2019/12/25 のログ
サロメ >  
「散歩、ですか。──御意に」

腹心なのだろう数名の女騎士へと短い命令を伝え、少年に先行するように歩みはじめる

砦に入るまでは一人の騎士が少年の背後を警護していたが、
砦の中へ入ってしまえば奇襲の心配も大きく減るからか、そのまま門前の警護に移っていた

砦の外で大規模な戦闘があった直後なのもあり、
要所要所を兵士が見張ってはいるものの砦内部の人の気配は驚くほどに少ない

ギュンター・ホーレルヴァッハ > 先程迄戦闘が行われていた事もあってか、砦の中は奇妙な程に静まり返っている。
正しくは、外の熱気を感じられるからこそ、余計その静けさが際立っていると言うべきか。

硬質な足音を響かせながら、気付けば彼女と二人きり。
目的地である砦の貴賓室に向かいながら、世間話をする様な軽さで口を開いた。

「…第七師団の勇猛さは私も各地で聞き及んでいる。対魔族という点において、その実力は比類なきものである事は間違いないだろう。私個人としても、是非様々な支援をさせて貰えばと思っているところだ」

淡々と、しかし明瞭に。足音を響かせ歩みを進めながら言葉を続ける。

「…勿論、それは貴公個人への支援と受け取って貰っても良い。師団の拡充も良し。私財を肥やすことも特には咎めぬ。それに――」

そこでふと言葉を区切り――

「…消してしまいたい王侯貴族がいるのなら、手伝ってやらんこともない」

彼女の過去を知りつつ、それを揶揄したりする訳でもなく。
まるで事務的な項目を確認するかの様な口調と共に、緩やかな動きで彼女に視線を向ける。

サロメ >  
「各々の方面から支援を頂き、本当に感謝しています。
 それでも尚未知数である魔族勢力の瓦解には至らぬところ、不甲斐なくもありますが…。
 ギュンター様に支援を頂けるならば、更に守りは強固なものとなりましょう」

硬い足音のよく響く石畳
その声も、例え小声であっても互いの距離であればよく通るだろう
歩みを進めながら、言葉を交わし……

「…成程」

個人への支援、使い方は自由、そして…

「当然、ご存知でしたか。
 確かに私には消したい過去こそありますが、
 それは今更数名の腐敗した王国貴族に消えてもらったところで消えてなくなるものでもありませんよ。
 あの王国に、貴族の食い物にされるべく根付いているものですから──」

あの時はたまたま自分がそうであっただけで、今もあの王城の地下では恐らく、腐敗した貴族達の淫猥な宴は続いているのだろう
おそらく、今こうして話している瞬間ですらも

ギュンター・ホーレルヴァッハ > 「宮中と言うのは究極の所、国家を揺るがす井戸端会議を延々としているに過ぎぬからな。そう言った類の話は嫌でも耳に入ると言うものだ」

知っていたのかと告げる相手にクスリと含み笑いを零す。
そういう話題に飛びつく様な下世話な貴族など履いて捨てる程いるのだと。
尤も、己自身もその類だろうなと内心で苦笑いを浮かべるしか無いのだが。

「達観しているな。将軍閣下には、下劣な復讐心の類は無いと見える」

実際彼女の言う通り、数名の貴族に消えて貰った所で此の国の在り方は。貴族の在り方は変わらない。そもそも、首謀者の貴族達は既に粛清されたのだと風の噂に聞いている事だし。
寧ろ、それを彼女が理解している事に満足そうに頷きつつも、再度彼女に向けられた視線には僅かな興味と悪戯心が芽生えた様な色を湛えているだろう。

「まあ、貴公ほどの美貌であれば、囲おうとした貴族共の気持ちも理解出来ると言うものだがな。どうだ?一晩私に買われてみるか?」

彼女の美貌と強さを、褥の上で味わいたいと思う貴族達の気持ちは分からなくも無い。哀れに思うのは、身の程を弁えず行動してしまった事だろうか。
そんな感想を抱きつつ、淫蕩な、と言うよりは契約を持ちかける商人の様な含み笑いを滲ませた声で彼女に尋ねるのだろう。

サロメ >  
「私個人としての話ならば、復讐は既に果たされております故。
 他でもない、かつての第七師団そのものによって」

復讐心がなかったわけではない
呪いにも似た怨嗟を貴族達に向けたこともあった
しかし救われた
人に絶望した先で、人に救われる…ならば人を呪うわけにもいくまいと

「それは……」

美貌を、と口にされれば少々困ったような表情を浮かべる
わざわざ謀略を組んでまで自分を貶めたかつての貴族達に比べれば、随分と清々しい物言いではあったが

「御身には、可憐な、淑やかな女性のほうがが似合いでしょう。
 支援の対価であるとか、そういった話でないのは、好感を持てますが」

ギュンター・ホーレルヴァッハ > 「良い仲間を持ったものだと賞賛すべきか。蛮勇を振るったものだと笑うべきか。結果として、貴公は第七師団の将軍と言う地位にいるのだから、きっと前者なのだろうな」

貴族相手に喧嘩を売る――等という生易しいものでは無かったとは思うが――という事の恐ろしさを理解した上での行動であるならば良いのだ、と笑う。
此の国の支配者達は、良識を持つ者の方が少ないのだから。

そんな会話の最中。此方が投げかけた言葉に困った様な表情を浮かべる彼女の姿に、つい悪戯心が芽生えてしまう。
それは揶揄い半分。或いは、傲慢な王族としての支配欲半分と言ったところか。

「私が何をしようと、誰を褥に招こうとそれは私の自由であって、貴公に何某を勧められる筋合いはない。貴公の様な芯の強い女性を組み伏せると言うのは、王族の嗜みの様なもの故な。
支援の対価等とつまらぬことは言わぬし、それでは私の興が乗らぬ。戦で昂った身体を。或いは、その凝り固まった生真面目な精神を。淫蕩に染める代わりに、金を払ってやろうと言うだけの事だ」

全ては、己自身の興が乗るかどうかだ、とあっけらかんとした物言いで告げるだろう。
それは、拒否を許さぬと言う様な口調ではない。此方が差し出した対価に対して、彼女自身がそれに魅力を感じるか感じないか。ただそれだけ。
彼女が断ったとしてもそれはそれだけの事であるし、それを理由に支援を止める等と言う事も無い。ただ、己の退屈を。一夜の戯れを受け入れるかどうかと、少し意地悪そうな笑みと共に彼女の答えを待つだろう。

サロメ >  
「剣と力に任せた粛清、賞賛などもっての他でしょう。
 それに私が将軍の座についたのは、前将軍に託された以上の理由はありません」

粛清などと言えば聞こえが良い
あれは王城の地下牢で起こった殺戮である
第零師団をはじめとした他の師団の心添えがなければ、どうなっていたか

「困った方だ。私の過去を知りながら、私を買い、楽しもうというのですか」

その余りにも歯に衣着せぬ物言いに思わず苦笑を浮かべる
その身を威厳と自己顕示欲で固めた貴族と比べれば、なんと心地の良いことか…

「ではいずれ、王国に戻った時に卿の興味がまだお有りになったら、ということで。
 戦場で生きる女の身体など抱くには些か不向き、思っていたものと違うものが出てきても、保証はしかねますが」

ギュンター・ホーレルヴァッハ > 「暴力による解決は、最も原始的かつ効果的なものだ。軍と言う存在自体がその具現化であるのだから、理解した上で振るった剣を卑下する事はあるまいさ。
…ふむ。前将軍は戦死と聞き及んでいる。軍事には疎い自覚がある故、顛末は知らぬがな。だが、精鋭師団の指揮官を託されたのは、貴公の実力あってこそであろう。誇りに思うと良い」

理由がどうあれ、結果がどうあれ、手段がどうあれ。
その物事が解決し、彼女自身が健在で、剣を振るった者達がその意味を理解しているのならそれで良いのだと肩を竦めた。
実際、その件について責めるつもりも、追及するつもりも無い。寧ろ、其方の敵になるつもりは無いのだという営業トークめいたものだろうか。

「その通りだよ。王侯貴族の悪辣さは、貴公が一番理解しているだろう?国政を預かり、民を導く代わりに気の向くままに欲望を満たす。私も、そんな愚かな貴族の一人に過ぎぬという訳さ」

苦笑いを浮かべる彼女に、尊大とも見える様な口調で笑みを返す。年齢の割に随分とこなれたその笑みは、宮中という百鬼夜行の棲家に身を置き過ぎてしまったからだろうか。

「おや残念。今宵は振られてしまった様だな。ではまた何れ。王都にて一夜を共に出来る事を楽しみにしておこう。
……さて、短い散歩と下らぬ話につき合わせてしまったな。そろそろ、真面目な話をしようじゃないか」

愉し気に笑みを浮かべながら、保証はしかねると告げる彼女に朗らかな声で応える。
しかし、二人が目的地である貴賓室の前に辿りつけば、その表情は戦場を訪れた王族のものへと戻るのだろう。
最前線で戦う彼女に聞くべきことは山ほどある。彼女の時間が許すなら、暫しの間実務的な話が貴賓室の中で行われていたのだろう。
その後は、王都から持ち込んだ高価な食材の山を使った夕食に彼女を誘う事になるだろうか――

ご案内:「タナール砦」からギュンター・ホーレルヴァッハさんが去りました。
ご案内:「タナール砦」からサロメさんが去りました。