2019/01/20 のログ
紅月 > 「あー、戦闘目的ではあったのかぁ…
んー…」

これは、どうとるべきだろうか…口許を指で隠すように腕を組んで悩む。
きっと今己は凄く困った顔になっているだろう。
殺戮が好きならとっくに始まっているだろうし、けれど其れをせずにキャンプしていた辺り…希望的観測ではあれど、もしや。

「…手合わせが、好きなの?
えぇと、殺すじゃなくて…ただ"戦う"が、すき?」

もし…もし、そうであるなら。
これは比較的平和にお帰り頂けるのでは、と。
何せ、手合わせ好きというだけならば己とお揃いなのだ。

「そうねぇ…今、エルが楽しくなれるヒト、此処には少なそうでね?
手合わせで良ければ遊べるけど…おねーさん、此処じゃない場所がいいなぁ?
それで、遊び終わったら一緒にお風呂と…美味しいご飯も作ってあげちゃう!
…どう?」

ニコニコと微笑みつつ、首を傾げる。
指折り数えて提案を。
…果たして、釣られてくれるかどうか。

エルディア > 「もぅ」

懲りずにこっちを筒で眺めているヒト族に向かって再度石を振りかぶる。
あちらはお仕事上、目を放すわけにはいかない上に上官が完全に怯えているせいで
逐一報告を求められるというかわいそうな役割を担っている訳なのだが、
見られる側にはそんな事情は関係ないのです。その背景知らないし。

「みる、ならおかね、はらって!」

緩い放物線を描いて飛ぶ石は吸い込まれるように物見台へと飛んで行った。
タダで乙女の柔肌を眺めようとはデリカシーというものに欠けていると思う。
ここはこう、砦のヒト全員あっち向いてほいしてればいいのです。
ちょっとズレた発言と共に無粋な視線(当社比)を追い払うと
再び近くの薪を拾い集め、火にくべる。

「うん、エル、たたかうのだいすきだよ。
 そのために、うまれてきたから」

ただ闘争のために。
政治も、パワーバランスも関係ない。
栄誉も誇りも関係ない。
例え絶対に敵わないと思った相手にでも彼女は嬉々として戦いを挑むだろう。
勝ち負けは結果として後からついてくるおまけであり、目的ではない。
いつも思う。永遠に戦いが続けばいいのにと。
戦う事は生きる事と同義。

「なんで、ころす、たのしいの?」

きょとんとした表情で逆に聞き返す。
自分の中で死は特別な現象ではないので
良くも悪くも、目的になりうるほどの”現象”では無い。
彼女の”遊び”は少なからず死人が出るが
結果として死ぬほどの戦いが好きなだけ。
食事となるとまた話は変わってくるが。

「うん!
 あそべるなら、どこでもいくよー?」

ぱぁっと花のような笑顔を浮かべる。
やっぱりここに来てよかったと思う。
資料では魔族とヒトとの戦いの最前線とあった。
ここに来ればたのしく遊んでくれる相手に出会えると期待していたけれど
初日からそんな相手に出会えるとはついている。
ついでにお風呂とご飯もついてくるらしい。
ありがとう何処かの誰かと目の前のヒト。
ソレはもう馬鹿悪しくなるほどあっさりと釣られた。

紅月 > 「あら、お金払われても易々見せちゃダメよ?
そういうときは"しつこい"とか"お風呂覗いたら怒るよ"って、嫌な理由を言ってやるの」

ゴインッ!! …バタッ。
放物線の先から、ちょっとご冥福をお祈りしたい音が聞こえた気がする。
「…班長がんばって」
チラリと一瞬だけ視線を投げて思わず呟いた声は目の前の少女ぐらいにしか聞こえていないだろうが…上の方からくしゃみをする声が聞こえたから、祈りは通じた気がする。
…気がするだけで、充分。
それらの騒ぎを聞き流しつつ、あくまでも今は女同士の語らい中だとばかりに魔族の少女の方を向いたままで。

「うんうんそっかぁ、戦うの"が"好きかぁ…そんじゃあおねーさんとお揃いだねぇ。
…っふ、あっはははっ!
この子ただの可愛いバトル好きだわ、良かったーっ!」

一通り少女の話を聞けば、ふわりと微笑みかけて。
ゆっくりと手を伸ばす。
…可能であれば頭を撫でてみるし、あまり抵抗しないようであれば調子に乗って抱き締めるくらいまでいってしまおうと。
女子供は基本的に大好きである。

エルディア > 「だめなの?」

なんかこう、少し視線がさっぱりした辺りで視線を戻す。
呟きと共に聞こえたくしゃみが随分とコミカルに聞こえたのは
多分なんかそういう感じの奴だと思う。つまりさっぱりわからない。

「?」

頭を撫でられた後、ぎゅっと抱きしめられるに身を任せる。
流石にこれは戦闘行為じゃないと思うので
彼女なりの戦闘前の儀式なのだろうと斜めの方向で納得してみたり。

「ふははー?」

棒調子で笑い声を真似てみる。
仮に戦う為の下準備でも構わない。
過去に似たような手を使われたことがあるが
戦いに卑怯も下策もないというのが彼女の考え方。
より良く、より周到に。
戦うためのどんな足掻きも
見抜けないならそれはやられる自分が悪い。

「おそろい?」

故に特に抱きしめられても全く抵抗が無かった。
あ、でももぎゅっと押し付けられるふわふわはちょっと気持ちいい。
その感触に少しだけ目が細くなる。

紅月 > 「だーめ。
女の子の裸は、好きな子とお医者さんにしか見せちゃダメ。
そのくらい大事にしなきゃ」

倫理観という程ではないが…大事な事だとは思うので、そこはキチンと教えておく。
そして続くのが撫でたり抱き締めたり、であるが。
…何となく、大きな争いが避けられそうな雰囲気だ、という事だけは砦の者達に伝わるだろうか。

「うん、おそろい。
おねーさんも"死なない戦い"は好きなの…殺さない戦いもね?
だからお揃い、おんなじ。
…後ね、こうやってギュ~ってしてるのも大好きよ?」

相手に復唱された言葉…そこに込めた意味を子供にも分かりやすいように伝えながら、ポンポンと軽く背を撫でたりしてやる。

「…さてと。
遊びに行ってくるって皆に話してこなきゃ…エル、ちょっと待っててくれる?
牛さん食べてていいから」

しばらくこうしてじゃれあっていたいのだが、一旦指揮官に掛け合ってみなければ。
何が楽しくて脂ぎった狸ジジイと顔つき合わせねばならぬのか、というのが本音ではあるが…我が友人かつ本来の直属上司である第6師団団長にも一筆寄越しておかねばならないし、仕方無い。
名残惜しいが少女を放して、頭を撫でてやりながら言う。

エルディア > 「……なるほどわからん」

とりあえずお医者さんは見せてもいいらしい。
まぁ正直じろじろ見られるの嫌いだし見せる趣味もないので忠告には従おうと思う。
むしろ何方かというとみられるのは苦手な方。

「んー」

良くも悪くもこだわっていない為
結果として殺すことは多いがそこは無粋だと思うので黙っておく。
別に殺すこと自体は目的ではないのだから。

「えるも、きらいじゃない、よ」

ふわふわとか、可愛いものとか、実はすごく好き。
戦う事はもっと好きだけど、戦わない間はそういう者に囲まれていたい。
ほど良くじんわり暖かいのも好き。今の腕の中で感じているような。
決して口にはしないけれど。

「ん」

砦の方は相変わらず何だか戦々恐々と言った雰囲気がしているが
遊び相手を得た以上今はもう興味の範囲外。
小さく頷くと、とことこっと離れ薪をかき回し、火加減を落とす。
戦闘が長引く可能性もあるのでその準備。炭になったらさすがにちょっと悲しい。
折角何処かの誰かが用意しておいてくれた完璧なロケーションを
無駄にしたら怒られる。主に腹の虫に。

「まってる」

そのまま塹壕の淵に腰掛け足を揺らしながらゆらゆらと体を揺らして。

紅月 > 「ま、大きくなればわかるよ。
……そっかぁ、エルもギュ~ってするの、嫌いじゃないのかぁ…はぁ可愛い、もって帰りたい」

今のところ、紅月から見た少女の印象は"バトル好きの無口な子供"であり…しかも、良く見ると凄く綺麗な顔立ちをしている。
いわゆる"常識"と呼ばれる系統のモノを教える者が近くに居なかったのかもしれない…分かりやすく話してやれば会話は成立するし、いっそ拾って帰っちゃダメだろうか。
…知人にバレたら間違いなく『元の場所に帰してこい』と言われるだろうが、残念ながら今の紅月にツッコミを入れてくれる人材はお留守だった。

「じゃあ行ってくるね」
と一声かければ砦の中…司令室へと真っ直ぐに。
ひょっとしたら、既にここ数日でガタのきている外壁の大穴から時折チラリと姿が確認出来るやも知れない。
やはりと言うか、一騎打ちで済むのなら…戦う前から戦意喪失気味のヘタレ指揮官が断るわけもなく、了承は結構アッサリと下りてサッサと戻ってくる事となるのだが。

「……おまたせ~!
えっとね、偉いヒトが『エルが砦に居ると怖いから、砦じゃない何処かに行ってくれるならおねーさんとお出掛けして思いっきり遊んでいいよ』って。
…エル、お家は?どこからきたの?」

つまりは魔族の国なり周辺の山なり、できるだけ遠くへ遣ってこいという無茶ぶりを賜った、のだが。
そもそもこの少女、ここを離れる気があるのかどうか。

エルディア > 何だか楽しそうに呟いている姿を見上げる。
なんというか、ちょっと自由なヒトだと思う。
まぁ自分が言えた事ではないけれど。
それになんだか”色彩”が綺麗。
何やら苦悩する姿もこう、色っぽいというのだろうか。
……自分にはない要素である。

「んー?」

目が覚めた場所は遺跡の奥だったが寝ぼけていたために
既に灰燼と化しているので帰る場所などあるわけもない。
魔族領域に行けばそれはそれで面白い遊び相手に沢山会えるかもしれないが

「おうち?ないよ?」

実際何処からどう見ても野良魔族です大変ありがとうございます。
とは言えこの娘がみかん箱に入っていたなら間違いなくこう書かれているはずだ。
”(厄介事)拾ってください”と。
主に食費と気性の問題で。
それをクリアできるなら別に誘拐されようが
”お菓子”で釣られようと一切問題が無いとも言えるが。

「なら……いこ?
 はやく、いこ?」

そうして相手の指先をそっと握り高鳴りを抑えきれない表情で見上げる。
ソワソワと待ちきれないといった様子で急かす様は
そこだけ見れば焼菓子を買ってもらえると言われた子供のよう。
楽しみにしているものが獅子鷲も真っ青なレベルの闘争という点でなければ
それはそれは可愛いもの好きの感情を擽ったかもしれない。

紅月 > なんと…いやまぁ、やはり。
謎の美少女魔族は家無き子であった。
そりゃあ汚れたボロ布を纏って…否、どこで拾ったか騎士団のマントを纏っている辺り、少しばかり可笑しいとは思ったが。
…例えば少女の胃袋事情や戦闘能力を先に知っていれば違った道もあったやも知れないが、今現在視界に入っているのは遠足前日のようにソワソワした子供である。

「…やっぱり拐かしちゃダメかしら」

女子供の神隠しは、鬼も妖精もやらかす"本分または習性"みたいなものである。
ちょっぴり本気で悩んでしまうのは致し方ない、と思う…血筋的に。

「どこなら思いっきり闘えるかなぁ…?
魔族領か、近場でタナール回りの山ん中か、とりあえず人間が居ないとこじゃなきゃマズイんだけど…エル、どこがいい?」

つまり、ひょっとしたら焦土となる場所の選定であるが…どうしたものか。
少女に希望がなければ、牛と花を持って山中を少々奥へと分け入っていく事になるか。
…この山中であれば魔族と人間の領土の丁度境目、緩衝地帯。
どちらの領土とも言えない場所であれば多少のドンパチくらいは許されるだろう…たぶん、きっと、おそらくは。

エルディア > 「ぅ―……」

待ち切れなさが募ってきているのか
視線も定まらずあっちこっちと遠くを眺める。
記憶が断片的というのもあり、条件に合う場所というのが
なかなか思いつかないというのもあるが……

「エル、どこでもいーよ?」

何処で戦うかなんて言われなければ普段は気にもしない。
魔族領、尚且つ伯領であったとしても一切構う事無く戦闘を開始するだろう。
仮にその領主が怒り、兵を差し向けてでも来れば一石二鳥というものという
実に危険思想の持ち主なので正直今すぐ戦い始めても本人的には何ら構わない。
止められてなければたちまちこの辺りが焦土と化しただろう。
場所を変えたとて此処ではないどこかがそうなるだけで
何処かが焦土と化すのは既に決定事項。
大して変わらなくない?というのが本人談。

「こーげつといっしょ、なら、どこでもいーよ」

待ちきれない思いから飛び出すトンデモ発言。
戦えるなら何処でもいいという言葉が奇跡的に平和に聞こえた瞬間だった。

紅月 > 「はうっ…!!
……、…あっ、ちょっと今人類とか魔族とか全部どーでもよくなったわ。
やだもう可愛い…決めた、エルちゃん持って帰る」

勝てるかどうかは置いておいて、というか…願わくば伸してでもお持ち帰りをと。
すっかりハートを撃ち抜かれた紅娘、今行こう直ぐ行こうと珍しく自主的に好戦的…げに恐ろしきは欲望という感情である。

「……、…ん、と、この辺りならいっかな?
丘1つ越えてるから一応砦は見えない、人間の足なら地味に遠い…そんで何より、拓けてる」

位置的にはゾス村とは反対方向の、九頭龍山脈を囲う街道に沿った山中の一つ…丁度木がない草原で、天然の広場のようになっている。
つまりは砦から遠すぎず近すぎず"ドンパチやってる事だけは把握できる距離"である。
これであの御貴族様…もとい指揮官が『配下の一人が犠牲となって魔族を追い払った』と言い訳し面子を守ることも出来るだろう。
…薬草採取中に秘湯を見付けて転移結晶を仕込んでおいたのは大正解だった。

「ルールは簡単…互いに極力死なない、一応殺さない。
どうしても死んじゃったら仕方無いけど…お風呂とゴハンが無くなるねぇ」

広場の中央、エルディアに背を向けてゆっくりと歩みながら話す。
少し距離を取り、立ち止まれば…頭部に両手をあてて隠蔽を解く。
ガーネットの双角、先の尖った長耳、漆黒の爪は艶やかな耀きを増して…振り返れば、紫だった瞳は黄金色に揺らめく。
いつの間にやら手許には大きな大きな抜き身の太刀が握られており、鞘をヒョイと背負えば。

「…エル、紅と遊びましょ?」

にっこり、目を細めて微笑んでみせた。

エルディア > 「んー?」

堂々の誘拐宣言にも特に顔色は変わらず
次の行き先決まったのかなー程度の感想しかなかった。
結局の所、満足できるなら妖魔の腹の中だろうと
王都の聖域の中であろうと変わらない。
ただ戦えればそれでいい。

「ん」

遊びのルールとして認識する。
極力殺さない。死なない。
そして、”あの場所に届かない”攻撃に抑える。

「はあく、した」

小さく頷く。
遊びにルール(制約)があるというのはそれはそれで楽しめる。
顔を上げて再び見つめるその瞳からは魔力性の赤い光がすでに零れ始めており……

「じゃぁ、おねーちゃん」

その口元が半月を描き、一瞬にして空気が変わる。
今まで見せていた子供らしい雰囲気は消え去り、
代わりに獰猛な狩猟者の笑み。

「あーそぼ?」

空気の鳴る音と共に残光が走る。
低い姿勢で飛び込んだそれは背中の片腕を叩きつける。
駆け引きなしの真正面からの真っすぐな、けれど”軽い”ジャブのような一撃。
とは言え音の速度に迫るそれは真面な人間は正面からもらえば血煙に変わる様なもの。
……まぁ当たった所で死なないだろうし平気だと思う。

紅月 > 少女の瞳に宿り始める色は、燐光のようにキラキラと輝いて。
その笑みの質が、空気が変わり…揺らげば。

「…綺麗な、赤。
ふふっ…力比べなら紅も得意よ?」

真っ直ぐ矢のように飛来する大きな腕を、此方も正面から片腕で止める…下駄が芝生を抉り、土色の線を描いた。
"此れを持ち帰る"と決めた以上、戯れる気はあっても手を抜く気はない。
故に、初見の相手だろうが角も晒すし…鬼神族の怪力を出し惜しむ気も、更々ない。
しっかりと掴み力を拮抗させたまま、ギラギラと餓えた獣のような瞳で少女を見据え…にぃ、と笑い返す。

「腕が増えるなんて面白い…ねぇ、もっとエルを見せて?」

エルディア > 「ぁはぁ♡」

腕の可動範囲の差から一方的に武器を振るえるインファイトが
最も勝率の高い戦法であるがゆえに、予測されていると予想しつつもまっすぐ突っ込む。
並の相手なら防御に体制を動かし、そこから一方的なラッシュにつなげるのだが……
みしりという音とともにその体が一瞬停止する。
お互いに一歩も引かず力がぶつかり合う轟音が山間に木霊する。

「すごぃ、すごぃ」

その喉から艶声に似た歓声が漏れた。
張り合うように同じ片手でその拳を止められたことに燥いだ声を上げる。
初手は文字通り五分に持ち込まれた。
短期的に見れば仕掛けた此方の負け。
その事実が少女を歓喜させる。
簡単に終わってしまう戦いのなんと味気ない事か。
飢えたような金色の瞳を覗き込むその表情は何処か恍惚に似た色を浮かべていて……

「”灰を灰へ”」

同時に広場が真白に染まる。
遠くから見ると聖性魔術と見間違えたかもしれない。
炎というにはあまりにも高い温度のそれは自身をも巻き込んで広場ごと一瞬で焦土へと変えた。

紅月 > 「嗚呼、嗚呼……惜しい…本当に、惜しい」

一面の緑から一転、赤と黒と茶の世界。
そこに立つ影は…きっと、2つ。

「こんなにキモチイイ、炎…いつぶりかしら」

一つは焔を放った少女、一つは…刧火の精を祖母に持つが故、焔を喰った、己。
生じた暴風に揉まれ、焔熱に衣類が熔け、己が力を封じる装飾の類いが力のぶつかり合いに耐えかね砕けようと…頬を紅潮させうっとりと自身を抱き締めながら快楽に堪えるように俯きながら身を震わせる、その裸身に傷はなく。
紅の髪が燃えるように煌めきを纏い、風に揺れるのみ。

「…ダメよ、こんなに凄いの。
みぃんな逝っちゃったじゃない」

まさか2手目から自爆技をかましてくるとは思わず…事前準備として大地に守りをかけておくのを、すっかり失念していた。
これは後で処置を施さねば草の一本も生えやしなさそうだ、命という命が見事に燃やし尽くされてしまっている。
…それなのに。
その表情は哀しむどころか恍惚とした悦びに蕩けて、熱の籠った吐息を溢す。

「嗚呼、もっと…まだ、まだ、足りない」

ここまで平らげられたら…もう、多少どうなっても大差なかろう。
怒られるとかどうでもいい…もっと、もっと。

「【踊れ、踊れ、子供達。
歌え、歌え、火ノ娘達。
嵐と成りて、昊へと還せ…!】」

其れは古の言葉で謌う女を抱くように、ゴウゴウと渦を巻き…やがて黒と白の炎が二人を内包し爆ぜるだろう。

エルディア > 「え」

光が収まると同時に一瞬戸惑ったように目を瞬かせる。
所々着火して髪の先端等が炭化している自分と対照的に
目の前の相手は火傷どころか汗すらかいていない。
炎熱術式は便利な割に攻撃性が高く
こういった場面で多く選択される択である為対策されやすいものではあるが
その練度は並の魔族と比べるのも馬鹿馬鹿しい程高められている。
それを無傷ともなると、理外の性質を持っているとしか考えられない。

「わぁ」

彼女の目にはその理外の存在の周りを舞い踊る精霊と零れでる妖気が光として映っていた。
見惚れるほど美しい光として見えるそれに思わず感嘆の溜息を漏らす。

「……きれい」

そう呟くと同時に己が体に理外の炎が襲い掛かる。
その性質上炎には高い耐性を持つが所詮”耐性”
到底無傷ではいられない。
咄嗟に両腕で体を庇うもその隙間から全身を焼かれていく。
体内を焼かれぬよう呼吸すらままならない。

「――!」

それは初めて啼いた。
その声は悲鳴であり、苦しみを零す声であり

「ぁ――」

待ち望んでいたものを見つけた恍惚の叫びでもあった。
全身を焼く炎の渦の中でソレは艶然と微笑み、美しい笑みを作る。
その目に零れるのは歓喜と愉悦。
……もっとというなら、望みどおりに。
貴方がそれを望むなら、私はソレを叶えてあげよう。

「”清きを禊ぎ、抱擁を慈しみ”」

詠うように、笑う声をあげるようにそれは呪を紡ぐ。
それに応える様に周囲が凍り、土の槍が針山のように幾本も地面から飛び出し
炎に拒まれ幾本も溶け落ちながら相手を縫おうと追いすがる。
その呪の主は理外の炎の残滓に焼かれながらもふわりと中空に浮き上がり、朗々と歌い続ける。

「”曙を寿ぎ 宵に微睡みを。
 全てはこの美しき世界の理”」

光の刃が幾重にも空を奔り、影がその無数の腕を伸ばし触れるものを削り取っていく。
謳うものは古い旧い、森の民の精霊使い出すら忘れたもの。
旧き精霊達を彼らの信じる”流れ”へと還す契約の言葉。
魔なるものとして、終わりを告げる対としての精霊術式。
幾種類もの精霊の乱舞は葬送の舞。
自身とこれから還っていく者達を送る舞を穢れた精霊は踊り続ける。
先程の炎もまたその一種の”副次効果”に過ぎない。
最早紡ぐ者の絶えて久しかったその呪は
還る事の出来なかった精霊を純粋な力そのものへと変えていく。
踊り狂っていた精霊が一人、また一人と笑みを浮かべて消えていく。

「”惑い子よ集え、我ら皆落日の胤
 最期詠う刻はどうか、この腕の内で燃え尽きて”」

精霊と縁があるものなら、眼前の少女が纏う”色”で放つ形質が見えたかもしれない。
それは鬼神を彷彿とさせる美しい紅。土地の穢れとなった精霊を昇華させる極炎の招来。
少女は圧倒的な炎の加護を持つ相手に敢えて炎の術式を選んでいた。
殺す戦いでないのだから、だからこそ、最も相応しい光を送ろうと思う。
これは滅するための呪いではなく、祝福。

『哀しい時間はもう終わり。さぁ、流れ(理)の中でおやすみなさい』

二人を中心に幾重もの立体魔法陣が浮かび上がる。
外ではなく、内側から外部を守る十重二十重の結界魔法。
内部の誰をも逃がさないと同時にその余波で周囲をも滅ぼさないための枷。
そのなかで呟かれた言葉は同じ精霊使いでなければ聞き取れなかっただろう。
貴方ならこの子達を、黒く染まってしまったこの子達の嘆きを

「”陽之法、天崩”」

――アイしてくれるよね。
極上の精霊魔法をその腕に抱えた少女は
眼下の人物に酷く優しい眼で手の中の陽光と囁きを放り投げた。
抗われなければ小型の陽光により一瞬にして地面は沸き立ち、
それに留まらず気化していく程の熱量が解放されるだろう。

紅月 > それは、とても懐かしい"色"。
もう何百年見ていなかったか、と、郷愁に泪が落ちるほどに…父上の家系の者達が持つ其れに、よく似ていて。
何処までも、何処までも…暖かく冥い、亡ノ謌。

きっと、彼女と己は少し似ているのだろう。
その歪さや、宿すモノ…武を交えればよくよくわかる。

「……愛しきひとよ、あなたが千の命を摘むのなら…千と五百の命を、私は育みましょう」

黒い太陽を見上げ、紅い月は笑う。
静かに、密やかに…穏やかな眠りを妨げぬよう。
昇る者に遺された者達が哀しまぬように…大地に残り、共に祷りを捧げよう。

「【愛しきひとよ、どうか、どうか。
御休みなさい、静寂の褥。
今一時は、明日をも忘れ。
いつしか来たりし、芽吹きの為に】」

地面に膝をつき、指を組み…謌を紡ぐ。
先程まで己の周りで笑っていた火精が、足許ですっかり怯えてしまっている。
たまに顔を合わせていた黒き者達が、手を振りながら還って逝く。

見上げる瞳は、翠…見送りながら奏でるは、大地に根付く命の讃歌。
旅立ち、また産まれ来る魂の為に…豊穣ノ謌を捧げよう。

「【廻り、廻れ、永久の環を。
大きな揺り籠、刹那の眠り。
目覚めの春を、若葉の夏を、
実りの秋を、老いたる冬を。
遥かな時を、刻むそなたが。
終わりなき日々を廻れるように】」

ゆっくり、ゆっくりと…焦土と化した筈の大地から、小さな双葉が芽吹き始める。
地下奥深くに残った命が息を吹き返し、少しずつ大地を彩ってゆく。
それら一つ一つは、決して強くはない。
けれども確かに真っ直ぐに、少しずつ太陽を目指し、地を這い種を増やし花を咲かせ…結び付き合いながら育ってゆく。
やがて、それらは謌う女をも飾りながら急速にその速度を上げてゆき…命の環となり奔流となって、陽光すらも糧としようとするだろう。
…紡ぎ手と、共に。
しっかりと土に根を張って…ただ、来るべき明日を迎えるために。

もしも、女が日照りを耐え抜いたならば…少女は異変に気付く筈か。
紅の髪から色彩が抜け落ち、雪のように白く染まって…女から、炎の加護が消え失せている事に。

エルディア > 極点の陽光はゆっくりと落下し、
地上、ヒトの頭ほどの高さで一瞬静止する。
精霊遣いとして次にやるべきことは判っている。
このままこの力を大地に還せばいい。
最早これは戦いの範疇を逸脱しつつある。
還っていく喜びに打ち震え息絶えていく精霊達の声を聴きながら
……それでもその少女の目には別の抑えきれない欲求が渦巻いている。
もっと大きな流れの中で、それでも少女はその行為に執着する。

「……」

この術式は火の次に強い風の精霊の力が弱く抑えてある。
火を煽るのに最も有効なのは風の精霊の力。
風を抑えなければ、威力を抑えられない。
加えて顕現時間が跳ね上がってしまう。
持続時間が長引けば長引くほど……自身にとって不利だ。
それに本気で形成した小型の太陽を至近で顕現させれば
今の力では自分が動けなくなってしまう。

「……せーれーかぁ」

魔性の精霊魔術が強大な威力とは言え、堕ちていない精霊からすれば
穢れてしまった仲間が溜め込んで使えなくなっていた力が解放される事で
より自身を顕現させる力を得るとも言える。
インパクトこそ派手だがこの術式は眼下の相手限定で、最も相性が悪い。

「……あーぁ」

堕ちるだけの力を持った精霊はそれに抗った分、強い。
その膨大な力が理に還るのだから
精霊相手に強力な攻撃であると同時に同等の回復術式にすらなりうる。
力そのものを返還した術式の為多少は痛手かもしれないが
大きな損害を受けて同等に近い回復を受けるだけ。
ダメージの総量で見れば全体と比べれば僅かと言える。
一方自分は少なからぬダメージを追う事になる。
ダメージレースの観点から見ればこの攻撃は確実に自分の首を絞める悪手だ。

「んふ、しっぱい、しちゃった」

けれど吸い込み過ぎた空気が胸を苦しめるように
過ぎた栄養が体調を一時狂わせるように
強大な力の増減は意識に空白を生む。
ましてやこれほどの精霊ともなれば尚の事、
加護に慢心し炎をそのまま取り込めば確実に動きを止めただろう。
命を直接注ぎ込まれるあの感覚は並の精霊体では意識が壊れるほどの快感だ。
自身の体を介して命を大地に還すのだから。
幾ら精霊の子と言え、あれを素で受け止めればただでは済まない。
しかし地上で見上げる紅の華は……膝をつき謳っていた。
彼女は大地と同化し、その流れを正しく還している。
あれでは負担はかなり軽減されてしまう。

「……けど」

例えそうでも競り合いに勝つ見込みがなくなったなら、その寸前で決着をつける。
僅かでも隙が出来ればそれで良い。
そんな僅かな空白を生み出すためだけに、少女は自身をも戦の神の天秤の上へと放り投げる。
上手くいく見込みは限りなく低い。
たとえどれほどの劫火で焼き尽くしたとしても
きっとこの術式が終わった後、地上には緑が溢れているだろう。
それでも

「……おわらないよ」

――どれだけ可能性が低くても、やめる理由になど成りえない。
舞い踊る陽炎の中、最低限の防御をも切り捨て集中する。
内に秘める精霊の声が、自分の本能が、戦えと鬨の声を上げている。
その声が意識を無理やり引き戻す。
術や選択はともかく、戦う事を放棄するかと言えばそれはまた話は別。
最初からやることは変わらない。
定められた枠の中で、出来る事をする。それだけ。

「ねぇ、ぁそぼ?」

無邪気な声と共に黒点はその威光を顕現し、最早炎とは言えない熱と力をまき散らす。
全ての白と黒が反転し塗りつぶされるような閃光の中、生まれているであろうその一瞬に
少女は背中の両腕で巨大な二振りの黒刃を虚空から抜き猛禽のように舞い降りると
剪定鋏のごとく交差するように相手の喉元へと突き出す。
同時に半ば炭化し、けれどその胸元へと突き出した自身の片腕には紫色の光。
精霊に由来しない魔術にて射出寸前の魔晶体が浮かんでいる。
戦いの末の天秤はどちらに傾いているのか――

紅月 > 少女のその判断は、人間界では正に"神の一手"と言っても差し支えない物。
何せ、白光を灯す紅の華…刻々と白に移り変わってゆくその華は、守護と癒しの祈りに命すらも溶け込ませ同化している。
緑を纏ったその身体は大地に縫い付けられ、直ぐに移動しようなどとすれば…きっと、両の足を棄てる事となっただろう。
仮に両足を捨てたとて、それくらいで何百年もの年月を守る事と癒す事に費やしてきたこの女が死ぬる訳でもないのだが…其れをしなかったのは、ひとえに"今産まれたばかりの命が散るのは哀しいから"と。

少女が呟いたように『アイした』が、故に。
黒き刃を携えた幼き死神にすら、見上げて、ただ見据えて…ふわりと笑いかけるのだろう。

ただ、紅月さえも想定していなかった"誤差"…小さな小さな其れが、この散り逝く運命を変えた。

【連レテ、イカナイデ】

眼には見えぬ者達が見える二人にだからこそ届く…第三者の、声。
なけなしの勇気を振り絞った産まれたての命達がその体を精一杯伸ばし、少女の背の腕を、黒刃を、絡め取る。
まるで母を守ろうとする子供のように、蔓草や蕀、蔦に花…おおよそ冬には見られないだろう植物までもが花を咲かせ実を生らせ、色とりどりの結界を作り出す。

…だが、それでも僅かに届かない。
よしんば届いたとしても、その紫の輝きには敵わなかった筈で。

「……、…イージス」

花籠の中で癒しの白光をまとう白き華の、その驚きに満ちた翠眼の先…正に目と鼻の先で女を守ったのは、純白の翼を持つ小さな盾。
本来術者の魔力に依存した召喚魔法である筈の其れが勝手に顕現し、主を守った…通常なら有り得ない事だろう。

盾は、今にも砕け散りそうな程の罅が入っているというのに…まだ、主人を守るように浮いている。

エルディア > 「……やくそく」

刃を突き付けたまま、小さな声で少女が呟く。
その鋏のような黒剣も、触れれば爆ぜたはずの紫の結晶も
命を絡め採る直前でぴたりと止まっていた。

「しなない、ころさない」

まさに死神……狂い猛る精霊のようだった雰囲気は瞬く間に霧散していき
そこに居るのは何処か楽しそうな笑みを浮かべる異形の少女。

「そう、いう、るーる」

その瞳から赤い光がふっと消え去ると
全身から力が抜け、膝から崩れ落ちる。
立っている力を失った体は
額を押し付けるように眼前の”聖女”へと倒れこんだ。
炭化した体や身にまとった煤が乾いた音と共に周囲の草木に降り注ぐ。
赤熱し煙を上げていた巨碗も、禍々しい黒剣も消え失せ、
琥珀と翡翠の瞳がゆっくりと辺りを見渡す。
伏したまま酷く穏やかな視線だけで顔を見上げた後、ゆっくりと口を開き

「わたしの、かち」

その言葉には何処か抗う様な、
そしてその事を楽しんでいるような響きを含んでいて
それを口にした少女は続いて無邪気な声でゆったりと呟く。

「たのしかった―……」

そう呟くと同時にその姿がゆっくりと傾いだ。
至る所が炭化し、半分炭と化している少女は
普通なら意識を失うような有様でも痛みを感じないかのよう。
痛み自体にはもう慣れきってしまっているのだろう。
けれど自身が放った術式は自身にはしっかりと作用していた。
その性質から少女は特定の精霊の加護を受けれない。
そして誰も彼女を守ってはくれない。
壊れていない精霊の力は彼女にとって毒にしかならないから。
壊れた精霊は破壊と暴虐だけを望んでいるから。
そして全てを捨てて、ただ暴風として猛り狂う事が正しい”壊れた精霊”の在り方だから。
壊れた精霊は痛みを感じない。壊れた精霊はわが身を顧みない。
こうして穢れを基に強大な術を放てばその度にこの少女は”正しく”傷ついていく。

【ツレテ イカナイヨ】

体はすでに再生を始め炭化した組織の下に陶磁器のような肌がのぞいていた。
精霊は余程の事が無い限りそう簡単には死なない。
その体は穢れを祓い続ける為に正しく生かされている。
恨みと痛みと穢れを祓うその役を全うし続けるために。
何もかも手遅れになる程徹底的に”壊れ”るまで、死ぬことは許されない。

【コワク ナイヨ】

きっと相対した精霊遣いだけが分かる。
狂戦士として戦い続ける彼女の本質が
己の身を顧みず、ただ破壊を振りまく
堕ちた精霊そのものであるという事に。

生れたばかりの精霊達は
年を経た古霊ですら恐れ戦くモノの化身を見て
それはそれは恐ろしかったことだろう。
精霊にとってはそれは文字通り死よりも恐ろしいモノ。
触れる事すら生命を汚染し、力を貪欲に溜め込みながら周囲を喰らいつくし
喪われた正気のまま、子供のような純粋さで
討ち滅ぼされるまでただ戦い続けるだけの存在。
そんな歪な存在は場合によっては触れるだけでも弱い精霊を食ってしまう。
その形代もまた同じ。精霊の加護というルールから完全に逸脱している。

【ダカラ ナカナイデ】

そんな精霊をいくつも見てきた。
戦場を渡り歩く事も戦に酷使され、
その身に淀みを貯めた精霊をその内に取り込まんがため。
そしてその淀みを最も効率的に吐き出せるのもまた戦場。
そんな負の連鎖が幾度となく続いていく。
自分は致命傷に対する応急処置に過ぎない。
魔族であるこの素体をもってしても最早彼らと自分の境界線すら曖昧だ。
その中で唯一正気を引き留めているのが”遊び”というルール。

【コワレテ シマワナイデ】

殺すだけに堕ちてしまわないように。
壊すだけに堕ちてしまわないように。
その境界線は酷く曖昧で弱弱しく、けれど確かに存在している。
たとえソレが”法則”の穴をつくような、そんな些細なものでも。
故に彼女は”遊び”に酷く執着を持つ。
それが自分に出来るほんの細やかな抵抗と願いの形だから。

「……ぅ」

満身創痍にも拘らず戦場に引き寄せられるように身じろぐ。
例え止めても彼女は戦場を彷徨い続ける。
内に秘める者達が正しい流れに戻れるよう
代わりに自身の中に穢れを取り込んで。

「……きれー、だねぇ」

そんな誰かとは違う、愛されるモノを愛でるように見上げる。
咲き誇る花々に守られ、純白の翼に囲まれた姿はとても綺麗だった。
遠い昔似たような誰かを何処かで見たような気がする。あれは誰だっただろう。
判らない。今はとにかく、少し休もう。
少し休んだら、美味しいものとお風呂を楽しんで……

「また、あそびに、いかなきゃ」

ゆっくりとその瞳を閉じる。
何れ無為にその身を散らすだろう。
壊れた精霊そのものになるか、その前に力尽きるか。
この何処かが決定的に狂った世界では
堕ちる精霊の数が増えこそすれ、零になる事は到底あり得ないのだから。

「……」

けれどそれでも少女は嬉しそうに笑っていた。

紅月 > 「……っ!!
わ、わ…っとと……」

どこか緊張感の足りない声をあげつつ、倒れ込む少女を何とか抱き留める。
何せ今は足が動かない。
故、抱き留めたはいいが…ついでにバランスを崩して尻餅ひとつ。

「待って、待ってよ……お願い、いかないで…!」

今にも存在そのものが崩れ落ちてしまいそうな少女を抱いたまま…愕然と、ただ茫然と、身じろぎすらも出来ずに。
はらり、ほろり…静かに雫は零れ落ちて。

"今の私では、癒せない"
彼女が禍ツに愛されているという事以外にわかったのは、それだけで。

「……嗚呼そうか、この子も…」

ぎゅっと、抱き締める…もう少女の傷は修繕され始め、己が何かをするまでもなく確かに其処に在って。
…癒しという名の呪いが、世界に尽くせとその小さな身体を縛り付けるのが、視える。

「……、…どうか、どうか。
冥き底をゆく少女に…幸い、あれ」

とん、とん…あやすように、優しく優しく背を撫でる。
この世界の神でない己に、加護を分けることは出来ないから…せめて、少しでも安らげるようにと。

「嗚呼、もう…おばかさん。
…ゆっくりおやすみ、愛しい子」

目を合わせ、髪を撫でて…出来る限り優しく語りかける。
きっと、本当に綺麗なのは彼女の方だ。
こんなにも純粋で、無垢で…それなのに。

「勝ち逃げは、許さないんだから。
…また、一緒に遊ぼうね?」

其れが、今の私に出来る数少ない事だろうから。

また一度、抱き締めて居れば…もう充分に育った緑達がゆるゆると離れてゆき、女の身体を、足を、解放する。
少女を抱えたまま、よろけながらも立ち上がり…森の中へ、歩を進めよう。
お風呂と、美味しい物…それらを提供するくらいなら、きっと、私にも出来るはずだから。

ご案内:「タナール砦」からエルディアさんが去りました。
ご案内:「タナール砦」から紅月さんが去りました。
ご案内:「タナール砦」にキニスさんが現れました。
キニス > 王国北方、タナール丘陵地帯に築かれた人類と魔族との戦火に包まれる砦
現在は魔族が支配し、両軍が常に鎬を削り合い、日々大勢の命が失われるこの場所に、その男はいた。
人類と魔族が拮抗する戦いをする中、最前線に立つ。直剣を二振り、それぞれの手にしっかりと握りしめ魔族を相手にする。

「そりゃぁぁぁぁあ!!!」

自分の倍もある魔族相手に引けを取らず、むしろ軽い身のこなしとその気合いで圧倒し、一騎当千の活躍をする。
魔法的な補助は多少はあるものの、王国のトップクラスの騎士や魔族の王に比べれば木の板で体を防いでいるようなもの。
だが、そんな彼がここまでの魔族を圧倒できるのは何年も積み重ねてきた経験があるからであろう。

「はぁっ…はぁ…よし…次だ!」

一通り魔族を一掃すれば、砦内部へと攻め入る。
迫り来る魔族を切り刻みながら、先頭に乗り出して魔族を殲滅する。

キニス > (しかし、不安だな…上手く行き過ぎる)

自分が前線に立ち、魔族を切り刻むのはまだいい。
だがこんなに順調に進むなんて何かがおかしい…
まさか魔王クラスが奥に控えている、なんてことはないだろうか?

そんな不安を持ちつつも、砦内を進行していく。
それともまさか、強い増援でもいるのだろうか?
こんなに順調に進むのなら、誰かが何処かで自分以上に活躍してるのだろう。
王国の騎士様か、強豪の傭兵か、あるいは気まぐれで合流した旅人か…
何にしろ、味方であるなら心強い。是非とも合流したい、などと考えつつ、歩を進める。