2018/07/22 のログ
ご案内:「タナール砦」にアザリーさんが現れました。
アザリー > 人間世界でお土産を沢山購入してきたら、なんだか魔族が沢山いて砦を占拠してるという状況。結界の境界線とも言える城門へと足を進めると――ただの一般人に見えるのだろう。
城壁からは下卑た魔族の揶揄するような声が降り注いできていた。

「えぇ~と~ちょっと砦の中に~入りたいのですが~。
この扉を~開けてはもらえませんか~?」

結界の内側では能力に制限も掛かる上に、どこから誰が見ているのかもわからない。いや、無防備な女性が買い物袋を大量に手に抱え、まるで家に帰宅してきたみたいに砦の門を掌でのんびり叩く。
そんな光景は異様でしかないのだが。
どうも魔族が占拠して以来、暫くここはその魔族の統治下に有った様子。閉じられた瞳は見えていない筈なのに――城壁から嘲り、そしてせせら笑う魔族達の姿を捉えると――
にっこりと。柔らかな微笑みとともに手を振ってみせる。

「大丈夫ですよ~お姉さんは~酷い事しませんから~。」

その声が終わるか終わらないか。その内に扉が無造作に開かれた。
どう見ても普通の人間であり、ちょっと頭のおかしな人間がきた、位にしか思われなかったのだろうか。
扉を潜り抜けると、肌に巻きついていたかのような恩寵の束縛が薄れていくのが判る。
複数の、無数の思考回路が自らの思考と結合され、自らの視野が広がり、知覚出来る範囲もまた広がりを見せていく。

それでも、まだ全盛期の8割程度と言う所か。1番と2番の思考回路は最古の回路にして最大出力の一端を担う存在でもある。
それが無いのであれば――。と。扉を潜り抜けると、背後で重々しい音。どうやら扉が閉められたらしい。

アザリー > あまり統率は取れてない魔族軍。数は多いが指揮官は――あぁ、居ないのか。地下牢に複数の人間の反応と魔族の反応。
まぁ何をしているかは言わずと知れる。無数の買い物袋を足元に。がさり、という音と戦場には似つかわしくないバニラエッセンスの甘い香りや、カラメルを焦がした香りと言ったものが自分の鼻腔を楽しませてくれる。

「う~ん。一応確認ですけど~。お姉さん、魔賊さんなんですけど~。国に帰りたいな~って~。」

言っても無駄だと次元会議では結論が出されている。それでも、警告はしておくべきだろう。
警告が警告になってない上に、自分が魔族など誰が信じるものか。
指揮官が居るなら、その指揮官に話をした上で安全に通してもらえないかと期待したが――居ないのであれば仕方が無い。
困った様に眉根を寄せながら、目尻は垂れ下がる。
瞳は開かれないが、そこには面倒というより愛すべき存在に暴力を揮わねばならない苦悩や葛藤があった。
多分。
きっと。
めいびー。
それらを打ち砕いたのが、自分の足元につきたてられた1本の矢と、槍。
そして無粋な蜥蜴の亜魔族の一種の掌が、自らの脹らみに触れた瞬間だった。

「触るな下郎。」

見開いた瞳には。
7つの色ではなく。純粋な殺意の黒が蟠り。その周囲を苛烈な金色が渦巻く2輪の嵐。
折角のワンピースが汚された事。
自らの体にいくら愛すべき存在とはいえ遠慮も警戒も躊躇も無しに触れてくる。
柔らかく、その無作法な手に反応するように形を変えながらも、内側からしっかりとした弾力を返す。
その刹那、亜魔族の体自体が発光した。
乳房の質感を最期に感じ取り、亜魔族は黒い塵だけを残し文字通りの消滅を見せていた。

ぽとり、と。手首が炭化し、掌の一部分だけが未練がましく蠢くその様子。砦の上空から一筋の熱線が降り注ぎそれすらも灰と化す。

ご案内:「タナール砦」にエズラさんが現れました。
アザリー > しん、と水を打った様に砦の内部が静けさに包まれる。
音も無く消滅した存在を目に、何が起きたか理解が及ばない兵士は当然。
兵士を率いる立場の人間でさえ理解が及ばなければ立ち尽くす。

「2度はいいませんよ~。お姉さんは~魔族さんなので~国に帰りたいだけなんです~。」

がさり、と。紙袋をもう一度抱え直して1歩前へ。
最初は興味半分で取り囲み、暇つぶしの相手や人間種族への恨みを晴らす格好の機会だ、等と軽い気分で集まった魔族は、自分の1歩よりも大きな距離を下がる。
種明かしは単純で、魔族の体内中心部に核熱を発生させ。そしてそこから一定の距離だけ、その熱が外に逃げないように熱を分解。
最期の空からの光は蛇足では有るが、自分の手落ちで残してしまった痕跡を抹消する為の手ではあった。

――次に邪魔をすればあの灰になるのが誰なのかは言うまでも無い話。
魔族が魔族の国に帰りたいと言っているなら、彼らもわざわざ命を捨ててまで止める義理も無い。
扉まで最短距離で魔族の列が割れて道を作っていた。
この辺、よく訓練はされているのだろうかと錯覚を起こしそう。

エズラ > 魔族が一匹消し炭にされる――その一部始終を物見櫓の上から観察していた男が、思わず口笛を吹いた。
度重なる攻撃に耐えかねて人間側が一旦この砦を放棄してからしばらく――間諜として潜り込んだ。
人間型の魔族の中、常に仮面で顔を隠す習慣のある魔族に扮して顔を隠しつつ、数日ほど砦の内部を調査していたところであった。
大体の構成勢力やその規模、練度等――概ね知りたい情報は得られたので、そろそろ人間側の勢力圏内へ脱出せねばと考えていたのだが――

「こりゃ、ものすげぇ大物が現れやがったな」

触れた相手を苦もなく消し去るその術式、ここへ入ってくるまでと、今の――のほほんとした姿からは想像もできない使い手である。
遠目で見てもその身に纏う異様な気配から、彼女がそこらの魔族とは格が違うことを如実に示していた。
しかしそれよりも何よりも――

「すげぇ美人じゃねぇか――!」

物見櫓から颯爽と躍り出ると、怯えて道を空ける雑兵を掻き分けて、女の前に――芝居がかった様子で跪き。

「先ほどは木っ端どもが失礼を。詫びにもなりはしないでしょうが、門までご案内させて頂けますか――?」

周囲の魔族連中が、あいつは誰だ、ああ確かあの部族の――などとコソコソ話していたが、男はしっかりと仮面の奥から虹色の瞳を見つめていた。

アザリー > 「ふんふんふ~ん。あのっ子に~おっみっやげっ~」

適当な鼻歌を歌っていると上空と周辺視点からの注意喚起。
気骨のある魔族の兵士さんか、それとも指揮官の代理さんでしょうか~等、色々考えを巡らせているとどうもどれも違った様子。
魔族――としてはやや奇妙に思う点は幾つかある。けれど、跪く相手には慌てた様に、もう一度紙袋を足元に置き、相手をなんとか立たせようと。
跪かれるのは慣れてないのと、魔王扱いされるのが嫌いなのが大きいのだが――。

「こちらの指揮官さんでしょうか~。いえいえ~どうかそんな気になさらずに~。彼には悪い事もしましたし~。」

周囲からの声が聞こえてくる。指揮官では無さそう。
それと――仮面の奥の瞳に敵意も害意も。何より憎悪の色も無い。
魔族としては少々珍しくもあった。目を開いたままだったが、再度瞳は閉じられる。それと共に周囲に。上空に何時でも熱線を照射可能な空間の捩れは閉じられていく。

「う~ん、わかりました~わかりましたので~どうかお膝を~。
立っていただかないとお姉さんが困ります~。」

たって、たって、と。相手の方が巨体ではあるが、なんとか立って貰おうと自分の細い腕で、彼を立たせようと――。
見つめられる瞳から、体格から、何より体から立ち上る瘴気の度合いから――疑惑は有れど脅威危険は判定が低いと出ていた。
折角なので案内を受けようと、受けないと相手が立ち上がってくれ無そうという予想もあったけれど。

エズラ > 近くで見ると、はっきりと分かる――文字通り人間離れした造形美。
かつて魔族も含めた混成部隊に属していた折、異種族の異性には何人も目にしたが――目の前のこれはそういうものとは次元が異なっている。
部隊のほとんどが重傷を負いつつもかろうじて仕留めた魔族軍の長や、数ヶ月がかりでようやく息の根を止めた、数千の人間を食い殺したという魔獣――そういう類いのものである。
促されるままに立ち上がれば、目線だけはこちらが上になり。

「いえいえ、指揮官などでは――まぁ、見張りのようなもんで。貴女がここへ入ってきた時から見ていましたよ」

下手に取り繕うことが逆効果であることを理解している男は、むしろ笑みすら浮かべながらそう告げて。
聞く者が聞けば、男が実質ほとんど嘘を言っていないことが看破できるであろう。

「さーさ、門はあっち――お荷物は私がお持ちしましょうかね」

魔族の勢力圏への扉を指し示し、自分は置かれた紙袋を抱え込もうとする。
制止がなければ、そのまま彼女の後に続き、扉まで歩いて行くつもりである――
そう、このまま上手くいけば、砦の向こう――滅多にお目にかかることのない魔族の世界を、しばし垣間見ることができよう。
砦を再攻略するために、有益な情報も同時に手に入ればさらに良い――
しかし、それよりも今は、この得体の知れない魅力を放つ魔族の女に興味津々であった。

アザリー > 「そこまでしていただくのも~申し訳ないのですが~。」

荷物の中は人間社会の甘い焼き菓子が多数を占めている。
手荷物としては重さこそないが嵩張るのと、甘い甘い香りがその仮面の隙間から入り込んでいく。魔族にはかぎなれないだろうが、人間には親しみ深い香り。
目線が上になる相手だが、所作の一つ一つが手馴れている。
もっと踏み込んで言おう。『ここの兵の中では抜けて錬度の高い訓練を受けている臭いがする』というのが彼に抱く第一印象ではあった。
その彼が見張りと言うのは解せないが。

「うふふ~なんだかエスコートされているような気分になりますね~。魔族さんは~どこかの貴族の出なのでしょうか~?」

名前がわからない為に魔族さん、で一括りにしてしまっている。
それでも相手には悪い気はしないらしく、素直に荷物を持ってもらい門の付近までのんびりと歩いていた。
歩く度にワンピースを持ち上げているような二つのふくらみは緩やかに揺れ、そして黒い髪の毛は僅かな風にも反応するようにふわり、ふわりと舞い散るように流れていく。
麦藁帽子を片手で押さえながら、見上げる格好になる相手の隣に並び立ち――門の近くに近付くにつれて、その瘴気は濃い物になっていく。
普通の人間なら体調を崩すというよりも精神に変調をきたす位には。

「そろそろ~門まで到着しますが~大丈夫ですか~?」

そう、のんびりとした問いかけ。人間だと看破した訳ではない。
ただの、相手のホームシックを気にするような声だった。
瘴気に触れた魔族がたまにホームシックにかかるのは、たまにあるらしい

エズラ > 「ムハハ!オレが貴族!とんでもない――どこにでも転がっているごろつきですよ」

すたすたと軽快に――しかし、しっかり彼女と歩調を合わせて魔族の手に落ちた砦を闊歩する。
今日までは何かとコソコソ動き回っていたが、ある意味、今いる場所はこの砦の中でもっとも安全な場所かもしれない。
そうしているうちに、濃く漂い始める瘴気――訓練していない者が浴びれば肉体や精神を病むことも多々あるが――

「ええ!なんせお荷物はお菓子のようですから、軽いもんです!」

彼女の「大丈夫」を、一瞬荷物のことと聞き違ってしまうくらいには、男はぴんぴんしていた。
傭兵として長くこの砦に詰めていた経験も勿論その原因の一端を担ってはいるのだろうが――一番は。
魔族、異種族、あらゆる異性と節操なく肌を重ねた経験が、知らず、男の肉体を微妙に変質させていた。
自身は精力が絶倫になった、という程度の認識しかないのであったが――
先ほどの凄惨な殺戮劇を見ていたのか、普段は閉ざされて開かれることの決してない、魔族の勢力圏への巨大な扉が開かれていく。

「さっ、参りましょう――なんでしたら、道中の護衛も仰せつかりますよ」

無論、彼女にそんなものは不要であろうが――

アザリー > 「あらあら~ごろつきさんですか~。でも~さっきの子より~すごく優しそうな良いお兄さんって感じがしますね~。」

それは本音。ごろつきというより、どこか気の良い兄貴分と言う気配がする。
軽い足取りで歩む彼の動きは上手く魔族として砦の内部に溶け込むには十分な瘴気への耐性を持っている様に見える。
ただ、まぁ……貴族でもない魔族のごろつきさんが、なんでお土産の甘い香りをお菓子と即座に判断出来たかは、言わないで置こうとお姉さんは心に決めた。

「そうですね~。道中の護衛も物凄く魅力ある提案ですが~。」

頬を自分の掌にあてて微笑む。但し、先ほどの乱暴狼藉を働いた魔族へ向けたような困った表情ではない。
彼には好意的とも取れる笑顔と共に――頬に当てていた掌を軽く握り、人差し指1本だけを立てる。
そのまま人差し指を自分の口元に運ぶと、片方の瞳――先程の嵐の様な色合いとは異なり、艶やかな桃色に温和な若草色。理性的な水色といった好意を示す色合いの輪が重なり合う、不出来な虹色を浮かべる瞳が片方だけ見える事だろう。

「お兄さんには~やらなくてはならないことがあるのでしょ~?
ここまで~荷物持ちをしてくれた御礼です~。」

唇にはグロスは引いていない。それでも僅かに色づく唇から古代語が紡がれると、人差し指がほんのり光る。
そのまま、彼が逃げないなら――ちょん、と。自分の人差し指の先。爪は手入れされているので、柔らかな皮膚と肉の部分で彼の仮面の上から。
唇があろうかという場所に、自らの人差し指を宛がおうとした。

「それに~お姉さんと一緒だと~たまに命知らずな魔族さんとか~魔王さんが喧嘩を売りに来るので~。ここから出ないほうが~安全だと思います~」

人差し指に込められた効果は、彼が逃げなければ明らかにされるか。

エズラ > 仮面の奥から、目まぐるしく変わる虹彩が見える。
ほのかな暖かさすら感じさせる一方で、深淵に引きずり込まれるような不気味さも兼ね備えているそれを、男がじっと――熱烈さすら感じさせる目で見つめる。
こういうものが、男は好きであった。
一目で人とは異なることを分からせるが――それでいて、興味を持たずにはいられない。

「礼なんてもったいない――まぁ、勿論もらっておきますが」

やらなければならないこと――
魔族の国、特に砦周辺の状況は、探っておきたいところではあった。
どれくらいの勢力が待機しているのか、それとも砦の外は手薄なのか――
とはいえ、それは今回のような偶発遭遇目標でもあり。
彼女の言うとおり、砦の内部情報を人間側へと届けるのが、今の自分の仕事であった。

「ははは!そりゃあ恐ろしい!魔王様とは……――ムオ」

口元が開いた仮面を選ぶのだった、と少し後悔――
唇のある場所へと、彼女の指先が触れた。

アザリー > 「うふふ~そうそう~人のお礼を~素直に受け取ってくれる子はお姉さん、大好きですよ~」

瞳の色合いを真正面から。熱烈に見据えて来る相手は異性ならば何時以来か。瞳の虹は不定期に形を変えるが色彩は常に一定している。
彼の熱烈さは、久しく躍らせる事の無かった心の片隅を動かすには十分だった。異性であれば動かされる熱意の類を彼は持ち得ている。

ちょん、と人差し指が仮面に触れる。彼が人間である――筈なのに視野が莫大な広がりを見せる。上空からの俯瞰視点から、砦の周囲数キロ以上先までの情報。
そして援軍として目に見える待機勢力は数が少ない事――等。それらが目に付くか。
それらが『見える』だけではなく、記憶に『焼き付けられる』
その気になればワンピースを真下から見る事も出来るだろうが、そこだけは乙女の秘密としてブラックアウトされる画像しか届けられないだろうが。
欲しい情報が、それと侵入に向いた出入り口の情報等が、紙を必要とせず彼の視界に、記憶に結合されていく。

「人間の世界には~時々遊びにいきますので~。お兄さんとも縁があれば~またあえるでしょうね~。あ、でも~お姉さんとしては~お兄さんとはまたお会いしたいですね~?お名前がわからないのが残念ですが~。」

エズラ > 「おおっ……――」

脳髄に何かが干渉してくる違和感――それは一瞬のこと。
目の前の虹色を見つめながらも、それとは異なる視界が脳内に開け、まるで天頂より世を見下ろしているような浮遊感。
こういう魔術を使う仲間が斥候部隊にかつていたが――実際に体験するとこういうものなのか。
広大かつ頑強な砦の見取り図を眺めているような感覚と共に、敵勢力の配置までも――

「……こりゃ、たまげたぜ」

知らず、口調が普段のものに変わっていた――口元には自然と笑みが。
人間の世界に遊びに行く――彼女の言は、自分が何者であるのか看破している風である。
男は荷物を返すために距離を詰め――間近に寄って、相手にだけ見えるように仮面を少し上にずらし――

「エズラ、だ――ま、分かっちゃいたが――オレの正体はすっかりお見通し、ってことか」

初めて素顔で、彼女を見た。
仮面越しよりも数段整った――それでいて、決して作り物めいた冷たさを感じさせないその顔、目を、眼に焼き付けて。

「オレもまた是非会いたいね――そっちの名前も、よけりゃ教えてもらえるかい」

魔族を苦もなく消し炭にする、敵性存在――およそ男の目にそんな感情は皆無であった。
そこに映るのは――とてつもない魔族の美人、という、何とも俗なものであった。

アザリー > 「エズラさん、ですね~。ふふ、お姉さんは~情熱的な人は好きですよ~。
すっかり、ではないですけどね~。ん~お仲間さんの匂いがそこまでしなかったのと~身動きと~言動と~お菓子を知っていた事と~。」

幾つか幾つか。違和感も小さいものを積み重ねていくと魔族じゃないなら何か、と言うのが思考から派生していくだけの事。
ただ、仮に外していたとしてもそこまで大事にはならないし、彼が好ましい類の性格だからこそ、もし人間なら潜り込んだ目的と思える物を見える、かつ識る事が出来る様にしただけのこと。
これを本陣に伝える手助けはしないが――この人物ならきっと上手くやれるだろうと。

「はい~私は~アザリーといいます~。お近づきの~しるしに~。」

仮面をずらし、素顔を見せる――上にずらしたなら、そこから彼の唇が見えている。
男女逆の積極性ではあるが――悪戯めいた子供の笑顔を浮かべながら、背伸びを少し。
首と背筋を伸ばすようにして、紙袋を受け取る傍ら――その俗な思考が好ましいというように。
触れるだけの口付けは淡く、一瞬の事。気儘に生きる猫の様に、しなやかに身を翻すと黒髪は波打つ様に彼の眼前で頭の動きを追いかける様に翻り、黒いカーテンの様に視界を塞ぐだろう。

「あ~それと~お姉さんの正体とかは~黙っていてくれると嬉しいですね~。人間さんの世界のお菓子も美味しいですし~。エズラさんの様な人もいるなら~。自由に遊びにも行きたいですから~。」

扉を潜り抜ける自分の姿。砦の向こう側に陣取る魔族からの視線を遮るような立ち居地で立ち止まるのは、彼に仮面を早くもどすように、と暗に告げるようでもあった。

エズラ > 「アザリーね、覚えと――ンム」

予想外の不意打ちである。
幾多の戦場で命の奪い合いを幾百幾千と繰り返してきたはずなのに――
触れるばかりの――まるで小鳥が餌をついばむ程度の感触。
あとは身を翻し、去りゆくその姿をしばし呆気にとられて眺めていたが――慌てて仮面を正位置に戻し。

「……こんな「お近づきのしるし」をもらっちゃ、仰せに従うしかねぇ、ってもんだぜ――今度は是非、こんな剣呑な場所以外で会いたいもんだ――」

どうやら通すのは彼女だけであるらしく、扉は徐々に閉まっていく。
砦内の魔族にとっては、彼女をさっさと追い出してしまいたいという思惑もあるのであろう――

「――それじゃ、また会う日まで」

最後に恭しい一礼――これまた芝居がかった「貴族風」の――を。
扉が閉まってしまうまで、彼女の優雅な立ち居振る舞いを眺め続け――それが見えなくなったなら、さっさと踵を返して砦内へ戻る。
彼女のおかげで、完璧な脱出ルートがすでに脳内に構築されているのである――
程なく、人間側の攻勢が開始されたが、それが近年まれに見る統率された攻城戦となったのは――また別の話である。

ご案内:「タナール砦」からエズラさんが去りました。
ご案内:「タナール砦」からアザリーさんが去りました。