2020/03/01 のログ
クレス・ローベルク > 何の訓練になるのかと不思議そうに道具を眺める少年に対して、男はほっと安堵する。
一見、遊びが訓練というのは、不思議に感じるだろうが、しかしこれは意外と得難い経験なのだ。
何故なら、

「まあ、ある程度上に行くとさ。『負けづらく』なるよね」

負けない、訳ではない。
負けられなくなるのだ。
ゼロの場合は、任務で負ければ死ぬ可能性が高い。訓練であっても、彼に勝てる者はそうは居ないだろう。
剣闘士の場合は、それに比べれば緩いが、それでもそれなりに名の売れた剣闘士である。半端な相手に負ければ名に傷がつく。

「でも、賭け事なら、負けるのが当たり前だ。
だというのに、自分が失いたくないもの――まあ、例えばお金とかを敗けて失うのは嫌だし、怖い。これは戦いと同じだろ?
敢えて堅く言うなら……戦闘時における心理状態の擬似的な再現装置って所かな?」

命のやり取りは無いとは言え、勝ち負けの意味は同じである。
ならば、自分にとって重いものを賭ければ、それだけ戦闘時の心理状態に近づける――というのが男の謂いだ。

「まあ、カジノで使われてるような正式なルールとなるとちょっと説明が難しいからね。最初は簡単なものにしよう。ダイスを使ったブラックジャックみたいな」

と、言った上で、男はにこりと笑う。
歯を見せる笑みは、少しだけ好戦的なもの。

「まあ、お金を賭けるのは軍規にも関わるだろうし、君は初心者だからね……。今回は、俺一人がリスクを背負う。それも、君にとってはメリットになりそうな、ね」

それは、

「もし、君が勝ったら、一度だけ君の仕事を何でも手伝うというのはどうだい?
それも、何時もやってるような体力や奥の手を温存しながらの戦い方じゃない、奥の手のマジックアイテム有りの、本気の戦い方で、だ」

男が所有するマジックアイテムは、魔王相手でもある程度戦える事が証明されているもの。
それ自体は知らずとも、男の言い方から、とても凄まじいものである事は解るだろう。

ゼロ > 「……そうか、敗北を知る、という訓練か。」

彼の言葉に、少年は理解をする。少年は無敵ではなく、ここにきて直ぐ魔王に負けたことがあるし、それ以外でも、負けたり逃走したことは、有る。
敗北を知るというのは、大事だと理解した、負けて、其処で熱く成れば逃げられず、生きるチャンスを逃すものである。
彼の言葉に、成程という理解をするのだ。
そして、上に行くとなると、負けられなくなる、そう、上に上がれば上がる程、負けることは許されなくなるのだ、自分一人だけのものでは無くなるから。

それを理解したうえで、少年は首肯しよう。
彼の言葉に理があり、一度二度、知ることは良いのだろう。
そして、これは遊戯だ、遊戯ならば、交渉事とかにも使えるだろう、先程の彼が言ったとおりに。

「――――なら、金ではなく、労働。そちらと同じ条件、勝ち負けは、イーブンに。
ただし、非合法な事、軍規に悖るような仕事は引き受けない。」

確かに、金は軍規に悖るだろう、そもそも、賭け事自体が、だ。
訓練であるならば、彼が仕事を手伝うというなら―――逆もまた、だ。
彼が勝てば、彼の仕事を手伝う。
彼が困ったときに手助けをする約束ならば、問題はなかろう。

少年は、頷いて見せる。
これで、いいか、と。

クレス・ローベルク > 「うん、勿論。賭け事の結果がどうであれ、君の職責や立場にもとる様な事はさせない。それは約束しよう」

そこは、最低限のラインとして守るべきところだろう。
男とて、賭けの結果今の職をやめて軍に入れとか、闘技場の暗部を暴けとか言われても困る。
あくまでも、支払うのは己の腕と、少ないながら命を失うリスク。社会的な立場を損なう様な事は、範疇外とすべきだろう。

「んじゃ、ルールを説明するね。
といっても、そんな大したゲームじゃない。
簡単に言うと、サイコロを振って、出た合計数が21に近ければ勝ちってゲームだ。
最初に、サイコロを三つ振って――」

と言って、男は右手と左手に両方三つのサイコロを持って、振る。
右手が振った目は2,5,1。
左手が振った目は3,3,3。
そして、右手で振ったダイスを自分の方に、左手で振ったのをゼロの方へ、出目を変えないように移動させる。

「俺の方は出目の合計が8。君の方は9。此処から、交互にサイコロを二つ振り合って、さっき出した合計に足していく。
但し、21を超えると、その時点で無条件で敗けだ。
これ以上振ったら21を超えそうだと思ったら、振るのをやめる事ができる。但し、一度振るのをやめたら、再び振り足す事はできない」

つまりは、文字通りブラックジャックのダイスバージョンだ。
普通のブラックジャックが簡略化され、ヒットかスタンドしか選択できない、というもの。

「とまあ、ルールとしてはこんな感じだ。何か質問はあるかな?」

ゼロ > 「判った、此方も、クレスの立場に不利益にならない程度にする。」

今現状で言えば、一人ではどうしても難しい事に願いを託すか、とは言っても今、そんな状態は思い浮かばないな、というのが現状だった。
其れは後で考えればいいし、そもそも、勝てると判ったものでもないのだ。
勝ってから考える事である。
そういってから、少年は、テーブルの上にあるダイスを眺める。
三個ずつ6個、最大値は18か、と考えて、其れだと21にはならないな、と思う。
そして、彼の言葉を聞いて、ああ、と納得。

「ふむ、最初に三つ振って。振り足しも、二個ずつという事か。了解した。」

少年は、彼の丁寧な説明に理解を示し、頷いた。
そして、テーブルの上からダイスを取るのだ。
最初は最大で18、その次は12……とは言え、最初に高い目が出すぎると、次が怖いのだろうと、理解する。

「折角だし、先に振ってみていいか?」

負けの訓練であるというなら、先の方が確率は高くなるだろう、負ける方の。
そうおもったからこそ、少年は問いかける。
初めてだからという興味も、有るのだ。

クレス・ローベルク > 何とか説明出来たか、と安堵する。
なにげに、賭けを一度もしたこともない相手に賭けを教えるのは初めてなのだ。
ルールの飲み込みが早くて助かるが、

「……一応言っとくけど、ちゃんと勝つつもりでやってくれよ?」

このゲームは先手不利である。
手軽さ重視の、言ってしまえば遊びのゲームであるため、そうなるのも無理はない。
とはいえ、習うより慣れろというのも確かだし、何より勝つつもりでやっているのはこちらも同じ。
その辺を解っていて先手を選ぶなら、問題はないだろう。

「OK、それじゃ、まずは最初の三つのダイスを振ってくれ」

ゼロ > 「無論、訓練だから、と手を抜くのは訓練相手に失礼だろう。相手のレベルに合わせてと言うのは、まだ判るけれど。」

自分が先手を望んだ時に出てくる言葉に、やっぱり、と少年は理解する。これは、先が不利なのだ。
先に振って、数字が固定されるので、後に振る方は此方が振った後に決められる。一巡目は18が最大なのだが、そのあと、二巡目で自分が21を超えれば、その時点で勝ちが決まるのだ。
自分の理解が間違って居ないと理解して、少年は頷いた。

「じゃあ、行く。」

ルールも確認したし、どういうゲームなのかも把握した、それならあとは、全力でダイスを振るだけである。
少年はテーブルに視線を落として、掴んだダイスを軽く転がすのだ。あまり激しく振るとテーブルから落ちてしまうから。
ころころころ、とダイスが転がって行く様を、仮面はじっと眺めるのだ。

ゼロ > [3d6→1+1+4=6](HP: MP: )
ゼロ > 出た目は、6。物凄く考えなければいけない数字である。
とは言え、これは次は普通に振っても良いだろうと思える数字である。

「六か……次は、クレスの番、だよな?」

振り足しはするつもりではあるが、彼にルール確認を含めて問いかけるのだった。

クレス・ローベルク > 「うん。次は俺の手番だ」

そう言うと、こちらもダイスを振る。
まあ、賭けてるものは大きいが、此処は運否天賦の範疇。
気楽にダイスを振ることにした。
[3d6→1+3+6=10]
クレス・ローベルク > 「……今の所、俺の方が数字がでかいな」

今の状況では、数字の大きさにあまり意味はないが。
しかし、数が大きくなるにつれて、21に近い方が、よりゲームの主導権を握れるのは確かだ。

「さあ、じゃんじゃん行こう。ゼロ、君の手番だ。振り足すかやめるか選んで……と言っても、事実上振り足ししか選択肢はないけど」

此処で彼が振りたさなければ、無条件で男の勝ちが決定してしまう。
まあ、まだ序盤。そもそも彼の手番で21を超えることは無いのだから、気楽に振ってしまっても大丈夫だろう。まだ。

ゼロ > 「クレスは10か……これまた、絶妙な数字、だな。」

彼のダイスの出目を眺める。2個振りであれば、最大値が12、最大値が出なければ問題がなさそうである。
自分の場合は、最大値が出たとしても、18なので、安心して振れるが……何というか、三巡目が怖い所である。
ふむ、と考えつつ、少年は言うのである。

「振り足す」

相違って、少年はダイスを二つ掴んで、テーブルの上に軽く転がすのだ。
このダイス目で、色々決まるというのか。と
[2d6→5+5=10]
ゼロ > 「最初が6、今回は10で、16。」

さあ、此処からが心理戦と言う奴なのだろう、彼が振るかそれとも此処で止めるのか。
彼が振らなければ自分の勝ちが確定するが、彼は振るのであろう、そんな予感がする。
こういうのは、彼は得意そうだし、駆け引きなどはする気はない、相手の土俵すぎて勝てる気がしないのだ。
なので、只々、今は無心で振ることにする。

クレス・ローベルク > 「うえ、微妙なとこだなー」

あちらの出目が16に対し、こちらの出目は10。
21を超える為には六ゾロしかないので、普通に考えれば此処でのバーストはない。
だが、問題はこの後である。
こちらが16を超えられればいいが、そうでない場合――特に15などを振った場合、相手はパスする選択肢が出てきてしまう。

「(このゲーム、如何に高い目を出すかじゃなくて、如何にサイコロを振らないかのゲームなんだよな……)」

言い換えるなら、このゲームは相手に分の悪い賭けを強要するゲームと言っても良い。
とすれば、狙いは

「(6以上の目……来いっ!)」

クレス・ローベルク > [2d6+10→2+5+(+10)=17]
クレス・ローベルク > 「(よし……!)」

17。かなり良い数字だ。
これで相手はダイスを振らないといけないが、6以上の出目が出る確率は7割を超える。
ほぼ確実に、負けはない。

「よし……!此処まで来たらほぼ敗けはない……!
ようし、何をさせるか今の内に考えとかないとな……」

などと調子に乗っているが。
あくまでも結果は賽の目次第である。
果たしてどうなることやら。

ゼロ > 「成程17……凄いな。」

彼が振ったことにより、出た目はもう、ぎりぎりと言って良いラインだ、凄いところに来てるな、と少年は思う。
自分は16。バーストまでは2~5しかなく、そんな出目は期待できるようなものでは無い。
これは、自分の負けが確定した、と言って良いだろう状況ではある、だから少年は、ダイスを手にする。

「定石とかはわからない。振らなければ負けは確定。」

其れならば、後は振るのみである。
振らなくても、負けなのだから、勝つ見込みに賭ける―――ああ、だからこそ、賭けと言うモノなのだろう。
なるほど、と少年は考える。

「振り足す。」

少年は、淡々とダイスを振るのだ。
[2d6+16→1+1+(+16)=18]
ゼロ > 「2で、18……。」

こうなると、2~4、さらに狭まる。
彼は此処に乗るのだろうか、反るのだろうか、本物の賭け事をする男の反応と言うモノが知りたくて。
少年は、じっと彼の方を見やるのである。
とは言っても仮面なので、それ越しの視線は見えないだろうけれど。
少しばかり、興奮しているような気がする。

クレス・ローベルク > 「……嘘だろ」

こちらは17。5以上が出る確率は実に八割超え。
負けは確定的……だが、それでも振らねばならない。
振らずに負けるのと振って負けるのでは、同じ負けでも大きく意味が違う。

「や、やってやる。こういうのは結局、出るか出ないかの二択なんだよ!」

恐らくこれを口にしたギャンブラーの中に成功者は居ないであろう発言だが。
それにしても、さっきから割と視線がこっちに向いている気がする。
彼なりに乗ってきているのだろうか、と思う。

「(まあ、少しでも楽しんでくれたなら、良いんだけどね)」

勝つか負けるかは運次第だが、楽しいか楽しくないかは、自分と相手次第だ。
この生真面目な――或いは、無機質な少年に、少しでも生の喜びめいたものが芽生えるならば。
それはまさに、『上手な敗け方』と言えるものだろう。

「(ま、そうは言っても負ける気はない、けどね!)」
[2d6+17→2+3+(+17)=22]
クレス・ローベルク > 「くぁー!惜しい!?」

出た目は5。21を1だけ超えるギリギリアウトな敗け方だ。
現実には4と5では8%ぐらい出る確率に差があるので、これで敗けても惜しいとは言えないのだが、気持ち的に惜しい。

「ぐおおお……悔しいいいい……だが賭けの約束は守らねば……と言っても、今何か思いつくことある?」

と、そこで取り敢えず気持ちを整理して聞いてみる。
確かに手伝うとは言ったが、冷静に考えてみると今直ぐにこちらに渡せる様な仕事はあるのだろうかと。
勿論、賭けの履行を後日にまわしてもらっても、それはそれで構わない、寧ろ調整期間が出来て有り難いぐらいの気持ちでは居るのだが。

ゼロ > 「……俺の勝ち、という事で良いのかな。」

彼の出目は5、惜しい所で21を超えてしまった、彼のルールで言うなれば、この時点で負け、という事だ。
其れであれば、自分は勝ちという事になるのであった。
成程、これで、お金をかけるから興奮してしまうのだろう、ダイス一つに一喜一憂。
度し難いと思う、成程、兵士たちがカードとかを常にやっているのを見るが、こういう事なのか、と。
やってみて、改めて認識した。危ないものだな、と。

「さて、俺はそろそろ報告書を出してこないといけないし、何を願うのかは、後で決める。」

彼が、もう一度、と食い下がろうとしても、時間がある、此処の司令官に報告書を出さねばなるまい。
其処から将軍にも行くかどうかはわからないが、仕事は仕事なのである。
なので、少年は書類を手にして、扉の方へと歩く。

「すぐ戻る。」

何か、必要な事があったら、見つかったら連絡をする、と少年は残して。
そのまま、部屋から出るのだ、とは言っても報告が終わったら、戻って来て食事をしてから寝るので、
寝るまでの間は、彼とあれやこれや、と調整するのだろう―――。

ご案内:「タナール砦」からゼロさんが去りました。
クレス・ローベルク > 「うん、君の勝ちだ。やっぱ欲が無い方がサイコロの妖精も微笑むんだろうかな。相当珍しい勝ち方をしてくれたよ」

サイコロをバックパックに戻しつつ、男は苦笑する。
そして、書類を出しに部屋を出る男を見送る。

「うん、行ってらっしゃい。さて、それまでの間に、こっちはお茶でも淹れとくかね――」

さっきはゲームで熱くなったし、クールダウンの意味も込めて。
そう呟くと、バックパックからティーパックを取り出し、ポットを探しに棚を漁るのだった。

ご案内:「タナール砦」からクレス・ローベルクさんが去りました。