2021/10/17 のログ
■アマーリエ > ――戦局の混沌は、加速する。
数度も続く攻勢の有様に、一石を投じようと追加の戦力の投入が決定したのだ。
その名は速攻戦術を得意とする第十師団。人呼んで「竜騎師団」。
数に任せた圧倒ではなく、少数精鋭の編成は竜という飛行可能かつ強力な魔獣を加えることで脅威を増す。
故に彼ら、否、――「彼女」は空から来たる。
砦の中庭に風を割く音色が幾つも落ちる中、一際強い風音が落着し、その後に轟音を伴って場を圧する。
高らかに響く竜声を放つものは、白い竜の姿を成してその上に白い鎧姿の騎士を載せていた。
「……いつものことだけど、こんな中にまで攻め入られているのって久方ぶりね。
始末は面倒だけど、此れは此れで愉しくて嫌いじゃないのが困りものだわ」
兜を被らぬ姿は旗印の代わりに、長い金色の髪を靡かせて零し、竜の上から号令を下す。
続けて幾つも落ちる轟音は上空を周回する竜の上から投じられる長槍であり、落とされる手投げ弾の炸裂だ。
上空からの制圧と、盤面上の砦周囲からの攻勢。あとは……
「――見ぃつけた。アレが頭(かしら)ね」
号令を下す女魔族と思しいものを見つければ、竜の鞍を蹴って白い鎧の将は跳び上がる。
気配も姿も隠すことなく、奔り迫ろう。制圧し、捕えるがために。
■テレジア > 戦闘中に、ちらりと空が暗くなる。
目線だけで見上げれば、空を覆う幾つもの巨大な影。
「竜騎士…第十師団…!」
次の瞬間、中庭に幾つも響く爆音。彼らの手投げ弾の攻撃に、魔族や魔物が犠牲になる。
テレジアは咄嗟に遮蔽物に隠れ、なんとかやり過ごす。
「迎撃!」
轟音が収まったところで彼女は指示を出す。
弓や魔法で上を狙わせ、飛べる者は上空へ。
幸い、こちらの空戦能力も負けてはいない。
翼ある魔族達が一斉に飛び上がり、降下中の竜へ襲い掛かる。
しかしながら、いくつかの竜は既に砦の中へと舞い降りていた。
「ふん…こっちにだってデカいのはいるのよ」
そこに、壁を乗り込んで乗り込んできたのは、魔族軍のトロール部隊。
知能は低く魔法は使えないが、とにかく巨大な体躯と頑丈な皮膚を誇る巨人たち。
彼らが一斉に竜に飛びかかり乱闘が始まるのを見届けると、テレジアはこちらに近づいてくる女に目を向けた。
「ふん、総大将自らこちらにのこのこ来てくれるなんてね…。
いいわ、その挑戦受けてあげる」
テレジアは両手剣を構え、アマーリエを見据える。
■アマーリエ > 空に響く大音声とはワイバーンが群れ、騒々しく喚く其れではない。
もっと大きく、強い。世に憚るものは無きと、覇さえ唱える威が、圧が伴う。竜の咆哮だ。
堂々と竜を編成に組み込んだ陣容を内外に開かした兵団は、この王国内でどれほどあるか。
竜が竜たる由縁である炎の吐息の利用を抑えているのは、ひとえに砦の損害を考慮しているだけに過ぎない。
だが、乗り手たる騎士もまた、騎獣たる竜に伍する力の持ち主である。
剛力に任せた投擲、あるいは魔術で眼下の敵を的確に排除し、最終的な制圧の手を進めてくる。
「ふぅん。向こうも心得ているのね。
――……総員傾注。大物が出てきたわ。小物の排除の後、突撃せよ。
私は“お楽しみ”にかかるから、後はお願いね」
今回の敵の編成は、空戦能力並びに対空迎撃の備えに余念がないらしい。
射かけられる槍を弾く防御結界を迂回する魔族兵に、竜騎士の一人は剣で対応し、あるものは竜の速力で振り切る。
地に降りた竜騎士と竜のペアのひとつは、壁を乗り越えて迫る巨躯に盾と竜の全長に伍する長槍を構えて見せる。
各員、己が力を尽くせ。その号令を通信魔術を介して下し。
「挑戦も何もないわ。あなたを抑えてしまえば、そちらは崩れるでしょ?
それに綺麗どころが将に居るのも久しいわ。並だったら捕えるけど、組み伏せてみたくなるのも凄く久し振り。
――楽しませてちょうだい、ねッ!」
見かけた姿の声に応え、薄紅色の唇をちろりと舐めて踏み込みと共に剣を振り上げる。
剣の間合いはない。だが、切先が紙を引き裂くような音と共に風を割き、衝撃波と化して敵将を正面から打ち伏せるように唸る。
ちょうど、向こうの背に空いた砦の入り口の奥へと叩き込もうとばかりに。
■テレジア > 強大で誇り高き竜、そしてその竜が認めた乗り手たる竜騎士。
その力の前では地を這うゴブリンやオークといった低級な魔物では敵うはずもなく消し炭にされ、
空を飛ぶ上級魔族や巨大な魔物達が辛うじて抗えているばかり。
しかし、それもテレジアが指揮を執れなければ、段々と押されていくだろう。
そして彼女は、それどころではなかった。
「くっ…!!」
衝撃波に打ち据えられ、砦内部へと吹き飛ばされるテレジア。
なんとか体制を立て直し、剣を地面に突き立てて着地する。
「ふん…大将を倒せば崩れるのはそちらも同じ話…。
せいぜい後悔しないことね?」
テレジアはそのまま地面に突き立てた剣に魔力を流し込む。
それは青い炎となって、アマーリエの立つ地面から噴き出してくるだろう。
屋内では両手剣は不利、飛行も使えない。
だが…やりようはある。
■アマーリエ > 一人と一騎を合わせて英雄級とも勘定できる竜騎士は、維持も編成にも多大な手間とコストを要する。
その使い方は戦場に於ける楔として打ち込むことで、最良の効果を引き出せる。
持久戦には不向きだが、竜騎士達を抑えるために敵の強力な駒を宛がえば、其処に空いた間隙に王国兵が殺到する。
竜騎士達は通信魔術を駆使し、相互に連絡を取り合いながら連携できる。
それは、師団長が居なくとも独自に行動できるということでもある。指揮ありきの魔獣、魔族の群れに対する強みだ。
「わたしの剣風に耐えられる手合い、か。意思は兎も角力量はあるみたいね」
ある程度狙ったとはいえ、倒れ伏すだけで終わらないのは見事。
剣を右手に、そして鎧に背負った盾を左手に提げ、具足を鳴らしながら態勢を立て直す姿を表する。
なるほど、一角の将でもあるか。将は強くなければ務まらない。
故に油断できないと云うのは、此方も同じ。
地を伝播する魔力の気配に、双眸を鋭く細めて口の中で呪を紡ぐ。振り上げる刃に光が宿る。
「後悔って、裸にひん剥かれて衆人環視で犯されながら思ったり嘆いたりすることかしら――、と!」
左から右へと振り抜く剣先から、魔術が放たれる。
其れは奇しくも向こうと同じ炎。術を以て呪を焼き払い、昇華する青白き破魔の焔。
たなびく髪先や鎧の先端等が焼け焦げるも、青い焔の大部分を相殺しながら突進をかける。
構える盾で向こうの視界を阻むように、押え込むシールドチャージ。押え込めるなら、そのまま組み伏せるかの如く。
■テレジア > 流れは完全に王国側に傾き、もはや砦の維持は叶わないだろう。
そんな中、テレジアが放った魔法の一発、アマーリエを狙う物に密かに紛れ、
まるで見当違いの場所から空に噴き出た青い炎の一つ。
それは天高く飛び上がると花火のようにはじけ飛ぶ。
それは、配下の高位魔族のみが理解する、撤退の合図。
彼ら彼女らさえ無事なら軍勢はいくらでも再建できる。
低位の魔物など使い捨てても惜しくはない。
高位魔族達はゴブリンやオークを捨て石に素早く撤退を開始する。
勿論無事とはいかず、何人かは捕まってしまうだろうが。
そして、激闘を続ける二人の女達は…。
「かはっ…!!」
猛烈な突進とシールドチャージに、剣を取り落とし壁に叩き付けられるテレジア。
しかし、彼女はアマーリエを睨むと、その頭に頭突きをかました。
角が付いているだけあり、怯ませるだけの威力はあるだろう。
「…いい趣味してるのね。でも私がされるのは御免よ」
テレジアが手を地面に付くと魔法が発動し、地面がせり上がり壁を形作る。
それは、二人の周囲を完全に囲ってしまう。さらに狭く、剣も盾も上手く振れぬほどに。
「こんな戦い方、美しくないけど…そうも言ってられないみたいだし、
負けるにしても…貴女だけは仕留めさせてもらうわ」
テレジアは構えると、アマーリエに殴りかかる。
ゼロ距離での格闘戦、決着はすぐに付くだろう…。
■アマーリエ > 傾いた趨勢は、指ではじかれて揺れる天秤にも似て不安定である。
どうせ頻繁に取られるのなら、必要な時勢に適宜奪い返せば良いのではないかという口には出し難い感慨がある。
兵を集めて出すにも金も人が居る。そして、死んだ者は蘇らない。
だが、国の威信があるのか。飽くることなく奪回を厳命し、戦火は上がる。
引いてゆく高位魔族の部隊長や幹部たちを、竜騎士団は追撃できない。
残る雑兵達の掃討が終えれば、少なからず獲た捕虜の連行や周囲の警戒という任がある。
「っ、ぁ!? こん、じょー、あるじゃないの……!」
シールドチャージは、剣だけではなく盾を持つからこそできる戦術だ。
分厚い鎧と頑健な肉体を持っていれば一層威力は増すにしても、速度とタイミングを合わせれば制圧に持ち込める。
だが、敵もさるもの。至近距離で繰り出される頭突きを、かわしようがない。
常時前線に立つ旗頭として兜を被らないのが、今は災いした。
思わず蹈鞴を踏めば、向こうが発動させる術に割り込む機を失う。取り囲む壁と天蓋を横目に、迷わず武具を手放し。
「戦いに美しいもへったくれもないわ。
……生死を賭けるなら、あとは愉しいかどうか。気にかけるべきなんてそれ位よ」
狭隘なエリア形成となれば、勢い任せのぶちかましは難しい。あとは体力と魔力、そして気合いだ。
相互に鎧を纏っていれば、拳を握って殴りかかるに不自由はない。
間近となれば、目線の高さの近さがよく分かる。
五体に魔力を漲らせ、十字に構えた腕で拳を受け止め、横に流しながら踏み出す足で相手の足元を払おう。
翼が背に見えれば、仰向けに倒れるのは忌避があるだろう。
其処に付け込むように片手を取ることが叶うなら、うつ伏せに押え込みにかかる。
■テレジア > 武器無しの接近戦、フィジカルの戦いであれば魔族に分がある。
そう考えたのは甘かったらしい。
スムーズな魔力による身体強化と、こちらの身体の弱点とも言えぬ隙を見抜いた技運び。
その結果、地面に組み伏せられたのはテレジアのほうだった。
「この…蛮族…ッ!!」
逃れようとしばしもがくが、力を込めて抑えられればそれも叶わず。
やがて肩で息をしながら、諦めたように脱力し。
「……ふん、いいわ。どうせ私が術を解除しないと貴女はここから出られないし、
追撃に出られないようにできればそれで上等…。今頃私の部下は逃げてるでしょうし」
嘲笑うような笑みを浮かべながら、テレジアはアマーリエのほうを見る。
「どうせ…殺さないからには犯す気満々なんでしょう?私のこと。
残念だったわね、ここじゃ周りには見えないし声も通さない」
そう言った後、降参するように目を伏せる。
■アマーリエ > 「どの口が云うのやら、ねぇ」
こちとら鍛えてないとやってらんないのよ、と。蛮族呼ばわりをされれば、憮然とした面持ちで口元を歪める。
魔力運用による肉体強化は瞬間的にだけで良い。腕力任せで済むなら、既にそうしている。
鎧を纏っての組み手も、騎士の戦技として嗜まなければならない一つだった。
向こうにとって、己の経験も思いも知る由もない。あとは関節でもキメて、術を維持するための集中を乱すかと思えば。
「……ふぅん。それって時限式じゃなくて、あなたが集中を解いたり屈服させるなりすれば解けるってことでいいのかしら。
基本的に敵は鏖殺しだけど、運が良かったわね。
そっちの土地の奥地までは深く入らないようにしてるのよ、私たち」
どうせ籠るなら、己ももろども圧殺する手立てだってあったろうに。
光よ、と零せば、狭い空間の中に熱のない明かりが灯る。
間近で嘲笑うような表情を見詰め、少し考えては、喋り過ぎちゃった、と舌を出す。
「別に? お楽しみを独り占めできるだけじゃない。別に損はないのよ、私はにはね。
そ、れ、に。どんな風に鳴いてくれるのか。想像しただけで、そそるわ。寧ろ」
そうして身を寄せれば、組み伏せた際に絡む足や、太腿に女にはない器官の存在にも気づけるかもしれない。
白い鎧の騎士は下肢まで鎧をつけていない。脚甲の上はスカートだ。その中で、言葉通りそそるり立つものを隠さない。
脱力した様を狭い中で見下ろせば、もぞもぞと相手の後ろに回ろうか。
■テレジア > 「……別にこのまま餓死するまで貴女と二人きりでもいいのよ?」
どうやら、本当にテレジアの意思による解除以外は受け付けない類の魔術らしい。
魔族の魔術がそこまでヤワではないということだろうか。
「……でも、私はこんな所で死にたくないし、貴女もそうでしょうから、
二つだけ応じてくれれば解除してあげるし、身体も捧げてあげるわ」
太ももに当たる何か棒状のものを感じながら、テレジアは慌てることなく言う。
既に力は抜いており、されるがままだ。
「一つ、魔族側から捕虜交換の申し出があったら応じること。
貴女達王国側の捕虜が何人もいるのよ、こっちには。
私が捕まったらそれで交渉するよう部下には言ってあるわ。
まぁ…貴女みたいなことを私にされた捕虜もいるけど」
しかしそれは、お互い様というものだろう。
「それともう一つ。どうせ私の部下も何人か捕まえてると思うけど…、
男は近づけないでくれるかしら?別に女ならいいわ」
貴女や私と同じ性分なのよ、アマーリエ・フェーベ・シュタウヘンベルク。と付け加え。
そして身をよじらせ、顔を彼女のほうに向けた。
「あと…せめてお互い鎧を脱いでから始めてくださる?」
■アマーリエ > 「面白い事を云うわね、本当に。
……まずは聞くだけ聞いてあげるわ」
どちらかと云えば、酸欠の方が早い気がしなくもない。
高空を征く竜騎士の習いとして、呼吸補助の魔術は肉体強化の一環として常時維持できる。
その代償として、体内のエネルギー消費と燃焼は並みならぬものがある。
窒息で死ぬか。或いは遠回りな餓死が早いか。携行食を分け合うにしても、少々悩む。
術式を強制解除する破邪昇華のゴリ押しもどこまで利くか。
そう考えながら、まずは話を聞こう。
「……――そういうの、何人か居たわね。運が悪いのと、自業自得もごた混ぜで。
正直、等価に扱えるかどうかは悩みどころだわ」
一人1殺という勘定で考えると、人間の兵卒と捕虜に出来る位に魔族は種としてのポテンシャルが違う。釣り合わない。
だが、政治的に考えると逆転してしまうのが、笑えない。
手柄を立てるために突出し、捕縛された諸々はどれだけ記録に上がっていたか。
柳眉を顰めてつい思案してしまえば、己がフルネームを呼んで見せる姿に目を瞬かせて。
「こっちが抑えている捕虜が居れば、それに見合う者を帰してくれれば応じてあげるわ。
はっきり言って、親の権勢を翳すくせに捕まった間抜けは殺してくれて困らない癖に、何かと面倒なのよ。
五体満足で形が残ってるのなら、取引を考慮してあげる。よろしい? 私の名と癖を知ってるお嬢様」
身をよじらせ、顔を向ける様に首を傾げた仕草を見せながら答えよう。
脱ぐならそっちも脱ぎなさいな、と。胸鎧の留め金を弾きつつ告げて。
■テレジア > 【中断します】
ご案内:「タナール砦」からアマーリエさんが去りました。
ご案内:「タナール砦」からテレジアさんが去りました。