2018/05/15 のログ
ご案内:「タナール砦」にヴェルムさんが現れました。
ヴェルム > 日も落ちて間もないタナール砦の近く。
砦を観察できる位置にあるちょっとした岩場の影に、ヴェルムは隠れていた。

「参ったね…」

人捜しのために再び魔族の国に最も近づける場所へ訪れてみようとしたのだが、どうにもタイミングが悪かったようだ。
ここに来る途中、行き倒れ命を落としてた王国兵を見つけていたので、この事態は想定していた。
砦はものの見事に魔族に占領され、中にいたであろう兵士たちはなぶり殺しになっているか、陵辱されているかのどちらか。
砦を奪って間の無いのだろう、警備の体制は取れていないように思えるが、さすがに一人で砦の奪還に向かおうと思うほど命知らずではない。
いや、奪還程度ならできるかもしれないが、応援が到着するまでの間砦を維持するのはさすがに難しい。
砦が奪われたことはすぐ王国にも知られることになるだろうから、彼らが到着するまではしばし偵察に勤しんでいることにしよう。
どのみち、これでは人捜しどころではない。

ヴェルム > 監視を始めてかなり時間が経ってからだが、ようやく偵察隊が到着した。
幸いにも何も知らず砦に近づく商人などの姿は見えなかったので、上手く街道の閉鎖はできたのだろう。
あとは彼らに任せれば、監視から奪還までやってくれる。
協力を申し出ることも考えたが、そもそも十三師団がこんなところでうろちょろしているのは、あまり良くない印象を与えそうだ。
ただでさえ、十三師団は魔族も引き入れているのだし。
偵察隊がこちらの存在に気づく前に、この場を離れることにした。

ご案内:「タナール砦」からヴェルムさんが去りました。
ご案内:「タナール砦」にマティアスさんが現れました。
マティアス > ――全く。

ふと、自分は何をしているのか。戦場の真っただ中ではないにしても、戦の音を聞ける場所に立つとそんな感慨に駆られる。
ここは目まぐるしく己の所在を移り変える砦、タナール砦の正面門より離れた位置にある丘だ。
刻限は夜。
臨時に募集された傭兵や義勇兵として雇われた冒険者たちが集う陣地を後方に置き、並べられた木盾や土塁が見える場所である。
遠く、遠く聞こえる怒号は正規の兵や騎士が攻城兵器等を駆り、何度目とも知れない攻略を行う。
丁度今自分が立つ場所も、そんなところだ。

「嗚呼、真正面から掛かっても仕方がないだろうに。
 ……散々あの砦の奪い、奪い返し合いをしていれば少なからず学ぶと思うのだけどねぇ」

傍観者を気取るわけではないが、流石に呆れもする。
ただただ徒に兵力を集めて攻め込むだけでは、埒が明かない。敵とて木石ではないのだから。
腰に佩いた剣を揺らしつつ、己の胸の高さまである木盾の上に頬杖をついて唇を歪めよう。

マティアス > 壁の高さまで届く梯子を伸ばしては叩き壊され、果ては飼いならした飛竜を操って直接城壁に躍り込もうとする姿も見える。
だが、それも徒労だ。
丘の下、離れた位置に国軍の陣地があると聞くが、その辺りから聞こえるヒステリックな叫びは指揮官のそれだろうか?
知ったことではない。ただ、能力に見合わない戦場を望んだらしいという要素はあり得ることとして想像しよう。

「――さて。 正直気が乗らないけれど、だ。
 ギルド長に直々に頼まれたからには仕方がない。頼まれた分の仕事はしよう」

気を取り直し、身を寄せた木盾より一歩、二歩と離れて陰に隠れるように積み上げたものを見下ろす。
人間の頭ほどある岩石である。この陣地設営の際に出たものから、手ごろなものを選んで此処に運んできた。
重いものを運ぶ仕事は決してやらない訳ではないが、数を揃えるのには苦労した。
属するギルドの長から出るようにと依頼を受けて赴き、戦場を同じくする同輩に駄賃程度とはいえ、支払って頼んだ甲斐があった。

「月は、良し。星辰の傾き、良し。この場だと……この紋なら、程良く魔力が巡るかな?」

空を確かめ、月明かりを頼りに取り出す懐中時計の文字盤を確かめる。
幾つかの奇怪な文字盤と針が示す内容を読み解き、此れから為すべき目的に沿った術式を腰から鞘ごと抜いた剣で地に描く。
式が連なり、交わり合えば、それは一個の魔法陣となる。地の魔力を微かに吸い上げ、天の光を受けて増幅する意を込めたものだ。
程なく描き終えれば、鼻先にずり落ちた眼鏡を押し上げて口元を釣り上げよう。

この場に居合わせる術者が居るとすれば、読み解ける実力を持つものであれば、その内容に呆れたことだろう。

マティアス > 「我――四方を封じ、天地を定め、威を以て束ね統べる」

剣を抜き、鞘を腰に戻す。魔術師であるが己は杖は持たない。杖替わりの剣を使って術を紡ぐ。
戦線に赴き、兵力の一端を為して帰ってこいという依頼だ。ただただ傍観して帰るだけでは、依頼達成にもならない。
呪を紡ぎつつ、抜き放った剣に左手を滑らせて魔力を流し、魔法陣の近くの地面に突き立てる。
そうすればこの魔法陣は作動する。己の魔力を呼び水に大地の魔力を集め、増幅して効果を高めたちょっとしたものだ。

「よっ、と。」

剣を地面に突き立て、用意した岩石を一個抱え上げて魔法陣の中に放り込もう。
そうすれば直ぐに異常が生じる。軋むような異音を連続させ、岩がひび割れ、砕け、直ぐに凝縮するようにして一つの形状を取る。
槍だ。己の身のためほどもある槍である。それが魔力の光に照らされながら、ふわふわと浮かぶ。

「さぁ、行っておいで。景気よくすっ飛んで行きなさい」

合図とばかりに剣の柄尻にぽん、と触れれば、はじけるような勢いで岩槍が飛び上がる。
狙いは砦の中だ。築城の常だが、中庭も含めて全て天蓋で覆われているとは限らない。
中庭や開け放たれた窓等、どうしても弱くなりがちな処に向かってこの岩槍を飛ばす。
この程度の小細工が戦場の趨勢を決するとは限るまい。
だが、正面に防衛の戦力を費やすならば守りの内側で異常が生じれば、おのずとどうなるか。狙いはそこだ。

マティアス > 岩を素材にした槍を形成し、投石器(カタパルト)よろしく射出する。やっていることとしては此れだけだ。
ただただ派手な魔術や巧妙さを貴ぶのはいい。その気持ちはわからなくもない。
巨大な火球や星辰の彼方から流れ星を呼び出し、敵に降らせる奥義等は傍から見ても、一術者として感服にも値する。
だが、決して武名を挙げたいワケではなく、さりとて国軍の何処ぞの将に華を持たせつつ、仕事をしたと言い張れるものとなると、だ。

「……此れ位かね。いや、前線に出る者たちの魔力支援も決して疎かにする訳じゃないがね?」

誰が聞くでもない繰り言を述べつつ、抱えた石に別の術を添付したうえで魔法陣に放り込み、岩槍へと形成、射出する。
今度のものは砦内のどこかに躍り込み、時間差をつけて柘榴の如く弾け砕ける。
同じものをただ撃ち込むだけでは、芸がない。若干ながら差をつければ、魔族側の将も判断を誤るだろう。

「これで、向こうの頭が手傷でも負えば嗤うんだがねぇ」

真逆、其処まで都合がいいことが起こるとは思わない。口にしつつ、ひょいと肩を竦めよう。
戦では何が起こるが分からないのが常だが、そうなると幾らなんでも都合が良すぎるというものだ。

マティアス > 「さて、そろそろ全部打ち尽くすか。……一つ、小細工でも仕込もうか」

魔法陣として構築した射出術式に幾つかの変更を加え、射出方向と角度に微調整を加えて撃ち放つ。
冷静な術者や将が相対するならば、この発射点を突き留めて兵を差し向けて来ることだろう。
だが、その前に一通り撃ち終えてしまいたい。
自分達の位置に気取られる前に、国軍や騎士団が目的を達成してしまえば万々歳だ。
抱えた石に少し考え、剣の柄に手を触れる。脳裏で組み上げた術を流し込み、更に術の構成を組み替える。
地に描いた魔法陣が目まぐるしく移り変わり、より複雑さを増す。込める魔力と複雑さも増す。

「ゴーレム編成術を込めた岩槍だ。
 雑兵程度のものしか出来上がらないが、まぁ――、関わっている余裕があるかどうか、だね?」

岩槍は着弾の勢いで崩れる。だが、それを複数の岩槍だったものを因り集め、単独で駆動する即席の兵士とすれば、対応に手間取ろう。
戦場の動きはめまぐるしく、刻刻と移り変わってゆくのだから。
仕込みを終えれば、続けざまに残り数個となった岩を魔法陣に放り込み、全部撃ち出した後に陣を消す。
ふぅ、と。額を拭っては息を吐き、地に突き立てた剣を引き抜こう。