2018/12/27 のログ
ご案内:「タナール砦」にシュティレさんが現れました。
シュティレ > この場所に来たのは、私の気まぐれ、と言っていいのでしょう、先日探しても見つからなかったもの。
それを探すために私は、ここに来ていました。特に何かがあるわけでもないのに、かすかな期待を胸に、戻ってきました。

「――――?」

何やら、騒がしいです。
目を向けてみれば誰かがいる―――というレベルではなかったのです。
ヒトが大挙していました、これはまた、面倒くさいな、と私は思いました。
追い払うなりなんなりしないと、探し物ができないということ、だからです。
私は、来た方向――――魔族の国方面の砦の門の中に、足を運んで行きました。

アマーリエ > ――故に、その報せを聞いた時には一瞬判断を迷った。

「……――何ですって?」

それは上空で哨戒に当たる竜騎士、並びに砦の警護の支援に当たる術師たちからの通信魔法経由の“声”だ。
魔族の国側の門を潜る何者かの姿があった、と。
忍び足の使い手か。それとも不意に現れたのかは判断できない。し難い。

「此方側は任せるわ。
 砦の主に連絡。作業を一時中断。石工等の非戦闘員の退出の警護に当たって。お客様の相手は私がするわ」

今回、この場に帯同している先任の竜騎士に指示を遣る。
副長以外で自分に次ぐ指揮権の持ち主である。
俄かにより騒がしくなるこの場より、踵を返して門を潜って中庭の方に出る。
自分の動きを察し、ウトウトしていた風情の白い竜が身を起こして己の後ろに付いてくる。

「――ごきげんよう。どんなご用向きかしら?」

進めば魔族の国側に続く門の向こうより、見えてくるであろう姿に凛とした声を投げかけよう。
左手を真横に伸ばせば、後ろからついてくる竜が鼻先を擦り付けるように寄ってくる。
ぽんと白い鱗を撫でてやれば、口で銜えた白銀の盾をその左手に掴んで引き寄せる。

シュティレ > 騒がしくなってきました。近寄っただけで、ヒト達がわらわらと集まってきます。
私は探し物をしているだけなのに、彼らに興味がないのに―――こういう、群れるヒトというのは面倒くさいこと、この上がありません。
心の中、でため息をそっと吐き出してしまいましょう。
そうこうしていれば、少し雰囲気の違うヒトが立っていました。

「――――。
 探し物をしているのです、龍の娘なのですが、ご存知はありませんか?
 貴女方に捉えられているかも、しれないのです。」

邪魔はしてほしくはないので、語りかけにはちゃんと返答をしましょう。
ヒトというのは侮れるものではありませんし、下手に喧嘩を売れば、いつも大量で襲いかかってくるのです。
個人個人はいいのに、なぜ集まるとこうも知能が減るのでしょうか、わかりません。

アマーリエ > 「……女性には見えるけど、向こうから遣ってくるとなると――ねぇ?」

遠く視認する姿に見た目に分かる人間離れした形質は、直ぐには見えない。見つけ難い。
幾つか気になる様子はあるけれど、わざわざ戦意満々での来訪ではないのだ。
故に血気盛んになる者も居れば、当惑げにする者の様子を垣間見ながら、立場を利して自分が前に出る。
万一の際については最低限の備えを行わせつつ、声と観察の目を遣ろう。

「探し物、というよりは尋ね人という方が正しいのかしら。
 私が知りえている限りで言うなら、この場には居ないわ。虜囚や客人としてもね」

敵対ではなく、何か人を探しているらしい。
知っている?と己の竜に顔を向けて問い掛ければ、知らぬのう、とばかりに白竜は首を振る。
捕虜を慰みにすることがあるのは戦場の倣いであるが、その手の慰み者の中にも居るとは聞いていない。
竜種の類となれば、己の騎竜や何よりも己だってその気配に気づく。

シュティレ > 「――――ヒトのお話は、時に信用ならないものなのです。
 せめて、探している間、退いていてはくれませぬか?」

私は、期待と諦観を込めて問いかけてみることのしました。一応ヒトの姿をしていますし。
それに、敵意を持っているわけではないのです。
ヒトは一部の頭悪いのを除けば、基本的に行くさとかは嫌いなはずです。
つまりはお話すれば通してくれるはずなのです。
だからこそ、問いかけてみるのです。
龍種の白い彼女がこちらに強く警戒をしているのがわかります。
龍種を従える実力というのは、私もいたずらに敵対したくないのです。

アマーリエ > 「あら。ヒトもヒトもでそうだし、ヒトから見れば魔族相手もそうよ。
 探すというのは、王国側に渡りたい――と。そう認識して良いのかしら?」

信を置く、置かないというの種族という概念を超えて難しいものである。
結局のところ、信を置ける行動、振る舞いをその身を以て為すか否かだ。
一旦立てた信の証を蔑ろにするからこそ、其処に不義が生じる。
故に浮かべる表情には苦笑じみた気配が付きまとう。
さて、問題は相手の意図である。肩にかかる金糸を払いながら、思考を巡らせる。

「行きたい、渡りたいというのなら、御免なさいね。そうさせるわけにはいかないわ」

仮に自分が考えたことが是であるならば、阻まなければならない。
其れがこの場に詰めるものの任である。人の国を守るための最前線の一つ。其れがこの砦である。
何より、末端の兵士ではなくそれらを束ねるものの一人として、自身が体現せねばならない。

シュティレ > 「―――ここで見つかるのなら、王国に用はないのだけれど、此処で見つからないのであれば、王国に行くしかないの。
 可愛い妹が、きっと泣いて困っているのよ、そう、思うの。」

話は平行線でしかありえない、見たところ彼女は――――そこの人間たちを従える軍の長。
役割からすれば、私のような、存在を止めて打ち倒すものなのです、信じたくても、喩え、信じたとしても。
私の要望を跳ね除けねばならないのでしょう。……役割というのはそういうものなのですから。
嗚呼、嗚呼。なれば私は、渡りたいのでそれを、しなければならないのでしょう。

彼女と敵対し、押し通る道を選ぶという選択肢。

「――――仕方がありません。それならば。」

私は、力を解放します。普段は私の周囲のみに展開している力。
私の魔力を広げ、この砦全体を―――それを超えて包み込みます。
周囲が赤く染まり、夜空の月も赤く―――紅く――――赫く。
いま、この瞬間から、この砦の周囲は、私の領域となるのです。

通して下されば、使わなくて、振るわなくてよかった、血族を誅伐するための、力。

アマーリエ > 「――……であれば、是非もなし、ね。
 情の類は嫌いじゃないし、整然としたロジックよりも時に麗しく、心を揺らすわ。
 でもね。はい、通って良しと容易く言える立場ではないの。

 ここは通さない。向こうに渡りたいなら――回り道なさい」

魔族の情と聞いて、鼻で嗤うものが居ればそうではないものも居る。
人と同じ感情を持ち合わせているならば、同じかそれ以上に心を動かすだろう。配るだろう。
故に否定はしない。嗤うことはしない。だが、己の責務として為すべきことを為さなければならない。
かける言葉は言外に示す最低限の譲歩。砦を迂回する移動位は心得ている可能性は高い。
でなければ、王国内に潜伏している魔族の走狗等の存在の説明がつかない。

「――……全軍、私に構わず退きなさい。いえ、退けるかしらねこれ」

形の良い唇を歪め、嘆息と共に左腰に佩いた長剣を引き抜く。
冷厳に輝くく白金色の刃を持った剣。魔族、不死者殺しのために鍛えられた古の魔法の武器。
それを右手に握り、左手に盾を掴む。ざ、と前に進みながら口の中で呪を紡ぐ。

「ここに陣を敷く。天に光。地に人。善き営みを護り、害を祓う力よ――在れ」

尖った盾の先端を地に立てつつ、発動させた魔法の結界を生じる領域に重ね、干渉させにかかる。
敵の魔力を減じ、削ぐと共に自分達に防御を重ね、ダメージを祓うための結界術だ。

シュティレ > 「いいえ、いいえ。今は、目の前に貴女がいる、貴女の役割は、私の様な種族をこの先に行かせないこと。
そこには、容赦というものを見せてはいけないのでしょう。故に、お役目を全うなさい。
私を止めることが出来れば、私は引きましょう。」

譲歩に対して、首を横に振り、それを私は聞かなかったことにしましょう、彼女の役割から見れば危険な行為であるのがわかるから。
もともと、異種族の上に敵対をするが存在です、逆の立場であれば私は理解を示しても譲歩は差し出しません。
彼女は優しいのでしょう、それはわかりますが、甘えて迂回路を歩くわけにも行きません。

「――――赫き月よ、世界を構築する闇よ。その腕に、すべてを包み混みなさい。」

引き抜かれる剣は、彼女の持つ盾は、私のような存在を討ち滅ぼすためのものなのでしょう。
その盾から放たれる光を見ながらも、私は、右の手に作り上げて鎖の鞭を構えます。

「一手遅かったです、ね。」

私は言いましょう、どういう意味か、彼女の盾の魔力は確かに発動はします。
しかし。同じ傾向の魔力であれば、先に発動したほうが、効果を強く発揮できるものです。
私の領域の真価は、束縛と減衰、そして、私の強化。
包まれてから発動するのであれば、彼女の盾の魔力は十全に発揮することは難しいでしょう。
私の力を遥かに超えるような、盾の力であれば。

――――もしくは、竜を封じるものであれば、また別の結果もあったやもしれません。

私は、吸血鬼ですが不死者ではありません。

「さあ、お出でなさい、安らかな永久の眠りに付きし者よ。今一度、あなた方を安息から解き放ちましょう。」

そして、呼び出すのはここで死んでいった人々。
以前も呼び出しましたが、ここの精鋭が、そのまま不死者となり、その能力を持って貴女方と対峙するのです。
ただ、こちらはアンデッド、彼女の盾の効果で力が減じています。
中には、蘇りに失敗し、そのまま崩れ落ちていくのもいました。

アマーリエ > 「種が何であれ、疑わしきを阻むのがこの砦の存在意義よ。
 私は此処を差配する者ではないけれど、一軍を束ねる身として責を果たすわ」

仮に魔族の国から来るものが、魔族やその眷属ではなく、人間種そのものであったとしても同じだろう。
侵入を阻むことが何よりも第一義であると。自分はそう捉えている。
ただ、王国領内に踏み入りたいのであれば、それだけで限って言えば自分達も知らぬ経路は幾つかあるだろう。
それを潰し切れないのは、自分達を含む軍の限界か。それとも、怠慢か。今のこの場で断言はできないが。

「遅くとも、別に意味がないワケじゃないわ。
 元より、無策であなたのようなモノと戦うことはしないもの。……ねぇ?トルデリーゼ」

少なくとも、結界術の発動は向こうの術、あるいは異能の発動よりも遅れてとなった。
別段干渉や無効化の一端とならないのであれば、それはそれでいい。
結界術として何より求めるのは、自己の防御強化だ。見えない鎧を更に重ね着しているような感覚である。
この類の手管は、冒険者になる前に叩き込まれたものである。竜に声をかければ、応えるように咆哮が響く。そして――。

「……命じるわ。焼き払え!」

出現するアンデッドの群れを前にすれば、速効性の高い手段がここにある。竜騎士が行使しうる攻撃手段だ。
己が意を受ければ、白い竜が翼を揺らして地を踏みしめつつ、口腔を開く。
速やかに青白い焔が生じ、収束して線状となった火線が顕現するアンデッドの足元を薙ぐべく左から右へと一閃する。
熱量故に、轟と爆炎が吹き上がろう。その中を身にまとった結界術を利して駆け抜け、前に出る。

肉薄すべきは鎖鞭を構える女。
速度のまま、踏み込んで剣を振り下ろせば風が唸る。袈裟懸けに右上から右下へと切り下ろさんと。

シュティレ > 「―――成る程、その盾は。」

面白い偶然とも言えましょう、私が自分で行っているその強化をあの盾が担っていると言えるのでしょう。
ヒトの技術というものは、本当に変態的です、私の様なものと劣化しているとは言え、同じようなことができる魔法の道具があると思えば。
とはいえ、どちらかというと己の強化の方に重点を置いているようにも見えます。
なるほど、と関心をしますがそれだけで。

「さあ、眠りから覚めた者よ。その武威を示しなさい。」

夜の吸血鬼、そして、赫い月。
魔力は溢れんばかりに膨れ上がり、領域は私の魔力がそのまま広がっているものである。
盾の力の所為で、阻害されたとは言え、往年の姿を取り戻していく不死者たち。
間に合ったものは、ブレスを回避し、間に合わなかったものは吹き飛ばされて、そこで立ち上がっていきます。
彼らは、私の魔力を吸っている限り文字通りの不死。
無尽蔵の死兵は、数を増やしつつ、ドラゴンに、兵士に襲いかかりましょう。

私は、将軍との戦いに入ります。
私の姿は―――戦いにはまるで向いていないナイトドレス。
彼女の剣が私に向かってきます。なので、大きく後ろに下がるように、跳躍します。
霧になって透過させる方法も考えられましたが嫌な予感がしました。
なので、距離をとり、鎧を具現化します。
私は軽やかな動きをするために、全身鎧ではなく部分鎧を選択し、身につけました。
腕や胸肩、足太もも、重要な場所を鎧でおおう姿で、警戒します。
怖いのは、将軍とともにいる竜とのコンビネーション、二対一であることを警戒しなければなりませんので。

アマーリエ > 「あ、言っておくわ。この盾自体は貴重だけど、別に何か魔法が施されているワケじゃないのよ」

盾自体は今、手にする剣と同じ出自ではない。現代の名工に最上級の素材で作らせたものである。
扱い易さとイメージのしやすさ故に結界術を発動するための基点として、よく使っている。
今共に戦うものが居れば、その強化をパーティ全体で行い、より生残性を高める。
分かるものであれば気づくだろう。ただの上品なだけの世慣れのない騎士ではなく、冒険者が好む類の手管であると。

「トルデリーゼは上に揚がって、随時ブレスと魔法で支援。私よりも他の面々の援護、支援を重視」

吐息を放った後の竜は翼を揺らし、一打ちで一気に上空に跳び上がる。
如何に無尽蔵を謳う死兵であると言えども、飛び道具の類が無ければより高みに位置できる竜に対抗しえまい。
高きを支配できるが故に、地上がよく見える。
戦場に不慣れな新米兵士や離れした兵士等、この地に配されたばかりの駐留部隊や自軍の支援を行う。
高位の力ある竜の恐ろしい処は、魔法を行使する能力にも長けるという点である。
吐息や風、炎の力の顕現が連続し、不死者そのものを物理的、魔法的に叩き壊す中。

「……――宿れ、浄炎。我が威を為せ」

己の剣を躱し、下がる姿を見遣りながら引き戻す剣を構える。短い術句で振り上げるその刃金に青白い炎が宿る。
ただの火炎ではない。炎熱を基礎とした魔を祓い、昇華する術法に則った破魔の火炎。
剣を左肩に振りかぶるように構えた立ち位置は、向こうからしてみれば遠い位置。
だが、構わぬと相手の右胴に狙いを定めて、時計回りの如く左から右へと振り抜けば、剣が――伸びる。
否、青白い焔が剣刃の延長として伸長し、遠間に居る敵を断ち切ろうと夜影を揺らめかせて進む。

シュティレ > 「あら。では、貴女の……ということね。」

血族相手であれば、何人も戦い屠ってきたのだけれども、純粋な人間相手はまだまだ経験は少ない。
盾をイメージ固めるための道具として使い、そこに魔力を流して発動させたのであろう。
魔法の縦と勘違いしたのは、流した魔力を見ていたから、か。

「――――。
 弓兵、魔法兵、空の竜を攻撃なさい。」

空に舞い上がる竜に、頭を抑えられたと考える。
自分が空をまえば、ブレスと魔法で攻撃されるのだろう。
だから指示を出す、ここで死んだのは、剣士ばかりではないのを、彼女は失念していないだろうか。
生前の弓を、魔法を、空を飛ぶ竜に目掛けて放つ彼ら。
それに、死んだのは人間だけではない、死んだ魔族も復活するのだ。
今までの戦の爪痕が全てそのまま、帰ってくるようなものなのだ。
ここで死んだ人数が、倒した人数が多ければ多いほど、それが還ってくる。
ここで、生きて戦ってきた戦闘力そのままに。

「太陽の光には、まだ、遠い様ですね。」

私は、彼女の剣の炎に、慌てることなく鞭を合わせます、ムチはヒトが振るっても音速を超える武器です。
彼女の軒の速度に後から追いつき、そして、打ち消しましょう。
私の鞭は大いなる闇の力と、彼女の浄化の力と、両方を持っているが故の事。
そして。視線を巡らせます。

「お出でなさい、倒れ無念を持つ者、たちよ。」

私は思いました、私が戦うよりも、ここに居る死者をけしかけたほうがいいのだ、と。
さらに魔力をつぎ込み、不死者を立ち上がらせましょう。
その数が何処まで行くかはわかりません。
なぜなら、私は気が付いたと同時に引いたからです。
私を追うことはできないでしょう、何千を超える、過去を駆逐しなければならないのですから。

彼女らがどうなったのかは、生きていればわかるでしょう――――

ご案内:「タナール砦」からシュティレさんが去りました。
アマーリエ > そうよ、とまでは言うまい。無言こそが肯定の証である。
無くても実際のところ使えるが、盾はあれば何かと使い勝手が良いのだ。
ただ防御に使うだけが盾ではない。殴打や炎熱魔法を刃として盾の縁に乗せ、敵を灼き斬るのも手管の一つ。

『――こ奴ら、手持ちの武器持参とはのぅ。用意が良いではないか!』

上空に舞い上がったにもかかわらず、矢や魔法を射かけられる白い竜がぼやく。
何の魔法的な対策がされていない矢玉の類については、“矢落とし”の魔法で無効化できる。
下手な魔法の類も鱗で防ぐことは出来るが、連続すれば鬱陶しげに吼えて今度は拡散させた炎を吹きかけて灰燼と帰す。
相手が人や魔族のなれの果てであっても、関係はない。
そんな竜の支援を受けつつ、竜の徽章を付けた兵や騎士達が思い思いの武器、魔法で対抗する。

「太陽と同じものがお望みかしら? なら……嫌になる位にふるまってあげるわよ、っ、鬱陶しいわねこれ!?」

声は静かに。しかし剣には熱く、刃には炎を載せる。
昇華術法の生む浄化の炎に剣自体に宿った不死者に属する対象に、さらなる痛打を与える作用の合わせ業だ。
その一撃に向こうの鞭が追い付き、打ち消す。
どういう武器かと柳眉を顰めれば、続々とそれこそ津波を為すように生じる不死者の追加に声を上げる。
退いて行く姿を遠く見詰めることはできるも、それに追いつくことは叶わない。

数は力である。自身の持つチカラにも伍しよう総量を捌くとなれば、自軍を率いてもさらに時間がかかる。
不死者の駆逐という今後、何度も直面しよう場面の教訓を総軍で得つつ、文字通りに朝を迎えるまで戦いは続く――。

ご案内:「タナール砦」からアマーリエさんが去りました。
ご案内:「タナール砦」に紅月さんが現れました。
紅月 > ーーーかつ、かつ、かつ…

久方ぶりに訪ねた職場は、何だか凄く荒れていた。
砦は所々崩れているし、大地からは死霊術でも展開したのか汚泥の臭気…だけでなく、霊魂すら漂っている始末。

「……、…怪我治ったから挨拶にきた、だけ、だったんだけどなぁ…?」

思わず引き笑い、後、ガックリと肩を落とす。
休日手当て、出るかなぁ…?
後で申請するだけしてみようと心に決めて…医療班は必ず詰めている筈だから、とりあえずは砦の浄化作業にあたる。
魂鎮めと、地鎮…聖歌部隊や僧兵部隊があるならそちらに任せる事も出来ようが、其れも難しいだろう。
朝まで交戦していたとなれば、仮に在ったとしても激しく消耗しているはずだから。

紅月 > 魔族領側の防壁…こちら側にはやはり、穢れが残っているようだ。
普通の人間が目視出来るかはわからぬが、少なくとも己には彼方此方に黒い靄が見えていた。
…さもありなん、常に取って取られての蠱毒のような場所なのだから、さぞ怨み辛みは残りやすかろう。

亜空間に手を入れ取り出したのは、竪琴。
弦の無い真珠色の枠に魔力を流せば光の糸がピンと張る…魔力に反応する其れは"魔楽器"などとも呼ばれ、友人であるセレネルの人魚から貰ったもの。
適当な瓦礫に腰掛ければ、ぽろりと爪弾き謌を詠う。
古い古い、異郷の言葉…けれど何処か懐かしく響く、穏やかな旋律で。

少しずつ、少しずつ…淀みが洗い流されてゆけば。
この歌う女を中心に空気が穏やかな物へと変わっていくのだから、少なくともただのサボりなどと見咎められて叱られることは無いだろう。
…相手が無知でなければの話、ではあるが。

紅月 > ざっくりと供養を終えれば、次は頑固な穢れの浄化。
身内に属性精霊のいる己からすれば、炎術地術は朝飯前…清めの炎で残滓を焼き払ってゆく。
途中見付けた戦没者の御焚き上げの炎にも手を合わせついでに聖属性を付与し、今後の為にキッチリと成仏して頂く。

ふわり、と、真冬の風が遺灰を蒼穹へと運んでいく。
…これで少なくとも、この一山に積まれた彼らが黄泉の眠りから叩き起こされる事は無い筈だ。

黒い帽子を片手で押さえ、もう片手をコートのポケットに突っ込んで…雲一つ無い空を仰いだ。
「…おやすみ」
小さく呟いた声は、彼らに届いただろうか…どうか次の生は穏やかに、と、祈らずにはいられなかった。

紅月 > 骸の焼ける匂いを背に、砦へと歩き始める。
何やらぼんやりと悩む素振りで独り言つ事といえば、やはり次の作業の事。

「……後、出来る事っつったら…大きな瓦礫の撤去に、足の回復か?」

入口近くに突っ立って、首を傾げる。
以前、戦後に飛竜の治療をしたら、その時詰めてた師団長に喜ばれた記憶がある…曰く『撤退がスムーズに行えて助かった』と。
一ヶ月ぶりの出勤だし、何より己はポッと出の臨時治癒術師であるし…とりあえず、イマイチ仔細のわからない内部よりも厩や竜舎で確実なサポートに努めた方が良いのでは?
いやいやしかし、純粋な防衛力の回復も急務には変わり無いし…うぅむ。

「…上に指示を仰ぐかねぇ?
なぁんかまたブチブチ言われそうだなぁ…」

実は客将である、という事を吹聴しないのは己自身の希望であるとはいえ…ただの冒険者だの女だから云々だのと軽んじられる事が少なくない故、正直あまり気乗りしない。

紅月 > 「先方が砦の常連か、"変わり者の癒師の噂"を知ってるヒトならいいんだけど」

ひとつ、溜め息を吐くと…眉尻を下げて緩く苦笑しつつ、砦の上層階へと上っていった。

ご案内:「タナール砦」から紅月さんが去りました。