2017/11/23 のログ
ご案内:「タナール砦」にアーヴァインさんが現れました。
アーヴァイン > 砦の状況は最悪と言えた。
取って取られてと繰り返される攻防が、取り返しに出向く回数が増えているからだ。
退魔族の師団が機能していないのもあり、別の場所の防衛や軍務もあり、他の師団が穴埋めするとも言いきれないというところか。
実際は理由はどうでも良く、様子見を決め込んでいた義父が彼を呼び出したのが事の始まりだ。
国の維持に害成す程になれば、それは排除せねばならない。
追い返せという意向に彼も沿い、静かな作戦が始まる。

『バンシー2です。門衛が二匹、高所にも見張りが1匹。門衛の始末を』
『聞こえたな? LS1班、2班、目標を視認してくれ』

音はない、魔力の流れも発せぬ見えない意思疎通。
隼やエナガ達と契約した少女達が使う、思念の通信網を兵站のネットワークに転用しているからだ。
砦の直ぐ側で待機する数名のバンシーのメンバーは、選りすぐりの暗殺者であり、影となって行動することが出来る。
彼等に自信の血を染み込ませた羽を持たせているが、これは持ち主にしか思念網に入れない細工だ。
同様に羽を持たされた長距離狙撃隊へ、彼から指示を出せば、小さく了承の返事が戻り、無音の空間が続く。

「……」

当の本人は、砦から程近いところに隠れるように作られた観測所にいる。
そこを前哨基地代わりにしつつ、指示を飛ばしていた。
全体的な作戦は義妹とともに来た参謀が引受け、現場指揮は実戦経験の多い彼が担う。
それぞれの班から目標を視認したと声が戻れば、再び思念の会話に戻る。

『バンシー2、タイミングはそちらで取ってくれ。LS1、2、黒壇螺旋弾で仕留めてくれ』

固い黒壇の木で作られた魔法の弾丸だが、生半可な鉄よりも固く、ねじり込むように飛翔する動きで遠距離に適し、焦茶色の弾は、弾道の隠蔽にも優れる。
数秒の間、今だと合図が飛ぶと、1km先から放たれた黒壇の弾丸が飛翔する。
魔力の感知範囲外からの攻撃は、手練とて気付きづらいだろう。
心臓を撃ち抜かれ、崩れる魔物の身体を見えぬ鎖でバンシーのメンバーが引き寄せ、窪地に引きずり込む。
倒れる音も響かせず、そのままそこへ隠してしまえば気付かれることもない。
肝心の高台の歩哨も、反対側を見た瞬間に置きた出来事に、気づくこともなかった。

アーヴァイン > 『LS1、2は歩哨の警戒を。撃ちたいときは言ってくれ、こちらで判断する』

長距離狙撃班へ次の指示を飛ばす。
バンシーのメンバーと違い、ミレー族が多いのもあって返ってくる返事が間延びした音になり、薄っすらと笑う。
その合間もバンシーの面々は影から影へ移り、気配を限界まで消された魔力で腕を偽装する。
外へ通じる小さな扉を軽くノックすると、覗き窓から魔物の腕で手招きをするのだ。
何を言っても、いいからこいと言わんばかりの手招き。
渋々出てきたところで、反対側の角から飛び出したメンバーが静かに心臓を一突きにし、掌で口をふさぎながら絶命させていく。
そこからは早い、爆薬の詰まった筒を閂の影に隠れるように設置すると、死体を片付けながら直ぐ様離脱していくのだ。

『撤退完了』
『ご苦労様だ。リトルストーム隊、銃士隊、出番だ。指示通り撹乱してくれ』

りょうかーい!と可愛らしい声が幾重にも重なった。
そして、夜空を飛翔する無数の大きな隼達は、二組に分かれている。
一つは脚に油を満載した樽を掴んでいるもの。
もう一つは、脚にぶら下がり棒をつかみ、そこに数人の少女達がぶら下がっていた。
前者の隼が一気に飛び抜けると、魔族の国側の出入り口付近へ樽を透過、騎手の少女が器用に樽を火炎の魔法弾で打ち抜き着火する。
あっという間に火の海になることで、そちらに視線が向かう中、左右に展開した後続の隼から少女達が落下する。
羽から借り受けた風の加護で減速し、壁上に降り立てば、左右から撃ち下ろしの魔法弾で奇襲を仕掛けるのだ。
魔族も浮足立つであろうが、まだ終わらない。

「行ってくれ!」

外に向かい声を張り上げれば、待機していた装甲馬車が一斉に走り出す。
中には王国軍の兵士が乗り込み済み。
けたたましい音を響かせ、無数の装甲馬車が走り出すと、長距離狙撃班へ最後の指示を出す。

『窪地を超えたら門へ増幅弾込の火炎弾を頼む』

馬車が駆け抜ける、魔族は壁上の少女に気を取られる。
そして、ラインを超えた瞬間に放たれた真っ赤な弾丸が門を貫通し、裏に隠された爆薬に届いた。
閂が爆ぜて吹き飛び、馬車が門を蹴り飛ばすように突撃していけば、後ろから兵士達が一斉に飛び出す。
魔族に退路はない、反撃準備を与えず、身近な時間で事を片付けるていった。

アーヴァイン > 背中の炎、左右上部からは魔法の弾丸、前方には無数の兵士。
守りに囲まれた砦の中、魔族たちは脅威に取り囲まれていく。
どちらから対処すればいいか、選択させる余裕も与えずに電撃的に数を磨り潰す。

『銃士隊は無理はするな、危うくなったら撤退していい』

普通の歩兵よりも、彼女達のほうが何杯も強く育てられている。
野生育ちの俊敏性、魔法への適正、自身の居場所を守るべく刃を取った意志。
王国の人間には比較にならぬ、心技体を持ち合わせているのだから。
数十分に及ぶ最後の殲滅戦が終わると、焼けていた地面が真っ黒な面を見せる。
兵士達が室内も見回り、全ての脅威が消えたのを確かめると、少女達へもう敵はいないと声を張り上げた。
終わったと、彼女達からの報告に安堵の吐息を零すと、傍にいたリトルストーム隊の少女へ目配せし、こちらへ寄らせる。

「手の開いている師団を直ぐに寄越すように伝令を頼む」

他の師団がくれば、後は此方は撤退するのみ。
歩兵側に死者は出たようだが、組合の方には負傷者はあれど、死者はゼロ。
今まで熟してきた守りの戦いから、一転して攻め込む戦いに投じたものの、その戦力は十分な育ち具合と言える。
翌朝にやってきた師団のメンバーへ防衛を任せ、撤退する第零師団とチェーンブレイカーのメンバーは、砦を制圧していた魔族の軍勢に対し、半分にも満たない。
敵に祟るなら、その毒牙は凶悪なことを国に示しつつ夜の戦いに幕を下ろすのだった。

ご案内:「タナール砦」からアーヴァインさんが去りました。