2020/02/03 のログ
ご案内:「タナール砦」にクレス・ローベルクさんが現れました。
クレス・ローベルク > 砦の訓練場で、男は一人困っていた。いや、困り果てていた。
周囲は戦闘ができる程度の円状に、ぐるりと取り囲まれている。
魔族ではなく、仲間である筈の兵士たちに、だ。
理由としては、まあ割とありがちな『剣闘士が国防の要である砦に来るとは何事か』『遊び半分なら帰れ。帰らないのならば俺が直々に殴り倒して身の程を教えてやる』である。
その言いがかりを付けてきた男の中で、『腕に覚えのある』と自称した若い兵士とで、模擬戦をしているのだが。

「はっ、せっ、はっ……とぅっ!」

これが、絶妙に『強くない』のだ。
否、弱いわけではない。というより、弱いはずがないのである。
何せ相手は貴族の軍学校出の正規兵であるからして。
隙はないし、太刀筋に歪みもない。
ただ――

「ただ、なあ……」

かぃん、と鉄と鉄がぶつかる音が鳴る。
既に模擬戦開始から十分は経っている。
相手は汗びっしょりで肩で息をしているのに対し、こちらは汗一つかいていない。
理由は一つ、男がひたすら受けに回り、彼を疲弊させているからである。

「(実戦浅いから、戦場の駆け引きができてないんだよなー。でも、此処で俺が倒しちゃったら、俺も面倒だけどこの人の面目も丸潰れだよなあ)」

そもそも、軍学校の剣術はあくまでも集団戦が本領であり、一対一に極端に向いている訳ではない。
だから、此処で負けてもそれは彼の実力を測る物差しにはならないと思うが、しかし負けは負けだ。
別に、彼の立場を慮ってやる必要は男には無いと言えば無いのだが。

「(後任期5日ぐらいはあるからなー。出来れば、仲良くしたいんだけど……)」

さて、どうしたものかと。
男は悩みながら、彼の攻撃を受け続けている。