2016/10/16 のログ
ご案内:「タナール砦」にエアーティさんが現れました。
エアーティ > 不気味なほどに赤く輝く満月の夜。

エアーティはタナール砦の屋上を訪れていた。
両の拳は砦を占拠していた魔族の血に塗れ、零れ落ちたそれが床を汚していく。
夥しい人数を屠り、ここまで上がって来たのだ。

気がつくと、目の前にはボロを纏った白い肌の魔導師がいる。
空間を歪め現れた彼女は、エアーティの身体に紋様を刻んだ張本人だ。

「ああ…来たか。 じゃ、始めてくれ」

エアーティの言葉に魔導師は頷く。
魔導師が屋上の床に手を向けると、床一面に魔方陣のようなものが描かれていく。
魔方陣の形成速度はかなり速く、数分後には完成する。

魔方陣は月の光を受けると、全体が赤く輝き始める…。

魔導師はエアーティに中央に行くよう、動作で促す。
言われた通り、エアーティは中央へ向かった。

彼女達は儀式を行うためにやってきたのだ。
夥しいほどの人魔が死に、怨念で満ちているタナール砦。
その念を全て喰らい、新たな力に変えるために。

エアーティ > 魔方陣の中央に立ったエアーティ。
魔導師は呪文を呟き始める。

詠唱が始まると、魔方陣の光は激しいものになっていき、
思わずエアーティは目を瞑ってしまう。

「!! …がぁ…! あ…っ!!」

その時、異変が起こる。
エアーティの胸元を突き破って現れた真紅の球体。
それは異形のものの「瞳」だった。

エアーティはそれが何であるか直感で理解した。
これは自分が喰らってきた魔王の力の欠片が、
形となって現れたものなのだと。

胸元に現れた瞳は月に向かって吼えた。
口も無く、音すら聞こえないが、とにかく吼えたのだ。

魔方陣が更に激しく発光すると、タナール砦を中心とした周囲の地形から、夥しい数のドス黒い靄が湧き立ち始める。
ヒトと魔族が混ざり合った死者の念は、凄まじい勢いで塔の屋上のエアーティに収束していく。

「が…!! ぎぃいいっ…っっ!!」

思念を吸収するたび、エアーティの肉体は急激に肥大化していく。
人の姿からかけ離れた、醜悪な肉塊へと変貌しつつあった。
腕や足が身体の各部から無秩序に突き出し、不気味にうねる触手すらも生えてくる。
その質量は屋上をみるみるうちに覆いつくしていくが、どういうわけかタナール砦には傷一つつかない。

そばで見ていた魔道師は、目の前の事態を冷静に見つめている。
そして、一番近い触手に向けて手を翳す。

魔力を受けた触手はボコボコと姿をかえ、口のような器官を形成する。
そして… 一瞬の内に、魔道師を呑んでしまった。

呑まれる瞬間、彼女は笑った。

エアーティ > 「がぁああっ……!! この… クソども…っっ! お、オオォオオッ…!!」

魔道師を取り込みながらも、さらなる膨張を続けるエアーティ。
体内に注ぎ込まれる膨大な量の念は、身体の所有権を巡り激しく争っている。
それはエアーティ自身の意識を希薄にしていき、もう少しで体内から「追い出される」ような状態だ。

途切れそうな意識で、エアーティは叫ぶ。

「ぐ… おおお…っっ! これは… あたしの… 身体…っ!
てめえら… 死人… は…! オオォォ…っっ! あたしの餌に… なってりゃいいんだ…っっ!!」

エアーティの瞳が輝き始める。
肉体は無秩序な膨張を停止し、痙攣を始めた。

「オオォオオオッ…!! ギッ… アアァアアァアアアアッ!!」

エアーティの渾身の咆哮と同時に、塔の頂上に落雷が落ちる。
雲ひとつないはずの落雷は、まるで赤い月から落ちてきたかのようで。
落雷を受けたエアーティの肉体は煙に包まれる…。

煙が晴れると、元の筋骨隆々の人間の体に戻っている。
いや、戻っているのではない。

膨張していた筋肉が全て凝縮され、元の肉体に戻っているように見えるだけのようだ。

こうして…塔周囲に眠っていた犠牲者達の念は、全てエアーティの力となった。
皮膚は鋼のように硬質化。
両腕の紋様は全身にまで及び、胸元の瞳は消えていた。

儀式は完遂された。

エアーティ > 「…」

エアーティは自らの掌を見つめ…次に周囲を見渡す。
あの魔道師はどうなったのだろうか…と。

自分の身体を見つめて、ニヤリと笑って言う。

「あぁ… そこにいたのか」

自身の体内に、彼女がいることを直感で感じ取ると、
エアーティは塔から飛び降りる。

殆ど無傷の状態で着地すると、そのまま姿を消した。

ご案内:「タナール砦」からエアーティさんが去りました。