2022/11/21 のログ
ご案内:「無名遺跡」にアッシュさんが現れました。
■アッシュ > 山中の遺跡、背に小さな荷物ひとつ伴って音もなく歩く男が一人。
奥深くは光も入らず闇の中、それを暗いまま、ゆっくりではあるが確実に進んで行く。
なにせ物心付いてすぐ夜目が効くよう訓練され、五歳程ともなれば既に明かり無しで複雑な遺跡ですら踏破させられていたものだから、今でも闇を見通すぐらいは造作もない。
暗いままの中を進んでいる間、誰からも顔を見られることはない。
そんな無の中に時折身を置くことで、感覚を研ぎ澄ます修練の意味もありながら、穏便な日常から離れそうになるのを落ち着かせる意味もまた、ある。
「……フィーが心配するぐらいだからな。怖い顔になっているのかもしれん」
普段、つとめてだらしない顔で居るようにしているものの。つい、真顔になってしまうようなモノを見続けると、昔の自分の方が顔に現れがちになる。
相棒の小妖精に指摘されるぐらいだから、よほど不機嫌さが出ていたのかもしれないと、それを鎮めるためにも静寂の中を歩んでいるのだ。
■アッシュ > 通路に倒れた石柱をひょいと乗り越えながら、王都の喧騒の様子を思い浮かべる。
ごろつき、盗賊……そういった輩を見るのなど日常茶飯事、自分とて身の置き場はさほど変わらないものだから、そんなもので動じはしないのだが。
どうにも、腐りきった名ばかり貴族のような連中を目の当たりにすると、少しずつ蓄積していく憤りのようなものは未だ御しきれていないように思う。
また一人ぐらい消してもよかろうか?と呟いたりしたものを、相棒に窘められて。そう、誰かの恨みの代わりでなければ基本的に手は出すな、と決めていることを思い出しもすれば、こうして暫し人里から離れるのだ。
「ふん、こんな罠で俺が――ああ、いや。おじさんは掛からないなぁ」
ふと、進む足を下ろす直前、ぴたりと動きを止めて。その下の床に小さな仕掛けがあるのを察すれば、歩を戻す。
罠などこっちの範疇……と思った所で、独り言ちた言葉に自分で目を細め。へら、と笑う。
何か悪戯めいた仕掛けに気がつけば、それがかえっていつもの調子を思い出させたのか。真面目な口調になっていたのがいい加減な調子に戻るのだ。
■アッシュ > ふむ、と両膝を折ってしゃがみ込む。目前の仕掛けの様子、そこから伸びる誰かの手が入った痕跡を視線だけで暫し追う。
確かに誰かを引っかけようとしている形跡はあるのだが、どうも元からある罠のようには見えない。
こういった場所に設えられたそれは大体が侵入者を阻む致命的なものであったりするのだが、これはどこか、文字通り……悪戯、のような意図を感じるのだ。
「落とし穴……?では、あるようだが」
腰の後ろからひょいと取り出した短剣の柄で、床石の一部をぐっと押し込む。
どうも元は水路の一部でもあったのか。渡し石として置かれていたのだろうそれがごとりと外れると、落とし穴のような挙動を見せた。
「……のようだが、それにしちゃぁ随分浅いな?」
これでは仮に引っかかったとしても、よほど鈍臭い者でも怪我するかどうかも怪しいような浅さだ。
しかも、底に溜まっている水もどうやらなんの変哲もないただの水だ。これでは落ちたとしても少々靴の中まで濡れるぐらいのものか。
■アッシュ > 「なんでぇ……悪巧みを覚えた子供が遊んでいるような、そんな風に見えるが。よくもまぁ手の込んだ悪戯をするもんだよ」
暫しまた進む間、幾つか似たような仕掛けの形跡に出くわすが。二度目から先は、調べるだけ調べてそのまま放置して、避けていくことにした。
なにせ真面目に調べるほど、罠があると言う事実はあるものの、どれもその実態がただの悪戯に思える内容だったからだ。
これなら後に誰かが引っかかったとしても危険は無い。それを一つずつ全て取り外してしまうのは、少々かわいそうに思えてきたのだ。
「どんな奴がこれをやったのかね……ま、面白い。殺伐とした空気の中にちょっとした清涼剤ってとこかな」
くく、と闇の中で笑っている。そんな様子はそれこそどこかの悪党のようでもあるが、考えているのはただ誰がこれをやったのか、と微笑ましく想像している程度のものだ。
ま、後から来る奴にとっては丁度いい訓練にはなるだろうさ、と思いもしながら。笑うってのは気持ちを落ち着けるのには必要なことだよなぁ、などと独り言を吐きながら、暫しその後も遺跡の中を気楽に散歩して歩くのだった。
ご案内:「無名遺跡」からアッシュさんが去りました。