2019/12/14 のログ
ご案内:「タナール砦」にサロメさんが現れました。
■サロメ >
戦いが終わり、人間側が勝利を収めたばかりのタナール砦
激戦の残り香を感じさせる砦の中を、騎士が一人、様子を見ながら歩いていた
女が脇を通れば、保全の作業をしていた兵士が姿勢を正し敬礼を送る
それだけで、相応の地位の持ち主であるということは知れるだろう
しかし女の表情は晴れたものではない
魔族、そして魔物を退けたというのに砦の中の雰囲気は重く苦しいものだった
■サロメ >
「──いや、そのような姿形の魔王とは、第七師団は遭遇していない。
…新顔か、珍しく足を伸ばしたかのどちらか、かもしれないな」
砦を守る兵士の数名が語る、出現した魔王の容姿
その戦力は圧倒的で、幾人もの兵士が一撃で塵に変えられたという
「可能な限りの情報が欲しい。
接敵、目撃した者は私に連絡を取るよう伝えてくれ」
砦に魔王格が出現することは稀といわけでもない、が
どれもこれも面倒な輩であることには変わりない
温厚でない、殺戮を好む類のものが現れたなら、このまま砦を維持するのは得策ではないだろう
■サロメ >
他の師団の者に口出しは出来ないが、
第七師団には魔王が出現した場合の対応を徹底させていた
師団長が不在の時は交戦をまず回避すること
後方の駐屯地まですみやかに後退し、タナール砦ではなく王国の領地内で足留めを図ること
自分がいる時であれば、威力偵察が重要になる
どのような思想の魔王であるのか、どの程度の戦力を有しているのか…
人間に対して友好的である、若しくは交渉の余地のある魔王はこれまで幾人かを確認している
「(無論、魔王と呼ばれるだけの理由のある魔族達。そう都合のよい相手ばかりのわけがない)」
若干思案しつつ、戦闘に赴いていた第七師団の戦士には駐屯地への帰還を伝える
自分自身は、もうしばらく戦場の余韻残るこの砦で情報を集めようと
■サロメ >
主戦場となっていた砦内の平地を歩き、やがて魔族の領地側への門へと辿り着く
件の魔王が此方側から現れたのであれば、痕跡の一つくらいは残しているか
僅かな期待ではあるが、犠牲になった兵士に少しでも何か功績を…
女々しい感情だろうと思いつつも、まだ血の香りが漂う戦場で歩みを進める
魔族領が近く、雰囲気は重い
念の為にと腰の剣、その柄に手を掛けて
ご案内:「タナール砦」にミュレスさんが現れました。
■ミュレス > 「何者か!」
魔物側へ注意を傾けた騎士の背後から上がったのは、鋭い誰何の声だった。兵士の物である。しばらくした後、別の男が声を上げた。
「このような前線までか?」
「そのままだ!両手は見える所に出しておけ」
そんなやりとりを聞いて振り返るなら、タナール砦の門前に2両の馬車が停まっているのが目に入るだろう。荷車には糧秣、保存用の飲み水としての葡萄酒の樽などが積まれている。
それを率いてきたのは修道女達と、白ずくめの女だ。仮面のような微笑を貼りつけて騎士を見つめる彼女のことは記憶しているだろうか。ノーシス主教に身を捧げるアルビノの異端審問官である。呼び名は様々だ。「清廉の乙女」「白子の強請り屋」「仲間殺し」「松明を掲げる聖女」。
■サロメ >
背後であがった声に振り向けば、およそ戦場には似つかわしいとは言えない姿の者達
その中の一人には見覚えがあり…
「──どうした?」
踵を返し、問答をしている兵士達へと歩み寄る
馬車の荷物を見れば、用途も目的もわかろうというもの
しかしわざわざ砦に直接赴くというのは、兵士が警戒するのも頷けるというものだった
「…ノーシス教の異端審問官殿がなぜこのような場所に?」
やや怪訝な、鋭い視線を…笑みを湛えた白い女へと向ける
■ミュレス > 「ノーシス教信徒ミュレスが、シュトラウス将軍閣下に拝謁致します」
アルビノの異端審問官は、挨拶と共に深く頭を垂れた。修道女もそれに倣う。
「此度の戦は長く苛烈にして、民心は乱れるばかり。荒廃を憂う我らが教主はこのように申しました」
頭を上げながらそう続けたアルビノが、此方を見た女性を見つめ返す。
「武人も僧侶も、社会に仕える身。ならば今こそ互いの垣根を越え、報国を第一義と為すべし、と」
そう言いつつ、ノーシス教のシンボルが封蝋された書状を差し出す。文面は簡潔だった。ノーシス教は異端審問官ミュレスを代表とする後方支援部隊を派遣した、ということ。
宮廷の事情に明るければ、帝国公主の降嫁によって相対的に影響力を減衰させたノーシス教のパフォーマンスと察せられるだろう。
■サロメ >
「…ふむ」
礼儀正しく差し出された書状を受け取り、その封を解く
内容は…軽くを目を走らせる程度でも十分に内容の伝わるもの
後方支援部隊…
対魔族戦線にて特化された第七師団にとっては、
聖職者を中心とした退魔の術式を扱える者は重要である
無論それだけに留まらず、武具の洗礼や祝福といった神の奇跡は魔族、魔物を相手どるのに欠かすことはできない
で、あれば…心より歓迎すべき事案だった
「ありがたい話だ。返礼は此方も書面を以って近日中に聖都へ使いを送ろう」
後方支援部隊を組織し送り込む、という前提があったならば、この戦地に直接訪れた理由もつく
が…それだけが理由でないのは明白
「(パフォーマンスであれど、今は踊らされるが得策、か……)」
未知の魔王の出現報告があったばかり、第七師団も再編されて以降戦力があぶれているわけではない
「──了解した。今日のところは我々は他の師団に砦を任せ、王都へと帰還するが…今後、宜しく頼む。
改めて、王国軍第七師団長を務めるサロメだ」
手際よく右手の手甲を外し、無骨な騎士とは思えぬ白いその手を、握手のためにミュレスへと差し出した
■ミュレス > 「承知しております。この度の私共の任務には、第七師団の後退支援も含まれておりますれば。……お許しも頂いた所で」
異端審問官の声は、相手が籠手を外したことで止んだ。白い素手は戦場に身を置く者と思えぬほど滑らかに見える。だが目の前の相手が軟弱なお飾りでないことは、身に纏う鎧や聞き及ぶ勲功で明らか。彼女の手を取り、笑みを深くする。
「これより私共は閣下の指揮の下、犬馬の労を厭わぬ所存にございます。……ひとまず今日は、兵士の皆様が無事帰郷できるようお手伝いをさせて頂きます」
審問官が軽く左手を上げると、修道女らが動いた。ある者は新鮮な食事や酒を馬車から下ろし、ある者は負傷者へ癒しの秘蹟を施すべく砦内へと足を踏み入れる。
新兵は彼女達の存在を喜んでいるが、年かさの兵や将校の表情は複雑だ。なんとなれば、「清貧を掲げる」「ノーシス教」の援助である。彼らの暗い面を知っている者は皆疑う筈だ。
「閣下、少々お話が……」
修道女を一瞥した異端審問官が、女将軍を上目遣いに見る。右手を少し持ち上げ、砦の外を示した。
■サロメ >
何も臭わない、というわけではない
第七師団の面々も、何の疑いも持たずに彼女達を受け入れる者はいないだろう
しかしそれは魔物を倒す、殺す、戦線にて勝利をあげる──
それら自体とはなんの関係もない
少しの毒を恐れては、食事が成り立たない世界である
警戒を解くわけにはいかない、が…疑いばかりの目線では動くこともままならない
修道女達が食事を振る舞い、負傷者の手当てを行ってゆく
砦を攻め落とし、これから保全にかかろうというところ、大幅なペースアップが見込める
支援のありがたみを理解しつつも、兵士達の顔が晴れないのはおそらくサロメと同じ心境なのだろう
──目の前の異端審問官、その噂を知る者も多い
「……此処では出来ない話か?」
自分を見上げるミュレス、その視線の移ろいに合わせ、自身もまた視線を巡らせる
砦の外へと向いたその目線は、場所を変えたいという意思表示だろう
彼女はこの支援の一団の代表である、そして公にできない事情を抱えていることも織り込み済み
で、あれば話を聞く必要があるだろう
白き聖女の促すまま、砦の外へとその足を運ぶだろうか
■ミュレス > 助けというのはそれを求めている相手、かつ将来を見込める相手に施されるもの。そういう意味では、第七師団は助ける相手として打ってつけだった。ノーシス教の上層部も、貴族と戯れているだけの時期は最早終わったと悟り始めているのだ。
「……ゲルキス卿を御存知ですか?」
此処で出来ない話か?その問いに、異端審問官は質問で返した。そして、女将軍はその貴族の名を知っている筈だった。恐らくは、煮え滾らんばかりの想いと共に記憶している筈だった。あるいは、一寸先も見えぬほどの暗い想いと共に。
「卿と、2人の御子息については?」
アルビノの審問官は問いを重ねる。思い起こされるのは王城の地下牢か、邸宅の倉庫か。酒と薬に浮かされた男達の笑い声。鎖の鳴る硬い音。肌のぶつかり合う乾いた音。濡れたものがぶつかる湿った音。
「……閣下」
アルビノの女が再度、砦の外に出るよう言外に促した。
■サロメ >
「──……」
女…ミュレスを見つめていた金色の瞳が僅かに暗い色を宿す
視線を外し、砦の外を見つめて
「ああ、知っている。忘れる筈もないな」
ばさりとマントを翻し、ミュレスの言葉と視線から身を背けるようにして、砦の外へと向かう
なぜ女がその名を出したのか、それ自体はわからない
どういう意図があるのか、何かの報告があるのか…
どちらにせよ、この場でできる…否、したい話ではなかった
どうして今更、という思いだけは拭いきれず、動揺を表情に出さぬだけでも精一杯だったが
■ミュレス > 此方に背を向けた女将軍の後を、異端審問官が追う。しばらくの間、聞こえるのは瓦礫や小石を踏む音ばかり。そして魔物側の門までやってきた時、審問官は口を開いた。
「ゲルキス卿が閣下を告発なさったのです。救国の英雄は仮初の姿。その正体こそは淫欲の儀式を行う魔女であり、王国を毒する異端者であると。……閣下」
女の華奢な手が、重厚なる肩鎧に食い込む。
「何卒、王都マグ・メールへはご帰還なさらぬよう。彼らが、待っています」
眉一つ動かさない女将軍に審問官が囁きかける。
「彼らは以前の閣下を知っています。粛清は充分でしたが完全ではなかったのです。もし王都へ戻れば、閣下はまたしても」
そこまで言って、異端審問官は初めて笑みを消し去った。紅色の瞳で、金色の双眸を覗き込む。
■サロメ >
「………」
全てを聞き終えて、大きく息を漏らす
なぜ異端審問官が代表なのかと勘繰らなかったわけではないが…
「…終わった話だと思えば、それを蒸し返し、
あまつさえ、最初に私を嵌めた時とさして変わらぬ言いがかりをつけてくるとは…」
多少なり、王国貴族にも危機感が芽生えたかと思っていた
無論、未だに自分をそういった視線で見る高官は少なくはなかったが、
表立って問題提起をするような者はいなかった
「またしても、幽閉され下卑た拷問に晒されると?
…お笑い草だ。卿がそういうつもりならば此方にも考えがある」
王国貴族の命令に逆らえず、第七師団を危険に晒せず、脅しと権力に屈したあの時とは最早違う
第七師団を権力と力で抑えようとすれば何が起こるわからない、そう思わせておいた筈だった
「ミュレス、貴女の言う通り粛清が足りなかったようだ」
女将軍の表情に浮かび上がったのは、絶望でも後悔でも怯えでもなく、落胆と、憤怒──
「しかし、生きたまま二度も魔女呼ばわりされるとは、なかなか私の道も忙しない…」
■ミュレス > 女将軍の顔に浮かんだ表情を見た審問官が、再び微笑を浮かべる。
「あ……ふふ、失礼。王都の貴族と真正面から当たる決意を固められているとは思いませんでした。確かに今や閣下は一軍を率いられる御身。それにご自身の武力を鑑みれば……」
再び女将軍を陥れようしている顔ぶれを思い出し、吹き出した。かなわないどころか、相手にならない。
「最小限の犠牲で、御身に降りかかる火の粉を払えましょう。私共もお役に立てるかと。流血を……少なくともこちらの流血を、減らせる筈です。何と最早……策を巡らせていた私が愚かでありました」
もう一度小さく笑い声を上げた後、長く息を吐き出した。
「ですがその場合、閣下には謀反人という別の嫌疑がかかるやもしれませぬ。その僅かな可能性を除かんとお考えなれば、私にお声かけを。必ずや閣下のお役に立つことでしょう」
色々な噂の絶えない審問官はそう言っていつもの、仮面の如き微笑へと戻った。
■サロメ >
「何、力や刃で捻り潰すばかりが能じゃない。それでは前将軍と変わらないからな」
笑みを浮かべるミュレスへと向き直る
何も謀反を起こそうというわけではない
告発などと言っても所詮は事実無根なのだ
深く突かれればそれだけで崩れるのは目に見えている
脅すことで、自分を従えようとしているだけなのだろうから
「手は色々とある。ただ、王国貴族の言いなりにはならない…というだけさ」
だからそこは安心して欲しい、と付け加える
脅しに屈しない、それを認めた書面を送りつけることあたりからはじめるのが良いだろう
しかしそれならば、彼女の言う通り王都には返事を待ってから戻るべきか…
「力で片を付けるのは簡単だが、折角第七師団に力を貸してくれる貴殿らまでそういった視線に晒すわけにはいかないからな」
■ミュレス > 「御言葉ですが、最後には剣にて決することにあいなりましょう。ご存知のことと思いますが、王宮における事実無根の告発は無力ではありません」
審問官は首を横に振った。嘘から真を作り出して相手を陥れる彼らの手口については、今更例を挙げるまでもないだろう。
「勇猛な閣下は、恐らく剣以外でも力攻めをお考えでいらしたのではありませんか?正々堂々書状を送り付け、旧弊に屈する気はないと、真っ向から……」
正面に手を差し出した後、視線をサロメへ戻した。
「この機会に、私の考えを申し上げます。王都ではなく、我らが都市へご帰還なさいませ。ヤルダバオート神の御前にて戦勝のご報告と、更なる勝利を祈願なさるのです。そして、彼らの告発を受けた私が閣下を審問するのです」
そこまで言った後、真っ白な右掌を向ける。
「勿論、全て形だけのこと。私の職位を活用するのです。一度の告発に、2人以上の審問官が当たることはありません。それに閣下が告発通りの魔女などではないことなど、すぐに分かります」
■サロメ >
「王国貴族もそこまで愚かではない、と…思って入るのだがな」
人を買い被る癖がある、それは自覚している
「…ヤルダバオートへ? そして形だけの査問とは、また…」
いわば、虚偽
むろん自分が魔女である筈などないが…
かつては清廉潔白を通した故に、貴族達の言いなりとなった
その、同じ轍を踏むことはできない──
「清濁呑み込むもまた寛容、か……。
いいだろう、今回は君の提案を飲むことにする。
そちらのほうが、勝率は高そうだ」
■ミュレス > 「私に言わせれば、閣下。卑劣な者共に清廉を貫かれる必要などありません」
あくまで善性を信ずる女将軍。その眩さに目を細めた異端審問官は、再び頭を垂れた。
「有難き幸せ。審問については聊かの危険もございません。今日お会いしただけで、閣下が悪しき魔術に手を染めていないことは明白でした。淫蕩さなど申し上げるまでもない。後残されている審問は……」
笑みを深くしたアルビノの女は、当然の如く次のように言い放った。
「邪教の儀式である肛門性交で、快楽を得るか否かです。これを避けることは出来ませんが……勿論、結果は火を見るより明らかです。遠からずして閣下は、異端審問官の裁定という破れざる盾を得られましょう」
■サロメ >
肛門性交、という言葉に対し、女将軍は眉を顰める
今まさに、女が提言した問題の主、王国貴族達による執拗な拷問…とは名ばかりの凌辱
女をまるで性処理道具か何かのように扱う者達、その只中で…無論、肛門に触れられていないわけがない
「君も知っての通り、私は過去王国貴族に地下に捕らわれあらゆる嗜虐の的にされた。
たちの悪い魔法や薬も、浴びる程に使われて、だ。
……君の言う邪教の儀式ではないが、この肉体は既に穢れている」
僅かに表情に陰りを見せながら、その視線をミュレスから外す
口ぶりからして、相手はそのことも承知の筈──
「──君のいう異端者に該当しないとは言い切れないぞ」
もしそう裁定されたなら…どうなるのか
異端審問官、その名が示すものは決して甘くはないはず……
■ミュレス > 「凌辱によって快楽を得るなど有り得ませぬ。そんなものは、殿方が読んで妄想に耽る猥本の中だけの出来事」
女将軍の言葉を言下に否定した異端審問官は、彼女の正面へと回り込む。
「あるいは演技か。終わりの見えぬ苦痛と恥辱を少しでも和らげるために、仮初の自分を見せたのかもしれない。いずれにせよ真実ではないのです。そしてもし、万一、期待通りの結果に終わらなかったとしても」
手甲に包まれたサロメの両手に自身のそれを添え、異端審問官の女が微笑む。
「審問は幾らでも期間を延ばせます。お分かりですか?閣下。潔白が得られるまで、すなわち私達にとって望ましい結果が現れるまで、幾らでも繰り返せるのです。王都の貴族の邪魔は入りません」
何も心配はない。最終的な結果は、既に「白」と決まっているのだから。そう繰り返し告げ、アルビノの女はサロメに頷いて見せた。