う。
恐らくは自発的に、酒盛りに興じている兵たちを優先してこんな場所で見張りをしているのだろう。
全く、と。半ば呆れめいた表情を素直に顔に出しつつ、肩を上下させては向こうの手を掴もう。
有無を言わさぬ、といった力加減で、砦の中へと入ってゆく。
警戒よろしくねと思念を送りつつ空を仰げば、相棒たる白い竜は、門の上に着地して小さく嘶く。
■ゼロ > 「第七の……今の師団長にわたっているか不明ですが。
過去の師団長には性能表、経歴はわたっているので、閲覧は可能かと。」
面倒臭いという事勿れ。
裏付けがあるかどうかで言えるなら、裏付けは持っている、それは提出済みだから、アマーリエの権限であれば閲覧は出来ようか。
誘拐され、ナニカサレタ経歴や、どんな状態なのかは、全て故オーギュスト将軍には提出されているのだ。
調べればすぐにわかる程度には判りやすくなっている。
強いか弱いかで言えば――――魔族の国で単身一年以上潜伏できる程度には強い。
「自分より強い相手でなければ、竜は首を垂れませんからね。
一応、第七師団将軍も竜に乗っているので、その辺りは何となくわかります。」
空中で戦う才能は、恐らくはないと思う。
ただ、地対空ミサイルよろしく、空に向かって攻撃することは幾らでもできる。
恐らく、竜はどうかは知らないが、並大抵の存在なら、堕とせると思う。
思考が、何処までも戦闘に特化されている者だったりもする。
「なる、程?」
確かに、空からの視界はとても広いし、ドラゴンの魔法やブレスの射程距離は少年の投石と同じぐらいは行けるはずだ。
だからこそ、竜が防衛に走るとなれば、安全なのだろうと思ったのだ。
その次の瞬間金属音が響いて、彼女のガントレットが少年のガントレットを掴む。
有無を言わさずという所か、流石に命令で動いているわけでもないのであれば。
上官からの言葉は、命令は、逆らってはいけないものだ。
なので、ずるずると、抵抗することはなく、引きずられていくように歩き始める。
白いドラゴンが、砦の門扉の上に着地して。
可愛そうなものを見つめるような視線で、少年を見送るのだ。
ドナドナされてきなさいと言われた気がする。気の所為だと思う。
■アマーリエ > 「然るべき申請をして問い合わせろって奴ね、それ。
……道理は分かるけど、面倒いわね。今のしきたりだと」
面倒くさいと言えば面倒くさい。
全師団が保有している全情報を共通、共有できるようにした、という下達や仕組みの記憶はない。
王や貴族たちの協議による決定により、協力し合えという命令は聞くが、綿密な協力関係を結んでいる師団はどれだけあるか。
「竜を殺すのではなく、言うコトを聞いてもらえるように心を向かせる方が難しいのよ。
そう、向こうも乗っているのね。今の長のほう?それとも、噂に聞く先代?」
空中で自分で飛んで戦えるという人材は、己も含めて非常に希少だろう。
竜と連携して高度を保つのではなく、自前で飛行できる能力者というのは、何人いるかどうかというレベル。
百人、千人に一人とも云いうる力量者を揃えるがゆえに、第十師団は兵数に勝る師団と渡り合える戦力を持ち合わせている。
結果として、兵数が少ないからこそ、機敏に動けることが強みである。
竜もまたワイバーンではなく、特有の魔術や超能の類を使えるドラゴンであることもまた強さの要素である。
その竜が上空を見張り、広い視野を得る。地上の見張りよりはずっと遠くを見ることができる。
以上の諸々を以て、自発的に働きづめになりかねない他所の師団兵を、強引に引きずっていこう。
その途中、憐れむような眼を白い竜が向けたのは気のせい――ではないだろう。
「何度も何度もこの流れの仕事はやってるから、遭遇してるかもしれないわね。
とりあえず、キミも少しは飲み食いして身体を休めるコト」
中庭まで連行してゆけば、第十師団が率いてきた補給部隊が天幕を張り、荷下ろしをしている。
荷馬車のうちの数台は、保温加熱の魔導器を熱源として、あり合わせの即席とはいえ炊き出しも行っている。
専門の料理人も騎士、兵士として雇っているほどでもある。
馬車から降ろされた酒の樽に飛びついている生き残りの兵士もまた、見かける。
麾下の兵たちに声をかければ、程よく冷めたスープの椀とワインを満たした金属のカップも渡される。
少年兵の分もまた、同様に貰って渡しておこう。
■ゼロ > 「…………。」
面倒臭い事なのか、と、少年は考えた、下っ端と言うのは情報開示などするには手間が多い。
そして、手続きをしたとは言え、得られる情報はさらに少ない上に、棄却されることが多い。
だからこそ色々な事をするのは面倒臭いという認識が無かったし、それが当然だと思っていたのだ。
面倒臭そうな表情をしている将軍を唯々眺めて。
「力で支配、の方ではないのですね。
サロメ師団長の方です、オーギュスト師団長は、馬、でしたから。」
言う事を聞いてもらえるように心をと言う言葉に、成程、と首を傾ぐ。
もっと野生的で、力を認めさせれば、良いのだと思っていたのだけども、それは違いそうだ。
ドラゴンと心を通わせるなんて、出来るのだろうか、と。
そもそも、空を飛べる魔法を使ったりするのは、其れなり以上の実力者だと思うのだ。
三次元と言うのは、馬鹿にならないものだ、と。
そこに、鎧よりも強靭な鱗、魔法とブレス。
ホント凄い、とゼロは感じるのだった。
「――――――――。」
戸惑いを感じる。
竜に哀れまれたからではなく。
将軍に連れてこられたわけでもなく。
別の所に戸惑いを感じている。
暖かな食事は、砦でも貰えるから其処迄、ではあるのだけど。
少年は一人で食事を摂る事が殆どであり、誰かとの食事は、殆ど無い。
だから今一番、気にして居るのは。
仮面だ。
食事をするには不適合なそれ。
食事用の仮面があるが、それは今持っていない。
知らない人と、仮面を外して食事を摂る。
酒を飲む。
そんな、未経験に戸惑いを感じているのだ。
■アマーリエ > 「よそはよそ、うちはうち……って言えば何となく分かる?
師団長からの文書としての申請であれば無碍にしないとは思うけど、この手のコトって手間と時間がかかるの」
全部が全部まとまって、綿密な情報交換をしあっている――のであれば、どれだけ楽だったか。
文書としてのやり取りは効力は強いと思うが、如何せんレスポンスの早さに欠ける。
直に聞きに行くにしても、聞きたい相手に直ぐにコンタクトが取れるかどうか。
「あら。――割と力技よ。特に害獣、害竜扱いにされている竜と向き合うときはそうね。
討伐寸前まで戦って分かり合う、こっちの言い分を聞かせるように仕向けるの。
嗚呼、今の代の方ね」
地方で害をなす、暴れる竜があると聞けば、スカウトという名目で出向くことも師団の業務の一環だ。
そうやって竜殺しではなく、竜と向き合い、鎮めるための経験を積ませるのもある。
素直にこちらの話、養成を聞いてくれる竜の方が貴重、レアな印象があるくらいだ。
そして、第七師団の今の長の乗り物が竜と聞けば、微かに興味が向く。
ワイバーンではない、ドラゴンかどうかはさておき、馬よりも威圧感は大いにあろう。
生来の甲冑とも云える鱗や甲殻は、生半な武器を弾き、さらに低位の魔術を個体によっては無効化さえることも多い。
「……――同じ師団でも、誰かとこんな風に話したり呑んだりしたことは無い? それとも苦手?」
荷馬車が運んできた資材で、即席とはいえテーブルと簡素な椅子がいくつか組み立てられ、並べられている。
そのうちの一つを師団長特権で抑え、軽めとはいえ、火が通った食事を味わいにかかる。
己が師団では、身分の差異があっても食べる者、食するものに違いはない。同じものを全員が食べる。
貧困にあえぐ農村の出の兵士の場合、食事こそが最大の娯楽と謳うものも非常に多い。
だから、食事の補給は徹底している。
さて、ワインで喉を湿らせながら、何か戸惑いやら複雑な感情を覚えているような少年兵を見つめる。
属してはいても、結局いないような個としての扱いになっていないか?
そんな予感さえ何となく覚えながら、問う。
■ゼロ > 「よくあるご家庭の文句、と言う所ですが、何となくわかります。
師団ごとのルールがあると言う事、ですね。」
師団ごとに、一つの国家のように、特色がある。
第七師団は対魔族師団だとか。
第十師団は、ドラゴンライダーの師団だ、とか。
その特色によって、運用方法も違えば、ルールも変わってくる。
それを考えれば、レスポンスなどは、仕方がない事なのだろう。
「まずは力を示すことは、何処も変わりはないんですね
その方が判りやすくていいのですが。」
竜が暴れているというのは、余り聞かない話だ、気にしてなかっただけ、なのかもしれない。
魔族に集中しすぎているとも言えるのかも知れない、もう少し周囲を気にしたほうが良かっただろうか。
とは言え、暴力が共通言語、と言うのは確かにあるのかも知れないな、と頷いた。
竜を乗っていたのは覚えているが、一度だけしか見て居ないので、どんな竜だっただろうか、と首を傾ぐのみで。
「そうですね……所属機関の半分以上は一人でしたから。
そもそも、仮面を取るのは命がけなので。
―――生命維持に必要なので。」
仮面と言うのは、この仮面であり、この仮面の治療能力があるから、今、生きている。
それを伝えることにした。
確かに、戦闘状態でなければ、食事の間位は大丈夫だろうとはおもうが。
人前で自分の顔を晒すことに、其れなり以上の抵抗を感じていた。
そもそも、少年は、人とつるむことが、あまりにも少なくて。
それが、如実に表れていたのだ。
■アマーリエ > 「ええ、そゆこと。――同じ国に仕える軍集団のなのにね」
現状で把握している限り、第十数師団まであったか。
兵数だけで最大規模レベルとされるのが第一だが、現状把握する限りとにかくバラつきが酷いと分析する。
他の師団も運用コンセプトの違いもそうだが、一枚岩というには、相互の関わり合いは少ない。
「こっちの話にノってくれる竜自体が、少ないのよ。
力のある竜がもっと多いなら、苦労はしないわ。
だから、大体先にあたるのは、さっきも言った害獣、害竜扱いにされている竜からよ」
この手の話題は、冒険者への依頼の発布としてが多いかもしれない。
偶に聞く、火を吐く翼竜(ワイバーン)という大物を倒すと誉れとなるといった類のものだ。
それらよりもさらに知性にあふれている竜も、交渉の糸口となるのはある種、脳筋めいた力業からだ。
害獣扱いされているものを調伏させることで力があると、武勲の箔つけでもあるが。
「そう。……――ずらして呑むのも、難しいの?」
そして、響く言の葉に椅子の上で足を組みつつ、柳眉を顰めて問う。
恐らく力ある。そして才能ある兵士が没交渉ゆえに孤立を深めている――その印象を深めつつ、その問題の一端も言葉として聞く。
真実かどうか兎も角、飲み食いも制限される身の上なのだろうか。
その話を聞けば、具も残さず食べよ、という厳命はできない。
■ゼロ > 「――――。」
何故、か、と問いかけて考えてみようかと思ったが、自分でも思考をしてみる事にする。
一番わかりやすいのは、後ろにある貴族ではないだろうか。
貴族の後ろ盾で、師団があるとすれば……と。
出なければ、基本軍と言うのは、一人の頭から、作らなければ、上下関係を作らねば。
命令系統など、いろいろ問題が起きるのだと。
「話を聞いてくれるなら、害竜と言う事にはなりませんからね。」
冒険者達の名誉に一番大きいのは、矢張りドラゴンキラーだろう。
竜殺しと言うのは、名誉となり冒険者は皆が憧れるだろうし。
そういう人物を囲おうとするのは良くあるので、まずは冒険者なのだろう。
凄く、納得が出来た。
「それに関しては問題はないのですが。」
人目が気に成る。
食事で、人の輪の中で食べるというのは、あまり経験がない。
顔を晒すのは、出来れば、と思うが……。
まあ、命令をそむいてまで、と言うレベルではないよな、と自分の中で考えた。
確かに、腹は減っているし、それで、食事をしないというのは。
なんか違うか、と。
仮面をずらし、人から見えないように、器用に啜る。
■アマーリエ > 「……――本当、色々要素が大きすぎて困るわ」
折衝担当の騎士やら顧問などもいるけれども、スポンサーとなる貴族相手との交渉は、自分から出向かざるをえない。
師団内で少しでも資金の足しになるよう、活動はしている。
竜が成長の際、脱皮して残る殻の再活用や、竜の生態記録を相応の値段で研究機関に売るのもまた然り。
それぞれ、此処の師団で資金繰りの方法、財源の類もおのずと違ってくるだろう。
「良い気付きね。
最初から話して収まるなら、それが一番面倒がないし、害獣扱いにもならない。考えてみれば当然か」
竜殺しの栄誉より、このような生業をしていると「竜を調伏する」ことの方が、一層誉れではないかと。
そう思うことがある。力量の箔付けのためにそうした無理・無茶に命を懸けるものは数知れず。
だが、スカウトする際の用があるのは、どこそこの火竜を討伐したという武勲だけではない。その中身、精神性もまた多い。
「善かった。
生きてる以上、まずいご飯を食べさせるわけにはいかないのが――私の仕事。
……独りで行き場がなく、見向きもされないなら。此れを持って第十師団の本拠に来なさいな。歓迎してあげる」
仮面を全部はずせ、というのは聞く限りのあり様であれば、無茶の極みだろう。
それでも人には見えないように気遣いながら、仮面をずらして啜りだす姿にほっとする。
食べてくれないのはもったいないが、それ以上にひどく肉体を損なっているような、生理的な問題が心配にもなる。
そう思いつつ、腰の後ろにつけた鞄に手を遣る。
取り出す紙とペンでさらさらと記し、畳んだものを向こうに差しだそう。
上質な紙に記された内容は、己が名における第十師団の紹介状。
それをもって第十師団の本拠地に来れば、兵士としての雇用を受けられる。
いきなり騎士、竜騎士に任官するのは無茶があるが、適性が分かれば訓練の打診をしてもいいだろう。
ある種持て余し、または持ち腐れれている扱いならば、その際――無為のまま置くのは惜しい。
■ゼロ > どんな形とは言え、ドラゴンを飼う、飼育している、従えるというのは、大きいものだ。
貴族が、それに対してお金を払うのも、良く判ると言えるだろう。
示威行為だとしても、別にしても。
そう言う意味では、この師団は、出来るべくしてできたのだろう。
「殺すよりも、殺さない方が難しいし。
共に居て、竜を従えている方が、目に見えて、竜よりも強いと判りますしね。」
生きて居れば、従えて居れば、生きている竜が、そのまま誉を示してくれる存在となる。
スカウトしていると言う事自体に、成程、と思うのだ。
死んでいれば、確かに殺した、殺せる、だが、生きていれば、それは、生きた証明なのだ、と。
「――――へ?」
変な声が零れた。
何やら、予想外も良い所の、言葉が来たのだ。
意図をしていないからこそ、理解できなかった。
少しの間、きょとんとしてしまっていたし、その言葉に、首を傾いだ。
「え。」
更に、目の前に出てきた書類が、手紙が。
彼女の言葉を理解させる一助となり、ジワリと、理解が及んでいく。
仮面が、将軍と、手紙を少し行き来をする。
―――しばし悩んだ結果。
手紙は、厚意は受け取る事にした。
■アマーリエ > 飼育していないと云うには、言葉遊びめいた違いがあるか。
共に戦ってくれることを決めてくれた中までである――と、多くのものは言う。
少なくとも何処よりも足が速く、出が早い即応のし易さは評価されている、らしい。
「そう。それが一番難しいのよ。
ワイバーンであれば、弱らせて捕まえる――捕まえろなんて仕事は何度か見てきたけど、
本当の竜についてはそうもいかないわ。
世を騒がせて、存在が露見する個体は殆どと言っていいほど、成長している竜だものね」
ワイバーンが偶にもたらす討伐、または捕獲案件とは違う。
装備の充実、力量の過不足、どちらも満たしていなければ会えば即死となるのが、本当の竜だ。
有無を言わさずに屠って事が済むなら兎も角、そうもいかないのが第十師団のの事情である。
一人と一匹の組み合わせて英雄級の力量となるツワモノを、揃えていることこそが、その強みの大部分故に。
「ゼロ。そっちで今のところ満ち足りているなら、特に何も言わないわ。
けど……、そうやって浮いたり、声をかけられたりがなければ、こっちに来るといいわ。
力と才能のある人間は、どれだけいても射すぎてもきっと困らない」
もともとスープの分量は少なく、小腹を満たすには十分足りる。
口の中をワインで清めるように喉を潤し、一息つけば、脳裏に部下たちが告げる声が連続する。
偵察か、復讐かはまだ定かではないが、魔族たちの一部隊が近づきつつある――と。
それを聞けば、立ち上がろう。残った食器類を指定の場所に戻せば、其れで迎撃の用意が整う。
■ゼロ > 竜と言うのは、部下であり、共に生きる仲間、と言う事らしい。
自分の力で勝ち取り、そして、その下で生きてくれるから、と言う事なのか。
その辺りの感覚は、未だ、理解が追い付かないのは、少年の知識が不足しているから、なのだろう。
「そこまでの竜となると、自然と強くなり、ワイバーンと比べても。」
脅威度は遥かに変わってくるはずだ、先ほど言っていた特性の他に、知識もあるし。
下手すれば逃げたりもするのだし、矢張り、竜と言うのはとても凶悪な存在なのだろう。
生かして屈服させる。
簡単には言えるが、彼等のプライドなどもあると考えれば、成程と、思う事もある。
そう言えば、何故、そんな話を聞いているのだろうと思う所も。
先程の手紙を見れば、判る。
求められているのだ、戦力として。
「考えます。」
返答としては、短く簡素。
期限は切られていないし、ゼロ自身にそれは委ねられている。
此処にいるべきなのか。
異動するべきなのか。
それをしっかりと考える必要があるのだけども。
魔族が来たという報告で、それは中断。
今は、第七であり、魔族が襲って来たなら、迎撃するのが、少年の役割。
御馳走さまでした。
食事の礼を将軍に伝え。
槍を持ち上げて、魔族の元へ、走り去る―――
■アマーリエ > そうでなくては、竜を乗りこなせない。戦場で生き残れない。
騎士達の中には竜を相棒ではなく伴侶、人化の術を会得したものを嫁と称し、娶っているものも居る。
其れが悪いとは言わないし、お互いそれで問題ないなら、敢えて言うことはない。
己にもそういうものが欲しい――という一点については目をつぶろう。そうしよう。
「魔術を使ってくる竜となると、さらに一際厄介だわ。
頭も回るし、狡猾で、下手な術であれば、構成を読み取って無効化さえしてくるの」
魔術、魔法の無効化というのは様々な方法があるが、人間以上の魔力と知性を持つからこその技、能力と云える。
そんなものが害をなし、猛威を振るうというのは狂暴だからではなく、むしろ狡猾ささえ覚えるほど。
「ええ、それで良いわ。
私がサインしたその紙は、持っている限り有効よ」
本拠に戻ったら、部下などにも周知しておこう。
期限は設定していない。あとは無効の判断――、一存に任せる。
今は再度襲ってきた者たちの迎撃、殲滅というお仕事である。
上空を警戒している騎士たちの報告は通信魔術を経て、地上の魔術技官などの報告で、警戒、迎撃の指示が最終的に飛ぶ。
残る食器類は任せたと言い残せば、白い鎧の騎士もまた長い髪を靡かせ、戦場へと走るのだ――。
ご案内:「タナール砦」からゼロさんが去りました。
ご案内:「タナール砦」からアマーリエさんが去りました。