2017/05/05 のログ
ご案内:「タナール砦」にフォークさんが現れました。
フォーク > 人と魔族の戦は膠着状態となった。

現在、砦は人側のものとなっている。
その砦の物見櫓から、一人の大男が戦場を見回していた。フォーク・ルースだった。

「おいおい、こりゃ当分は動かんぞ」

戦が始まる時は、軍勢が発する殺気や覇気……すなわち軍気が陣から立ち昇るものだ。
今はその軍気が敵からも味方からも伝わってこない。
どうやらしばらくはお互い、様子見をしているのだろう。

「しょうがねえな、しばらく暇を潰すか」

懐から羊皮紙と羽ペンを取り出した。そして男は何かを考えては閃いたように羊皮紙をペンで書きなぐっていく。
内容は、男が戦場で体験した事や感じた事をまとめあげ、実際の戦場で活用できるよう編集した忘備録だ。
戦場で起きるであろう様々な状況やその対処策を複数の分野にわけて記している。

「あとできちんと清書しないとな。むふふ、傭兵を引退したらこの戦場体験記を出版して大儲けしてやるぜ」

後世、男の書いた忘備録は『ルースの書』と呼ばれ兵法書の代名詞となった。

軍略家や歴史家たちはこぞって筆者のルースという人物のことを調べ上げるが、誰もその正体をつかむことができなかった。
傭兵だったとか、軍の司令官だったとか、闘技場のファイターだったとか、囚人だったなど、あまりにも足跡が多すぎたのだ。
また兵法書があまりにも膨大な戦場体験に基づかれていることから、件の兵法書は数多の兵士の体験談や戦術を集めたもので、
ルースとは、戦場を駆けた名も無き兵士たちの異名だという結論に至る。

ご案内:「タナール砦」にセラさんが現れました。
セラ > 奪い、奪われ。取ったり、取られたり。
揺れ動く人と魔の前線の象徴とばかりに、所有者が入れ替わる砦を前に攻め手と受け手の間に生じた均衡状態。

「どうにも動きが悪いな。士気もない」

俯瞰して眺めてみれば、どうにも勝ちの決定打に欠ける。確かな勝算が無いから士気に欠け、覇気に乏しい。
魔族陣営を眺めてそのような感想を抱き。敵陣営を眺めても同様。遅参した自分が言うのもなんだが、放置していたら動きが無いとたやすく予想できる。
だが、見方を変えたら敵が油断しているいい機会。
ひょいひょいと、戦陣を縫って前線まで足を進めて砦も目前まで移動すると砦めがけて手をかざす。
掌に光が収束していくと、魔力弾が光の尾を引いて3発撃ち出される。
城壁に物見櫓。そして、偉いさんが居そうな砦の高所。着弾した魔力弾は、派手に爆発して閃光と爆音と衝撃を撒き散らす。

「うむ、これで動きがあるだろう」

着弾を見届けると、腕を組みうむうむと頷く。
なければ、ないでさらに攻撃をすればよいのだしと。

フォーク > 羊皮紙の上で踊っていた羽ペンが、ぴたりと止まった。

(来る!)

男は咄嗟に、太い身体を丸めた。
頭上で強烈な衝撃と破裂音が起こる。静寂が戻るまで、男は動かずに居た。

「お出ましだな!」

奇妙な現象が収まれば、男はすぐさま物見櫓から飛び降りる。
落下中、指笛を鳴らした。
男が地面に激突する寸前、一頭の騎馬が男を背で受け止める。

「お利口!」

男の分厚い掌が、騎馬の鬣を撫でる。
愛馬・ビッグマネー号だった。
男は愛馬の手綱を取り、戦場の前線へと駆ける。

(軍気は感じねえ。おそらく相手は一人!)

魔族は人にはない強大な魔術を心得ているという。
おそらく先程のもその魔術の一旦によるものだろう。
たとえ相手が単独だとしても、魔族相手にたった一人の傭兵がおいそれと太刀打ちできるものではないのであろうが

(いかんいかん。悪い癖だなあ)

男は苦笑した。
忘備録には「決して蛮勇であることなかれ」と記しているのに、血が滾るとつい軍法を破り単騎駆けをしてしまう。
フォーク・ルースは根っからのいくさ人なのだ。
相手が見えた。戦場に似合わない、黒衣の女だった。
なるほど血と泥に塗れる戦場でこのような格好をしている女は、魔族に違いない。

「いざっ!」

常人では扱いづらい重さの戦棍を振り回し、男は突撃した。