2022/04/24 のログ
ご案内:「タナール砦」にアマーリエさんが現れました。
アマーリエ > ――追うべきか。追わざるべきか。

この砦の守りを請け負い、敵を撃退した、あるいは撃退できたと判断に迷う中でいずれかの選択を迫られる。
詰まりはもっと武勲を挙げたいかどうかということだ。
見目のいい魔族などを捕らえることができれば、物珍しい刺激を求める貴族達への手札になる。
かといって、下手に追撃をして逆に損害を被った場合、方々からの突き上げを食らいかねない。

「……――何事も程々にっていうけど、匙加減が難しいのよね。ホントに」

細く欠けた月が照らすタナール砦。そこかしこに戦いの火の手が上がる中、砦の胸壁の上で剣を手にする姿が零す。
単なる騎士ではない。兜は被らず、束ねた長い髪を血風に靡かせるに任せた白い鎧姿は良くも悪くも目を引く。
指示を求められ、指揮を下す姿は違うことなく将のふるまいそのもの。

「登攀ご苦労さま。そしてさようなら」

地上から響く声は、長梯子を担いで肉薄する魔族の兵の到来を告げるもの。
決して少ない駐留の兵や騎士たちが展開している筈だが、抜けられたということだろうか。
だが、決死隊めいた魔族の兵は何よりも致命的だったのは、梯子をかけた先に折り悪く先客が居たということである。

息急いて登ってきた亜人の兵と目が合えば、にこやかに声をかけて。
そのあとに剣を振るえば、梯子の先端ごと切り裂かれた敵兵が濁った呻きとともに地面へと落ち、飛来した竜に焼かれる。

アマーリエ > 竜や他の騎士たちを呼んで、砦から先に戦線を敷きに掛かっても良いが、深追いは常々躊躇う事項だ。
砦から先の土地に棲まうものたちは、良くも悪くも雑多な印象があるとはいえ、軽視できない。
何より、麾下の師団はわざと設けられた側面もある欠点として、補給線が長く伸びだすと維持が難しい。
もとより、持久戦となりだすと勢いをつけて殴るための助走を付けづらくなる。

「この手ごたえだと偵察か、様子見のようね。誰が詰めだしたか知っておきたいのかしらん?」

武勲を挙げたいと、息巻く若手が数人入った頃だ。
現場指揮を行う古参の竜騎士が手綱を引くのに苦労する時期というのは、足並みを整える意味で悩ましくなる。
剣を右手に提げ、空いた左手で耳元辺りを叩けば、淡く光る小さな魔法陣が生まれて幾つかの声や叫びが流れ込んでくる。
砦の上空を飛び交う竜の乗り手たちで共有し、維持している通信魔術だ。

夜空を微かに霞ませるような影の群れは、飛行可能な魔物も少なからず動員していたのだろう。
だが、長大なランスの穂先を向けて突っ込むような大物ではなく、群れる特性の小型種を多数用意したのか。

「…………片付くまでの手並みを計られているみたいで、嫌になるわねもう。

 空に上がっている騎士達に告げる。3つ数えた後に、思いっきり上昇なさい――吹き飛ばすから」

耳元に生じた小さな魔法陣を消さずに残したまま、右手に握る剣の切っ先で足元の石材を引っ掻くように身を回す。
微かな火花とともに刻まれた円は魔術の陣の基礎。
たん、と踏み鳴らして意識を巡らせれば、足元に複雑な図形を組み合わせた魔術陣が光で描かれ、組み上がる。
杖代わりでもある剣を振り上げ、上空の一角に切っ先を向け、低く呟く呪文詠唱を終え、魔力を奔らせる。

その瞬間、地から天をつなぐように光の柱が屹立し、上空の霞めいた魔物の群れを貫き――爆ぜる。
一つや二つではない。個体個体を丁寧に爆裂させ、生じる血肉をも焼却して清める。
竜の吐息も会得した魔術を出し惜しむ不慣れな若手には、いい勉強材料になるだろう。力を尽くせ、という意味で。