2018/06/05 のログ
ラボラス > (戦況とは、刻々と変化して行く物。
其れが敵対勢力との衝突地点で在るならば、何時、何が起こっても不思議ではない
――けれど、人間達にとって其れは、そんな緊張感を差し引いても唐突な出来事だったろう

小康状態を保って居た筈の砦目前へ、突然姿を現した魔族の軍団。
最早迎撃態勢を取るにも遅い接近具合に、警告を知らせる鐘が四方からけたたましく鳴り響くだろう
喧噪に包まれた会議場へと、伝令の兵士が一人駆け込んで来るまでには、僅かに時間が掛かる
護衛である娘の姿を無視する形で、緊急であると叫びながら扉を開けようとするのと、きっと同時。

――悪鬼達の勇猛なる咆哮が、砦の外より押し寄せてくる、か。)

―――――……ふん、如何やら人間側も人材が不足して居る様だ。
やれ、敵が防御陣形を整える前に戦線を圧倒しろ、速やかに扉付近を制圧だ。

(――この砦攻めで、さて、何度目だろうか。
一向に、この奇襲に対する具体的な対策を打ち出せて居ない人間側の勢力に
少しばかり期待外れだと、双眸を細めては、行進する悪鬼達に向けて指令を下した。
砦が、一気に戦場と化して行く。 死の気配が、壁の向こうにまで迫りくる
そんな折になって、果たして今回、人間側の指揮官達は如何なる判断を下すだろうか。
即時撤退するのか、其れとも徹底抗戦をするのか。 何れにせよ、此方がすべき事は変わらないが

――その最初の判断と指示によって、死に行く兵の命、其の数が変わる事だろう)。

ネーヴェ > (唐突だった。
否、生命の遣り取りは得てして、唐突且つ理不尽だ。

何時の間に、と。そんな台詞を吐いた者は――恐らく、ほとんど居ない。
出現と同意、瞬く間に、防衛ラインを越え門にまで接する魔の軍勢に対し。
驚きの台詞など吐く暇が有れば、直ぐに武器を取り立ち上がる者。
そういう者ばかりしか、今日この日の砦に於いては、生き残っていないのだ。
唯一例外が有るとすれば、それは。
この不運と言っても良いタイミングで前線に派遣されてしまい、
剰え、その場での人心掌握に失敗した、王都からの将くらいだろう。
己の脇をすり抜けた兵が、会議室で何を告げているのか。
聞くまでもなく理解して、娘も、前へと駆けている。
外へ。門へ。
指揮官を護るべき護衛として、失格だと。笑わば笑え。)

――どう、なったって。教え―― …っ、っ…!?

(屋外に出た、途端。己の声は掻き消された。
囂々と響いた鬨の声は、敵か、味方か――双方か。

少なくとも。今、最も早く判断を下したのは。
中に居る将達よりも、下層や門の周囲に居た兵達だ。
伝令が走るその合間にも、真っ直ぐ、門へと向けて――突破を測るというのなら、先ず其処に集中する敵へ。
盾が並ぶ。槍が連なる。矢が放たれる。

とはいえ。跳ね橋を上げる、門を閉ざす、は間に合うまい。
一つの決断が下される、それより前に。
もう、激突が始まっていた。)

ラボラス > (――戦いとは、得てして理不尽な物だ。
だが、未熟な者から死んで行くこの戦場に於いて
如何やら最も勇敢で、最も覚悟在る判断を下せたのは
指揮官でも戦術家でも無く、最前線で剣を携える兵達の方だった様だ。

――防衛ラインを既に踏み越えた以上、奇襲としては間違い無く成功であろう
だが、其処から先防衛側の対処は速やかであった。
迫り来る数多の投擲物、槍、矢、少数ながら攻撃魔法も存在するだろうか
最終防衛ラインとなる城門を背にして、人間達が築き上げた兵達の壁によって
悪鬼達の進軍が止まる事は無いにせよ、其の侵攻は、思ったよりも押し留められる事と為った。)

――――……ほう、底力を見せるか。 …良いぞ、でなければ面白みがない。
圧力を掛けろ、決して下がるな。 橋の上までは一気に押し込み上げさせるな。
後方の余剰人員は砦の周囲に展開し、投擲で敵の弓兵を叩き落とせ。

(ほんの僅かに見せたのは、感心、に近いモノ。
けれどそれも僅かな間だけ、すぐさま次の指示を連ねれば
後方の投擲舞台から、石や弓矢と言った遠距離攻撃が
砦上部で抗戦する弓兵や槍兵へと向けて放たれるだろう。
戦場に兵が広がり、時間を掛ければそれだけ、砦が包囲される形となる
ただ、どんなに兵が一時的に侵攻を食い止めていたとて、既に其れは時間稼ぎでしか無く

――そんな中で、悪鬼達が戦場に散ったが故に
時折、其の群れの中へちらり、ちらりと、周囲の魔族とは異なる
黒き鎧姿が、兵達の中にも、時折視認出来る様に為るだろう。
この戦場と言う場に措いても一際異質な其の姿が――将の姿であると
少なくとも、そう確信めいて想起した者は、少なくは無い筈、で)。

ネーヴェ > (そして、残念ながら。
距離という要害を初手から埋められていたという段階で、
人間の側が圧倒的に不利である事は明確だった。

射掛ける弓が本来以下の威力をしか発揮しないのも、
瞬く間に乱戦の距離迄詰められてしまい、味方を巻き込みかねなくなってしまうから。
対して外からの反撃は、城壁上の射手達を容赦無く遅う。
援護射撃が見る間に目減りしていく中、刃と刃、槍と槍、それ等が次々打ち合わされる。
――防衛側も、進行側も。戦端を細めざるを得ない、橋の上で押し留めたのが。
人間側唯一のアドバンテージ。)

でも、何処迄、保つか――な。

(それでも。将でも帥でもない、一兵卒どころか奴隷の身ですら。
ジリ貧でしかない、という事は解っていた。
やがて、墜ちる人数以上に、魔軍へと降り注ぐ矢は数を減らす。
最低限、無視出来ない、対処せざるを得ない量だけを残し――――
もう。撤退が始まりつつあった。
退くや退かざるやという言い合いは、あくまで、小康状態だったからこその物。
犠牲が無駄になるか否か、が問題であるというのなら。
今は間違いなく、退く事こそが唯一の正解。

――再び取り返せば良い、等と。最早誰も口にはすまい。
何度でも、必ず、奪い返すと。血濡れた決意を胸に、砦の後背より、人間達は速やかに退き始める。

そう、最低限の。魔の軍勢を橋に引き留め、砦に足止めする、その為の。
覚悟を、それ以上の決意を以て残る、死兵達を残して。
これも亦理不尽だと。嗤うも嘲るも、好きにすれば良い。
だが、残った彼等が、圧されようと踏み留まる両脚から。
血と脂に塗れ切れ味を失った刃を握る両手から。
力と、意思を投げ出す事は決して無い。

――所詮、時間稼ぎだ。だが、その時間は、きっと意味を持つのだから。)


…………嗚呼。どうして、かな…

(正直、娘は。敢えて残りたい、そう志願した訳ではない。
若人を生かそうとした老兵でも、帰郷を諦めた負傷兵でもない。
それでも、残ってしまったのだ。
この場に立ってしまったからには――――
ぞ、ん。と。身の丈に近しい太刀を担ぎ、更に前へと駆けた。
橋の上、ぶつかり合う最前線、真っ向正面。
目の前に敵が来れば、その太刀を振り落とす。薙ぎ払う。
…その向こうに。 黒い影、を見て。)

―――― アレ。 …彼奴。 …行こう、か。

ラボラス > (――戦場に、動きが起こる。
砦への突入を水際で防いだ事が、撤退という策を実行する猶予を齎したか。
此方が砦の周囲を完全包囲するよりも早く、砦後方からの撤退が開始される
其の把握が僅かに遅れたのは、全員が一気に撤収を始めたからでなく
砦に残った最低限の精鋭たる兵が、侵攻を防ぎ続けたからに他ならない。
文字通り自らの命を盾として、残りの命を守ろうとする姿は、紛う事無く戦士の其れだ
ならb、敵として相対する己たちがなすべきことは、全力を以て其の覚悟を打ち砕く事。)

―――……敵の撤退部隊は放って置け、目的は砦の奪還だけだ。
全部隊に伝達しろ、今より我らは闘争を行う。 貴様らの前に居るのは真の戦士で在る、とな。

(――数と言う圧倒的な戦力差は、既に戦いの趨勢を決めている。
後は、其の命を以てどれだけの時間を稼げるか。
門を守る盾兵も、そう長く保ちはしまい、僅かでも門を踏み越えてしまえば
後は、どちらかが携えた剣を全て落とすまで、蹂躙が開始されるだけだ
故に――宣告し、宣言する、これはただの蹂躙ではないのだ、と。
覚悟を携えし真の戦士を前にして、戦士として敵を屠れ――そう、告げるのだ。

そうして、己もまた進軍の流れに従い歩みを進めれば
僅かに橋の上から己が元まで、道筋としては細いながらも
肉薄するには十分な空間が、ほんの僅かな一瞬生まれるだろう。)

ネーヴェ > (少なくとも。今日この日が敗北であろうとも。
繋ぐべき、次、が約束された。それだけで、彼等が残った意義が有る。
先程迄あれだけ揉めていた将達も。今や一様に、再起を誓う。
現場と首都との足並みの差など、些末事となって掻き消えた。

…だから、きっと。いや、間違いなく。
この砦は再び人間の物となるだろう。

願いを確実な物とすべく。望みを叶えるべく。
残る事を決めた彼等は、最後迄――最期迄、戦った。闘い続けた。
数えきれぬ程の矢を受け斃れる者。爪に裂かれ牙に喰われる者。
斬り結び、そして斬り伏せられる者。我が身を以て槍衾を食い止める者。
それでも。立ち続けた。振るい続けた。

最早敗北は目に見えている。
大半の軍勢が速やかに撤退した今、後は追撃をさせない、距離を稼ぐ…それだけが目的。
じりじりと人間側は圧されていく。一人地に斃れ、一人橋から落ち、一人壁に磔となり…
それでも。背を向ける者、逃げ出す者、は居なかった。
覚悟よりも先に生命を失う。今此処に残っているのは、そういった者達ばかり。

…例外が、在るとすれば。)

ぁぁ そう か、アレ――だね、やっぱり――――!

(それでも、自らの役目を放棄出来ない、一匹の犬。
僅かに見えた黒が、確かに、軍勢に指示を出すのを見た。
確認した、次の刹那に。突き込まれた槍を掴み、振り回し、その持ち主を振り払い…)


――――!!!

(投じた。未だ遠く、だが、速く。
奪った魔の槍を、その主である漆黒の姿へと。

無論其処で終わりはしない。獲物へと向かう、得物。
太刀を引き摺り駆け出した。投じた槍を追い掛けて。)

ラボラス > (――奪い、そして奪われてきた。
だが其れは魔族も同じだ、彼らがこの砦に居たと言う事は
我らが同胞をこの砦から駆逐し、追放し、殲滅せしめたからこそなのだから。
また、再び彼らがこの戦場へ舞い戻る時、再び死闘が繰り広げられる
その結果、我らが再び勝利し、この砦を守り切るのか
其れとも人が、その存在をとして砦を奪還し、勝利の旗を掲げるのかは

――今、考えるべき事では無い。

具体的な指示は少なくなりつつ在る。
負傷兵を下がらせ、待機兵を前線へ送り、其れを繰り返して敵の戦線を削り取る。
最早後僅か、此処を死地と決めた者達の雄叫びが、同胞の咆哮と交じり合って鳴り響き
戦いの終わりが、迫って居る事を誰しもに予感させた、其の刹那に。)

――――――………!!!

(槍を奪われた魔族が橋から落ちて、其の一瞬橋の上に生まれる空白
其の、僅かな間隙を縫って放たれた一本の魔槍が、空気を裂きながら迫るのに気付けば
己が何をも持たぬ右腕を、下から上へと振るい跳ね上げ――槍の矛先を、後方へと逸らす
在らぬ方向へ突き刺さる槍の先端は、周囲に居た魔族の隙だらけの背中を貫いて
血反吐を吐き、地面に伏せる其の姿を、視界の端に一瞥しては。
槍を放たれた先、魔族の行軍を遡り、真直ぐに駆け上がって来る疾風の如き戦士の姿を
視界に収め、そして、ゆっくりと向き合えば。)

――――……砦に集中しろ。 此方は放って置け。
城門を突破次第、全軍を以て制圧に掛かれ。
俺は…、……少し、アレと戯れる。

(――何も持たぬ筈の右腕を、けれど、剣を携えている様に構えれば。
唯一直線に、将たる己が首を狩りに来る其の影を、静かに待つ。
刹那、片腕より滲み出す黒き影が、一振りの剣の形となり
――接近する娘の影を、一刀の基に切り捨てようと、振り下ろされる、か)。

ご案内:「タナール砦」からネーヴェさんが去りました。
ご案内:「タナール砦」からラボラスさんが去りました。