2016/03/20 のログ
ご案内:「タナール砦」にオーギュストさんが現れました。
オーギュスト > タナール砦攻防戦。
既に何回目になるか分からぬ戦を、第七師団は手早く片付けていた。

「将軍、敵防衛部隊は沈黙。突入隊からの報告にも異常はありません」
「油断しないようにだけ伝えとけ。地下室は念入りに調べとけよ。直衛隊は俺と一緒に執務室だ」

それだけ言うと、オーギュストは大剣を担ぎ、砦の中へと突入する。
彼の直衛隊も慣れたもので、素早くオーギュストの前に出ると、露払いとばかりに魔族をなぎ倒していく。

オーギュスト > 執務室までの道に敵兵が死屍累々と横たわっている。
とはいえ、こいつらはただの雑兵。
最近では名のある魔族、魔王クラスが砦に来る事も少なくなってきた。
向こうもいたずらに消耗する愚を悟ったか、それとも単に飽きたのか。

「――頃合かもな」

そろそろ、砦の攻防戦をサロメに任せる時期に来たかもしれない。
今の彼女ならば、第七師団を預ける事も出来る。
そうすれば、オーギュストも自由に動けるようになるというものだ。

ご案内:「タナール砦」にユリゼンさんが現れました。
ユリゼン > 空を見ろ、と誰かが言った。

その男が指差した先、血にまみれた篭手の遙かな上空。
―――”それ”の存在に気づいたものから順に言葉を失っていく。

虚空から落とされた、インクの染みのような小さな影。
はじめは誰も気づかぬほどにささやかな黒点だった。
それが砦そのものを覆い尽くすように広がり、人魔入り乱れる戦場を呑む。
誰もが畏怖に打たれ、闇に落ちた場所から水を打ったような静けさが広がっていく。
砦全体に微震が走り、大剣振るう将軍の傍らにも砂塵と埃がさらさらと降りそそいだ。

押し殺した吐息。ひそかに息を呑む音が聞こえる。
取り落とされた刃金が不気味なまでの静寂を破った。

大地を崩し、蒼穹をも翳らせしめる咆哮が万人のはらわたを揺るがす。

『GRRRRRRAAAAAAAWWWWWW!!!』

時には人類の天敵とも称され、時には神格を得て尊崇される規格外の大型生物。
それは戦局の打開、はたまた戦場のルールそのものの書き換えを狙った魔族の奇策か。
限りある人智をもって推し量れる由もなく。
ただ、”それ”がやってきたという不動の事実だけが眼前に提示されていた。
――――竜種の到来である。

オーギュスト > 突然の竜種の襲来。
並の軍団ならば賛を乱して逃げ出していただろう。

だが、こちらは第七師団。対魔族、魔物に特化した師団。
竜でうろたえていては務まらない。

「――全軍、対竜陣形!」

素早く、相手のブレスや踏み付けに対応する陣形を取る第七師団。
だが、こちらからは仕掛けない。
まだ友好的か敵対的かも分からないのだ。
用心に越した事はない

ユリゼン > 『AAAAARRRRRRRRRRR――――!!』

可聴域を超えた絶叫が人間の聴覚をたやすく破り、屈強な男たちが両の耳から血を流してのた打ち回る。
割れずに残っていた棚の硝子戸にひとりでにひびが走り、粉々に砕けて落ちた。

”それ”が舞い降りた地点は、内壁にいくつか設けられた通用門のひとつ。その直上。
悠久の歴史を刻んできた石組みのアーチ構造が波打ったようにたわみ、重量を支えきれずに崩落する。
濛々と立ちこめる土埃の向こうから無造作に放たれる尻尾の一閃。
不運にもその軌道上に立ち入っていた男がフルプレートごと摩り下ろされて赤黒い霧と化した。

余波を以って吹き払われていく塵芥の、薄明を貫く一対の竜眼。陽光を受けて輝く壮麗なる暗緑色。
竜種は低く唸る様な声を上げ、焔吹き出す顎を先立てて手近な兵たちへと突進していく。

「………おお、やっておるやっておる! あれが当世の竜なのじゃな!!」

黄金の翼をたたんで舞い降りる二頭目の竜。
王立学院の制服をまとった竜人がはたと手を打って場違いにも気の抜けた声をあげた。

オーギュスト > 「――暴れ竜か。おい、執務室は制圧したか?」

オーギュストが叫ぶと、情報将校たちが次々と報告をもたらす。

「執務室及び地下の占拠に成功! 魔族軍、撤退を確認!」
「砦内部の兵の展開、完了しました!」
「陣形構築完了! いつでもいけます!」

突進する竜を兵たちが迎え撃つ。
竜種や、それに類する巨大な生き物を迎え撃つ為の対竜陣形。オーギュストが開発し、実戦で鍛え上げた第七師団の精華だ。兵たちは竜に吹き飛ばされながらもその身体に群がり、少しずつダメージを与えていく。

「神官は負傷者の回復と援護! 魔術師ども、援護を切らすなよ! おら、竜殺しの報酬が欲しい奴はついてこい!」

オーギュストは先頭に立って突撃を刊行し、第七師団の命知らずがそれに続く。
竜は確かに恐ろしい相手だが、それ以上に第七師団にとっては報酬の塊である。鱗一枚で一ヶ月は食うのに困らず、逆鱗を得れば一生遊ぶのに困らない。これにつられないゴロツキ師団ではない。

「はっ、理性の無い暴れ竜だ、つまんない怪我すんじゃねぇぞ!」

その大剣を竜に浴びせながら、オーギュストを筆頭にした第七師団は竜と互角の戦いを繰り広げる。

ユリゼン > 「言われてみれば愛しき子らの面影がある…じゃが、寝起きでいささか気が立っておると見た」

弱く儚き人の身には、高温の血液も毒性ある体液もわずかに一瞬触れただけでも致命の傷を負いかねない。
にもかかわらず、兵たちは臆するどころか我先にと切り込んでいく。
蛮勇に任せているかと思えばさにあらず。いたずらに犠牲を出すような戦いぶりでもない。
人間に対する認識を改めるべきだろう。

「………と、感心しておる暇はないのじゃ」

現地の指揮官に話を付けなければならない。
少なくとも、こちらの介入を記録に残さなければならない。それが錬金術師たちの注文だった。
鋭利な鋼に竜鱗の欠片がこぼれ落ち、それ以上に地形が変わるほどの爪痕が刻まれた戦場へと身を踊らせる。

「そこな人間よ。そなた、この場を仕切っておる頭目と見た!」

灼熱の顎に喰らいつかれた男が断末魔の叫びをあげ、ろくに咀嚼もされず明後日の方向にぶん投げられる。
運がよければあのまま戦場を離脱して生き残れているかもしれない。

「わしはユリ―――!! 王立っ………錬金術師どものじゃな!!! 故あって助力に…っ!」

華氏451度。ならずとも紙が自然に燃え出しそうな灼熱地獄の戦場にあって、小娘一人の声などろくに響くものではない。
火焔のブレスの余波に煽られ、襟もとのリボンに焦げ目ができた。
友から贈られた品だった。少しなりとも気に入っていた。あえて言うなれば、竜の逆鱗であった。

「――――やかましいわ!!!!」

地上より失われて久しい言語を叫び、絶対零度のブレスを叩きつける。
狙いは過たず暗緑色の竜種の首。騒々しい戦場の熱を奪いながら灼熱の顎へとぐいぐい押し戻していく。

オーギュスト > 「――あん!?」

対竜戦は混戦である。怒号と悲鳴、そして竜の咆哮が響き渡る中、オーギュストは一人の少女を見つける。
あろう事か王立学院の制服である。何ゆえ最前線、しかももっとも過酷なタナール砦の戦場に居るのか。

「おい、危ないぞ、引っ込んでろ!」

叫ぶが聞こえていない。何かこちらに叫んでいるような気もするが、それも聞こえない。
オーギュストは舌打ちすると、少女を助けようとそちらに向かう。が――

「――ブレス!?」

突然吐かれたブレスに面食らいながらも、すぐに絶好の機会と見てアダマンタイトの大剣を引っさげ、竜の後ろに飛び乗る。
狙いは首筋。ブレス同士のぶつかり合いに気を取られているうちに、必殺の一刀を竜へと叩き込む。