2016/03/24 のログ
■エアーティ > 「おい」
扉を塞ぐように、エアーティは立ち塞がる。
どきりとしてこちらに振り返ったヘンリエッタを、冷たい視線で見下ろす…。
「おめえ、人間だろ?何やってんだ?あ?」
大股でヘンリエッタに近づくと、片腕でヘンリエッタの襟首を掴み、顔を近づけて威圧する。
「困るんだよなぁ… あたしのメシに勝手なコトされるとさぁ!」
そのままヘンリエッタを床に放ると、治療を受けていた魔族の方を向き直る。
魔族は敵意を向けた視線をエアーティに向けるが、それを意に介さず、魔族に向けて歩みを進める…
■ヘンリエッタ > 「……っ!?」
不意に聞こえた不機嫌そうな声に驚きつつも、ゆっくりとそちらへと振り返れば、自分とは全くの真逆といえる風貌の彼女が睨むように視線を向けていた。
何かあったのだろうかと思っていると、近づいてくる姿に少し畏怖を覚えながらも、その場を動かずにいる。
「っ…!? そう、ですけど…捕虜、の方…怪我してます、から」
情けで治療したといえばそうかもしれないが、それだけでなくても敵の情報を聞き出すには、敵から聞き出すのが良い。
だから聞き出すためにも治療を施していた。
襟首を捕まれ、威圧されながらも途絶え途絶えに説明をすると、いきなり景色がぶれて地面を転がる。
「っ…!? まだ、その人…治療が終わった、ばかり…ですから、尋問なら…他の方に」
よろりと起き上がりながら、彼女の後ろ姿へ制止を求める声をかけた。
嫌な予感がする、彼女が普通に問い詰めるとは今の対応から思えなかったからだ。
■エアーティ > ヘンリエッタの静止する声など聞こえていないかのように、繋がれた魔族の前に立つ。
魔族はエアーティに殺意を込めた表情で睨みつけている。
それを見たエアーティはジュルリと舌なめずりをする
「ハッ!イキがいいねぇ… こいつは旨そうだ…!!」
突然、エアーティの片腕が魔族の細い首を捕らえる。
エアーティの掌が淡く輝き始め…魔族は苦悶の表情を浮かべ、声にならない悲鳴を上げ始めた。
魔族に残っている魔力を、エアーティが吸収しているのだ。
「お、おおお…! いいぞぉ… もっと…よこせ…!」
まるで最後の一滴まで搾り出すかのように、魔族の細首を掴む手に更に力を込める…。
■ヘンリエッタ > こちらを意に介さぬ様子に、一層嫌な気配が強まる。
既に戦うことが出来ぬ相手へ舌なめずりする姿は、どちらが闇に堕ちた存在かも分からぬほど、おぞましさを感じて悪寒が走った。
「っ!? 何を…っ!? 捕虜を、殺すつもり…ですかっ!?」
首をへし折りそうにすら見える様子に、焦げ茶のヴェールの下で驚きに満ちた瞳が見開かれる。
呻き声とともに魔力を搾取しているのだと、掌と魔力の動きに察することが出来たが、あのままでは絞め殺されるか魔力を失いきって衰弱死するかの二択。
トンッと地面を蹴って下がりながら、魔法銃を引き抜くと、既に装填済みの魔石の増幅弾に魔力を集中し、銃口に三重の魔法陣を発生させた。
「やめて…ください、生かす意味があるから…捕虜にしたんですよ? 情報も、譲歩も、色々と…」
とはいえ、彼女を過剰に傷つけるのも雇い主の意に反するはず。
その為、当たれば脚部から地面へ強い冷気を這わせて氷を発生させ、足を地面に縛り付ける拘束の魔法を選び、準備していた。
距離としては互いに踏み込むも放つも最悪な状態の筈、これで乱暴を止めてくれればと願いながら、照準を合わせ続ける。
■エアーティ > 背後でヘンリエッタが跳ぶ音が聞こえ、エアーティは面倒臭そうに振り返った。
「んだよ… いい所なのによお」
エアーティは渋々と魔族を解放する。
すでに大部分の魔力はエアーティに奪われており、首を痛めつけられて呼吸もままならず。
このまま処置を施さなくては、待つのは死…。
そんな魔族を尻目に、エアーティはヘンリエッタを睨みつける。
「アタシさぁ… 食事とセックスの邪魔されるのが一番ムカつくんだよ…!」
銃を向けられているにも関わらず、じりじりとヘンリエッタへの間合いを詰めていく…。
「生かす意味とか、情報とか、そういうのはどうでもいいんだよ! コイツらはアタシの糧なんだ… 邪魔するんなら… お前も喰ってやる…」
エアーティの上半身からドス黒いオーラが立ち昇り始め、全身の筋肉が緊張していく…
■ヘンリエッタ > 魔族の様子はかなり衰弱しているのが見える、このまま死なせても自分は責めを受けることはないにしても…無意味な死は嫌だった。
睨みつけられながらも狙いはブレさせず、彼女が弱者への狼藉を諦めるのを待つしかない。
こちらへと近づこうと歩いてくれば、階段の方面へ逃げるように廊下へ抜けて、後退りをし続ける。
まだ撃てない、彼女はこちらに憤りこそしても攻撃の意思を示していないのだから。
「……ケダモノ、ですね」
前髪の下で、冷たく目が細められていく。
争って勝てる相手とは思えないものの、このまま抗いもせず、あの魔族を放置したら…旧友に顔向けが出来ない。
素早く狙いを下へ逸らしつつトリガーを絞ると、真っ青で大きな魔力の塊が放たれる。
地下の狭い通路を通せんぼするように地面に打ち込んだ魔法弾は罠となって彼女を待ち受ける。
オマケに牢獄の出入り口全体に魔法陣がかかるように仕向けたので、それ以上前に出ようものなら踏んだ瞬間、あっといまに足が氷の枷に囚われることとなるだろう。
「……っ でも…!」
排莢される増幅の魔石が嵌った殻。
再び、銃口に描いた魔法陣は高圧縮された水の塊を放つ、攻撃の弾。
罠にかかったところを更に連続攻撃し、氷に閉じ込めようと考えながら銃を構え続ける。
■エアーティ > 「ケダモノ…?ククッ クックックッ…!!」
ヘンリエッタの言葉を受け、エアーティは笑い始める。
「ハハ、ハハハハハハッ! アタシにとっちゃ、最高のホメ言葉だなぁっ ええ!?」
邪悪に笑いながら、ヘンリエッタを喰らうべく、一歩を踏み出す… その瞬間だった。
ヘンリエッタの氷の罠が発動!
エアーティの脚はたちまち氷に包まれ、動きは封じられる…!
■エアーティ > 「ガアッ…! 動けねえ…っ! 貴様ァァ…!!」
エアーティは憤怒し、牢獄中に響きわたるような声で吼える。
それに呼応するかのように、あたりの牢に繋がれた魔族が何事かと騒ぎだし、静かだった地下牢は一種の地獄になろうとしている…
■ヘンリエッタ > ケダモノと言われ激昂するかと思っていたものの…彼女の返したモノは喜びの笑みだった。
破壊という欲望に染まった彼女の様子に、恐怖よりも液体窒素の様に焼けるような冷たさが込み上がっていく。
だからか、罠を踏みつけて足を封じられた瞬間にクスッと嘲笑すらこぼしてしまう。
「本当に…ケダモノ、ですね。だから…こんな罠、に…かかるんです」
先ほどの魔族に殺さぬ程度の情けがあれば、もうやめますか?の一言ぐらい掛けたかもしれない。
けれど、彼女は情けをかけなかった。
ならば、情けを与える必要はない筈。
ほんの一瞬でそんな思考がめぐったのかどうか、ただ…何の躊躇いもなく、すっと引き金を引くことが出来た。
胸元へ、銃に残った増幅弾を全て使い尽くすまで何度もトリガーを引き、水の弾を放つ。
彼女ぐらいのガタイの良さなら、体がよろめく程度しかない衝撃。
けれど、何度も当たれば、そこから濡れた場所が凍っていき、氷の中へと体を閉じ込めてしまおうとするだろう。
ピンッ!とクリップが経じけ飛び、地面に転がる音が響くまで只管に引き金を引いていた。
■エアーティ > 凍る、凍る、凍る…。
エアーティの体は見る見るうちに氷に包まれていく。
凍らされないともがいてみても、後の祭り。
結局逃れることが出来ず、エアーティの肉体は氷の中に封印された。
ホッと胸を撫で下ろすヘンリエッタ、周囲の魔族からも喜ぶような声が聞こえる…。
次の瞬間。
ぴしり。氷に亀裂が走った。
完全に凍結したはずのエアーティの瞳が不気味に紅く輝き始める。
そして…エアーティの全身の筋肉がミシリミシリと音を立て、氷の中で膨張していく。
急激に増えていくエアーティの体積に耐え切れず、氷の表面は次々にひび割れていき、そして…ついに限界が訪れた。
「オオォオオオオオオォオオオオオオオオオオッッッ!!!!」
おぞましい咆哮と共に、氷が内側から粉々に破壊され、赤黒い炎のようなオーラに包まれ、鋼の筋肉を纏ったエアーティが再び、ヘンリエッタの前に立ちはだかる。
ヘンリエッタを絶望させるため、あえて罠に引っかかったのだ。
「ち…違うなぁあ…!! ケダモノだからよぉ… こんな罠、堂々とブッ壊すんだよおっ!!」
間髪入れず、ヘンリエッタ目掛けて全力で走りだす。
オーラに包まれた肉体そのものを、ヘンリエッタにぶちかまそうとする…!
■ヘンリエッタ > 氷に包まれていく様子に、冷たい笑みを消さぬまま銃口を下ろしていく。
とりあえず上にいる兵士達を呼んできて、彼女に枷をはめてもらおう。
それからまた治療しないと…と、衰弱した魔族へと視線を向けた時だった。
「……っ!?」
氷がひび割れていく。
彼女が通常の魔法では氷を突き破る可能性を考えての、強化した弾丸を放ったのだから、思わず息を呑む。
砕け散る前に、咄嗟に新たな増幅弾を装填出来たのは幸いだったものの…元々過負荷を掛けての発射を行う弾。
フレームがこれ以上耐えられるかが不安で仕方ない。
「っ…! なら…檻にいれるまで、です…!」
階段を背後にしたのは良かったものの、こちらの魔法で動きが止まらないとなれば、ただのタックルも脅威に感じる。
ほぼ賭けに近いが、新たな魔法陣を銃口に描くと改めて飛び退きながら、魔法を放つ。
当たれば時間の感覚を狂わせ、暫し1秒を2秒の長さに感じさせる特殊な魔法。
タックルをヒットさせるタイミングをズラせれば、攻撃を避けれる可能性を考える。
感覚をずらし、回避できれば…勝機があるはずと一縷の望み賭けて彼女へ放った。
■エアーティ > 「!!」
ヘンリエッタが刹那に放った弾は突撃してくるエアーティに直撃する。
しかし、全身を包むオーラに阻まれたせいか、本来の効き目の2秒から、1.2秒ほどに大幅に軽減されてしまう。
「オオォオオオッッ!!!!」
雄叫びを上げながら、ヘンリエッタを押しつぶさんと突進するエアーティ。
魔法の効き目によりタイミングをズラされるも、元の通路の狭さが災いし、ヘンリエッタの肉体を僅かに掠め… そのまま壁に思いっきり激突してしまう。
あまりの衝撃でフロア全体が振動。ぶつかられた壁からは瓦礫が辺りに散乱し、砂煙が辺りを包む…
■ヘンリエッタ > (「魔法がちゃんと…広がり、きってない…!?」)
所謂身体強化のオーラと思われていた靄が、魔法を阻害したのは想定外。
こちらを壁に叩きつけようとする突進を辛うじて直撃を避けたのは、運が良かったのか悪かったのか。
車に跳ね飛ばされた様に、体が掠めた衝撃で斜めへと吹き飛び壁に背中から衝突してしまう。
「っは…!?」
続けて頭部を打ち付けてしまい、意識が揺らぐ。
吐き気すら感じるほどの平衡感覚が崩れていき、床に崩れ落ちた体をどうにか起こしたのが精一杯だった。
砂煙と振動、あの体が壁に激突したのは分かるものの…ケダモノというよりは、最早魔獣とでも読んだほうが良さそうな力に、何故か乾いた笑みが浮かんでしまう。
「……」
銃をしまうと、ふらりと立ち上がって蹌踉めきながら牢獄へと歩き始める。
ロングケープの内側に収められた薬瓶を取り出すと、虫の息になった魔族の頭上目掛けてそれを投擲した。
格子の隙間を抜けて壁にたたきつけられた便は砕け散り、中の液体をぶちまけていく。
じっくりと体を癒やす魔法薬、魔力の回復は遅いが体は一晩休めば大分楽になるだろう。
高かったのにな、と思いながらも最後の力を振り絞った体は崩れるように両膝をついて、そのまま動けなくなってしまう。
■エアーティ > 砕けて空洞になった壁から、エアーティがゆっくりと戻ってくる。
あれだけの衝撃にも関わらず、その肉体は大したダメージを負っていないよう。
身体についた壁の破片を払いながらも、エアーティが見たのは、両膝をつき動けなくなっているヘンリエッタと、牢に転がっている割れたビン。
最後の力を振り絞って、自らの身を厭わず魔族を助ける道を選んだのだろう…。
「……」
エアーティはヘンリエッタの背後から豪腕を伸ばし、無防備な背中を捕らえようとする。
…こいつはそこの死にかけよりも旨いに違いない…
エアーティには奇妙な確信があった。
皿に乗ったメインディッシュを取るかのように、ヘンリエッタの身体を掴み…魔力を吸収しようと…
■ヘンリエッタ > 逃げるにしても手負いとなった状態では不可能に近い。
そうすると、一矢報いる反撃か、その合間を使っての魔族の治癒という二択しかなかった。
ケダモノたる彼女へせめて手傷ぐらい負わせてやろうかと思ったものの…やはり、そこで苦しそうにする魔族が心配になってしまう。
瓶を投げ放ち、身動きできぬ体が掴まれていく。
彼女からすれば枯れ枝のように華奢な体は、簡単に引き寄せられるだろう。
首か肩か、腕か…感覚が麻痺して分からない中、急速に力が抜けていくのが分かる。
魔法が本職ではないにしても、それなりに鍛錬を積んでいるのもあって、彼女が満足しそうなほどの魔力量は詰まっているはず。
(「あの娘…に、アレ…届けら、そうに…ないかな」)
じわじわと命を削られ、奪われるような心地。
だらんとした体は仕留められた獲物の如く、望むがままに彼女へ魔力を差し出し続けていく。
■エアーティ > 「おぉおぉ…! オオオオォォ…!!」
両腕でヘンリエッタを掴み、ポンプから水をくみ上げるか如く、魔力を絞り出していく。
ヘンリエッタの魔力はエアーティの肉体に馴染むのか、全身に力が漲っていくのを感じ、歓喜の声を上げる。
やがて… 完全に魔力を吸い尽くし、ヘンリエッタが絶命する一歩手前で、エアーティはヘンリエッタを解放した。
パンプアップした肉体は徐々に元のサイズに戻っていく…。
エアーティはヘンリエッタのそばで屈みこむと、彼女にだけ聞こえるように囁く。
「ああ… 旨かったぜ。ごちそうさま …また、喰われに来いよ? こいつらを食い散らかされたくなかったら、な…」
エアーティはその場にヘンリエッタを放置したまま、地下牢を後にするのであった…
■ヘンリエッタ > 末端の感覚が徐々に消えていき、冷たさすら感じない。
ただ掴まれて、魔力を吸い上げられているだけなのに、それがとても長く感じていく。
獣のような雄叫びが、まるでエコーと淡いスローがかかったように歪んで聞こえるほど。
力がすり減り、ゆっくりと意識が沈みかかると、いよいよ危ういと思うことすらも出来ない。
魔力を全て奪われ、活力を失ったからだが地面に落下する。
ゴツンと膝をぶつけて、横へと崩れ落ちても固い床の感触も、冷たさもわからない。
しゃがみこんできた彼女を、横に流れた前髪の隙間から、光彩を失いかけた丸く大きな碧眼で見上げていた。
「…ケダ、モノ」
答えというよりは朦朧とした意識で思った言葉が溢れた、そんな感じだろう。
地面を引きずるように掌を動かし、階段を上がっていく彼女へ、改めて銃を抜こうとしていく。
しかし…暗く狭まる視野は、そのまま意識を奪いとった。
脳震盪と打撲、そして一時的な激しい衰弱に包まれた体。
意識はその夜に戻ることもなく、気絶したまま夜が明けるのだろう。
また魔力を奪わそうになるのかどうかは、今はまだわからない…。
ご案内:「タナール砦」からエアーティさんが去りました。
ご案内:「タナール砦」からヘンリエッタさんが去りました。
ご案内:「タナール砦」にヘンリエッタさんが現れました。
■ヘンリエッタ > あのまま冷たい石畳に横たわり、翌日。
弱り切った体を薬と魔石からの魔力供給で強引に動かすと、牢獄の魔族達の手当を行っていた。
幸い誰も死なずに済み、夕暮れには鉄の檻となった馬車で運ばれていくのを見送る。
せめて命は奪わぬように…そんな一言を馬車主に言伝としたが、届くかはわからない。
全てを終えて、ぐったりとしながらも風通しの良い砦の屋上で、魔法銃の整備を始めたのがついさっき。
風除けを手元に囲うようにおき、慣れた手つきで分解して内部を確かめていく。
「……あと、ちょっとで…危なかったです」
魔石から発するエネルギーを受け止めきれず、一部融解しかけた部分が見つかる。
あと2~3回使っていれば、暴発しながら銃はバラバラ。
握っていた自分の手もひどい目にあっていただろう。
ゾッとする結果に小さく身震いをしながらも、手元おいたランプが影になる場所を照らす。
工具で綺麗にパーツを取り外すと、鞄から取り出した予備のパーツへと交換していく。
これも故郷から取り寄せないと、もう無くなってしまうなんて心の中でつぶやき、小さくため息を吐いた。
「…まだ、空気が冷たいです」
春も近づいたというのに、相変わらず吹き抜ける風が冷たい。
屋上には、歓談用に木製のテーブルと椅子が幾つか置かれているだけで、ある意味吹きさらしの状態。
誰も来ることもないだろう場所で、ゆっくりと作業へ没頭していく。
ご案内:「タナール砦」に魔王リュウセンさんが現れました。
■魔王リュウセン > 王都から少々の黒づくめ集団が駿馬に乗って駈けた。
まるで暗黒の風というか、闇の暴風となって駆ける。その行き先は当初別の場所だったが、
恐らくは王都行きだろう鉄の檻に入れられた魔族だろう捕虜の目撃をしたために、行き先変更、とばかりに
その風は確実にタナール砦へと突き進む。弓馬兵とも騎馬隊ともいうそれらは全て魔族で構成されている。
先程見た馬車の荷台の魔族は大半は生きていたが、それは誰が傷つけ、また誰が捕虜に対して治癒をしたのかを
この目で見る為に、が目的だがー
「問題は…勘違いされそうな気が…します。」
少数精鋭の軍を持って、見た目は是から戦に行ってきます的な装備で来てしまった点。
旗は持っているが、魔族の旗だった。確実に言葉を交わさないと即、戦になりそうな気がしている。
そして第二に問題なのは 部下の士気が少々気温が高めだった。8割方『報復するぜ!』なのだ。こんな部下一寸どうにかしたい。
もう、砦も近くなってきた、ていうか見えて来た。
「正面から 行きますか。…我に続け」
多少の地響きと共に砦の正面入り口に向って突き進んでいく。
忍ぶとか偵察とか全くそこらへんない動き。
■ヘンリエッタ > 鳴り響く敵襲の声と鐘、それにビクッとしながらも銃を元の状態に組み立てなおし、屋上から報告のあった方角を見やる。
ケープの下から単眼鏡を取り出せば、暗がりでほとんど見えないものの、何かがこちらへ突っ込んでくるのが確認できた。
砦の門は鉄の閂を嵌められて閉ざされ、砦の上には弓兵が待機していく。
入り口へとまっしぐらと見えれば、砦の部隊長は弓兵へ合図を下し、矢の雨で応戦を開始した。
元々、後方支援として呼ばれていた身故に、兵士に見つかると危ないから下がるようにと言葉をかけられるものの、正直に突っ込んできた魔族が昨日の女を彷彿とさせていく。
押しやる兵士の手を掴むと、こちらへと引き寄せて焦げ茶の前髪の隙間から、碧眼が男を見上げる。
「門の前…罠、を…仕掛けましょう」
そして足早に砦の内側、門の前へとたどり着けば銃を構えて魔法陣を銃口から描いていく。
昨晩と同じく、踏めば氷の足枷が動きを封じる罠の魔法を地面に何発も撃ちこみ、小さな青い魔法陣がいくつも広がる。
それをみて把握した兵士達は、門の前に槍でこしらえたスパイクを備えた急ごしらえのバリケードを広げていき、その後ろで更に弓兵が構えをとって待ち構える。
仮に門が破られても、罠とバリケードで身動きを封じ、底に矢を射かける。
一手間加えた防御陣形を築くと、少女はこんどこそ危ないから砦の物陰へと追いやられ、そこから様子を見ることになる。
■魔王リュウセン > 少数精鋭ながらほぼ真っ黒軍団、馬も黒かった為に闇夜であれば音を消せば
軍と言うか確実にアサシン集団に間違えられそうなそんな構成だった。
明かりに松明とかそんな存在を現す物体を持たないのがこの魔王軍の特性だ。
近づく際に矢の雨が来たが、そんな攻撃屁でもない。パシパシッと音がしているのは矢を落としている音。
魔王軍(笑)になりそうな数の少なさだが、その集団は徐々に馬の足が遅くなり、集団を率いる先頭が合図をしたのか
集団は入り口―門から見えるか否かのギリギリで停止。カッポカッポとその先頭の単騎が門から見える範囲にまで姿を現す。
耳がひょこひょこと揺れる、尾もゆらっと揺れる。見た目は…ミレー族(狐)だが。
「…今は人が治めていましたか。戦をする前に訪ねますが、
数刻前に鉄の檻に入った魔族を治療したのは …どなたです?」
魔法銃を構えた兵士の集団と確実に門破り…是は罠ですね、と思いながら、戦うにしろ何にしろ会話が通じるか分ら無いが
少々の問いかけを馬上のままだがし始めた。…この質疑に応じてくれるかがそもそも疑問すらある。
最悪 会話という会話が無く 戦であればそれは仕方なしと単騎で始める気だが。
■ヘンリエッタ > 弓矢での攻撃が簡単に弾かれていると、城壁上の兵士達が騒ぐのが聞こえる。
人外たる魔族というのもあってか、それほど驚くことでもないのだが、状況はよろしくない。
幸いなのは城壁の上にいる兵士がクロスボウを携えたのを魔法銃と勘違いしていることぐらい。
更に強いて言うなら、彼女が見ている閉ざされた門の裏、そこでバリケードと弓矢の連帯、魔法銃で仕込んだ罠があることが見られていないこと。
門の外側は開けた荒地、単騎で前に出た少女の声に、部隊長はこう答えるだろう。
『それを問う理由は何だ?』と、別段教えてもいいことだろうが、敢えて聞いてきたことだ。
雇われの錬金術士の小娘を差し出して砦を守ったとなれば、末代までの笑われ者だろう。
そんな懸念をしながら、臨戦態勢のまま城壁の兵士達は飛び道具を構える。
少女と城壁までの間はなにも遮るものはない。
冷えた空気が吹き抜けて、彼女の答えを待つ間、静寂が流れるだろう。
■魔王リュウセン > 正直 物理的攻撃たる弓矢位だったら弾き落とす位は出来る。弓馬ですから、は理由にならない。
弓馬の欠点は馬を操る人の防御力だろう、弓馬兵を倒すのであれば人から射抜けと。操作している存在を落とせば馬は大差ない。
飛んできたのは弓矢、矢はナァ、と馬上から後ろを見た…兵は置いておこう。
砦の向こう側は視えはしない、流石に中を見る手段はあると言えばあるがそんな魔法を使っている最中に射貫かれたら終わりだ。
問いかけに対して言葉が返って来た、お、比較的まともだな、と思ったが。
「理由?魔族を全うに捕虜にして治療する人の顔を拝んでみたい。
魔族即滅、即凌辱が多い中 最低限とはいえ治療する人は見た事聞いた事が無い」
質問に答える間 空っ風がひゅるりーと吹いたが寒くはない。
後ろから殺気立った部下とその部下がのる馬の嘶きは仕方がない。部下はあくまでも部下だ、こんな砦如きに出すまでもない、と
鐙を外すと すとんと馬から降り立ってー馬は後ろの集団へと下がらせよう。
■ヘンリエッタ > 理由は所謂 情と呼ばれるものによる興味か、それとも感謝なのか。
どちらにしろこの状況で選べる答えは少なく、部隊長は暫しの間を持って答えた。
『仮にお前が望む通り見せた時、手当ができる人員を不意打ちで殺さないという保証はない。こうして話している間も、ただの時間稼ぎで裏に回り込んでいる可能性だってあるだろうな』と、彼女の言葉をそのまま鵜呑みに出来るはずもなかった。
ましてや、矢を簡単に弾き飛ばす輩の軍勢だ。
部下を下がらせたとしても人間より強い時点で戦えないわけではないのだから。
何やら語り合っているというのは、物陰に隠れた少女でも気づくが、何を語っているかまでは分からない。
■魔王リュウセン > 理由の大元 ほぼ捕虜を保護する人間は見た事が無いので感謝を述べに来ただけだ。
言い方が言い訳じみてしまったので正味話が通じるとは思っていなかった。が、今の所会話は成り立っている。
…扉及び砦の壁越しなのだが…砦の方は徐々に人で構成されているのだろうなと言う大凡の推測が出来つつある。
「魔族は信用ならんと。話をしている間は是は交渉とみなし、その間の工作はせん。
していたらそれは裏切り行為であろう?我の軍勢は話が通じるモノであれば戦は避ける。
いらぬ怨恨 いらぬ憎悪 いらぬ…やめよう。治療をした人物はいるのかいないのか どっちであろう?」
「早めに決めないと 扉は吹っ飛ぶぞ?我は良くても部下が殺気立っておってな。宣言はしておこう、我は不意打ちは好まん。」
暗がりの中で部下が数名動き始めている、多かれ少なかれ扉を物理的なのか魔法的なのか飛ばす事を態と声を上げて囁き合っている。
扉の向こう側に対して 早く決めろと 言葉を返そう、冷静に話せる時間は減っていると。 では待機をしよう、と。
■ヘンリエッタ > 『そうだ、信用ならないからお前がどう言おうと確証がない。だからここに連れてくることは出来ない。そんなに話がしたいなら投降でもして貰わねば確証にならん』
彼女の言葉に何一つ確証がない。
一人で前にでてきた勇気は認めるにしても、一人でいても問題ないとも取れる行動と、人間からすれば感じるだろう。
結果として入ること自体は伝わるだろうが、そのままでは合わせるつもりはない。
今にも戦いが始まりそうな気配となる中、部隊長は城壁に隠れた掌で、彼の後ろにいる伝令にハンドサインで合図を出す。
伝令の位置は部隊長の方を見ていれば、更に奥にいる分、視点がかなり高くならないと見えないだろう。
扉の後ろで待機していた兵員達は伝令の合図をみれば、裏側の門の方へと下がっていく。
勿論、少女は訳もわからぬまま引きずられていくことになるだろう。
『結局は力脅しか、平和主義が聞いて呆れる言葉だ。部下ぐらいしっかり躾けたらどうだ?』と、敢えて煽るような棘のある言葉を掛ける。
攻撃を始めるなら弓兵も部隊長も動き出すことだろう、彼女が部下を抑えこむか、確証を差し出すか、どちらかになる。