2022/07/04 のログ
ご案内:「タナール砦」にアマーリエさんが現れました。
アマーリエ > 戦いは早朝から始まり、夕刻に差し掛かる前でおおよその決着がついた。
魔族の国との国境近くに築造されたタナール砦は、常に取って取られるの攻防を繰り返している。
今日の一戦については、マグメール王国側の勝利だ。
砦内部の探査にはまだまだ時間がかかるが、真っ先に安全を確保された中庭には、早くも幾つもの陣幕が建てられている。
主に探査や清掃等が済んでない砦内で寝泊まりすることを厭う、傭兵たちの仕業だ。
そこに王国軍が報酬の一環として、運び込んだ酒や食料があれば、おのずとどうなるか。

「宴が始まる、と。
 まだ安全も確保しきってないうちに酒盛りだなんて、分かっててやっているのかしらね皆」

戦勝に浮かれているうちに、急襲して皆死んでしまうかもしれない。
今回の奪還戦を主導し、補助戦力として傭兵を雇用したのは竜騎師団という名も持つ第十師団だ。
砦の中に入らず、仮の宿営として天幕を広げている場所は、飛行能力がある敵勢からしてみれば、良い的になりかねない。
そのリスクも弁えたうえで、刹那的な衝動込みで酒盛りに勤しんでいるのだろうか。

陣幕の一つ、近い処では女の悲鳴や嬌声がありありと聞こえてくる。
その声音に苦笑を滲ませつつ、金属製の酒杯を傾ける騎士の一人はそう思う。
否、ただの騎士ではない。背後にあらかじめ運び込ませていた肉の塊を食らう、白い竜の胴に背を凭れる佇まいは単なる騎士ではない。
一軍を従える将だ。砦の長の部屋は調査が終わったそうだが、いまいち入る気がしないがために此処にいる。

前回、前々回の奪還戦では、ご丁寧に罠を仕掛けられていたらしい――とでも聞いていれば、余計に。

アマーリエ > 「陣取り自体は嫌いじゃないのだけど、……ずっーっと持っておきたい陣じゃないのよね、ここって。
 引継ぎの部隊、改めて催促しておかないと」

この砦は場所柄的に、幾度もなく取って取り返しての取り合いが止まない。
万が一の際は早々に手放して、退くという選択肢を将である自分がすぐに想定してしまうのは、維持が難しいからだ。
片方が占領し、いったいどれだけの間長く保持していられるのか。

毎度のことだけど、と思わず内心でぼやくくらいには――よくあることではあるが。

王国の公文書に専用の項目を書き出すよう進言しても、いっそ面白いのかもしれないとでも思うくらいに。
そんな主たる騎士の言葉には我関せず、と。そう言わんばかりに肉塊を食む竜が鼻を鳴らす。

「……そーね。アナタはそういうものだったわね。
 向こうはお楽しみなのは別にいいけれど、何かめぼしいの捕まえてたのかしら」

思念を伝えるまでもなく、人間の政治やら力関係なぞ、竜は気にしない。コメントに値しないということだろう。
肩を竦めた後に足元に置いた酒瓶をつかみ上げ、ラベルを確かめる。
樽で運び込んだものではない。先客が置いていたらしいものだ。手酌で盃に中身を注ぎながら近くの天幕の一つに首を傾げよう。
良くも悪くも、楽しみげな声がする。淫魔の類でも捕虜にできていたのだろうか。

アマーリエ > 「ひとまず、この件が終わったら……休ませてもらわないとね。
 働き過ぎだとせっつかれるのも飽きたわ」

この季節だ。冬季も夏季も何かと面倒だが、暑くなり過ぎると完全防備の騎士や兵士は命取りになりかねない。
機動力重視の編成、装備であっても、適切な備えも何もなく特に長期の籠城戦は避けたい。
「そうならない」ようにするためにどれだけの準備、資産繰りが必要となることか。
配下に任せるに飽き足らず、確実を期すために自分から動いていれば、やり過ぎだと、働きすぎだと制止をかけられる。

定期契約を交わす傭兵については、事前に十分に素行などを知りえたうえで雇用するが、臨時に雇用する傭兵は戦場次第では欲望の吐け口を“自己調達”してくる。
今の天幕にいるのも調達してきたものか、それともか。考えて――止める。どっちでもよい、と。

予め娼婦を雇っていたのか、それとも手頃な女魔族でも捕まえられたのか。
後者だった場合、その逆は日常茶飯事的によくあることである。傭兵を雇う側にとっても、慣れた事項だ。

「……寝る気が沸くかどうかは分からないけど、一応部屋を見に行っておくわ。何かあったらお願いね」

竜の身体を軽く叩いて声をかけ、酒瓶と盃をそれぞれ手にして砦の内部に向かおう。
天幕で寝るのも良いが、どうせ寝るならばちゃんとした部屋でなければこの立場はしまらない。
日中の暑さが残る風にマントと髪の先を揺らしつつ、歩き出す。ひとまず、明日までは一時の平穏があれば、と。そう願いつつ。

ご案内:「タナール砦」からアマーリエさんが去りました。