2016/03/21 のログ
■ユリゼン > 「ふんっ!! 血気に逸るは若者の性よ。それは咎めぬ」
「じゃが、近頃の若いのは礼儀を知らん様じゃな!」
鼻息も荒く出力を引き上げる。竜種の四肢がより深く大地をえぐっていく。
出力だけを比べれば昔日の数分の一にも及ばぬながら、この身は今なお尽きせぬ魔術炉心を抱えている。
一旦力比べに持ち込んでしまえば、あとは長引けば長引くほど利があるということだ。
「くくっ。竜殺しを成すか、人間よ!」
「我らは骨を所望する! くれぐれも骨だけは傷つけるでないぞ!! よいな!」
暗緑色の竜鱗に霜が降り、頭部の前半分が凍結するまでさほどの時間はかからなかった。
完全に気道が塞がって悶え、堅牢なる砦を積み木のように崩して暴れ狂う巨大生物。
その首筋に乗った男の受難たるやいかほどのものであろうか。
希少金属を以って鍛え抜かれた大剣が竜種の首筋を貫く。
高熱の血潮を吹き出し、仮初の命尽きるその刹那まで暴れつづける巨竜。
けれど、大剣を振るうその手をはなさぬ限り、男が無様に投げ出されることはないだろう。
そんな気がする。
―――その様は、人の子らの愛するおとぎ話の英雄にも似て。
■オーギュスト > 「あぁ!? 注文が多いな!」
が、仕方が無い。ブレスのおかげで随分助かったのだ。
竜の骨をなるべく傷つけないようにし、暴れるその身体に大剣を突きたてる。
暴れる竜を師団が必死に押さえ込み――やがて、動かなくなる。
師団の兵は歓声をあげ、竜の屍骸へと群がって行く。
「――ふぅ。助かったが、何だお前は」
見たところ学生にしか見えんが、とも呟くが。
第九師団のディナームの事もある。特に高位存在というものは一筋ではいかないのだ。
「おう、骨は取るんじゃねぇぞ、骨は!」
師団に念押ししておく。大抵パクる連中がいるからだ。
オーギュストは竜の血液で多少溶解した鎧を見て舌打ちした。また修理に金がかかる。
■ユリゼン > 「片付いたかの。やれやれなのじゃ」
我が身を省みればスクールベストが焼け焦げて面白げなありさまになっている。
リボンは無残にも一部が消失。人間たちの尺度で言えば、もう二度と使えない状態だ。
スクールバッグを置いてきて本当に良かったと思う。
「よくぞ聞いてくれたのじゃ。ユリゼン・ウェントゥスというのがわしの名よ」
「当地には王立学院の錬金術師どものたのみで参ったのじゃ」
「これなる竜が出る兆候があったのでな」
歓呼の声を上げて竜種の亡骸に群がる人間たち。解体ショーがはじまると顔をしかめて近づいていく。
「見ておれんのじゃ。すまぬが、肉は呉れてやれぬ。諦めるのじゃな」
竜種の巨体が赤熱して光を放ち、骨や竜鱗や双角といった硬質の物質だけを残して焼失していく。
熱風は幾重にも渦を巻き、竜人の少女の身体へと吸い込まれていった。
「これで手間が省けたじゃろ。そなた、竜殺しよ。名を何と言う」
■オーギュスト > 何とまぁ、あっという間に竜の骸が灰になってしまった。
呆然とする師団の兵たちだが、抗議するにもできない。
何せ、相手は学院の生徒(?)なのだ。
「――学院の手配か。あいつらもたまには役に立つ事をする」
オーギュストは鱗などの回収だけを命じる。
仕方が無い。肉も良い値段で売れるのだが。
「俺は第七師団長、オーギュスト・ゴダンだ。助かった、礼を言う」
大剣を鞘に収めると、オーギュストは一礼した。
おかげで師団の損害は大分少なく済んだ。礼はすべきだろう。
「で、王立学院がただでお前さんのようなのを寄越すとは思えんが……?」
■ユリゼン > 「人は利がなければ動かぬと申すのじゃな」
焦げたミニの裾を気にしつつ、黄金の竜鱗に覆われた尻尾をゆらりと振る。
「オーギュスト・ゴダン。そなたもひとかどの将と見た。ならば適任であろう」
「こたびの一戦、そなたはいずれ然るべき者らに事の次第を明かすはず。それが狙いよ」
仕草を真似る。意味は心得ている。返礼の意味もまた。
この身は徒手空拳ゆえ、身に帯びる寸鉄さえもないものの。そこはそれである。
「あやつらの研究とやらにもやれ大義だの、名分だのがいるのじゃよ」
「力ある者らにすこしは役に立っておるところを見せねばならぬ」
「錬金術師協会の貢献ぶりしかと振れ回るのじゃぞ。よいな?」
「……とモローが申しておったのじゃ!」
とかく人の世は数限りないしがらみでできている。
それは時として弱く儚き人々を束ね、途方もない困難―――竜にさえ抗う力を与えてくれる事もある。
代償は決して軽くない。何ごとを成すにも気にしなければならないことが多すぎる。
この身は人界のしがらみに絡めとられることをよしとしたわけではない。少なくとも、今はまだ。
(さもなくば、我らの愛し子がみすみす討たれるのを見過ごすはずもあるまい)
ぽつり、と誰にも聞こえないほどの声で呟く。
「このあと錬金術師どもが回収に参る手筈になっておる。骨の一欠けらも抜けてはならぬ」
「しかと申し伝えたのじゃ。何かあれば学院の錬金術棟におるゆえ、文を出すがよい。ではな!」
黄金の双翼を広げ、ふわりと羽ばたいて地上を離れる。そのまま王都の方角へ飛び去っていった。
■オーギュスト > 「――なるほどな。研究費用の捻出か。
どこもせち辛ぇな」
くっと笑うと、頷いて賛意を示す。
せいぜい派手に喧伝してやろう。第七師団の活躍も混ぜてだが。
が、次の言葉を聞くと顔を顰める。
「――全部持ってく気かよ、強欲だな」
まぁ、おそらくは竜種なのだろうが。
にしても全部か。赤字である。
「ま、そっちには吹っかけるか」
王都の錬金術師どもなら遠慮はいらない。
この竜の残骸、精々高く売りつけてやろう。
「おう、縁があったらな」
飛び立つ竜に手を振り。
ご案内:「タナール砦」からユリゼンさんが去りました。
ご案内:「タナール砦」からオーギュストさんが去りました。